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海外の話が多め。近頃は中国が多め(中国海警局・中国海監、深海潜水艇、感染症など)。

ソメイヨシノの寿命は50年〜60年という誤解。 桜の花見の対象としての"寿命"か

桜の科学 日本の「サクラ」は10種だけ? 新しい事実、知られざる由来とは (サイエンス・アイ新書)

春が間近になり、全国の桜の開花情報もニュースにのるようになりました。

うちのブログでは、日本、中国や韓国の桜について、特にソメイヨシノの原産についての外国での風説について、紹介と解説や反論など、いくつかの記事を書いてきています。その中の1つの記事で「ソメイヨシノの寿命」にも少し触れました。

サクラの原産地について、中国メディアがよく引用している『櫻大鑑』(1975年刊行)の内容を元に、「一方で、天狗巣病(サクラテングス病)に侵されやすく、種子を残さず接ぎ木によってしか繁殖できないため、一般的な寿命は50年〜60年と短いとされています。」と書きましたが、これは誤解を増してしまったかもしれません。
(1975年の本の内容紹介であり、すぐ後には「(略)...環境と手入れが良いと、ヒトの寿命以上に生きるのでしょう。」とフォローは入れました・・・。)

 

先日、発売された『桜の科学 - 日本の「サクラ」は10種だけ? 新しい事実、知られざる由来とは』勝木俊雄 (著) で、その誤解について解説している一節がありまして、それが分かりやすかったのでちょっとメモ。

‘染井吉野’に関する誤解の中で、もっとも広まっていて、かつ悪質なものが、‘染井吉野’には寿命があって、それを過ぎると次々に枯れていく、という‘染井吉野’短命説です。ただし、寿命の年数はまちまちで、以前は30年や40年といった数字でしたが、最近は徐々に伸びて50年や60年という数字も使われています。
(中略)
生物学的に‘染井吉野’の寿命を明らかにした研究報告はこれまでありません。

(勝木俊雄『桜の科学』、サイエンス・アイ新書(SBクリエイティブ)、2018年、p.110-113より)(赤字強調はブログ管理人による) 

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20160430101747染井吉野 
(『櫻大鑑』文化出版局編集部刊(1975年)より)

 

‘染井吉野’は、成長の早さが大きな特徴で、樹高成長が止まった(それ以上、上には伸びなくなる)後は、古い枝と新しい枝をすぐに入れ替わることが出来ません。このことから、枯れ枝が目立つ姿になっていくと、花の観賞価値が下がることが、‘染井吉野’が短命と思われる理由ではないでしょうか、と、本書では推測されています。

つまり‘染井吉野’の「寿命」とは、生物学的な生存年齢のことではなく、観賞物の機能に対する耐用年数だと考えられることができます。ただしこの耐用年数は、適切な管理によって伸ばすことが可能です。
(中略)
不適切な管理によって衰弱した‘染井吉野’の原因を、「寿命」という言葉で誤魔化してはいけません。

(勝木俊雄『桜の科学』、サイエンス・アイ新書(SBクリエイティブ)、2018年、p.110-113より)(赤字強調はブログ管理人による)

著者の勝木俊雄博士(農学博士)は、専門が樹木学、植物分類学、森林生態学。身近なところでは、東京の新宿御苑で販売されている小図鑑・小冊子ガイドブックの『新宿御苑の桜』(日本語と英語があった(中国語や韓国語もあったかどうかは不明)。)の著者です。

 

本書『桜の科学』では、エドヒガンとオオシマザクラとの間の、種間雑種としての「ソメイヨシノ」と、栽培品種としての「‘染井吉野’」の違いについて書かれています。(この記事でも、ソメイヨシノではなく‘染井吉野’の方に合わせて書いています。)

 

全国の公園や堤防などに、何百万本の‘染井吉野’が植わっているのでしょう?
多くは、戦後の復興期に植えられたもので、戦後復興と高度成長期を象徴するように、春に華やかな花をつけてきました。

しかし、戦後50年60年と経って、それら‘染井吉野’にも枯れたり、病気になった枝が目立つようになりました。

 

華やかな花をつけにくくなった桜の木に対して、社会がどう感じて、世間や行政がどう対応するのか?

桜の‘染井吉野’は別の意味で、超高齢社会の日本を暗示する木となるかもしれないと感じています。
(枯れ枝の目立つ桜の木はまとめて切り捨てて、満開の花をつけて外国人観光客ウケする新しい桜と入れ替え・・・とか、やりそうなんだよなあ・・・😕)

 

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桜の科学 日本の「サクラ」は10種だけ? 新しい事実、知られざる由来とは (サイエンス・アイ新書)

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古い‘染井吉野’はたとえば、東京都文京区の小石川植物園は約130年、青森県弘前市の弘前公園は約120年、福島県郡山市の開成山公園は約120年。(2018年現在)
新宿御苑では樹齢100年程の‘染井吉野’が数十本あるそうです。

学名 Prunus x yedoensis は、当植物園の初代園長を務めた松村任三教授によって1901年に名付けられました。命名の基準となるタイプ標本は、園内の木から採集されたものですが、現在では、どの木がその木であるかはわからなくなってしまいました。本園のソメイヨシノは、樹齢約130年と推定されています。

ソメイヨシノ - 園内案内 - 小石川植物園

日本最古のソメイヨシノ 二の丸与力番所~東内門の間 
推定樹齢120年
1882年(明治15年)旧藩士 菊池楯衛により植えられたソメイヨシノ1000本のうちの1本と思われる。

弘前公園の古木名木 | 一般財団法人弘前市みどりの協会

明治のはじめに行われた郡山市発展の礎、安積開拓時に植樹したもの、日本最古級のソメイヨシノをはじめ約1,300本が咲き誇る。
映画「時をかける少女」のロケ地としても使用された。
公園内のソメイヨシノが日本最古級のものであると証明された。

開成山公園の桜|郡山市観光協会

日本遺産/郡山市

 

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