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海外の話が多め。近頃は中国が多め(中国海警局・中国海監、深海潜水艇、感染症など)。

アルゼンチン沿岸警備隊 中国漁船「撃沈」? それとも「自沈」? アルゼンチン−中国関係

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(via. YouTube

アルゼンチン沿岸警備隊の巡視船が、排他的経済水域(EEZ)で違法操業し、公海へ向けて逃走を試みた中国漁船に対して、警告等の手続きを経た後に発砲。結果として中国漁船は沈没した。

アルゼンチン、中国違法漁船を撃沈 警告無視し逃走・体当たり試み(AFPBB News)

 

日本のニュース記事やコラムのタイトルでは「撃沈」という単語が並んでいる。海外メディアの記事でも似たようなものなので仕方ないとは思うが、「発砲による沈没」が確定事項のように書かれていることで、それを元にして「海上保安庁も、〜を撃沈せよ」といった無邪気な乱暴すぎるネット上のコメントも散見される。

 

アルゼンチンでは違法操業に対する罰金が重いため、「自沈」させて証拠隠滅をはかる例もある。沈没の原因は、アルゼンチン司法当局による調査と判断を待っている段階だ。 

アルゼンチンと中国の関係を考えると、大きな外交問題に発展させず、もしかしたら漁船船員による「自沈」として片づけられるのではないだろうか? これについて少し。

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概略や動画はこちらの記事をご参照ください。

公式発表:PREFECTURA HUNDIO A UN BUQUE CHINO QUE PESCABA DENTRO DE LA ZONA ECONÓMICA EXCLUSIVA Y RESCATÓ A SU TRIPULACIÓN (Prefectura Naval Argentina)(PNA、アルゼンチン沿岸警備局)

 

アルゼンチン司法当局による、関係者からの最初の聞き取り調査が行われている。

プエルト・マドリン沿岸警備隊のRodolfo González隊長(ア海軍だと大佐に相当)は、発砲は沈没を企図したものではないと主張。沿岸警備隊の船では、口径7.62mmの軽量自動小銃と12.7mmを使用しているが、これらでは沈没した漁船の鋼板を貫通できないと説明している。ただし12.7mmの弾の種類によっては浸水と沈没の原因となる可能性もあるそうだ。

沈没後に救助され拘束された、山東省煙台市の漁業会社が所有する遠洋漁船「Lu Yan Yuan Yu 010(鲁烟远渔010)」の船長は、検察が用意した通訳は信頼できないとして証言を拒否した。中国外交部の公式の通訳者を要求している。

Prefectura investiga si los chinos provocaron el hundimiento del pesquero en Chubut - Informacion General (3/20 | La Capital de Rosario)

 

中国外交部は、今回の事件に対して「強い懸念」を表明し、事実を出来るだけ早く適切に解決することを求めた。一方で、事件は中国とアルゼンチンの二国間関係に影響を及ぼさないだろう、とも言っている。

 

アルゼンチンは、昨年12月の大統領選挙でマウリシオ・マクリ(Mauricio Macri)氏が勝利したことで、中国・ロシアとの関係を強めてきたキルチネル夫妻による12年間の左派政権が終了した。

マクリ政権は、国内経済を建て直すために、主要農産物や工業製品の輸出税の減免、外貨規制の緩和や、国内の批判も大きかった事前輸入宣誓供述制度(DJAI)や輸出登録制度(ROE)の廃止など、急速に改革を進めてきた。

米国をはじめとする外資の評価と期待は大きいようで、米国のオバマ大統領は3月23日にアルゼンチンを訪問して、タンゴを踊っている。 

米大統領がアルゼンチン入り、外交・貿易関係強化へ(3/23|ニューズウィーク)
オバマ大統領がタンゴ披露、訪問先のアルゼンチンで(3/25|ロイター)

 

中道右派のマクリ政権に変わったといっても、アルゼンチンにとって中国は貿易や金融の重要な相手国であることには変わりはない。中国人民銀行との、人民元・ペソの110億ドル相当の通貨スワップも締結、発効している、尤も、30億ドル相当分は米ドルへ転換されていた (La Nacion)。

 

4月1日、米国ワシントンD.C.で行われた核セキュリティ・サミットに合わせて、マクリ大統領と、中国の習近平首席との首脳会談が行われた。(日本の安倍首相との首脳会談も行われた(外務省)。韓国の朴槿恵大統領との首脳会談はキャンセルされた(한겨레, ハンギョレ)。)

会談後、マクリ大統領は、中国との戦略的互恵関係を継承する事は重要だと話している。しかし、前政権と中国との協定が“透明性があり、国家のために有益である”必要があるとし、協定の一部を修正する可能性も示唆している。これには、パタゴニアの水力発電用ダムや、原子力発電所の建設計画も含まれていると考えられる。
Mauricio Macri se reunió con el presidente de China en Washington (4/1 | LA NACION)

アルゼンチン沿岸警備隊の巡視船による中国漁船への発砲と、漁船が沈没した事件については、事前の報道通り、話題にはならなかったようだ。

 

アルゼンチンにとって、外国漁船による排他的経済水域(EEZ)での違法操業は大きな問題だ。
それでも、南シナ海のように島嶼の領有権問題が絡んでいるわけではなく、東シナ海のように排他的経済水域(EEZ)の境界問題(日中中間線)や漁業問題が絡んでいるわけではない。また、今回の事件は、三無漁船(船名船号、船舶証書、船籍港の無い漁船)による海域(領海、EEZ、公海)を問わない違法操業と乱獲でもない。

外交や実務者レベルで、比較的に冷静に対応されるのではないだろうか。

証拠隠滅のために「自沈」したというのは、両国政府にとって、ちょうど良い落とし所だと感じられる。

 

これが三無漁船(無国籍船)の事だったなら、不審船として対応し、巡視船が発砲した結果として沈没したとしても、中国政府はアルゼンチンに対して文句は言いにくくなっていたのかもしれない。

アルゼンチン沿岸警備隊は、2月下旬に、別の中国漁船を摘発したが、数日間の追跡の後に、結果として公海に逃げられる失態が報道されていた。
連続しての失態は許されないと、より強硬な姿勢での“対応”があったのかもしれない。(公式発表では、警告を行うなどの法に則った充分な対応をした後に、隊員の身に危険が及んだとして発砲命令が下された。)

 

今回の事件に関する、ネットのコメントを見ると、「英国とガチで戦争したアルゼンチンやばい」「エグゾセやばい」といった表現が散見される。

余談だが、フォークランド紛争(マルビナス戦争)では、沿岸警備隊の30m級巡視艇「GC-83 Río Iguazú」が、「英国海軍のシーハリアー戦闘機を撃墜した!」という、公式ウェブサイトにも載っている“英雄伝説”があったりする。

 

海保で言うと、PM型でもPS型巡視船でもない、PC型相当の小型の巡視"艇"が、海軍のシーハリヤーを撃墜するとか、「アルゼンチン沿岸警備隊、ヤバすぎるw」

PREFECTURA EN MALVINAS - Prefectura Naval Argentina(アルゼンチン沿岸警備隊(公式))
PNA Río Iguazú (GC-83) - Wikipedia(スペイン語版)
(その後の調査で、該当機は空母への帰還が確認されている。戦場での誤認報告を元に、大本営発表で英雄譚を作ったのだろう。)

 

今回の中国漁船の沈没の原因はまだ明らかになってはいないが、違法操業の漁船船員たちは「アルゼンチン沿岸警備隊はヤバい」「銃撃され、当てられて、撃沈されるかもしれない」という恐怖心を感じるかもしれない。犯罪抑止には効果的だ。 

外洋での漁業は狩猟活動であり、漁獲枠が設定されていなければ“獲ったもの勝ち”、漁獲枠や国際的な合意があっても、海の警察官が“舐められたら付け上がるだけ”だ。 

  

日本政府は、罰金額をさらに上げたり罰則を厳しくするなど、更なる対応の強化が必要だろう。司法への政治介入は避けねばならない  ・・・司法権は独立しているはず(棒 。

海上保安庁や水産庁は、三無漁船や無国籍船(国籍を有していないことを疑うに足る合理的な根拠がある場合 )に対しては、“舐められない”ような対応も検討すべきではないだろうか。

Un pesquero chino ilegal quiso embestir a un guardacostas y fue hundido (3/16 | LA NACION) 
アルゼンチン沿岸の中国漁船撃沈は両国の外交問題に発展するか?【動画あり】 | ハーバービジネスオンライン
外交部发言人陆慷就一艘中国渔船在阿根廷海域被阿海警击沉答记者问 — 中华人民共和国外交部 
Prefectura Naval Argentina - Wikipedia

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