pelicanmemo

海外の話が多め。近頃は中国が多め(中国海警局・中国海監、深海潜水艇、感染症など)。

タンカー攻撃| 吸着機雷(リムペット・マイン)はイラン製?

 中東、ホルムズ海峡近くのオマーン湾で、タンカー2隻が攻撃された事件をめぐって、米国海軍などによる調査が行われている。

6月19日、日本の海運会社"国華産業"が運航するパナマ船籍のケミカル・タンカー「コクカ・ カレイジャス(Kokuka Courageous)」の被害と、その船体に残っていた爆発の残留物が、各国メディアに公開された。

 

米国海軍中央司令部(U.S. NAVCENT)による初期の調査によると、2つの吸着機雷(リムペット・マイン (limpet mine))がタンカー「Kokuka Courageous」に取り付けられていた。

 

第5艦隊のSean Kido中佐 (*)によると、米軍が回収した、不発の吸着機雷(リムペット・マイン)とされる磁気吸着部品の残留物と破片、吸着跡の調査から、イランで2015年10月の兵器展覧会ではじめて公開された、革命防衛隊の関連会社による吸着機雷との類似性が強い。

被害の状況は、吸着機雷(リムペット・マイン)による攻撃と一致し、タンカー船員が目撃したという“飛来物(flying object)”による被害とは違うと否定した。

吸着機雷は、おそらくタイマーで起爆された。タンカーの二重船殻も貫く威力だが、喫水線よりも上に設置されており、船を沈没させる意図は無かっただろうと述べた。
(*)Cmdr. Sean Kido, Commanding Officer of Task Group 56.1 - Explosive Ordnance Dive and Salvage

20190621122824

 

イランの、2015年兵器展ではじめて公開された吸着機雷(limpet mine)直径550mm、高さ320mm、重さ42kg。素材はアルミニウム複合材

タンカー「Kokuka Courageous」右舷中央に残されていた、不発の吸着機雷(リムペット・マイン)?の跡は直径550mmで、破片の素材はアルミニウム複合材

 20190620130233

ニュースの中には「イランの水雷に酷似」と書いているものもあるけど・・・、実のところ、米国が公表してきた“証拠”はどれも状況証拠という印象が強い。

日本やドイツなど米国の同盟国でも、米トランプ政権が主張する「イラン犯行説」に同調しきれていないのは、こういうところにもあるのだろう。🙄

 

米国側には、さらに詳しい分析がされていて、公表していないネタがあり、手元でカードを伏せたままレイズしているような気もする。

 

Ads by Google

 


20190620130200 20190620130156

(右の現物の写真の端に映り込んでいるポスターの一部(赤枠)が、左のポスターの説明個所と一致する)

 

このイラン製の吸着機雷、どのくらいの大きさかというと・・・、

折り畳み自転車など小径タイヤ(21C)を、前輪を外して横にした上に、バケツを逆さにして置いて、テントやタープのように布で覆えば、だいたい同じ大きさになります。
重さ42kgは、ねこ8〜10匹分くらい。けっこう重い。😊

 

 

当ブログ管理人、この手の話題での、イランのことについて米国の言う事を鵜呑みにする気には、ちょっとなれません。

不発の吸着機雷(リムペット・マイン)?の跡は、6月13日と17日に公開されていた写真と画像から、50〜60cmと推測した。(今回、改めて詳しく解析してみた)

   20190620130224

タンカー攻撃|「コクカ・ カレイジャス」右舷の吸着機雷(リムペット・マイン)、大きさは約60cm - pelicanmemo

 

・〜・〜・〜・ 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

不発の吸着型機雷(リムペット・マイン)の裏側のイメージは、ニューヨーク・タイムス紙の動画の解説図が分かりやすい。(別の吸着型機雷を例に使い、直径を17.5インチと間違えている。正しくは約21.65インチ(550mm))

このように、吸着部分が円形に並んでいるのだろう。

20190620130228(via. The New York Times)

 

直径9cmほどの永久磁石(ネオジム磁石?)が、6個並んでいた。

20190620130204

不発の吸着機雷の底に crowbar(バールのようなもの)をこじいれて外したそうで、その時に、磁石1個の台座が壊れて、くっついたまま残ってしまった。

タンカーの塗装に付いている複数の傷は、その crowbar(バールのようなもの)の跡だろう。

20190620130239

こうして残ってしますと、人の手の力で、磁石をひっぺがそうとしても大変そうだ。
磁石の上に残っている白い傷2つは、はがそうして、バールのようなもので叩いた跡ではないだろうか?

 

不発となった吸着機雷(リムペット・マイン)を、どこの誰が取り外したのか、直接の証拠は無い。
米国側は、イランの革命防衛隊の哨戒艇が取り外したと主張している。イラン側は否定している。

  

・〜・〜・〜・ 〜・〜・

不発だった吸着機雷(リムペット・マイン)は、6月13日の午後02時07分までに、タンカー「Kokuka Courageous」の右舷中央から無くなっている。

ネット・SNSの一部で、6月13日に公開した白黒動画(1分40秒)は、13日深夜に撮影されたものであり、リムペット・マインは深夜に取り外されたのだ、という解説を見かけるんだけど、それは間違い。
少なくとも、米軍発表の時計が正しいなら、6月13日の午後の明るい時間帯に取り外されている。

 

その、米国海軍が発表したタイムテーブルにも矛盾がある。

6月13日発表のタイムテーブルでは、13日の午後4時10分(現地時間)に、イラン革命防衛隊の哨戒艇がタンカー「Kokuka Courageous」に接近して、不発の吸着機雷(リムペット・マイン)取り外したと発表されていた。

しかし、6月17日発表の画像の時計では、午後2時07分11秒には無くなっている。

 

 

当ブログ管理人、この手の話題での、イランのことについて米国の言う事を鵜呑みにする気には、ちょっとなれません。

米軍による6月13日発表の、イラン革命防衛隊が取り外した証拠と主張した、画質の悪い白黒動画(1分40秒)も、とても筋が悪い証拠と感じてきていた。 

 

米国海軍のKido中佐は、イランのFARSニュースの記者(semi official)からの画質の悪い動画についての質問に対して、映像の日付と場所の確証はされてない、どのような映像も見せることが出来るが...、しかし(それは)証拠として使うことは出来ない、と回答している。

According to the semi-official Fars news agency, Hatami questioned the authenticity of a grainy video released by the U.S. following the attack that purports to show Revolutionary Guard forces removing the unexploded mine.

The date and the location shown in the footage have not been authenticated,” he said. The Americans “can show any footage ... but it cannot be used as evidence.

US Navy: Mine in tanker attack bears Iran hallmarks - AP

 

・〜・〜・〜・ 〜・〜・

吸着機雷(リムペット・マイン)は、タンカー「Kokuka Courageous」に2発(1発は不発)、ノルウェーの会社が運航しているタンカー「Front Altair」に2〜3発(爆発は3回)仕掛けられていた。(追記修正 6/24:「Front Altair」が吸着機雷で攻撃されたことを示す画像や映像、証言や発表は無いので、打ち消し線としました。)

 

どこの誰が、不発の1発を取り外したか?というと・・・、イランの革命防衛隊が、“クロに近い灰色”だろう。

どこの誰が、タンカーへの攻撃のために設置したか?というと・・・、イランの革命防衛隊と関係するあたりの可能性が高いように感じる。

 

イラン製の吸着機雷(リムペット・マイン)である可能性が高い。けれども、その結論に到る事までを想定した第三者による、凶器の捏造の可能性も否定はできない。

 

イラン製と推測される吸着機雷(リムペット・マイン)は、紅海(Red Sea)でも使われている。 

国連安保理のイエメン専門家パネルの2018年1月の報告書によると、海岸に漂着した水雷や、不発のリムペットマインが回収された。

20190620214956

アラビア半島南部でのイエメン内戦から、サウジアラビアが主導するアラブ多国籍軍とそ支援する武装組織、イエメンのフーシ派など武装組織との、現在でも続いている戦いの中で、各種の水雷・吸着機雷が使われ、海岸に漂着した水雷や、不発のリムペットマインが回収されている。

 

2017年に、イエメンの紅海に面したMukha港で3つの水雷・吸着機雷が回収された。

そのうちの1つは、イランの2015年10月の兵器展覧会ではじめて公開された、吸着機雷(リムペット・マイン)と形と大きさが一致したそうだ。

20190620214949

The United Arab Emirates reported the discovery of at least three sea mines in the port of Mukha to the Panel. The recovered sea mines (see figure XI) are consistent in shape and size to the Iranian manufactured “bottom” sea mine (see figure XII), which was first identified at an Iranian arms fair in October 2015.

The Panel has written to Iran requesting clarification as to the nomenclature and export status of the type of sea mine shown in figure XII but has yet to receive a response.
(p.34)
(pdf, 20MB) https://reliefweb.int/sites/reliefweb.int/files/resources/N1800513.pdf

Letter dated 26 January 2018 from the Panel of Experts on Yemen mandated by Security Council resolution 2342 (2017) addressed to the President of the Security Council (S/2018/68) [EN/AR] - Yemen | ReliefWeb

 

しかし、磁気吸着装置の位置と数が一致しない。タンカー「Kokuka Courageous」の跡のような円形には配置されていない。

 

戦場は、兵器の見本市であり、新兵器の実験や、既存の兵器の改良のための実験場となっている。たとえ民生品であっても、戦場・戦闘に合わせて改造されて兵器として使われうる。

イラン製の吸着機雷(リムペット・マイン)も、紅海で実際に使われた経験をフィードバックして、改良が行われたバージョン違いがあるのかもしれない。あるいは、現地でのコピー品か?

 

国連専門家パネルはイランに対して図XIIに示されている種類の水雷(吸着機雷(リムペット・マイン))の名称と、その輸出状況について明確にすることを求めたが、回答を得られていなかったと締めくくっている。

 

・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

 

余談。

本文中にはめ込みにくかったけど、書いておきたいネタ。😅

タンカー「Kokuka Courageous」右舷の、エンジン室に近いあたりの爆発による穴の大きさは、縦1.5m・横1.1m。直径55cm(重さ42kg)の機雷の爆発で、ぽっかりと、内側に向かって開いて、めくれた感じ。
その脇にある丸い穴は、もとからある排水口(冷却水用?)で、吸着機雷(リムペット・マイン)の爆発によるものではないです。
この10mほど前の方の舷側にも、同じあたりに同じ大きさの排水口があります。

20190620215013 20190620215000 

 

US Navy: Mine in tanker attack bears Iran hallmarks - AP

Tanker damaged by Iranian-linked limpet mine: US Navy - Emirates News Agency

U.S. Navy Says Mine Fragments Point to Iran in Tanker Attack - The New York Times

US Navy expert: Tanker attack mine resembles Iranian mines - Middle East - Stripes

US alleges tanker hit by mine resembling Iran's - AFP (Yahoo News)

US Navy: Mine fragments from tanker attack bear Iran hallmarks | Al Jazeera

Mine fragments, magnet point to Iran in tanker attack: US Navy - Saudi Gazette

攻撃受けたタンカー 初公開 米軍「吸着型爆弾 取り外された」 | NHKニュース

タンカー攻撃「イランの水雷に酷似」 米「新証拠」主張:朝日新聞デジタル

 

What Is A Limpet Mine And Does Iran Have Them? - Radio Farda

۱۳۹۴/۷/۱۲ - رصد آنلاین خلیج فارس از اتوبان شهید خرازی تهران/ نمایش موشک جنجالی سپاه، نخستین بار | خبرگزاری فارس

مین‌های دریایی ایرانی،کابوس دشمنان+تصاویر۱۶ مهر ۱۳۹۴  

Иранская магнитная мина - Юрий Лямин

 

(追記:米国海軍による解説動画)

U.S. Navy Commander Explains the Attack on Two Civilian Tankers in the Gulf of Oman. - YouTube