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韓国の「加湿器殺菌剤」事件 惨事を防げた7度の機会 ー 韓国メディア 簡単なまとめ

韓国の「加湿器殺菌剤」事件。

加湿器の消毒・殺菌に使われる殺菌剤が、人体に安全と言われていたが、実は吸い込んだ時に呼吸器に毒性があった。肺疾患によって、子供や妊産婦を中心に100人以上が死亡(死者170人、重軽症者1500人とも)した。

政府と行政の対応の遅れ("無能"とも言われている)によって被害が拡大したことで、大型フェリー沈没事故になぞらえて「家庭でのセウォル号」事件とも呼ばれる。

 

京郷新聞の「惨事を防げた7度のチャンス」という記事が興味深かった。関連リンクと合わせて自分用メモ兼。

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簡単に書くと、

原因は、加湿器の水タンク内の洗浄と殺菌の目的で添加される殺菌剤。

この殺菌剤は、皮膚に付いた時の安全性は十分に研究されていた(追記5/11:これもあやしくなってきました。)ので安全認証が与えられていた。しかし加湿器から噴霧され、吸い込んで、呼吸器に入った時の危険性は充分に検証されていなかった。

原因不明の子供や妊産婦の患者や死者が出たが、衛生当局は、ウイルス関連の調査はしても有毒化学物質との関連性を疑わず調べなかった。被害が拡大。

2011年8月、ソウルの同じ病院で4人の死者が出た後に疫学調査が行われ、加湿器殺菌剤が原因と判明。しかし政府や行政の対応は鈍かった。「家庭でのセウォル号」事件と呼ばれる所以。
2016年5月、最多の死者を出した製品メーカーが謝罪をした。販売から15年が経過している。

ーー(追記:2017/1/6)ーーーーーー

韓国 加湿器の殺菌剤で死亡 メーカー元社長に実刑 | NHKニュース

ーー(追記ここまで)ーーーーーーー

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まず気になるのは、日本社会への影響と、日本での「加湿器」「消毒、殺菌」などのキーワードで宣伝され、売られている製品についてだ。「空間除菌」という表現をしている会社もある。

 

平成23年(2011)に、厚生労働省から、韓国の加湿器用除菌剤の回収に関連して、加湿器用の除菌剤は使用しないよう発表されている。

「平成22年度家庭用品等に係る健康被害病院モニター報告」を公表しました |報道発表資料|厚生労働省

 韓国保健福祉省は平成 23 年 11 月 11 日に、製品に含まれている殺菌成分が肺 損傷を引き起こすとして、加湿器用除菌剤6製品の回収命令を出しました。
 日本では回収された製品の流通は確認されておらず、同様の製品による製品 事故は発生していません。...

(中略)

2.消費者・事業者のみなさまへ

① 消費者のみなさまへ
 日本国内で流通は確認されていませんが、下表に掲げた加湿器用除菌剤6 製品を持っている場合は絶対に使用しないでください。
 また、加湿器を使用するときは使用上の注意などをよく読み、加湿器には水道水以外を使用しないようにするなど正しく使用しましょう。除菌剤や薬理作用のある化学薬品の加湿器への使用は、その成分やばく露状況によって健康に影響を与えるおそれがあるので、使用しないようにしましょう。

(別添参考)韓国の加湿器用除菌剤の回収についての情報提供~平成23年度の海外事例から~(PDF:KB)

 

また、超音波加湿器による室内空気の噴霧消毒の是非について、次の記事がある。 

確かに、インフルエンザウイルスに対して次亜塩素酸ナトリウムは有効な消毒薬の1つだが「毒性を考えると、噴霧は非常に危険と思われ、すぐに止めてもらった」と尾家氏。「消毒剤と加湿器がセットになっている商品も売られているようだが、噴霧してどれほどの効果があるかは疑問だし、何より人体への悪影響が心配される。基本的に消毒剤の噴霧は望ましくない」と注意を呼びかけた。

インフルエンザ対策? 保育園で次亜塩素酸ナトリウム溶液を加湿器噴霧 誤った感染症対策は無意味なだけでなく危険(2012/10/22|日経メディカル)

 

「加湿器 消毒」「加湿器 除菌」などのキーワードで検索してみれば分かるように、今も、それらの表現を広告で使っている製品が売られている。

販売店の製品ページを見ると、全ての製品とは言わないが、消費者へ提供される情報が偏っていたり少ないように感じている。

広告では安全性が謳われているものが多いが、呼吸器への危険性はどう評価されているだろう? 子供や妊産婦、高齢者などの吸引と暴露への影響は?
 

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「加湿器殺菌剤」事件について、

韓国メディア、京郷新聞の5月2日付けの記事と、ハンギョレの5月3日付けの記事より、「惨事を防げた7度の機会」について、簡単にまとめてみた。

‘가습기 살균제 참사’ 막을 수 있었던 7번의 기회 - 경향신문(「加湿器殺菌剤惨事」を防ぐことができた7回の機会 - 京郷新聞)(2016/5/2)
“가습기살균제는 ‘안방의 세월호’… 피해자 최소 29만명” : 한겨레(加湿器殺菌剤事件は「お茶の間の歳月号」...被害者少なくとも29万人 - ハンギョレ)(2016/5/3)

 

・1994年、ユゴン(유공、現・ SKケミカル)が加湿器用殺菌剤を開発。市場が拡大した。

当時、外国(欧米だろう)では、加湿器に起因する肺疾患の報告がたくさん出ていた。
この時、加湿器殺菌剤の呼吸器への危険性に疑問を抱いていたら、韓国市場への参入自体を防ぐことが出来ていただろう。また、感染症への不安心理に対して殺菌剤の使用を奨める広告が許可されたことも被害を広げた。

 

・1997年、環境省は官報でPHMG(ポリヘキサメチレングアニジン)について「毒に該当しない」と通知。ヒトの肌に触れる殺菌剤としては十分な研究結果があるが(追記5/11:これもあやしくなってきました。)、加湿器に入れて噴霧した場合、人体にどのような影響があるか研究されていなかった。

産業資源部は、この物質を洗浄剤として販売許可。しかし、加湿器に入れておき気化する化学物質なのに、使用方法に応じた安全性の確認と適切な規制がとられなかった。

 

・2001年、全体の加湿器殺菌剤市場の8割を占めていた多国籍企業レキットベンキーザー(Reckitt Benckiser)の韓国法人、オキシー・レキットベンキーザー(Oxy Reckitt Benckiser)が、製品の成分をPHMG(ポリヘキサメチレングアニジン)とPGH(塩化エトキシエチルグアニジン)に変更した。
元の原料だと水に浮遊物が出来るため、顧客の不満を懸念して原料物質を変更。その過程でも、吸入毒性試験が行われなかったそうだ。

こうして今回の事件で最も多くの死者(70人)を出したといわれる「オキシ サクサク 新加湿器当番(옥시싹싹 뉴 가습기 당번)」が発売された。

'가습기 살균제' 최대 피해낸 '옥시싹싹' 독성실험없이 출시 | 연합뉴스(「加湿器殺菌剤」の最大の被害「オキシサクサク」 毒性試験なしに発売 - 聯合ニュース)

加湿器殺菌剤を使った加湿器の製造販売会社の製品は、オキシー・レキットベンキーザーだけでなく、愛敬(애경)、ロッテマート(롯데마트)、ホームプラス(홈플러스)、バタフライエフェクト(버터플라이이펙트)、イーマート(이마트)などの製品がある(死者10人以上を確認している会社を載せた)

가습기 살균제 사망사건 - 나무위키

 

・2003年、加湿器殺菌剤メーカーは、有毒確認があっても無視していたようだ。
オーストラリアへの輸出の過程で、PHMGのメーカーであるSKケミカルと加湿器殺菌剤メーカーは毒性を確認していた。また、政府はその事実を把握できなかった。

 

・2006年〜2007年、ソウル市内の小児科で呼吸困難の症状が増えて、十分な治療が出来ないまま死亡者が増えていた。
この時、保険福祉部疾病管理本部はウイルス関連の調査だけをして、化学薬品の関連性は疑わなかった。 有毒物質中毒モニタリング・システムは無い。

 

・2011年、ソウル峨山病院に、加湿器殺菌剤を使用していた母親7人が偶然同じ時期に入院。4人が死亡した。
2011年8月に、大規模な疫学調査。 どうやら、政府は、企業と消費者の間の問題として傍観し、環境省や福祉部はお互いに所管ではないと対応を遅らせていたようだ。

また、有害性評価を行ったソウル大学と湖西大学の研究チームの教授が、報告書捏造で逮捕や家宅捜索を受けている。

加湿器殺菌剤事件で報告書捏造、ソウル大教授を緊急逮捕 : ハンギョレ

 

・2012年、被害者たちがオキシ他の企業を告訴。
しかし、検察と警察による捜査は迅速に行われず、被害者の3割以上は公訴期限が過ぎており、公訴されていない企業もあるそうだ。

 

ーー(追記:2017/1/6)ーーーーーー

最も多くの被害を出したオキシー・レキット・ベンキーザーの元社長らが業務上過失致死傷などの罪に問われ、懲役7年の実刑判決を言い渡された

韓国 加湿器の殺菌剤で死亡 メーカー元社長に実刑 | NHKニュース

ーー(追記ここまで)ーーーーーーー

 

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他の加湿器の殺菌剤についても、CMIT(クロロメチルイソチアゾリノン)とMIT(メチルイソチアゾリノン)成分の有害性について議論が続いている。

애경·이마트·GS 제품에 쓰인 가습기살균제 CMIT·MIT 성분도 유해성 논란  (愛敬・マート・GS製品に使われた加湿器殺菌剤CMIT・MIT成分の有害性論議 - ハフィントン・ポスト・コリア)

 

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関連記事は、日本メディアでも、韓国メディア日本語版でもたくさん、次々と出ています。ニュース検索してみてください。

まとめサイトが、相当に詳しい。(韓国語)

가습기 살균제 사망사건 - 나무위키(加湿器殺菌剤死亡事件 - Wiki Tree)

 

韓国、加湿器殺菌剤事件の今 100人超死亡(NEXT MEDIA "Japan In-depth"[ジャパン・インデプス])

加湿器殺菌剤で95人死亡。韓国で起きた「家の中のセウォル号」事件とは | 남궁인(ハフィントン・ポスト)

100人超死亡の消毒剤問題、謝罪した企業トップに平手打ち 韓国(AFPBB)

가습기 살균제, 한국서만 시판…당시 관련 규제 전무(加湿器殺菌剤、韓国だけ市販...当時の関連規制前は無し) (via.  楽韓Web : 韓国でだけ「殺人加湿器」事件が起きていた理由が判明……いくらなんでもひどすぎねえ?

Reckitt Benckiser executive slapped in South Korea while apologizing for deadly sterilizers | Reuters

Reckitt Benckiser sold deadly sterilisers in South Korea - BBC News

 

以前のニュース

ロッテマート、加湿器殺菌剤被害の原因解明から5年後に謝罪(2016.04.18|ハンギョレ)

52人死亡の加湿器殺菌剤、1年経って初処罰は課徴金5200万ウォン(2012/07/24|東亜日報

 

Reckitt Benckiser - Wikipedia

Deaths caused by humidifier disinfectant

Beginning in 2001, Reckitt Benckiser Korea (known as Oxy prior to 2014)[51] used Polyhexamethylene guanidine (PHMG) in a humidifier sterilizer product called Oxy Ssak Ssak; the ingredient was dropped in 2011 when the Korea Centers for Disease Control and Prevention (KCDC) published a report showing a link between the compound and lung damage and deaths.[52]

wikipedia日本語版 のレキットベンキーザー・ジャパンのページには、英語版にはあるこの「加湿器殺菌剤」事件に相当する部分はない(この記事公開時)。

レキットベンキーザー・ジャパン - Wikipedia