中国海警局は、新たに5000トン以上の超大型の哨戒艦を建造し、海南省の海南海上保安署（MSA）に配備させることが明らかになったと、NEWSポストセブンが9月19日付け記事で伝えた。
ツッコミどころ満載の記事だったのでこれについて少し。
この記事で紹介されている船「海巡03」は、人民武装警察部隊（武警）の海警総隊（中国海警局(CCG)）ではなく交通運輸部の海事局（MSA, 海巡）に所属する船だ。約6ヶ月間の艤装工事が行われ、来年3月前後に海南海事局に引き渡される予定。
中国海警局は南シナ海での海上パトロールのため、新たに5000トン以上の超大型の哨戒艦を建造し、海南省の海南海上保安署（MSA）に配備させることが明らかになった。米軍を刺激するのは必至で、フィリピンやベトナムなど南シナ海の島嶼の領有権を主張する東南アジア諸国も警戒感を強めている。香港の英字紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」が報じた。
新たに建造された哨戒艦は「海巡03号」と名付けられ、全長128.6mで、20ノット（時速37km）、約1万海里（約1万8520km）を航行し、燃料の補給なしで、60日間連続で海上をパトロールすることができるという。
中国海警局が超大型哨戒艦建造 米軍の「航行の自由作戦」に対抗か｜NEWSポストセブン (2021.09.19)
ちなみに日本の海上保安庁は5000トン以上の超大型の巡視船を９隻保有している。さらに２隻の建造計画が進んでいる。
（総トン数7000トン以上の「PLH-31 しきしま」「PLH-32 あきつしま」と、れいめい型「PLH-33 れいめい」「PLH-34 あかつき」「PLH-35 あきづき」。総トン数6000トン以上の「PLH-41 みずほ」、ふそう型（元みずほ型）「PLH-21 ふそう」「PLH-22 やしま」、そして、しゅんこう型「PLH-42 しゅんこう」と、さらに2隻の建造計画（令和元年度補正予算）が決まっている。（船名は記事公開時点））
この船の大きさを示す「〜トン」にはいくつも計算方法があるのに、よく数字の大小だけで比較されて誤解されている。
中国当局が発表している数字（〜トン）に対して、海上保安庁が使用している計算方式ではトン数の数字が小さくなりがちなので注意が必要です。
【中国海警局】 排水量12000トン「海警2901」 vs. 排水量6500トン「しきしま型」巡視船、という数字のトリック - pelicanmemo
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NEWSポストセブンの記事では
哨戒艦は領海や領土の沿岸、港湾の防衛や警備、救難活動をおもな任務とする艦艇で、中国の場合、海巡03号が所属する海南省海警局海南海上保安署は中国人民解放軍傘下の中国人民武装部隊に所属することから、海巡03号も軍艦とみなされてもおかしくない。
と書いてある。これは完全な間違いで、「海巡03」が配備される海南海事局は、人民武装部隊ではなく交通運輸部に属している。海上交通の安全管理を主に担当する海事局の船には機関砲は搭載していない。
こういうところをちゃんと理解できていないと、中国が仕掛けてきている「グレイゾーン」戦略の恐ろしさは伝わらない。
空念仏のように、コピペ、コピペで「すべて軍艦だ！」と繰り返し大声で唱えていればいいものではない。
交通運輸部海事局（海巡, MSA(Maritime Safety Administration)）では、「海巡01」をモデルシップとして２隻の5000トン級海事船の建造計画が進められたと報道されている。今年2月に進水した「海巡06」は福建海事局に配備され、今回の「海巡03」は海南海事局に配備される。
ただ、昨年(2020年)10月にさらに大きい１万トン級の「海巡09」が進水しているですよ。🙄
これは「超ド級大型哨戒艦」とでも呼ばれるのだろうか？
海上保安庁は５隻も持っているそうですよ。😆
中国、海事局の万トン級巡視船「海巡09」進水 満載排水量13000トン - pelicanmemo (2020-10-02)
海上保安庁、排水量約１万トンの巡視船４隻目を配備 - 中国メディア - pelicanmemo (2021-02-27)
閑話休題、
中国海事局(MSA)の5000トン級「海巡03」「海巡06」は、海事局の旗船「海巡01」を船体をモデルとして設計された。船体の全長全幅等は「海巡01」と同じで、海保の「みずほ型」巡視船と同クラスの船だ。
（海巡06）
設計排水量は「海巡01」が5418トンに対して「海巡03」「海巡06」は5560トンとなった。「海巡01」進水から8年も経っているので設計も装備も大きく変わっている。
全長128.6m・型幅16m・型深さ7.9m。設計排水量5560トン。最大航測20ノット、16ノットでの航続距離10000海里、無補給の航続能力60日。風力12級での航行が可能。乗組員の定員は40人で、救助者200人を収容することができる。
救助者に対して簡単な傷病治療だけでなく、ロボットアームを使用した手術も可能だそうなので洋上での遠隔治療も検討されているのかもしれない。
1万トン級「海巡09」と同じく、北斗衛星測位系統など船舶位置情報システムやデジタル通信と融合した海上データセンターとして、船舶動態の監視や早期警告、データ収集処理と送信、総合指揮など、海事監督管理等の能力をもっている。
「海巡03」「海巡06」も格納式のフィンスタビライザーを装備していて、船橋も視野を360度確保する設計になっているようだ。ざっくりと書くと、1万トン級「海巡09」をスケールダウンしたような感じだろう。
中型ヘリ格納庫とヘリポートがあり、複数の種類のヘリの搭載および給油が可能だそうだ。
ここんとこ、NEWSポストセブンの記事では次のように書いている。
船内に高度な統合監視システムを備えた海事データセンターを整備されているという。また、複数のヘリコプター格納庫も設置されており、攻撃型ヘリを搭載しているとみられる。
ヘリ格納庫は１つ。
モデルシップの「海巡01」のヘリ格納庫構造物と外側のデザインは同じで、幅が少し広いようだ。
海上保安庁ではヘリ搭載型巡視船（PLH1機・2機）には必ずヘリ1機・2機を搭載しているけれども、中国では必ずしもそうはなっていない。
「海巡03」「海巡06」では複数の種類のヘリの搭載を可能としている。これを攻撃型ヘリも搭載が可能だと考えるか、機種を問わずに着船や給油、整備を可能とすることで海難救助等の任務のために柔軟な運用が出来ると考えるかは見る人それぞれと思う。
「海巡03」（海南）や「海巡09」（広東）が正式に配備されたら、南シナ海の広い海域での海難救助シーンで非常に力強いものとなるだろう。そして、南シナ海でのグレイゾーン事態のなかの灰色が薄いあたりでの国際的な存在感を増すと思われる。
もちろん戦時下など安全保障上の緊急事態には、海事局の大型船でも軍用機の着船と給油を行える体制とするだろう。
中国海警局は日本メディアの報道では「海上保安庁に相当する組織」と説明されている。
中国海警局に5000トン以上の超大型の海警船は７隻ある。
万トン級の「海警2901」「海警5901（もと海警3901）」、5000トン級の「海警2501」「海警2502」「海警3502（もと海警3501）」「海警6501（もと海警1501）」の同型4隻と「海警3501（もと海警2506）」。
実は、「海警2501」「海警2502」「海警3502（もと海警3501）」「海警6501（もと海警1501）」の4隻も、海事局の5000トン級「海巡01」の船体をモデルシップとして建造されている。
この4隻と「海巡03」「海巡06」の大きな違いは、76mm機関砲を搭載できる前甲板が無いところだろう。海事局はあくまでも非武装で対応していくつもりではないだろうか。
（海巡03, 06 計画図）
ところで、NEWSポストセブンの記事に”香港の英字紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」が報じた”と書いてあるんだけど・・・、SCMPのウェブサイトには該当しそうな記事が見当たらない。
SCMPの「海巡03 (Hai xun 03)」の記事に言及したツイートなど、SNSのコメントも見かけない。
一方、ラジオ・フリー・アジアがこの「海巡03」について報じていた。
この記事とNEWSポストセブンの記事は、たとえば「中国海警局は東南アジアの近隣諸国をはるかに上回る300隻以上の船舶を有すると推定されているが、3000トンを超えているのはほんの一握りとされており、…」など特徴的な部分でとてもよく似ている。
ソース・参照元は本当にサウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)で合ってます？🙄
China Adds Powerful New Ship to Maritime Patrol Fleet — Radio Free Asia
黄埔文冲举行大型巡航救助船“海巡03”下水命名仪式 - 国际船舶网
海南自贸港最大吨位行政执法船“海巡03”轮下水命名 - 中新网
大型海事巡航救助船「海巡０６」が進水 台湾海峡が任務エリア：AFPBB News
