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海外の話が多め。近頃は中国が多め(中国海警局・中国海監、深海潜水艇、感染症など)。

【中国海警局】 人民武装警察部隊(武警)と海警部隊

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国家海洋局(中国海警局)の指揮下にあった海警部隊とその職責が、中央軍事委員会が指揮する人民武装警察部隊(武警)に隷属することが、「党と国家機構の改革深化方案(深化党和国家机构改革方案)」で発表(3月21日)され、3ヶ月がたった。

6月22日、全国人民代表大会常務委員会より、武警編入後の海警部隊(中国海警局)の職権に関する決定を採択し、7月1日付けで執行すると発表された。

 

人民武装警察部隊(武警)と、武警に編入される海警部隊(中国海警局)について、まだ日本語の情報が少ないからか、明らかな間違いも含めて、いろいろなコメントを見かける。

個人的な整理も兼ねて、少し書いてみたい。
(当ブログ管理人、ミリタリーや中国の軍事関係の知識は多くはないので勘違いもあるかもしれませんが)

 

【中国海警局】 人民武装警察部隊 海警総隊、創設 | 7月1日から武警指揮か - pelicanmemo 

 

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・中国海警局は、軍の指揮下にはいったのか?

よく見かけるコメント。もし、これが「人民解放軍の指揮下」という意味なら間違っている。

海警部隊は、2018年1月1日0時から党の中央軍事委員会の指揮下となった武装警察部隊(武警)に隷属する。
中国国防部の報道官は「武警部隊の根本的な職能と性質に変わりはなく、人民解放軍の序列の中には入らない(领导指挥体制调整后武警部队的根本职能属性没有发生变化,不列入人民解放军序列。)」と述べた。

武警の海警部隊(中国海警局)も、中国海軍の指揮下に入ったわけではない。
朝日新聞時事通信の記事のタイトルにある「軍の影響下」という表現が適切だろう。

ここのところ、海上自衛隊幹部学校のコラムの改変前後の組織図が分かりやすいので、引用させていただきたい。
上半分が機構改革前、下半分が改革後。

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中国海警局の指揮系統の変更について(コラム097 2018/4/23) | 海上自衛隊幹部学校 

 

(補足説明:「国土資源部」は、機構改革によって統合再編され「自然資源部」と名前を変えた。対外的に「国家海洋局」の名称も用いるので「自然資源部(国家海洋局)」という表現が適切。
上の図では、「国家海洋局」が「黄金部隊」と名前を変えたようにも見えてしまうが(苦笑)、それは誤解である。(武警と黄金部隊については後述)
中国 国家海洋局の門標、自然資源部の本部ビルに掲げられる。 - pelicanmemo

 

中華人民共和国国防法では、中国の武力(武装力量)は、人民解放軍(現役および予備役)と人民武装警察部隊(武警)と民兵とされており、中国共産党が指導する体制となっている。武警では、国務院の行政組織との二重の指導体制をはずしたことで、党と軍の影響力が強くなった。
中央軍事委員会(中軍委)は、首席、副主席と委員から成り、2017年の第19回党大会でメンバー11人から7人に減った。結果として、軍に対する党中央の指導力が強化されたと言えるだろう。

 

武警の海警部隊(中国海警局)は、人民解放軍の序列に入らないので、日本と中国の防衛当局間の海空連絡メカニズムの対象にはならない可能性が高い。
中国が南シナ海で行ってきた、中国海軍の軍艦は正面に出てこない「戦争になる手前の準軍事作戦 (Para-military Operations Short of War (POSOW))」、グレイゾーン事態に注意をしなければならない。

 

ーー(追記:6/30)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
国防部の報道官の6月28日の記者会見で、海警部隊は武警へ編入した後に、中国人民武装警察部隊海警総隊となり、中国海警局と呼ぶことが正式に公表された。

吴谦表示,海警队伍转隶武警部队后,将组建中国人民武装警察部队海警总队,称中国海警局。

国防部新闻发言人就美国国防部长访华、武警部队跨军地改革等答记者问-新华网

武警部隊は改革の達成後に、内衛総隊(内卫总队)、機動総隊(机动总队)、海警総隊(海警总队)、院校(教育組織)と科学研究組織等で構成されることとなる。

ーー(追記ここまで)ーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

・人民武装警察部隊(武警)は軍隊か?

これは解釈が難しく、人によって説明が違ってくると思う。

たとえば、アメリカの沿岸警備隊(USCG)は軍隊だろうか?
日本の海上保安庁に相当する組織で、国土安全保障省傘下の組織であり連邦の法執行機関なので、軍隊ではない。しかし「第五の軍」とも呼ばれ、戦時には海軍の指揮下に入ることがある。

中国の武警は、日本ではあまり馴染みがないが、ヨーロッパ各国の国家憲兵隊が近いと思っている。世界の、国や地域、歴史や政治・行政によって、それぞれ、特徴ある軍組織や法執行組織を形成している。
一方、日本では、軍隊と警察を明確に区別しようとするので、世界の"普通"とは少し認識がずれていて、法律の整備もされていないと感じる。

中国では、武装警察部隊(武警)は、軍の性格をもち警察の機能と職権ももつ、武装警察部隊「武警 (Chinese People's Armed Police Force, (PAP))」となるのだろう。

 

今年3月の「党と国家機構の改革深化方案(深化党和国家机构改革方案)」(以下、機構改革方案)では、「軍は軍、警は警、民は民(军是军、警是警、民是民)」の原則に基づいて武警部隊の再編が発表された。
国務院の部門と二重の指導体制にあった部隊をはずして現役軍人から退出させたので、残った武警部隊は「軍」だと感じられる。

一方で、今年5月に、南シナ海のパラセル諸島(西沙諸島などと呼ばれる)近くの海域で行われた、はじめての「軍・警・民の連合船隊」による合同パトロール活動では、海軍の「553 韶関(韶关)」艦、海警局の法執行船、地方総合法執行船(*)が参加した。ここでは「警」とみなしている。
(*) 中国が称する"三沙市"の、三沙市総合法執行局(三沙市综合执法局)に所属する「三沙市総合執法1号」(もと海警3210)?

六、深化跨军地改革

着眼全面落实党对人民解放军和其他武装力量的绝对领导,贯彻落实党中央关于调整武警部队领导指挥体制的决定,按照军是军、警是警、民是民原则,将列武警部队序列、国务院部门领导管理的现役力量全部退出武警,将国家海洋局领导管理的海警队伍转隶武警部队,将武警部队担负民事属性任务的黄金、森林、水电部队整体移交国家相关职能部门并改编为非现役专业队伍,同时撤收武警部队海关执勤兵力,彻底理顺武警部队领导管理和指挥使用关系。

中共中央印发《深化党和国家机构改革方案》-新华网 (2018-03-21)

 

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・人民武装警察部隊(武警)は軍事組織か? 

人民解放軍は中国共産党の軍隊であるという意味で、武警は中国共産党の準軍事組織 (Paramilitary)  となった。

武警の海警部隊(中国海警局)の任務は、全人代の発表によると、海上での権益維持のための法執行の職責を履行し、海上での犯罪取締りや治安と安全の維持、海洋資源の開発と利用、海洋生態環境の保護、海洋漁業の管理、海上密輸取締り、等の方面の法執行任務となる。

一、中国海警局履行海上维权执法职责,包括执行打击海上违法犯罪活动、维护海上治安和安全保卫、海洋资源开发利用、海洋生态环境保护、海洋渔业管理、海上缉私等方面的执法任务,以及协调指导地方海上执法工作。

 全国人民代表大会常务委员会关于 中国海警局行使海上维权执法 职权的决定

 

近年、世界各地で、武装組織やテロ組織の、重武装化や近代化が強まり、国際ネットワーク化が進んでいる。これらに対処するためには、国軍や沿岸警備隊・国境警備隊だけでなく、国内での、より強力な対テロ任務や治安維持のための武装組織が必要となってきた。
特に中国のように、国土が広く人口が多く、共産党の一党支配による内部統制と規制が強化され、一部の地域では弾圧も行っている国だとなおさらだろう。
経済成長と貧富の格差の拡大、社会不安や組織改革に対して補償と待遇の薄さが原因と思われる、デモや退役軍人デモも繰り返されている。
海洋では、近隣国との軋轢を起こし、海洋強国の夢によって拡大させている。

 

中国は、人民武装警察部隊(武警)の役割は変わらないと言っているが、 海警部隊の編入とともに組織を大きく変えて、党の統一指揮のもと、より迅速で効率的な作戦行動が出来るようにしている。

武警部隊の任務を、国家政治の安全と社会の安定を守り、海上権益維持のための法執行活動、防衛作戦の、3つの主要任務へ集中させた。

武警の8大部隊(内衛、辺防、消防、森林、水電、交通、警護、黄金部隊)のうち、国務院の部門と二重の指導体制にあった6部隊を、現役軍人から退出させ、相当する行政組織等に移して非軍事の専業部隊とする(*1)。
主力である内衛部隊と、交通部隊(一部?)を残し、海警部隊を編入した。
(*1)(任務は簡単な概略のみ)
武警黄金部隊:国家黄金戦略備蓄計画による、金鉱脈などの地質調査や生産任務。|機構改革で、自然資源部に編入。(実は、世界で唯一の国家軍事金鉱開発機関だった)
武警水電部隊:水力発電・水利施設の建設管理。|国有企業として再編し、国有資産監督管理委員会が管理。
武警森林部隊:森林火災と防災、救援任務。|応急管理部に編入。
公安消防部隊:消防、防災、救援任務。|専業の組織として、応急管理部に編入。

公安辺防部隊:国境地域の治安維持、出入国の管理。|一部は武警に残り、一部は公安に、一部は国家移民管理局と合併となる模様。
公安警護部隊:党と国家の指導者や、省級の指導者、外国からの要人の警護任務。|警護局(処)として、公安組織が管理。
(交通部隊は、改革方案で触れらていない。その後の詳しい説明も無いので曖昧。)

 

全人代の常務委員会による6月22日の発表では、条件が成熟した時には、関係方面は速やかに関連する法律の策定または改正を提案と審議をすることも求めている。関係組織との調整のための法改正の他に、国防法や人民武装警察法の改正も行われるのかもしれない。 

中国共産党が指導する、中国の特色ある世界トップレベルの武力体制の、重要な一部である人民武装警察部隊(武警)を作ろうとしている。

党的十九届三中全会通过的《中共中央关于深化党和国家机构改革的决定》(以下简称《决定》),把建设“中国特色、世界一流的武装力量体系”作为构建党和国家机构职能体系的重要组成部分,从战略全局上作出部署。

建设中国特色、世界一流的武装力量体系--理论-人民网

 

と、理想的な組織改革をうたってはいても、実際の運用はどうなるか・・・
末端や地方まで、迅速に的確に伝わるとは考え難い。地方の政府や党組織、軍との関係、既得権益や新たな利権、政治闘争、官僚組織の抵抗もあるだろう。

 

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・中国海警局は準軍事組織となるのか?
公船はすべて、軍艦と見做せるのか?

いまのところは、そうではない。(この記事の公開時点)

日中関係に改善が見えている(主に経済分野で)ので、7月1日に武警の指揮下となっても、対応がすぐに大きく変わるとは思っていない。しかし党中央が、経済と安全保障を切り離して、たとえば組織改革と存在感を国内外にアピールするような対応をさせる可能性は否定できない。

 

武警の指揮下になっても、国家海洋局・中国海監や漁業管理局・漁政など、関係する組織の船舶・航空機、構成員の給料・手当てや待遇、法律など、複雑に関係してくる。

北海、東海、南海や、省・自治区・直轄市での、地域によって性格も違っている。

別記事で、少し書いてみたい。(近日中。なるべく、、、

 

(追記:書きました。)

【中国海警局】武警・海警総隊と、海監、漁政 - pelicanmemo

【中国海警局】武警・海警総隊と、国家海洋局、中国海監 - pelicanmemo

 

 

中国海警、7月から武警指揮下 全人代が決定 - 産経ニュース 

中国海警、軍の影響下に 武警に編入 尖閣、緊張激化も:朝日新聞デジタル (2018年3月22日)

中国海警局の指揮系統の変更について(コラム097 2018/4/23) | 海上自衛隊幹部学校 

 

中共中央印发《深化党和国家机构改革方案》-新华网 (2018-03-21)

武警部队由党中央、中央军委集中统一领导 - 中华人民共和国国防部

全国人民代表大会常务委员会关于 中国海警局行使海上维权执法 职权的决定

中央军委向武警部队授旗仪式在北京举行 习近平向武警部队授旗并致训词-新华网

习近平向武警部队授旗并致训词 - 国内 - 新京报网

国防部:武警部队根本职能属性没有发生变化 - 中华人民共和国国防部

军警民联合编队首次巡逻西沙岛礁,历时5天4夜-新华网 

海警轉隸武警部隊 王寧稱有利海上維權行動 - RTHK

中国人民武装警察部隊 - Wikipedia
中国人民武装警察部队 - 维基百科
People's Armed Police - Wikipedia

中国人民武装警察部队 - 百度百科
武警内卫部队 - 百度百科
武警警种部队 - 百度百科

ほか、いろいろ

 

中国人民解放軍の全貌 習近平 野望実現の切り札 (扶桑社BOOKS新書)

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