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海外の話が多め。近頃は中国が多め(中国海警局・中国海監、深海潜水艇、感染症など)。

映画『シビル・ウォー 分裂の時代』を、韓国の観客はどう見たのだろうか? 【シビル・ウォー アメリカ最後の日】

20250112204110ハンギョレより。赤文字の日本語訳は当ブログ管理人が書き加えた)

韓国のユン・ソンニョル大統領による非常戒厳の宣布から1ヶ月以上が過ぎた。(以下、韓国メディアの表現に合わせて「12.3非常戒厳事態」と書く)

そんな中、昨年(2024年)12月31日に韓国で映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』が封切られた。10月4日に封切られた日本より3ヶ月弱遅い封切りだったが、まさかの12.3非常戒厳事態が起きている中、韓国の観客たちはこの映画をどう見るのか気になった。そこで封切り前から、メディアの映画レビュー記事や映画掲示板などをチェックしていた。封切り後はX(Twitter)などSNSでの反応も加えて調べた。

2週間ほどたったので、これについて少し書いてみたい。

(このブログ記事では気をつけたつもりだけど、紹介記事の先にはネタバレがあります)

 

映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』はアマゾン・プライムなどで配信されています。

 

映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の韓国でのタイトルは『シビル・ウォー 分裂の時代(시빌 워: 분열의 시대)』という。まさに、韓国社会の近ごろの政治社会事情(時局(*1))と12.3非常戒厳事態を現しているようなタイトルだ。封切り後のコメントの中でも「未来を予測した監督」というものを複数見かけた。

 

あらすじを簡単に書くと、アメリカ合衆国憲法で禁止されている3期目にはいりFBIを解散させるなどの暴挙に及んだ大統領に対して、「西部勢力 (WF (Western Forces)))」(カリフォルニア州とテキサス州の連合軍)と「フロリダ同盟」(フロリダ州〜オクラホマ州)は2つ星の星条旗を掲げ連合軍は政府軍を次々と撃退して、首都ワシントンD.C.へと迫っていた。

戦場カメラマンのリーと記者のジョエルたちは、14ヶ月間もメディアのインタビューを受けていない米国大統領に対して直撃インタビューをするために、ニューヨークからワシントンD.C.のホワイトハウスを目指していく。その途中では、無政府状態となっている地域を通る間に、戦闘も含めて様々なアメリカを目にし、経験をして、ジャーナリストとして写真におさめていく。製作会社 A24による初のブロックバスター映画と宣伝されていたが、派手な戦闘シーンが主な戦争映画ではないロードムービーだった。

 

サクッと知りたい方には、ノーカットニュースの1月8日付けの記事「シークレット・サービスを貫いて大統領逮捕エンディング… 「この時局の映画」と噂された「シビル・ウォー」(경호처 뚫고 대통령 체포 엔딩…'이시국 영화' 소문난 '시빌 워')」がよいように思う。

映画を見た観客やネチズンたちは、映画の中の「どの種類のアメリカ人だ?」という質問で大きな衝撃を受けたと口をそろえた。

実際、内乱首魁のユン・ソンニョル大統領の弾劾賛成集会と阻止集会が同時に開かれている漢南洞の大統領官邸の前は、両側に分裂した大韓民国の姿に出会うことができる。一部の弾劾及び逮捕阻止集会の参加者側は、人々に向けて共に民主党のイ・ジェミョン代表の悪口を言わせる、いわゆる「思想検証」までしている。

内乱首魁をめぐり、逮捕しようとする側とこれを阻止しようとする側に分かれた状況は、「シビル・ウォー」の中での出身地一つで命が左右される極端な分裂の状況と似ている。(Google訳をもとに、当ブログ管理人が少し調整した)

やや進歩派よりの記事だけれども、韓国の時局と映画『シビル・ウォー 分裂の時代』について、けっこう踏み込んで書いている。

(*1) 韓国のニュースでよく目にする「時局(시국)」とは「直面した国内および国際的情勢」。「時局宣言」という、いろいろな組織・団体が政治的意思を表明するときに公にする宣言文でも使われる。12.3非常戒厳事態でも多く報道されていた。Google日本語翻訳などでは「시국(時局)」を「市国」と誤って訳されることが多い。

 

これをわざわざ紹介したのは、韓国メディアの文化面の映画レビューなどでは、とくに12月の公開前は、まったくと言っていいほど12.3非常戒厳事態と合わせて書いたものがなかったから。触れていても、最初か最後で「現在の時局とあっている」云々と付け足すくらいだった。

1月8日のノーカットニュースの記事を読んで、「ああ、やっとこういう記事が出てきた」と感慨深く読んだものでした。

 

そんな中、進歩派メディアのハンギョレが、封切り前日の記事でつけたタイトル「内戦へ広がった内乱」が聞く、あなたたちはどちらの韓国人だと(‘내전으로 번진 내란’이 묻는다, 당신들은 어느 쪽 한국인이냐고)(このブログ記事の冒頭の画像)は、ハンギョレらしい煽り具合だと思う一方で、ちょっとやりすぎだとも思った。

記事はこう締めくくっている。

ホワイトハウスでの談話で始まった映画は、ホワイトハウスの執務室で撮られる一枚の記念写真で終わる。歴史を後ろに向ける人々に慈悲はないという強い誓いで読まれる、内乱政局で新しい年を始めなければならない人々に勇気を与える仕上げだ。
(Google日本語訳そのまま)

 

まったく触れていない映画レビューも多かった。12.3非常戒厳事態のなかで、執筆者も会社も政治的な姿勢だと受け取られかねないものを公にしたくなかったのだろう。

それでも、大統領官邸に立て篭もっているユン・ソンニョル大統領に対して、高位公職者犯罪捜査処(公捜処(*2))が、1回目の逮捕令状の執行(2025年01月03日)に失敗したことへの強い批判があり、2回目の逮捕令状が発行(01月07日)されて国会の委員会で公捜処長が成功を強調した頃から増えてきたように思う。
その頃、もし2回目の逮捕令状の執行に失敗したら、最悪の場合は「内乱」となるかもしれないという報道もあった。
(*2)日本メディアの記事では”高捜庁”という略し方もされる。

 

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昨年(2024年)12月31日に映画『シビル・ウォー 分裂の時代(시빌 워: 분열의 시대)』が封切られた。

年が明けて正月三が日もすぎた1月4日(土)と5日(日)に、映画の評価・口コミと、X(Twitter)で「시빌 워(シビル・ウォー)」など簡単なキーワードを使って観客のコメントを調べてみた。

X(Twitter)で100以上の関連するポストを見ただろうか、2〜3割くらいが12.3非常戒厳事態やユン大統領と絡めた感想を書いていた。ただし、よほど熱量のあるものを除いては、ひと言ふた事書いているものがほとんどだった。

 

韓国でシネマコンプレックスを運営するCJ CGVのサイトで、『シビル・ウォー 分裂の時代(시빌 워: 분열의 시대)』の封切り前からの評価・口コミも見てみた。

こちらは、X(Twitter)のポストよりも少ないように感じられた。

[시빌 워: 분열의 시대]<영화상세 < 영화 | 깊이 빠져 보다, CGV

映画口コミなので、映画の作品としての出来や俳優の演技など、ほかの人へのお勧めが出来るかどうかという視点で書いたものが多いのだろう。また、投稿者のアカウントは固定なので、この映画ひとつのために、「どちらの韓国人だ」と政治的に見られるのを避けたのかもしれない。

 

CGVのサイトの『シビル・ウォー 分裂の時代(시빌 워: 분열의 시대)』総合評価を見てみると、事前期待指数(プレエッグ)は99%、実際観賞指数(ゴールデンエッグ)は90%となり、やや期待外れという結果だ(このブログ記事投稿時点)。

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魅力は、「俳優の演技」「映像の美しさ」「監督演出」「ストーリー」の順に評価が高く、「音楽」の評価は低い。

感動ポイントは、「没入感」が圧倒的に多く、次に「緊張感」が高い。「感動」「ストレス解消」「楽しさ」はまったく共感が得られていない。やはり映画と、映画館の外で繰り広げられている現実の12.3非常戒厳事態とを写し鏡のように見てしまうのだろう。

 

予告編を見て「期待と違っていた」「退屈だった」と言う口コミもけっこう多かった。

たしかにこれら予告編から想像されるだろう本編は、かなり違うストーリー展開だっただろう。

[시빌 워: 분열의 시대] 메인 예고편 - YouTube

 

 

ここまでくると、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』でジェシー・プレモンスが演じたあの赤サングラスの「お前はどの種類のアメリカ人だ? (What kind of American are you?)」は、韓国の観客からどう受け取られたのかも気になってくる。

日本のネットSNSでは、ネットミームになるくらいのネタとして扱われているものだ。

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配給元MINDMARK 公式YouTubeより)

 

ハンギョレが「당신들은 어느 쪽 한국인이냐(あなたたちはどちらの韓国人だ)」と記事タイトルで使っているので、「어느 쪽 한국인?」(どちらの韓国人だ?)がどのくらい使われているのか気になった。似た表現と単語をもとにしていろいろと探してみたけれども、かなり少なかった。(1月11日(土)時点)

探し方が悪かったのかもしれないが、現実に起きている危機を言い現していて、最初に紹介したノーカットニュースの記事で紹介されているように、心理的に軽々しく使えないネタなのだろう。

映画を見た観客やネチズンたちは、映画の中の「どの種類のアメリカ人だ?」という質問で大きな衝撃を受けたと口をそろえた。

 경호처 뚫고 대통령 체포 엔딩…'이시국 영화' 소문난 '시빌 워' (シークレット・サービスを貫いて大統領逮捕エンディング… 「この時局の映画」と噂された「シビル・ウォー」)

 

 

映画『シビル・ウォー 分裂の時代(시빌 워: 분열의 시대)』と、現実に韓国で起きている12.3非常戒厳事態について書かれたものは、登録申請型のブログサービス「ブランチ(blunch)」の記事に良いものが多かった。

たまたま見かけて読んで、たまたまブックマークしていた記事をいくつかのせておきます。(順不同。日本語訳はGoogle翻訳そのまま)。

<시빌 워: 분열의 시대>, 질문을 멈춘 카메라들 (<シビルウォー:分裂の時代>、質問を止めたカメラたち)(2025-01-02)

시빌 워 : 분열의 시대(シビル・ウォー 分裂の時代)(2025-01-01)

<시빌 워: 분열의 시대> 영화를 걸어나온 현실 (<シビルウォー:分裂の時代>映画を歩いた現実)(2024-12-30)

<시빌 워 - 분열의 시대> 무엇을 위한 내전인가 (<シビルウォー - 分裂の時代> 何のための内戦なのか)(2025-01-06)

종군기자가 달려든 내전, 그곳에는 응원봉 광장이 없다(従軍記者が走った内戦、そこには応援棒広場がない)(2025-01-09)

 

 

その他、ブックマークしてた映画レビュー記事など。たまたま見かけて、たまたまブックマークしていたものなので、なんらかの意図があって紹介するものではありません。(順不同。日本語訳はGoogle翻訳そのまま)

おおむね、松の内頃までに見かけたものです。

1月15日にユン大統領が公捜処に逮捕された後には、もっと出てきているのでしょう。

불편한 거울 앞에 선 2025년 대한민국 - 플래텀 (不快な鏡の前に立った2025年韓国)

[씨네멘터리] 상상조차 위험하다…"시빌 워" ([シネメンタリー]想像すら危険だ… 「シビルウォー」)

'하얼빈'에는 졌지만..'시빌 워: 분열의 시대', 외화 흥행 1위(「ハルビン」には負けたが…「シビルウォー:分裂の時代」、外貨興行1位)

‘내전으로 번진 내란’이 묻는다, 당신들은 어느 쪽 한국인이냐고(「内戦で広がった内乱」が聞く、あなたたちはどちら韓国人なのかと)

계엄령 후 대한민국에도 이런 내전이 생겼을 수도··· - 매일경제(戒厳令後大韓民国にもこのような内戦が生じた可能性…)

두문불출 대통령, 총 겨눈 군인들... 남 일 같지가 않다 - 오마이스타(頭文払出(訳注:籠城、ひきこもり)大統領、総狙った兵士たち…他の仕事のようではない)

파시즘이 쪼갠 나라의 초상 '시빌 워: 분열의 시대'[노컷 리뷰] - 노컷뉴스(ファシズムが割れた国の肖像「シビルウォー:分裂の時代」[ノーカットレビュー] )

[기획] 윤리, 분열, 그리고 전쟁, <시빌 워: 분열의 시대>로 읽는 앨릭스 갈런드 작가론(倫理、分裂、そして戦争、<シビルウォー:分裂の時代>で読むアレックス・ガーランド作家論)

영화 '시빌 워: 분열의 시대', 언론과 관객 극찬 담아낸 리뷰 포스터 공개(映画「シビルウォー:分裂の時代」、マスコミと観客絶賛されたレビューポスター公開)

[강대호의 대중문화 읽기] 영화 '시빌 워:분열의 시대'...내전의 간접 체험기 - 오피니언뉴스([カン・デホの大衆文化を読む]映画「シビル・ウォー:分裂の時代」...内戦の間接体験記 - オピニオンニュース)

 

극단적 분열의 시대, '총을 든 스님'과 '시빌 워'가 던지는 경고 [D:영화 뷰](極端な分裂の時代、「銃を持った僧侶」と「シビルウォー」が投げる警告 [D:映画ビュー])

 

시빌 워: 분열의 시대 - MEET PLAY SHARE, MEGABOX

시빌 워: 분열의 시대 - namu wiki

 

Amazon Prime などで配信中。

 

映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』|大ヒット上映中