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海外の話が多め。近頃は中国が多め(中国海警局・中国海監、深海潜水艇、感染症など)。

【中国海警局】 フィリピン沿岸警備隊の巡視船と接触し、056型「海警4103」の船体に損傷。露呈した元軍艦の弱点

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近頃、中国海警局の056型海警船の船体に、フィリピン沿岸警備隊の巡視船と衝突したとして、複数の穴があいている画像がSNSやネットニュースで(地味に)拡散している。

中国海警局の方は「海警4103」、もと中国海軍の056型コルベット(江島級(Jiangdao class))「590 威海」艦)。フィリピン沿岸警備隊の方はパローラ級(Parola class) MRRV「BRP Sindangan (MRRV-4407)」、日本のODAで建造してフィリピンへ供与された40m級多目的対応船(MRRV)10隻のうちの1隻だ。

 

「海警4103」と「BRP シンダンガン (MRRV-4407)」が激しくぶつかったわけではない。

双方が海上で接近したまま漂泊しているときに、「BRP シンダンガン」の船尾の角と係留用ロープのボラード(支柱)が「海警4103」の右舷の舷号(船名・番号)付近に押し付けられ、波で揺れてこすれたことで船体に傷や穴が3個ほど出来てしまった。

中国の軍事専門家はこれに関して、塗装が傷ついた程度だと言っているそうだ。

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フィリピンの「BRP シンダンガン」の乗組員が防舷材を両船の船体の間に入れようとしたが間に合わなかった。中国の「海警4103」の乗組員の姿は見えず何ひとつ対応をしていない。

 

「海警4103」は76ミリ機関砲を装備する全長88.9m・満載排水量1440トンの大型船にもかかわらず、わずか約320トン(国際総トン数)の「BRP シンダンガン」と接触したくらいで船体に穴があいてしまった。ここから、中国語ネットでは数年前の流行語「伤害性不大,侮辱性极强」(大した傷ではないが、かなり侮辱的)」と揶揄されている。

76ミリ砲を装備するもと軍艦を中国海警に22隻も移管したけれども、実際問題、軍隊とは違う海上保安組織(沿岸警備隊)のさまざまな任務において、どれだけ役に立つのかという疑問も生じさせているようだ。

中国海警局の南海海区指揮部(南海分局)と、056型海警船の乗組員(元軍人?)の経験不足だっただろう。

 

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フィリピンのEEZに位置するスプラトリー諸島の礁や島嶼に近い水域では、フィリピン沿岸警備隊の巡視船と、中国海警局や海上民兵の船とがぶつかる場面が何度も報じられている。もしかすると、今回の接触事故で簡単に船体が損傷したことによって、中国側は、フィリピンの巡視船や輸送船をブロックする目的の接近戦では056型海警船を前に出しにくくなるだろう。

その代わりに、フィリピンのパローラ級MRRVと同じくらいの大きさで、もと中国税関や边防海警局で使われてきた強制接舷も出来る600トン級や500トン級の活動が活発になるのかもしれない。

 

これまでも海上で、中国海警局とフィリピン沿岸警備隊の船が接触しそうなときには、フィリピン側の乗組員は両船の間に防舷材を入れて船体の損傷を防ぐ対策をしていた。それに対して中国側の乗組員はカメラを持って衝突現場の証拠の撮影をしていても衝突を避けるための動作をとっていなかったとこに気になった人は多いと思う。船員への教育や指示の違いがわかりやすい。

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この接触事故は3月23日に、フィリピンのEEZにあり実効支配するセカンド・トーマス礁の沖で発生した。この日は、フィリピン軍がチャーターした民間の輸送船「Unaizah May 4」に対して中国海警局の船から高圧放水銃を使った攻撃が行われ、ブリッジを破壊して「Unaizah May 4」の船員に負傷者が出た。
日本をはじめ国際ニュースでは、中国海警局の船が高圧放水銃を使いフィリピン船を攻撃したこととその行動への非難が多く報じられていた。その一方で、この接触事故の方は3月27日にフィリピンのGMAニュースが報じていたけれども、まったくと言っていいほど話題にならなかった。

 

今回、半月以上もたって再び話題になったのは、台湾メディアNewtalkが4月15日に出した解説記事がきっかけで再燃したようだ。

記事を書いた楊宏基は(フィリピン沿岸警備隊の巡視船との接触によって)中国海警局の船に航行への影響はなかったけれども、中国はこの事件をフィリピンの船が海上衝突予防条約(COLREG条約)に違反していると非難するために使っていないし、中国海警局の船に「小さな傷」ができた理由すら満足に説明できなかった、この衝突は明らかに中国にとって「少し恥ずかしい」と感じさせたのだろう、と書いている。
(原文タイトルの「糗爆」を意訳すると「恥ずか死ぬ」あたり?😅)

楊宏基觀點》侮辱極強!中國海警船被菲海巡艇撞破洞「糗爆」 曝艦船弱點 | 中國 | Newtalk新聞 (2024-04-15)

 

案外、フィリピン側にとっては今後、中国海警局の056型海警船が進路妨害などをしてきたときには、海上衝突予防条約(COLREG条約)に違反した行動だと見られないくらいに微妙なあたりで絶妙な操船をして、接近してみせて、中国側へプレッシャーをかけていくケースもありそうだ。

 

近頃のフィリピン沖の南シナ海での状況と中国海警局と海上民兵の船の対応を見ていると、2014年の西沙諸島沖で起きた「中越”衝突”事件」のときには、お互いに過剰なエスカレーションに発展しないようコントロールできる対応ができていたのだろう、と思う。あるいは、当時はまだ武警海警総隊(中国海警局)では無く、公安部辺防海警や中国海監総隊などがそれぞれ参加していたので各々の判断で自制できる余地が残っていたのかもしれない。

当時、ベトナムは海上でも独力でかなり対応していたし、外国メディアの力を借りて世論戦や情報戦で優位にたっていた。

フィリピンも「積極的な透明性キャンペーン」戦術はじめ、徐々に力をつけてきている。

フィリピン沿岸警備隊(PCG)は、軍事組織ではない海上保安組織にこそ求められる役割と、グレイゾーンで担っている義務と責任と信頼を、いまのグレイゾーンの黒色に近いあたりの最前線にも関わらずつちかっていると期待したい(日本も教えるだけでなく、学ぶところも多くなっていくと思う)

中国が、とくに環球時報の英語版 Global Times がX(Twitter)で盛んに流している政治的プロパガンダのカトゥーン・風刺絵のような米国の操り人形ではないし、単なる碁盤の石というわけではない。

 

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「海警4103」は、もと中国海軍の056型コルベット(江島級(Jiangdao class))「590 威海」で退役後に改装され、中国海警局に移管された22隻のうち1隻。全長88.9m、全幅11.14m、喫水4m。標準排水量1300トン、満載排水量1440トン。

退役後の改修では76mm速射砲1基と30mm機関砲2基、火器管制レーダーは残し、艦対艦ミサイルや近接防空ミサイル、魚雷の発射装置といった海上法執行活動にはあきらかに過度な重武装は撤去された。(76mmも過剰だと思うけど…😬)

尖閣諸島の沖でも昨年(2023年)5月に、同型の056型「海警1108」が確認されている。

 

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「BRP Sindangan (MRRV-4407)」は、日本のODAによりジャパン・マリン・ユナイテッド(JMU)で建造されフィリピンへ供与された10隻の40m級多目的対応船(Multi Role Responce Vessel(MRRV))のうちの6番船。

海上保安庁の「らいざん型(びざん型(2代目)」をモデルシップとした。全長44.5m、全幅7.5m、型深4m。国際総トン数321トン。定員25名。2018年に10隻すべてがフィリピン側に引き渡された。フィリピン沿岸警備隊(PCG)ではParola級MRRVとして運用されている(Parolaはタガログ語で灯台を意味する。10隻の名前はフィリピンの歴史的な灯台から命名されている)

フィリピン沿岸警備隊、巡視船「BRP Cape Engaño (MRRV-4411)」、マニラへ ODA供与の10隻すべて引き渡し - pelicanmemo (2018-08-22)

【中国海警局】尖閣沖で、もと中国海軍の056型コルベット海警船を初めて確認、「海警1108」、76mm砲を装備 - pelicanmemo (2023-05-02)

【中国海警局】 中国海軍の056型コルベット、約20隻が海警局に移管か - pelicanmemo (2021-12-25)

 

PCG vessel hits China coast guard ship that blocked its path | GMA News Online (March 27, 2024)

楊宏基觀點》侮辱極強!中國海警船被菲海巡艇撞破洞「糗爆」 曝艦船弱點 | 中國 | Newtalk新聞 (2024-04-15)

中共海警船被菲海巡艇撞破洞 侮辱極強!(多圖/視頻)

海警船被菲律宾船只撞出几个洞 网友叹:侮辱性极强 - 希望之声

海警船被菲律宾船只撞出几个洞 网友叹:侮辱性极强 - 禁闻网

 

2隻の接触事故と「海警4103」の船体に傷や穴が出来たときの動画はこちらのX(Twitter)のポストで確認ができる。(”センシティブな内容が含まれている可能性のあるメディア”となっているからかツイートの埋め込みはできなかった)

 

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爆笑!体坛那些“伤害性不大侮辱性极强”的瞬间-中新网 (2021年02月18日)

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