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黄海に、中国が巨大な鉄骨構造物の大規模養殖施設、韓中 暫定措置水域(PMZ)で| 補足と『西海工程』

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中国が、黄海の暫定措置水域(PMZ)に設置した鉄骨構造物や海洋ブイについて、今年に入ってから韓国メディア(日本語版も含む)の報道が続いている。

プレジデント・オンラインの記事が伝えた内容の補足と、関連記事で韓国メディアが使っている「中国による『西海工程』」についてすこし書いてみたい。

中国が黄海に設置した巨大な鋼鉄構造物が、韓国との間に新たな火種となっている。中国は「養殖施設」だと主張するが、韓国側は軍事目的での利用があるとして警戒を強めている。米英などの海外メディアも中国の動きを相次いで報じている――。

中国共産党の「静かな侵略」が始まった…黄海に突然できた「養殖施設」に韓国が大激怒しているワケ サッカー場ほどの大きさ、ヘリポートもある | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン) (2025/07/22)

 

黄海の暫定措置水域(PMZ (Provisional Measures Zone)(*1)は、中国と韓国が主張する排他的経済水域(EEZ)が重なる海域に、両国が海洋境界線の最終的な合意に至るまでの暫定的な措置として設けられた。
(*1)暫定措置水域(PMZ (Provisional Measures Zone))。韓国語:잠정조치수역。中国語(簡体字):暂定措施水域。日韓漁業協定に関する日本語資料では「暫定水域」と書かれる。

この海域では、自国の漁船だけを取り締まれることなど両国の漁業活動が一定のルールの下で認められている。その一方で、漁業法への対応や自国漁船への取締り、漁業資源保護への認識の違いによってトラブルが発生している。

 

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今回ニュースになった黄海の暫定措置水域(PMZ)に中国側が設置した鉄骨構造物は、いまのところ養殖施設2つと漁業管理施設1つだ。

山東海洋集団有限公司によって、2018年に設置された反潜水養殖ケージ「深藍1号」や2024年に設置された「深藍2号」は、暫定措置水域(PMZ)において両国が合意した「漁業活動」を拡大解釈して設置したのだろう。

一方、管理施設の方は、中東などで2016年まで稼働していた石油掘削リグ「アトランティック・アムステルダム (Atlantic Amsterdam)」を流用したものであり、漁業支援施設としては過剰な設備を持っているため、南シナ海の人工島のように「実効支配のための、恒久的な設備なのではないか?」という疑念をもって受け止められている。

20250723053511朝鮮日報より)

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ちなみに中国側は、この元・石油掘削リグの漁業管理施設は、支柱が海底に立っていても固定されてはいないので「(恒久的な)建造物ではない」として、「漁業協定違反ではない」といった主張をしている。

 

 

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20250723053507(半潜水型養殖ケージの先端、海上へ突き出た部分、(朝鮮日報より)

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「深藍1号」「深藍2号」ともと石油掘削リグの管理施設が設置されたのは、暫定措置水域(PMZ)のなかでも最も中国側に近い海域だ。
(下のイラスト地図の3つの赤い点)

20250723053646朝鮮日報より)

青い実線は排他的経済水域(EEZ)の境界線(韓国側の主張)を示している。(赤い実線および点線(東経124度線)については後述)

たしかに韓国と中国が合意した暫定措置水域(PMZ)の中なんだけど、EEZ境界線の韓国側ではない。このニュースを見聞きしていて、韓国メディアの記事の論調は国内政治が影響したものであって、やや過剰反応のようにも感じられた。

 

韓国メディアの記事(ダイヤモンドオンラインの記事でも)では、なぜ中国が暫定措置水域(PMZ)に大規模養殖施設を建造する必要があったのか説明を欠いている、としている。

これは中国側の発表を調べればすぐ分かることなんだけど、韓国メディアの危機感を強調する論調に合わないからか、大手を含む韓国メディアの記事の多くで説明が省かれているものが多い。(ダイヤモンド・オンラインの記事もそれに引きずられたようだ)

 

黄海の中央部では冷水層が夏季まで残る「黄海冷水団(黄海冷水团)」とよばれる自然現象がある。
冬期に冷却された表層の海水が沈み込んで、水深数十mの海底付近に冷水層を作る。黄海は比較的に閉鎖された海域なので撹拌がされにくい。そこで、この海域の水温や海中の栄養がアトランティック・サーモンなど海水性サケの養殖に適しているのだそうだ。反潜水型の養殖ケージ「深藍1号」「深藍2号」等は、この冷水塊の海域での大規模養殖を企図している。

黄海の海底付近の冷水層は1920年代には日本の研究者によって確認されていた。

 

次の地図は、2015年の7月から11月の「黄海冷水団」の範囲と水域の変化が図示されている。

20250723053400海洋地质与第四纪地质より)

「深藍1号」「深藍2号」等が設置された海域は、ちょうど「黄海冷水団」を養殖に有効活用できる海域であり、かつ中国側に近い位置が選ばれたと考えられる。山東省や江蘇省の水揚げ港との距離、往復時間と養殖魚の鮮度が重要で、輸送燃料コストや保安コストも考慮されただろう。

「深藍2号」など反潜水養殖ケージで養殖された魚は、接舷した輸送船がもつ巨大な吸い込みノズルによって輸送船の船内へと吸い上げられて、加工や冷蔵・冷凍されて漁港へ運ばれて水揚げされる。この方式はノルウェーの半潜水型養殖ケージでも行われている。

 

今のところ、比較的小型の初期モデル「深藍1号」と実証モデル「深藍2号」で作業を行っているだろう。輸入海産物との価格競走に勝てるようなら、さらに建造が進められると思われる。

もっとも中共中国のことなので、生産コストだけではなく国や自治体からの補助金にも左右されるし、中央の意向も影響する可能性がある。予算や資金繰りと合わせて今後どうなるか注視する必要があるだろう

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中国は世界最大の養殖生産国だけれども、先進的な海洋養殖設備が不足しており、内水面での過密養殖や沿岸域に集中する海水養殖場のため水質汚染や生態系への影響が懸念されてきていた。

20250723053524(黄海)

習近平体制下で、2012年から生態環境の保護が国策化され、2018年には環境と調和する社会を実現するとして「生態文明建設」が中国の特色ある社会主義事業に組み入れられたという政治的な背景もある。

実際問題、赤潮など海洋汚染の問題が深刻化したことで中国大陸の沿岸漁業は壊滅的な影響をうけていた。そこで漁港の漁業共同組合等によって東シナ海や南シナ海、北太平洋など広い海域への遠征が行われ、さらには南米のアルゼンチン沖EEZでのイカ漁やエクアドル沖のガラパゴス諸島周辺海域での違法操業へつながっていった。

海洋強国を目指すという政治的スローガンもまた、造船業への投資を促進させ、巨大な遠洋漁船や冷凍加工船が多く建造されていた。

”狩猟””採集”を行う漁業のための船だけでなく、養殖施設の大規模化や近代化も行われている。大型輸送船の船内に養殖プールをつくって環境管理する養殖船の建造も行われている。

2025072305354120250723053537中华宽带网より)

今回の反潜水型養殖ケージは”黄海冷水団”といった特別な環境を必要とする。しかし、こういった大型養殖船なら、沿岸域に限らず、きれいな海水を求めて広い海へと拡大することができうる。

海の向こうの話ではなく、こういった可能性と安全保障リスクも頭の片隅に置いておいても損にはならないだろう。

 

 

 

中国が黄海に設置している鉄骨構造物、反潜水型養殖ケージに関連するニュースでは、韓国メディアの記事ではよく「中国による『西海工程』」といった書き方がされている。韓国では、「黄海」は西側にある海なので「西海(서해)」と呼ぶ。

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中国の社会科学院(CASS)が主導して2000年頃から5年にわたって行われた、中国東北部(旧満州)の歴史研究とを目的とする「東北辺境歴史及び現状研究プロジェクト(东北边疆历史与现状系列研究工程)」、通称『東北工程』など(*2)になぞらえて韓国で使われている。

『東北工程』は、現在の中国の東北部から朝鮮半島北部に存在していた、古朝鮮の国(〜紀元前100年頃)や高句麗(紀元前数十年頃〜600年代後半)、渤海(700年頃〜900年代前半)は中国の属国だったとするもので、韓国の学術界による研究と反している。中共中国による民族政策や領土的な正当性と深く関係する政治的意図をもったプロジェクトだとして、聯合ニュースは「大規模な歴史歪曲プロジェクト」とも伝えている。

 

韓国メディアによる造語『西海工程(서해 공정)』も同じように、黄海から済州島沖の海域は「中国の歴史的な漁場」であり管轄権を主張してくるのではないか?と危惧されている。

南シナ海の「九段線」で囲まれた海域を「中国の歴史的な漁場」と一方的に主張してフィリピン沖EEZなど沿岸国のEEZで行っているように、黄海(西海)と東シナ海北東部にわたる韓国との間の海域をグレーゾーン化し、韓国船舶の航行権を制限して事実上の内海化する意図があるといった可能性も指摘されている。

 

今回の一連の記事の中でも『西海工程』とまとめられているが、実は、主に3つに区分されている。

 

・中国人民解放軍による、韓国の排他的経済水域(EEZ)を越えた海域や空域での軍事演習。

中国軍は東経124度線を作戦境界線とし、軍事演習は以前は北朝鮮の沖で行われていたが徐々に南下している。中国と韓国との暫定措置水域(PMZ)でも行われており、中国軍は黄海(西海)全域へと拡大することを目論んでいるとも韓国側で言われている。

中国軍は韓国側に対して、黄海の東経123度線と東経124度線の間で、韓国側の活動は自粛するように伝えたとも言われているがその真偽のほどは曖昧だ。

20250723053629朝鮮日報より)

 

・暫定措置水域(PMZ)での漁業活動。今回の大規模養殖施設の建造もこれに含まれるだろう。中国海警局によるパトロールが継続して行われている。

中国海警局と韓国海洋警察庁との間では、暫定措置水域(PMZ)での共同漁業パトロールも行われているので、この海域では灰色のグラデーションがあるグレイゾーンな海域となっている。

 

・済州島の南西、暗礁の蘇岩礁(離於島(이어도))の西の海域、東シナ海北部での海洋ブイが設置されている。

今年になって新設あるいは更新が行われた。

韓国でも「海洋ブイ」イコール軍事目的である可能性が否定できない!みたいな言われ方もされている。

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すべてを軍事目的だと断定するのはちょっと無理があると思う。それでも、軍民融合を進めている中共中国のことなので、養殖管理施設の設備を軍事利用したり、広範囲の漁業管轄権を主張してグレイゾーンとしたり、囲碁で石をつなぐように海洋ブイに軍事用センサーを設置する可能性は十分ありえるだろう。

 

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中国が韓中暫定水域に設置した構造物の撤去を拒否、韓国政府は対応を検討-Chosun online 朝鮮日報 (2025/04/22)

人工島→軍事要塞化→「我が国の海」 南シナ海で言い張り続ける中国-Chosun online 朝鮮日報 (2025/04/23)

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