(海上保安庁)
尖閣諸島で5月3日に発生した中国海警局のヘリによる領空侵犯について、読売新聞の6月1日付け記事で気になる部分があった。
「領空侵犯の口実に利用された」「政府は対応に苦慮」といった内容を強める意図があったのかもしれないが、中国側が主張するナラティブを広めてしまいかねない書き方をしている。
気にならない人は気にしない話題かもしれないけど、気になったので、発表や報道された事実をもとに間違いを指摘をしておきたい。
認知戦の領域では、このようなナラティブの拡散事例に対して積極的に対策をとり続ける必要がある。
尖閣諸島で起きた中国ヘリによる領空侵犯の経緯
5月3日午後、男性の小型民間機が尖閣諸島に近づくと、領海侵入中の海警局の船からヘリが飛び立ち、領空侵犯を開始。ヘリは民間機が現場を離れるのを見届けるようにして約15分で船に戻った。中国側はその後、日本の民間機を「中国領空」から退去させるためにヘリを飛ばしたとの一方的な主張を展開した。尖閣周辺での領空侵犯は3回目だが、日本側への退去要求は初めてだった。
80代男性「海保諸君にエール」と尖閣周辺飛行、中国海警局船からヘリ…領空侵犯の口実与える事態に : 読売新聞 (2025/06/01)
(赤字強調は管理人による)
中国海警局の「海警2303」からZ-9(H425)型ヘリ「15906」機が離昇し、領空侵犯をはじめたときには、日本の小型民間機「JA3815」機は尖閣諸島の領空から出るコースをとっていた。
”ヘリは民間機が現場を離れるのを見届けるようにして”と書かれると、「中国海警局のヘリはずっと日本の民間機の追尾や接近をして監視していて、領空を出るのを見届けるまで領空侵犯を続けていた」かのようなイメージをもつ人もいるだろう。
しかし、中国海警局のヘリ「15906」機が領空侵犯をはじめた後わずか3〜4分で、日本の小型民間機「JA3815」機は尖閣諸島の領空を出た。その後、中国のヘリは追跡をすることなく、約12分間も領空内を飛行していた。
日本の小型民間機「JA3815」機が尖閣諸島の領空に入った時間とほぼ同時に中国海警局の「海警2303」が日本の領海に侵入した。その時、「JA3815」機は西南西に約14km、高度約930mを飛行していた。
ヘリ「15906」機が領空侵犯をはじめた時には、「JA3815」機は西に約16〜17km、時速約220kmで「海警2303」から遠ざかる方向へ飛行していた。
「JA3815」機は時速240~250kmに速度をあげて、尖閣諸島から離れていった。
ちょうど、羽田空港の展望台から、東京スカイツリー(高さ634m)の上空約300mを飛行する翼幅10m(胴体は2m弱)の小型飛行機を探すようなものだ。見た目の大きさは備蓄米の米粒どころか白ゴマ粒だろう。
中国海警局のヘリに装備されている自動追尾カメラの性能が気になるところだ😓、中国側から小型民間機の写真は公表されていない。
ろくな写真がとれなかったのだろう。ボケた写真を公開しては、中国が一方的に主張する「法執行活動を行った」というナラティブに疑問をもたれかねない。
80代男性「海保諸君にエール」と尖閣周辺飛行、中国海警局船からヘリ…領空侵犯の口実与える事態に : 読売新聞 (2025/06/01)
中国ヘリの尖閣領空侵犯直後、空自戦闘機がスクランブル 海保と自衛隊の動きを可視化 - 産経ニュース (2025/5/10)
【中国海警局】尖閣諸島周辺で領空侵犯 「海警2303」搭載のヘリ「15906」機|日本の民間機の飛行ルートとタイムテーブルなど(追記ありx2) - pelicanmemo (2025-05-06)
中国海警局 カテゴリーの記事一覧 - pelicanmemo
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(産経ニュースよりスクリーンショット画像をもとに作図した)
産経ニュースの5月10日付け記事に掲載されているインタラクティブ・マップから尖閣諸島の南の海域・空域を拡大し、小型民間機「JA3815」機(灰色の●印)の飛行履歴の連続点を重ね合わせた。
赤い曲線は尖閣諸島の領空・領海(12海里(約22km))線を示している。
中国海警局の「海警2303」(オレンジ色の●印)(地図の右側)ともう1隻の海警船(黄色の●印)(地図の下部中央)は、「JA3815」機が領空に入る直前と出た後の2点だけを載せた。
「JA3815」機が領空に入って出るまでの約5分間で「海警2303」は領海線付近で約1kmだけ移動した。ヘリ運用のため微速で動いていたのだろう。
もう1隻の中国海警局の船は1.5~2km動いている。もし、こちらの海警船の方にヘリが搭載され運用されていたら、日本にとってさらにまずい状況へ追い込まれていたかもしれない。危ないところだった。
(前のブログ記事で、事件当時、尖閣沖にいた中国海警局のヘリは「海警2303」搭載の「15906」機1機だけだろうと書いた。傍証になるだろう)
「海警2303」(搭載ヘリ「15906」機)と「JA3815」機の距離をざっくりと測ってみた。
領空・領海は12海里(約22km)。
魚釣島からの距離を赤い大きい矢印で示した。(念のため、GoogleMapで魚釣島の南東端の東岬と南小島の南東端の岬との距離を計測してすり合わせた)
(産経ニュースよりスクリーンショット画像をもとに作図した)
2025年5月3日、
”午後0時18分23秒〜34秒”に小型民間機「JA3815」機(灰色の●印)が領空に入った。
ほぼ同時に、”午後0時18分ごろ”「海警2303」(オレンジ色の●印)が領海に侵入した。
このとき「JA3815」機は「海警2303」の西南西 約14km、気圧高度 3050ft (約930m) を飛行していた。飛行速度は時速210~220kmだった。
Frightladar24 のデータによると、「JA3815」機が領空を飛行したのはだいたい12:18から12:23の5分ほどだった。これは、自衛隊や海上保安庁への取材も行った産経ニュースの記事と合致する。
Frightladar24 によると、”午後0時20分”に「JA3815」機は尖閣諸島に最接近した。
”午後0時21分ごろ” 「海警2303」に搭載のヘリ「15906」機が飛び立ち、領空侵犯をはじめた。
このとき「JA3815」機は「海警2303」の西16~17km、高度約930mを飛行していた。大きく左旋回し、速度を上げて「海警2303」から離れる方へ飛行していただろう。
八重山日報(5月7日付)が「JA3815」機所有者・パイロットにいちはやく取材をしている。海上保安庁から無線で「この海域から退避せよ」との連絡があったそうだ。(*1)
途中でさらに左旋回し時速240~250kmに増速して、石垣島や西表島へのコースをとって帰途についた。
”午後0時23分24秒〜24分45秒”に「JA3815」機は領空を出た。
ヘリ「15906」機が「海警2303」から飛び立ち、領空侵犯をはじめてからわずか3~4分後のことだった。領空侵犯はこの後も約12分間続く。
中国海警局のZ-9(H425)型ヘリの最高速度315km/h(分速5km)(wikipedia)。「JA3815」機を追いかけようとしたかもしれないが、いきなり最高速度を出せるわけもなく、3~4分間の飛行距離は多くても10~15kmだっただろう。
端的に書くと、中国海警局のヘリは「追いかけようとしたかもしれないが、追いつけなかった」。
「JA3815」機に接近できず、鮮明な写真も撮れなかっただろう。
その後、日本の小型民間機「JA3815」機が領空を出てから12分間くらい、中国海警局のヘリ「15906」機の領空侵犯は続いている。
「JA3815」機を追いかけるために領空を出てはいない。
「海警2303」から「領空から出るな」「たったの数分で艦に戻ってくるな」といった指示があったのではないだろうか。😅
あくまでも推測だが、ヘリ「15906」機は、近くにいる海上保安庁の巡視船や中国海警局の船の動画や画像を空撮していたのかもしれない。いつか宣伝動画で使われるだろうか?
あるいは、尖閣諸島の島を撮影したり・・・、もしかしたら、めったにない機会なのでパイロットたちが記念撮影をしていても不思議はないだろう。
産経ニュースの記事より一部を抜粋した。
午後0時18分23秒〜34秒 民間機が尖閣諸島・魚釣島周辺の領空に入る
午後0時18分ごろ 海警2303が南小島南東の領海に侵入
午後0時21分ごろ 海警2303に搭載のヘリが領空侵犯
午後0時23分24秒〜24分45秒 民間機が領空を出る
午後0時36分ごろ 海警2303の甲板にヘリが戻り領空侵犯終了
(*1)八重山日報(5月7日付)が「JA3815」機所有者・パイロットにいちはやく取材をし、記事にしている。
0時20分ごろ、尖閣諸島に10数㌔まで迫った時、海保から無線が入った。中国船に搭載されたヘリが飛び立ったため「大変危険なので、この海域から退避せよ」と促された。
のだそうだ。パイロットの男性(81才)は高齢ということもあり、その時間を正確に覚えていたのか?とか、海保からの無線連絡は”ヘリが飛び立った後だったのか?”など、覚え違いや思い込みが心配なところだ。
80代男性「海保諸君にエール」と尖閣周辺飛行、中国海警局船からヘリ…領空侵犯の口実与える事態に : 読売新聞
2025/06/01
今回の遊覧飛行は、機長の80歳代の日本人男性が「奮闘する海上保安庁の諸君にエールを送りたかった」として計画した。国土交通省や国家安全保障局、内閣官房事態室が対応を協議し、自粛要請を決めたが、聞き入れられなかった。
尖閣諸島で起きた中国ヘリによる領空侵犯の経緯
5月3日午後、男性の小型民間機が尖閣諸島に近づくと、領海侵入中の海警局の船からヘリが飛び立ち、領空侵犯を開始。ヘリは民間機が現場を離れるのを見届けるようにして約15分で船に戻った。中国側はその後、日本の民間機を「中国領空」から退去させるためにヘリを飛ばしたとの一方的な主張を展開した。尖閣周辺での領空侵犯は3回目だが、日本側への退去要求は初めてだった。武藤茂樹・元航空自衛隊航空総隊司令官は「力による現状変更を徐々に進める中国の『サラミ戦術』は、海から空へと広がっていくだろう。領海侵入や領空侵犯を繰り返すことで、尖閣を中国が実効支配していると国際社会に印象づけるのが目的だ」と警鐘を鳴らす。
(海上保安庁より)