月刊『軍事研究』誌の2020年9月号の、記事『人民解放軍の手先となった「中国海警」 尖閣海域で連日、日本漁船に煽り行為 武装警察部隊に編入、解放軍の「第二海軍」と見られるようになった中国海警』著者:田中三郎(106〜117頁)の中で、当ブログ管理人が日本語を追加して作成して2016年6月2月のブログ記事で公開した画像が、無断で転載をされた。
月刊『軍事研究』誌の編集部から、ツイッターにて、無断で掲載したことの確認と謝罪をいただいた。(検証等、詳しくは記事末尾に記録した)
この月刊『軍事研究』誌の2020年9月号の記事『人民解放軍の手先となった「中国海警」(以下略)」を読んでみると、ネットで流れている”噂”を検証せずにまとめた感じで、書き間違いや古い情報が散見される。
これについて少し。
ネットSNSだけでなく専門雑誌の記事でも「中国海警局の1万トン級」と呼ばれる船について、充分に検証されていない”噂”がさも正しい情報のように、まことしやかに使われている。近頃は、別組織である海事局の「1万トン級(建造中)」の情報が混じってキメラ化している。
まず、この月刊『軍事研究』誌の記事『人民解放軍の手先となった「中国海警」(以下略)(著者:田中三郎)」は、”中国海警局の満載排水量12000トンと言われる「海警2901」と「海警3901」”と書いているところで、情報が古い。
南シナ海で繰り返されているベトナムと中国との海上での軋轢や衝突、中国の海洋調査船のニュースを見聞きしていれば気付く事だと思うが…、「海警3901」は1年も前に船名(番号)が「海警5901」に変わった。
情報が1年古い。
それでも最初は、「海警3901」の船名の方が読者に馴染んでいるだろうから「わざと3901を使ったのだろうか…?」と好意的に考えようとしていたんですよ。しかし114ページで次のように書いてある。著者は本気で「海警3901」の船名(番号)が変わったことを知らないようだ。
なお一万トン級の「海警2901」及び「海警3901」は付与された艦番号からそれぞれ東海分局(舟山保障基地)、南海分局(広州保障基地)に配置されていると見られる。(p.114)(*1)
「海警5901(もと海警3901)」は付与された船名(番号)から、広東省広州市ではなく、直属第五局(海南省三亜市)に配置されていると考えられる。
(*1) 雑誌の縦書きの文章とブログの横書きの文章との読みやすさの違いから、雑誌記事から引用した文章のうち、数字を漢数字から算用数字にしている場合がある。以下同じ)
中国海警局 カテゴリーの記事一覧 - pelicanmemo
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正直な話、専門誌の記事やコンテンツの間違いは、よほど酷い間違いでなければいちいち取り上げたくないんですよ。誰にだって公にできない情報源はあるだろうし、ソースに迷惑がかからないようにわざと知らないふりをしたりぼかして書く場合もある。中国関係ならなおさらだ。専門誌の記者やライターなら、そういった繋がりも多いだろう。
しかし、この月刊『軍事研究』誌の2020年9月号の記事『人民解放軍の手先となった「中国海警」 尖閣海域で連日、日本漁船に煽り行為 武装警察部隊に編入、解放軍の「第二海軍」と見られるようになった中国海警』著者:田中三郎(106〜117頁)は、そういう感じではなかった。
どこかで聞いたような話ばかりなのに、検証せずに写していたり、”海警総隊”を”海警部隊”と書いてるような重箱の隅はほうっといても、間違いがけっこうあった。
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ウィキぺディアを参照として書いている中に「超連軍」大校という人名があったので、「そんな名字の人、いたかなあ・・・?」と思ってウィキペディアを調べてみたら「張連軍」大校の写し間違えだった。同じように、ウィキペディア他から「(表-2)海警部隊」の一覧表を作成して、直属第一局〜第六局について書いているけど、「海警5901(もと海警3901)」が付与された船番号から直属第五局(三亜)だと著者は思い至ることが出来無かったようだ。
「海警2901」「海警5901(もと海警3901)」が搭載できるヘリコプターについて、次のように書いている。
中国のようなこの種の一万トン急海警船は容積が大きく、甲板上に比較的大きな格納庫を有するので、直-8(J-8)級ヘリ二機を格納できる。(P.111)
中国の「直-8」型ヘリは「Z-8」型であって、「J-8」型では無い。
さすがに軍事ライターが知らないわけはないだろうから、「殲-20(J-20)」型など固定翼の戦闘機の番号と勘違いしたのだろう。
ヘリコプター(直升機)に付けられる”Z”は、中国語の”直(Zhi)”から来ている。
この、万トン級海警船「海警2901」「海警3901(現・海警5901)」が”直-8(Z-8)型ヘリを2機格納出来る”説は、かなり前から流れているネットの噂だが、実はあの格納庫は写真で分かるように、外見からイメージするほど広くはない。
ヘリ甲板の幅は約20m(この月刊『軍事研究』誌の記事によると船の幅20.6m)。直-8(Z-8)型ヘリの全長は約23m。
(微博より。艤装中)
以前、当ブログで、直-8(Z-8)型の民生版AC313型ヘリを使って大きさを比較して検証してみた。Z8型の民間向けAC313型ヘリを合成した画像を作った。このサイズ感となる。
(海警2901)
【中国海警局】 万トン級「海警2901」 ... 2機の大型ヘリコプターを搭載?(2/2) - pelicanmemo (2016-01-24)
直8型ヘリなら1機を搭載して運用することができるだろう。直9型ヘリなら2機を搭載することも出来るのかもしれない。
Z-8型ヘリは艦載ヘリとしては大型なため、中国海軍の軍艦でも同機を搭載できるのは一部の大型艦に限られている。
恐らく、この万トン級海警船が”直-8(Z-8)型ヘリを2機格納出来る”という説は、同規模の055型駆逐艦(満載排水量 12,000~13,000㌧)が直-18(Z-18)型ヘリ(直8型の後継機)を2機搭載できるので、そこから連想されて生まれた噂ではないだろうか。
ちなみに055型駆逐艦にヘリ格納庫は2つある。
さて、この噂を信じているヒトは…、中国海軍の駆逐艦がヘリ格納庫2つでヘリ2機を格納しているわけけれども、中国海警局の1万トン級はヘリ格納庫1つでヘリ2機を格納して運用すると言うのだろうか?
【中国海警局】 万トン級「海警2901」 ... 2機の大型ヘリコプターを搭載?(2/2) - pelicanmemo (2016-01-24)
万トン級海警船について、中国メディアが報道した自力での航行1万海里と90日の航続力に続いて、次のように書いている。
船の乗員は100人前後で、さらに救助人員200名前後を収容できる。このような性能からすれば、この大型船は、南シナ海のパトロールを数か月にわたり継続できるだけでなく、インド洋での中国貨物船の護衛任務を執行できる。(p112)
この”船の乗員は100人前後で、さらに救助人員200名前後を収容できる”という話は、以前は見聞きした事が無いのに、近頃とみに見かけるようになった。
恐らく、交通運輸部の広東海事局による1万トン級大型海事パトロール船(H2382)(建造中)についての次のニュースを見て、中国海警局の万トン級「海警2901」「海警5901(もと海警3901)」と混同してしまったのだろう。
报道介绍,该船由中国船舶重工集团第七零一研究所设计,总长165米,型宽20.6米,型深9.5米,设计排水量10700吨,可搭载多型直升机,具备高海况的跨海区安全巡航及应急搜救能力;定员100人,可搭载获救人员200人。(赤字強調は管理人による)
大型巡航救助船、大型海事巡逻船建造项目列入今年中央预算 - 澎湃新闻 (2019-04-09)
本船船舶总长165米,型宽20.6米,型深9.5米,设计吃水6.6米,设计排水量10700 吨。
この建造中の1万トン級大型海事パトロール船(建造中)は全長165m、型幅20.6m、型深さ9.5m、そして、設計喫水6.6mと報じられている。
月刊『軍事研究』誌(2020年9月号)の記事『人民解放軍の手先となった「中国海警」(以下略)』(著者:田中三郎)では、「海警2901」「海警3901」について次のように書いている。
(略)1万トン級海警船二隻を建造することを明らかにした。これら二隻は「海警2901」「海警3901」として2019年に正式に就役している。
これら新造船二隻の満載排水量は1.2万トンで、全長165m、幅20.6m、設計喫水6.6mであった。これら新造船は1万トン級を超えた海警船であるばかりでなく、世界最大級の海警船である。(p.111)
偶然の一致かな?🤔
「海警2901」「海警3901」の諸元で小数点以下が報道された事は無いはずだけど、不思議なはなしですね。
中国海警局の万トン級「海警2901」「海警5901(もと海警3901)」の詳しい性能諸元は、 日本の海上保安庁の「しきしま」の就役直後のように、公式の発表はされていない。
正確な情報は流さずに、性能を低く見せたり逆に大きく見せたり、本当の性能を隠す情報操作は常套手段だ。
こうやって、不確かなネットの情報が寄せ集られてツギハギされて「中国海警局の1万トン級」というキメラが生まれていく。
そういえば、日本メディアが「海警2901」を「モンスター巡視船」と書いたことで、中国メディアがそれをとりあげて「外国メディアが”モンスター”と呼ぶ世界最大の海警船(外媒称为"怪兽"的海警2901船是世界最大海警船)」と報道されている。今でもときどき”怪兽”という表現を見かける。
中世や古代はいざ知らず、現代では、正体不明の何かを”化け物”と名付けて作り出して、さも正しい情報のように伝えて、さらに盛っていくのは、これらのメディア側の無知と無恥などによるものなのだろう。
この月刊「軍事研究」の記事の他の部分でも、
中国海警局は、2018年に国務院と中央軍事委員会との二重の指導体勢から、中央軍事委員会の指揮下にある人民武装警察部隊に編入され海警総隊となることが決定された。対外的に中国海警局の名称も使用する。
結果、海警総隊は中国人民武装警察部隊の他の部隊(※1)と同様、中国共産党中央と中央軍事委員会の集中統一指導を受けることとなり、米国の沿岸警備隊(※2)に近い軍事組織となった。(p.107)
(※1)人民武装警察部隊の他の部隊:森林部隊、黄金部隊、水電部隊、交通部隊等。なお従来の軍分区辺防部隊、武警辺防部隊も一体化して、この中の部隊に入ったのかもしれない。(p.108)
と書いている。
間違いである。
黄金部隊、森林部隊、水電部隊は、人民武装警察部隊から分離され、自然資源部や応急管理部に編入されたり、国有資産監督管理委員会などが管理して国有企業に組み込まれた。構成人員も現役では無くなった。辺防部隊(全ての部隊では無いだろうが)は国家移民管理局などに編入された。
六、深化跨军地改革
着眼全面落实党对人民解放军和其他武装力量的绝对领导,贯彻落实党中央关于调整武警部队领导指挥体制的决定,按照军是军、警是警、民是民原则,将列武警部队序列、国务院部门领导管理的现役力量全部退出武警,将国家海洋局领导管理的海警队伍转隶武警部队,将武警部队担负民事属性任务的黄金、森林、水电部队整体移交国家相关职能部门并改编为非现役专业队伍,同时撤收武警部队海关执勤兵力,彻底理顺武警部队领导管理和指挥使用关系。
中共中央印发《深化党和国家机构改革方案》-新华网 (2018-03-21)
他にも細かいところはいろいろあるが、すでにかなり長くなった。
記事の冒頭で書いた、月刊『軍事研究』誌の2020年9月号の、記事『人民解放軍の手先となった「中国海警」』著者:田中三郎(106〜117頁)」で行われた”パクリ”について記録しておきたい。
113ページに「(表-3)2015年地域別海上巡視船数比較(ASIA-PACIFIC MARITIME SECURITY STRATEGYより)」という説明で、日本語での説明等が描かれた図表が掲載されている。パクリである。
昨年(2019年)、米国防総省が公表した『アジア太平洋海上安全戦略』 (ASIA-PACIFIC MARITIME SECURITY STRATEGY) は、「2015年の中国海警総隊の保有艦船数は、500トン以上が205隻で、このうち1000トン以上の船が95隻」であり、世界最大級の沿岸警備隊と分析している。日米両国と比べてみると、日本の1000トン級以上の船は53隻(以下略)(p.113)
月刊『軍事研究』誌の2020年9月号の、記事『人民解放軍の手先となった「中国海警」』著者:田中三郎(106〜117頁)より)
その図表は、当ブログ管理人が、米国国防省が2015年8月に公開したレポート「Asia-Pacific Maritime Security Strategy」を元にして、英語が苦手な人でもひと目で分かりやすいように日本語の説明を加えて編集作成したもので、2016年6月2日にブログで公開をした。
図表には、おおもとの米国防省のレポートのPDFファイルのURLを記載していたが、月刊『軍事研究』誌(2020年9月号)の記事では、そこはトリミングされて、さも著者が自ら作成したかのような体裁となっている。
(米国国防省の英語の公式レポートに、日本語で、「中国海警局」「海上保安庁」など漢字や「500㌧」「1000㌧」という記号文字が載っていると思う人はいないだろう)
当ブログの記事では、ブログ管理人が図表に日本語の説明を追記した事を明確に記載している。
【中国海警局】 海でも崩れた日中均衡 経済に続き警備力も「逆転」 - 日本経済新聞2016年5月29日 - pelicanmemo
月刊『軍事研究』誌編集部や著者の田中三郎氏からの事前の連絡や問い合わせは一切無かった。
無断の転載を月刊『軍事研究』誌の2020年9月号の発売後に知り、ツイッターで、月刊『軍事研究』誌のアカウントにも届く形で指摘をしたところ、編集部より、無断掲載についての確認と謝罪のツイートをいただいた。
著者からは、何らかの対応を待ってみたが未だに何も無い。
@pelicanmemoさんの8月9日のASIA-PASIKIC MARITIME SECURITY STRATEGY資料の翻訳された表のご指摘について、編集部のチェック体制が甘かったことによるもので、無断で掲載することになり誠に申し訳ございませんでした。チェック体制を強化し、このようなことのないよう努めて参ります。
— 月刊軍事研究 (@gunken_jmr) 2020年8月17日
おおもとの図表は米国政府が公式に公開したものだし、誰か個人ブログで転載(ソースURLや引用元や作成者を明記)する位ならあまり堅い事は言わないけれども・・・、商業誌でプロのライターが勝手に、個人が作成した翻訳物(二次的著作物)を無許可で使用し、記載してあるソースURLをトリミングして削り、しかも引用元の記載を書かずに販売するというのはわけがちがう。
これを許してしまうと、誰か個人が公式文書を翻訳したり、写真や図表に分かりやすく日本語の説明を付けてブログやSNSで公開したものに対しても、商業誌やライターが勝手に使うことを認めてしまうことになる。
一応、月刊『軍事研究』誌の2020年9月号の記事『人民解放軍の手先となった「中国海警」(以下略)』の著者である田中三郎氏が、同じような体裁で自ら作った画像である可能性を検証するために、両方の画像を重ね合わせてみた。
文字の位置、フォントの形と大きさ、点線のすべての”点”の位置が、完全に一致した。
画像の右側と下側がトリミングされており、当ブログ管理人が作成した画像では記載していた引用元のURLの部分が切り取られている。
これだから、(以下略)。