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海外の話が多め。近頃は中国が多め(中国海警局・中国海監、深海潜水艇、感染症など)。

「探索三号」進水、深海科考船「探索」ファミリーの三女。深海・遠海での多機能科学調査および海洋考古学調査船

20240422203535广船国际より)

4月20日、広東省広州市の造船会社で、”深海・遠海での多機能科学調査および海洋考古学調査船”「探索三号」が進水した。

この新しい多機能科学調査船は砕氷船で、深海での科学調査や文物考古調査を行うほか、氷海域での深海科学研究や有人深海潜水などの機能を備えている。文化財の保護を所管する国家文物局も出資している船なので目的に海洋考古学調査(文物考古)が加わった。

 

”深海・遠海での多機能科学調査および海洋考古学調査船”と訳したのは、原文は”深远海多功能科学考察及文物考古船”。
中国語の”文物”は日本語では文化財や文化遺産、遺物と訳されるが、微妙にニュアンスが違っているそうだ。より詳しく書いたら”海洋考古学での埋蔵文化財調査船”となるだろう。冗長になるので、ここではざっくりと”海洋考古学調査船”としてみた。
じきに中国メディア日本語版などで適当な日本語訳が出てくるだろう(”適切な”日本語訳ではない。多分、ネット翻訳そのままで”文化財考古船”と書かれると思う)

我国首艘深远海多功能科学考察及文物考古船在中国船舶广船国际出坞----中国科学院深海科学与工程研究所

我国首艘深远海多功能科学考察及文物考古船出坞 - 新华社 / 中国政府网

 

「探索三号」は、海南省人民政府、三亜市の崖州湾科学技術都市開発会社(三亚崖州湾科技城开发建设有限公司)と、中国科学院深海科学・工程研究所と国家文物局が出資して、中国船舶集団(CSSC)傘下の広船国際有限公司で2023年6月に建造が開始された。艤装工事や海試などの後、2025年に引き渡される予定。

広船国際有限公司は、この船ははじめての、中国のエンジニアが独自に設計した氷海区での有人深海潜水艇の支援能力を持つ総合科学調査船と特にアピールしている。

 

中国科学院の深海科学・工程研究所は海南省三亜市に設置され、水深1万メートル級・フルデプス有人深海潜水艇「奮闘者」号と4500メートル級有人深海潜水艇「深海勇士」号、それらの科学調査・支援母船である「探索一号」「探索二号」などを運用している。
(ここからは漢数字でなく、見分けやすく「探索1号、探索2号、探索3号」と書きます)

 

深海科考船「探索」ファミリーの三女「探索3号」は、全長約104メートル、排水量約10,000トン(建造開始時の発表では、全長103メートル、設計喫水排水量約9200トン)。最大航行速度16ノット。航続距離15000海里、乗員80人。

船首と船尾の双方向でのラミング航行が可能で、アイスクラスPC4の砕氷能力を持つ。例えば、長女の「探索1号」(青色)の船首設計はアックス・バウもどきで、次女の「探索2号」(緑色)はバルバス・バウだが、三女「探索3号」(紫色)はつるっとして丸みをおびているのがわかりやすい。

20240422203543「探索1号」(青色)「探索2号」(緑色)
20240422203546「探索3号」(紫色)

 

建造内容に有人深海潜水艇の支援システムが含まれており、船尾には「探索1号」「探索2号」と同規模と思われる巨大なAクレーンがある。北極圏や南極圏の極域で「深海勇士」の潜水調査が行われうるだろうし、もしかしたら「奮闘者」の運用も検討されているのかもしれない。

20240422203527广船国际より)
20240422204415(央視网より)

 

極地の氷海域での深海科学調査のため、国内最大級のムーンプールを装備し、氷海域での深海音響探査、通信や定位システム、自動船位保持装置(DPS)など海洋技術の国産化に取り組み装備したそうだ。

20240422204419(央視网より)

中国の砕氷船というと極地観測砕氷船「雪龍2号」が新しく、2019年7月に自然資源部の中国極地研究センターに引き渡された。「雪龍2号」はアイスクラスPC3なので、PC4の「探索3号」の方がグレードアップしている。ムーンプールも「雪龍2号」のものより大型のものを装備しているのだろう。

20240423200232(参考:「雪龍2号」のムーンプール)

 

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20240422203726(中国科学院深海科学・工程研究所の公式ウェブサイトより。壁紙に「探索一号」「探索二号」が使われている)

 

中国の、水深3000メートル以上の潜水が可能な有人深海潜水艇は、7000m級「蛟竜」号、国産4500メートル級「深海勇士」号、国産1万メートル級・フルデプス「奮闘者」号の3隻がある。 支援母船も3隻あり4隻目の「探索3号」が進水した。

日本の虎の子の「しんかい6500」と耐圧殻と、老朽化と古い設備が問題となっている支援母船「よこすか」と違って、”海洋強国”を目指して強化してきた結果のうらやましい体制をもっている。

 

7000m級「蛟竜」号の支援母船は「深海一号」。武漢市の中船重工武昌船舶集团有限公司(中船武昌)で建造された。母港は青島の国家深海基地管理中心。中国大洋事務管理局(中国大洋事务管理局)(*)が運用している。
(*)(中国大洋鉱産資源研究発展協会(中国大洋矿产资源研究开发协会, China Ocean Mineral Resources R & D Association (COMRA))

中国、7000m級有人深海潜水艇「蛟竜」号 新母船「深海一号」進水 - pelicanmemo (2018-12-13)

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4500メートル級「深海勇士」と1万メートル級・フルデプス「奮闘者」号は、中国科学院の深海科学・工程研究所が運用する。

20240423200216

科学調査・支援母船「探索1号」(青色)は最初は国産4500m級「深海勇士」の支援母船として、中国科学院が所持していた多機能作業船「海洋石油299」を大規模に改造したものだった。中国船舶集団(CSSC)傘下の中船澄西船舶修造で改修が行われた。

その後、深海科学・工程研究所が海南省三亜市に誘致され、フルデプス「奮闘者」号の建造と合わせて、科学調査・支援母船「探索2号」(緑色)が、海南省人民政府による出資も入って建造された。福建省の福建船政重工傘下の马尾造船で建造された。

「探索1号」(青色)「探索2号」(緑色)の母港は海南省の三亜市。

20240423200219

 

この2隻はもっぱら、「探索1号」(青色)はフルデプス「奮闘者」号の支援母船として、「探索2号」(緑色)は4500m級「深海勇士」の支援母船として運用されているようだ。ただし、”双母船”とも書かれるように、どちらもフルデプス「奮闘者」号の潜水調査の支援母船としての運用が出来る。

 

「探索3号」(紫色)も有人深海潜水艇の支援母船としての機能をもっている。

20240422203535

新たに4隻目の有人深海潜水艇を、たとえば4500m級「深海勇士」2号機を建造するのだろうか?4500m級の2隻目3隻目の構想は開発初期の発言で見かけたおぼえがある。

それとも、中科院深海所の有人深海潜水艇2隻に対して支援母船を3隻とすることで、支援母船に大きなトラブルが起きても調査航海のスケジュールに穴が開かないようにするのかもしれない。

 

「探索1号」(青色)はかなり大規模な改造をした船なので、2016年の竣工以来、何度もドック入りして検査や修繕、大きなメンテナンスを繰り返している。

20160507090724

微博より) 左上が元の「海油石油299」、右下が「探索一号」。右上と左下は、再結合後の航行試験の時。

中国、国産の4500m級有人深海潜水艇の母船「探索一号」、大規模改修が終了 中国科学院に交付 - pelicanmemo (2016-05-08)

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続報を待ちたい。

 

正直なところ、近ごろX(Twitter)で話題となっている「しんかい6500」の耐圧殻の製造能力がない話題(*)や、ROVのアンビリカル・ケーブルの国内製造が難しいという話題を見たり、支援母船「よこすか」の老朽化の話を聞いたあとだと、今回書いていて何度もうらやまとかうらめしと思ってしまった。
(*)チタン製耐圧殻の熱間成形のプレス機や高真空電子ビーム溶接など専用設備がすでに廃棄されたか使えない状態なのでしょう。再び耐圧殻を製造するには設備投資から必要になるけど、量産や流用は望めないので非常に高コストになってしまう。国からの支援がなければ設備投資からできない。

日本の深海探査能力がボロボロになっている件(チタン耐圧殻製造能力喪失etc) - Togetter (2024-04-23)

 

 

 

我国首艘深远海多功能科学考察及文物考古船在中国船舶广船国际出坞 - 广船国际 (2024-04-20)

我国首艘深远海多功能科学考察及文物考古船在中国船舶广船国际出坞----中国科学院深海科学与工程研究所

我国首艘深远海多功能科学考察及文物考古船出坞 - 新华社 / 中国政府网

我国首艘深远海多功能科学考察及文物考古船出坞 - 海南日报 / 海南省人民政府

我国首艘深远海多功能科学考察及文物考古船出坞 - 三亚日报数字报 / 三亜市人民政府

 

中国科学院深海所深远海多功能科学考察及文物考古船开工建造----中国科学院深海科学与工程研究所 (2023-06-26)

我国首艘深远海科学考察及文物考古船开工-中国科技网 (2023-06-25)

广船国际开建我国首艘深远海多功能科学考察及文物考古船 - 国际船舶网 (2023-06-25)

 

科考船----中国科学院深海科学与工程研究所

深海深渊智能装备作业与全海深载人潜水器海试保障船顺利下水 - 中国科学院深海科学与工程研究所

 

我国首艘深远海多功能科学考察及文物考古船正式出坞 突破极地冰区船舶总体设计等技术 | CCTV中文《新闻直播间》 - YouTube

 

密集浮冰不再怕!“雪龙2”号借助月池系统进行科考采样_新闻_央视网(cctv.com)

 

『中国科学院 ー 世界最大の科学技術機関の全容 優れた点と課題』、読了。 - pelicanmemo (2018-01-07)