pelicanmemo

海外の話が多め。近頃は中国が多め(中国海警局・中国海監、深海潜水艇、感染症など)。

【中国海警局】 フィリピン沿岸警備隊の巡視船へ放水 | 高圧放水銃の性能

20240502202957BBCより)

フィリピン当局は4月30日朝、南シナ海のフィリピンEEZに位置するスカボロー礁(Scarborough Shoal フィリピン名:Bajo de Masinloc、中国語: 黄岩岛)の周辺海域で、中国海警局の船が高圧放水銃を使用してフィリピンの公船2隻に対して放水攻撃を行い、船体に被害が生じたと発表した。

外国の公船に対して、放水銃を使用して船体や乗員に対して直接攻撃をする行動は、国連海洋法条約に記された公船の管轄権免除の規定に違反する。

フィリピン沿岸警備隊によると(X(Twitter))、現場は、スカボロー礁(Bajo de Masinloc(BDM))から約12海里の海域。中国は、スカボロー礁(黄岩島(黄岩岛))は”島”であり、南シナ海の大部分にあたる所謂「九段線」の内側に位置するとして領有権を主張している。この主張は2016年7月12日、オランダのハーグに設置された南シナ海仲裁裁判所によって、中国が「九段線」の根拠とする「歴史的権利」、主権的権利や管轄権の主張は認められないという裁定が下された。

 

それはともかくとして😊、ここでは、中国海警局の船の高圧放水銃の性能について書いてみたい。

いきなり昔話で恐縮ですが、10年以上も前、中国海警局がまだ無い国家海洋局のころは、中国のグレート・ファイア・ウォール(金盾)の規制やネットでの情報管理は今ほど厳しくはなく、中国ネット掲示板での情報交換も盛んだった。たとえば国家海洋局・中国海監総隊の1500トン級海洋監視船が搭載する高圧放水銃は、射程150m、流量600m3/h(毎分1万リットル)、圧力2.4MPa以下。射程150mと長いわりに大したことなかった。

 

今回、中国海警局の放水攻撃によって被害を受けたのは、フィリピン沿岸警備隊(PCG)の40m級巡視船「BRP BAGACAY (MRRV-4410)」(*)と漁業水産資源局(BFAR)の監視船「BRP BANKAW (MMOV-3004)」。

「BRP BAGACAY (MRRV-4410)」には英国メディアBBCの特派員らが同乗し取材を行っていた。

20240502202915

中国海警局の船は、4月30日に公開された映像の2隻は056型「海警5105」(もと海軍の056型コルベット)と3000トン級「海警3305」(いわゆる漁政型3000トン級)。別のシーンで718B型海警船(舷号は未確認)(追記修正:818型「海警5303」でした。…も放水銃で)で攻撃をしていた。

20240502203018(今回、フィリピン船への攻撃に使用された3000トン級「海警3305」の放水銃)

 

中国海警局は、接近戦になると056型海警船の船体に穴を開けられかねないので、放水銃を使った遠距離攻撃に切り替えたんですかね?🤔

【中国海警局】 フィリピン沿岸警備隊の巡視船と接触し、056型「海警4103」の船体に損傷。露呈した元軍艦の弱点 - pelicanmemo (2024-04-17)

 

(*)日本のODAによって日本で建造されフィリピンに供与された40m級多目的対応船(Parola級巡視船)10隻のうちの1隻。「BRP バガカイ」は9番船。 フィリピン沿岸警備隊、巡視船「BRP Cape Engaño (MRRV-4411)」、マニラへ ODA供与の10隻すべて引き渡し - pelicanmemo (2018-08-22)

中国、フィリピン沿岸警備隊の船に放水 BBC特派員が同乗取材 - BBCニュース (2024年5月1日)

フィリピン“南シナ海で船が中国海警局から放水銃による被害” | NHK | 南シナ海問題 (2024年4月30日)

 

Ads by Google

 


 

国家海洋局のとき、省級の海洋監視船36隻(1500トン級7隻、1000トン級15隻、600トン級14隻)の建造計画が実施された。
そのときの1500トン級海洋監視船に搭載された高圧放水銃(水炮)は、射程は最大150m、流量600m3/h(毎分1万リットル)、圧力2.4MPa以下。ポンプ(泵)は外国製だったようだ。1000トン級海洋監視船の方は、射程は最大100m、流量は同じ600m3/h(毎分1万リットル)、圧力1.5MPa以下だった。

当時の報道では射程150mや射程100mという数字が話題で、記事のタイトルに使われたりしていたが、流量600立方メートル/時(m3/h)はそれほど大きくはない。放水銃の基部から配管を細くする設計で射程150mの仕様に適合させたように思える。

20240502203031(1500トン級「海監7008」の高圧放水銃(2014年当時))

海監や漁政での3000トン級では、ひとまわりもふたまわりも性能が高い高圧放水銃が使用されているだろう(具体的な数字は分からなかった。国家級の建造計画(後になって分かった)だったからか?)。流量900m3/h(毎分1.5万リットル)や流量1200m3/h(毎分2万リットル)と考えられる。

 

海上保安庁の巡視船の遠隔放水銃の性能は、はてるま型巡視船やくにさき型(くにがみ型巡視船の例が紹介されている。海保最大の消防船「FL-01 ひりゆう」(2代目)の主砲の上部船橋甲板の放水銃(毎分2万リットル・水専用)をもとに多少圧力を高めて使用している。
ひりゆう (2代) - Wikipediaくにがみ型巡視船 - Wikipedia

毎分2万リットル(流量1200m3/h)はひとつの基準にできそうだ。

これがどのくらいの水量かというと、普通の消防車から放水される水量の40倍(ホース1本、毎分500リットル)で、防火水槽の最低貯水量40トンはわずか2分で空になってしまう。 ”1秒あたり”浴槽1つ分の水を送りだせる。

 

 

以前、海監型3000トン級や5000トン級海警船の高圧放水銃について書く機会があった。この「海警3306」や同型船の放水銃は射程100mと発表されている。

もちろん、省や海区によっては装備の性能向上や改修が行われている場合もあるだろう。

20210204201237(「海警3306(当時)」の高圧放水銃)

【中国海警局】海警の船の”機関砲のような武器”? それ、高圧放水銃や。 - pelicanmemo (2021-02-04)

 

今回、フィリピン沿岸警備隊の巡視船を放水銃で攻撃した「海警3305」は、同時期に漁業局で建造計画が進められていた漁政型3000トン級12隻のうちの1隻だ。すると中国らしく、同クラスの高圧放水銃が選ばれただろう。射程120m。

20240502203035

2016年にベトナムを公式訪問した同型「海警46305」の放水銃(↑)と、今回のフィリピン船への攻撃で使用された「海警3305」の放水銃(↓)は、見た感じ同じタイプで変わっていないようだ。

20240502203018

【中国海警局】 「海警46305」 ベトナムを公式訪問 南シナ海の周辺国への訪問ははじめて - pelicanmemo (2016-11-12)

 

 

今回攻撃を受けたフィリピン沿岸警備隊(PCG)の「BRP BAGACAY (MRRV-4410)」も船橋前に放水銃を装備しているが、空撮含めて撮影されてるときに「応戦」をしなかったのはよかった。

 

20240502204313(ぱらみり(青い鳥解放戦線) @paramilipic さんのツイートより)

どうも、2012年9月に、台湾の漁船約40隻と海岸巡防署(海巡署)の巡視船8隻が尖閣諸島の領海に大挙して侵入した事件がきっかけで、その後の巡視船の放水銃の射程距離や性能が強く求められるようになったと思う。

海上保安庁の巡視船からの放水に対して、台湾・海巡署の巡視船の方は飛距離が足りず水量も貧弱な映像や画像が広まり、台湾国内で「小便小僧(尿尿小童)」と揶揄されていたものだ。

 

そこで、例えば民国103年(2014年)に建造された台湾・海巡署の3000トン級「宜蘭艦」には、ノルウェーのFire Fighting System(FFS)社製「FFS 1200」が装備された。流量1200m3/h(毎分2万リットル)、最大射程140m(「宜蘭艦」配備時の報道では射程120m)。

20240502204303(台湾海巡署「宜蘭艦」の高圧放水銃)

 

中国でも、海洋強国を目指すとして中国海警局への統合再編が進められ、巡視船の建造ラッシュが進んでいた時期だ。
中共中国も「小便小僧」と言われないよう、中国海監や漁政だけでなく公安部辺防海警の718B型や818型にも同クラスかそれ以上の能力の高圧放水銃が求められただろう。
(公安部の718B型や818型海警船や、元海軍の056型コルベットだった056型海警船の装備の方は、さすがに確度の高い詳しい情報は流れてこない。)

 

056型「海警5105」は、船体中央の「YJ-83」対艦ミサイル発射装置が撤去されたところに高圧放水銃2基が設置されている。

最初、新たに艦内に高圧放水銃用の油圧ポンプを設置して配管を伸ばすよりも、既存の消火や除染用の設備を流用して配管を分岐させた可能性を考えてて放水性能は大したこと無いと思っていた。ところが映像を見ると、けっこうしっかりと放水していた。

20240502202918

国家海洋局の頃のように船内の装備の紹介や動画が公開されればいいと思うけど、武警海警の中国海警局では期待薄だろうなあ・・・😔

 

 

フィリピン沿岸警備隊(PCG)の40m級巡視船「BRP BAGACAY (MRRV-4410)」の被害。修理に200~300万ペソ(約500~800万円)が必要となるそうだ。

20240502204245

 

【中国海警局】 フィリピン沿岸警備隊の巡視船と接触し、056型「海警4103」の船体に損傷。露呈した元軍艦の弱点 - pelicanmemo

中国海警局 カテゴリーの記事一覧 - pelicanmemo