pelicanmemo

海外の話が多め。近頃は中国が多め(中国海警局・中国海監、深海潜水艇、感染症など)。

映画『オッペンハイマー』

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映画『オッペンハイマー』、見た感想。

ぼちぼち、ネタバレまじりの感想を書いても大丈夫なころと思う。

(書きたくなったから書いただけで、大したことは書いてません。IMAXすげーと書いてるだけです)

 

最初、通常スクリーンで見るかIMAXで見るかで少し悩んだ。

クリストファー・ノーラン監督の映画だから、まず「IMAXで」と思ったけれども、伝記映画でIMAXの4K映像は必要か?とも思ったのは確か。

スクリーンで見るまで、予告編以外の映像や関連ニュース、見た人のレビューなど情報は出来るだけシャットアウトしていた。それでも、原爆による被害や被爆者の映像が写らない、とか、描写が不十分だったといった感想やニュースはイヤでも目にしてしまう。

映画を見たあとにネットのレビューや感想をいくつか読んでみると、意外と、ここを特に気にして書いていた人は見かけなかった。

 

トリニティ実験での原爆の爆発試験の映像はあるだろう。もしかしたら広島や長崎での原爆投下もあるのかもしれない。それらの映像ではIMAXの臨場感は期待できるかもしれない。でも、どれくらい描かれるのだろうか。それほかは、J・ロバート・オッペンハイマーの思考や行動と心境の変化、家族や有人やマンハッタン計画の関係者との人間関係が描かれているだろう。

 

製作陣も似たような思いがあったようで、パンフレットのプロダクション・ノートに次のように書かれていた。

人間中心のドラマを世界最大のカメラで撮影するという映画製作は、野心的な実験となった。

続いて、撮影監督ホイテ・ヴァン・ホイテマの

「IMAX®️は普通スペクタクル用のフォーマットで、広い視野、壮大さを伝えるために使われます。撮影の最初から私の関心は、クローズアップでも同じように力強いのかどうかにありました。我々は心理を撮影できるのだろうか。これを親密なメディアにできるのだろうか。これはいわば、口元に大金をかける映画でした。物語がそれを要求したのです。」

という発言を紹介している。

結論を書くと、IMAXで見て正解だった。

 

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ネタバレもあるので、少しスペースをあけます。

まだ見ていないからネタバレを見たくない方は、ここまでで止めてお帰りください。

 

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IMAX®️の映画本編が始まる前のナレーション。

「目の前に広がる巨大スクリーンは、映画の世界に入り込んだ感覚を与え、他にはないリアルなサウンドがあなたを包み込みます。

ほら、ここから……

ここからも……

そしてここから……

さらに針が落ちる小さな音も、

ジェットエンジンの大轟音も。」(*)

巨大スクリーンでの4K映像だけでなくIMAXの12chサウンドシステムによって、オッペンハイマーの心理描写がより強く、より精密に感じられた。

(*)この書き起こしは、こちらのブログから一部を引用させていただきました。あの声は声優の井上和彦さんだったんですね。はじめて知った事実。😅
IMAXイントロ、ナレーション全文書き起こし - ゼンタイパワード

もっとも強かったのはトリニティ実験が終わった後、オッペンハイマーがロス・アラモスの関係者たち、科学者や技術者、研究者や軍人、事務・通信に関わった関係者たち(家族も?)を前に実験の成功を宣言した場面だろう。

それほど大きくはない会場で、木を組んで作った階段ベンチに座った人々は足を踏みならし、オッペンハイマーが入場するとスタンディング・オベーションで大歓声で迎え入れる。

断片的に流れるオッペンハイマーの発言で観衆はさらに沸き立ち、大音響、音がいきなり消え、再び大歓声が流れ、途切れ途切れになり、じきに女性の歓声が悲鳴のように響き渡っていく。その中、オッペンハイマーは演壇から下りて退場していく。

IMAXの12チャンネルサウンドシステムから得られた心理描写で臨場感だったと思う。

(気になったところをあえて書くと、カメラワークが力負けしていたようにも感じた。)

 

このシーンでオッペンハイマーの主観として、皮膚がめくれる女性を幻視し、退場するときには人間の形をした真っ黒な塊を踏んで壊してしまう。具体的な映像はここくらいなので、被爆者の描き方が不十分だったと批判されたのだろうが、むしろ広島の映像をまだ見ていないときに、オッペンハイマーが原爆の爆発によって人間がどのようになるか幻視した心理描写は果たせていたと思う。

これは反戦映画にカテゴライズされないだろうし、核兵器反対や軍拡競争反対を主張する目的の社会派作品でもない。

J・ロバート・オッペンハイマーの伝記映画だと思っていたが、見た後の感想は違った。

 

映画『オッペンハイマー』のカラー撮影のシーンではJ・ロバート・オッペンハイマーの視点で一人称のシーンが多い。この映画は、「原爆の父」オッペンハイマーと原子爆弾の開発と「ほぼゼロ (near zero)」の確率で世界を焼き尽くしてしまう計算結果、トリニティ実験の成功によって破壊されてしまったそれまでの世界、核兵器が存在するその後の世界の対比を、「原爆の父」オッペンハイマーの主観をもとに心境の変化と言動から描いた作品だろう。

 

 

パンフレットのレビューによると、オッペンハイマーとストローズの関係性は映画『アマデウス』におけるモーツァルトとサリエリとの類似が認められる、とノーランが公言していたそうだ。

天才物理学者でマンハッタン計画の中心となったJ・ロバート・オッペンハイマーと、靴磨きから立身出世をして商務長官に手が届きそうだった政治家ルイス・ストローズの対比。映画を見る前に知っていたら、もう少し違う楽しみ方も出来たかもしれない。