(tsn.uaより)
クリミア大橋の爆発事件について、カディロフの娘の裁判を担当した裁判官が死亡していたと分かったことから、「橋での爆発は裁判官を殺害するためだった」という説が話題だ。
陰謀論らしい陰謀論で楽しいのでこれについて少し。
結論は「ほぼデマ」。
”ほぼ”をつけたのは、裁判官の死に関してロシア国内で情報が厳しく管理されている場合、100%デマだとは言い切れないからです😅
まず事実(ファクト)は、
・モスクワ市仲裁裁判所のセルゲイ・マスロフ(Сергей Маслов)裁判官が、クリミア大橋の爆発事件で死亡した。裁判所の所属する裁判官一覧にのっており、ロシアのタス通信が10月11日付けで死亡を報道した。(タス通信, 2022-10-11)
・ラムザン・カディロフの娘であるアイシャット・ラムザノフナ・カディロワ(Айшат Рамзановна Кадыровой)(22)が関わるファッションハウス「フィルダウス(Фирдаус(Firdaws))」に対して米国の出版社「コンデナスト(Condé Nast)」のロシア部門が訴訟を起こしていた。
この訴訟は今年(2022年)8月8日に受理されたが原告が請求を棄却したことで、モスクワ仲裁裁判所が8月19日に手続きを終了する決定を下した。(コーカサスの絆(Кавказский Узел)紙、2022-08-23)(同紙、2022-08-15)
、この2つ。
これに加えて、カディロワの会社への訴訟を担当したのはセルゲイ・マスロフ(Сергей Маслов)裁判官だとコーカサスの現実(Кавказ.Реалии)紙が8月に伝えていた。ただしこの情報は、このRadio Free Europe/Radio Liberty系ネット・ニュース・サービスの記事でしか見つけていない。(コーカサスの現実(Кавказ.Реалии)紙、2022-08-23)
出版社コンデナストが請求を取り下げた理由ははっきりしないが、メディアで取り上げられたことで公判前に出版社と和解をした可能性があるそうだ。
この訴訟の後にふたたび、カディロワと関係する会社に対して別の訴訟がありモスクワ仲裁裁判所でマスロフ裁判官が担当となった可能性もゼロでは無い。しかし9月以降に新たな訴訟があったことを指摘する発表や報道は見当たらない。ウクライナのメディアはこのネタを多く報じているが、どれも8月の米国の出版社コンデナストの訴訟だけを書いている。
実はクリミア大橋の爆発事件の後にこの話題が出た当初は、爆発物が隠されていたのはトラックではなく隣を走っていた車(キャデラック エスカレード)の方だという文脈で語られていた。車の所有者がモスクワ仲裁裁判所の裁判官なので、橋の入り口の検問所で充分な検査が行われなかったという指摘だ。
それに加えて、爆発の死者3人と発表された後に4人目の死者がいてモスクワの裁判官だとネットSNSで噂となり、その氏名が慎重に扱われて報じられなかったことで陰謀論が育まれる土壌となっただろう。
ロシア連邦保安庁(FSB)は爆発物はトラックに積まれていて、ウクライナ情報局が背後にありウクライナのオデッサからブルガリア、ジョージア、アルメニアを経由してロシア国内に持ち込まれたというシナリオを発表した。
いろいろ問題のあるシナリオだと思うし、真偽はともかくロシア政権にとってはどうしても「ウクライナによるテロ事件」としたいストーリーだろう。陰謀論にとっても栄養たっぷりの肥料だ。
Ads by Google
続きを読む