中国海軍の空母(航空母舰、航母)など軍艦の進水式のニュースや映像を目にしたときに、日本語の「進水」が中国語では「下水」と書かれているとこが気になった人は多いと思う。「進水式」は、中国語では「下水仪式(儀式)」となる。
陸上で建造された船舶が水面に下りるので「下水」で正しいんだけど、なんとなく上水道・下水道の「下水」のイメージと重ねてしまう人もいるだろう。
中国での船舶の進水式などのニュースをそこそこ見聞きしていると、なんか近ごろ変わってきてて、ここ数年で船舶の「進水」「進水式」を「吉水」「吉水仪式(儀式)」と書くケースが増えてきた気がする。
中国海軍の軍艦の進水式のニュースでは、相変わらず「進水」は「下水」「下水仪式(儀式)」だけを使っている。あらためて八一網などを調べてみたところ、軍事関係で「吉水」を使った事例は見かけなかった。(完全に網羅して調査をしたわけではありません)
その一方で、公船や民間船舶の進水式で「吉水仪式(儀式)」が使われるケースを見かけるようになった。たとえば、前回のブログ記事で書いた深海科学調査・海洋考古学調査船「探索三号」の進水式では「吉水仪式(儀式)」が使われていた。
「探索三号」進水、深海科考船「探索」ファミリーの三女。深海・遠海での多機能科学調査および海洋考古学調査船 - pelicanmemo (2024-04-23)
船舶の進水で一般的に使われる「下水 (xià shuǐ)」から、文字の印象が良い「吉水 (jí shuǐ) 」を使うところが増えたのだろう。ここに風水の解釈が関わっているのかどうかまでは分からない。
案外、風水師に”下水”と”吉水”のどちらが良いでしょうか?と問えば、「下よりは吉が良い」という答えがかえってくるのではないだろうか。知らんけど。
Ads by Google
福建など地方での方言・使い方かと思ったけれども、新華社や人民網など大手メディアや船舶専門ネットニュースサイトなどで過去の進水式のニュースを調べてみると、必ずしもそうではなさそうだ。「探索三号」の進水式は広東省広州市の造船会社で行われた。
どこかの船舶集団と旗下の造船会社で使われている特徴的な言い回しでもないようだし、変化した時期も意外と近いようだ。
たとえば、昨年(2023年)11月に、浙江省で進水した河川敷設工事船「交通建設九号」の報道では、新華社などメディアの報じ方で「下水」「吉水」の揺らぎがみられた。
11月1日付の新華社通信の記事は、記事タイトルでは「下水」を使っているが本文では「吉水仪式(儀式)」が使われている。
新华网上海11月2日电(记者岑志连 佘灵)11月1日,由中交上海航道局完全自主研发、设计建造的多功能智能环保铺排船“交通建设九号”在浙江台州举行吉水仪式。
一方、中央電視台(央視网)は記事タイトルと本文の両方で進水を「下水」と書いている。
国内首艘多功能铺排船“交通建设九号”下水 - 央视新闻客户端
11月1日,由中交上海航道局完全自主研发、投资建造的多功能智能环保铺排船“交通建设九号”在浙江台州举行下水仪式。
進水式が行われた浙江省台州市の地方メディアは、記事タイトルでも本文でも進水を「吉水」と書いていた。その一方で、造船会社の総経理は発言のなかで「下水」を使っていた。
台州:“交通建设九号”多功能铺排船顺利吉水 - 台州发布 (2023-11-27)
一艘长116.6米、宽25米、高6.3米的大船上挂满了红灯笼、幡旗与彩带,正缓缓地向水中滑去。随着数米高的水花溅起,中交上海航道局“交通建设九号”多功能铺排船顺利吉水!
(中略)
“再过一个月,‘交通建设十号’也将建成下水。这两艘船只是一个开始,国家海上大型工程的建设需要更多的铺排船奔赴一线。目前,我们已经达成了8条意向订单,订单额达10亿元左右。”张义林说。
最大!最先进!国内首艘多功能铺排船吉水_作业_自动_系统 - 中国水运报
11月1日,由中交上海航道局完全自主研发、投资建造的多功能智能环保铺排船“交通建设九号”在浙江台州举行吉水仪式。
一般的には「下水」が使われて、ポスターや記事で文字にするときには縁起が良さそうな「吉水」を使うケースが民間で増えてきているのかもしれない。
中国のネットSNSで少しばかり調べてみたところ、2020年あたりから船舶の進水を「吉水」とよぶ報道が見つかった。
福建省民营企业建造的最大钢质散货船下水 _ 本市要闻 _ 福鼎市人民政府 (来源:福鼎新闻网 发布时间: 2020-12-21)
福鼎新闻网讯(池洁莹 刘超超)12月19日上午,由福建省立新船舶工程有限公司为福建永航海运有限公司建造的22500DWT散货船(永航富盛号)完成下排大节点,顺利吉水。
中国の造船業界が右肩上がりで拡大できたころは気にされなかったけれども、新型コロナ渦とゼロコロナなど社会不安があり、不況になってくると、縁起のよしあしも気にしたくなるメンタルが反映されて「吉水」が使われているのかもしれない…ということを考えてみた。