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韓国海軍、レーダー照射 | 海洋警察庁の警備艦「サンボンギョ 5001」の救助活動と北朝鮮の漁船と軍と

20181228221335(防衛省より)

韓国海軍の艦艇による火器管制レーダー照射問題。

防衛省は12月21日、海上自衛隊厚木基地所属のP-1哨戒機が、韓国海軍の広開土大王級駆逐艦「971 広開土大王」から、火器管制レーダーを照射されたと発表。28日に、P-1哨戒機が撮影した動画を、防衛省サイトおよび動画共有サイトYouTubeで公開した。

防衛省・自衛隊:韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について(12月28日)

 

現場の海上には、「971 広開土大王(クァンゲト・デワン(광개토 대왕))」駆逐艦の他、約1000mの距離に海洋警察庁の5000トン級警備救難艦「5001 参峰号(サンボンギョ(삼봉호))(*)とその搭載艇(推定)2隻、そして漁船1隻が写っている。

(*)(追記1/2:「サンボンギョ(삼봉호)」の漢字は「三峰号」が適切との指摘もあります)

追記2019/01/05 韓国の国防部から"反論映像"が公開されました。海洋警察庁の搭載艇から撮影した映像パートの、「漁船」と海洋警察の隊員と思われる音声について追記しました。(長くなるので、詳しくは記事末尾に追記)

 

漁船は、北朝鮮の木造のイカ釣り漁船とよく似ている。
「5001 サンボンギョ」の搭載艇(左下)と比較すると、漁船は全長10数m〜20mくらい。

追記2019/01/03:この漁船は、韓国国防部が発表した「1トン未満の小型木船」にしては大きい。別の漁船ではないか?という指摘がありました(長くなるので、詳しくは記事末尾に追記)

 20181228221339
2018122822133820181228221340国道交通省資料より(比較のため画像の左右を反転させた))

 

これについて、多くの報道があり、いろいろな人が文を書いている。
日本メディアが報道していない(だろう)あたりを絡めて、韓国側、海洋警察庁の方向から考えたことを、少し書いてみたい。

 

11月に、日本海の大和堆近くの海域で、韓国の漁船が、北朝鮮軍の警備船に拿捕されたり追い返された事件が複数あった。

 

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26日の記事で、この火器管制レーダーが照射された海域はどのあたりか考察してみた。
今回の記事を書くにあたって、韓国メディアの他の情報と合わせて、更新した地図を作成しました(詳しい解説は記事末尾で)

韓国海軍、レーダー照射|現場の海域はどのあたり?【地図】 - pelicanmemo

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20181229224826

 

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11月3日、韓国のトロール漁船S号(84㌧級)が、日本海の好漁場である大和堆の近くの海域で操業をしていたところ、北朝鮮軍によって拿捕された事件があった。

今回の、北朝鮮漁船と、韓国の海洋警察庁の警備艦による救助と、近くに居た海軍駆逐艦によるレーダー照射と、関連があるのではないかと思っている。

 

11月20日には、韓国の海洋警察庁の警備艦が、日本の漁船に対して操業停止して移動するよう要求し、日本の海上保安庁の巡視船や水産庁の漁業取締船と対峙した事件があった。
韓国海洋警察庁警備艦の日本漁船への接近について:水産庁(平成30年11月21日))

朝鮮日報の記事では、あの海域に近いと書かれている。

北, 우리 어선 한때 나포… 정부 6일간 몰랐다 - 조선닷컴 (2018.11.24)

 

記事によると、北に拿捕された韓国漁船が操業していたのは、北朝鮮の水域と隣接している、拉致防止と安全のために設定された操業自粛水域。

北朝鮮の軍人7~8人がゴムボートで移乗、船長を除く乗組員10人を船室に監禁し、北朝鮮の水域に向かって移動したそうだ。
2時間後、別の北朝鮮軍の軍人1人(上官だろう)が乗り込んできて、「南北が和解の関係にあるから帰れ(남북이 화해 관계이니 돌아가라)」と言われ、漁船は解放された。

この韓国漁船は、その後も操業自粛水域での操業を続け(これもどうかと思うが)、9日後に帰港してから、海洋警察に知らせている。海洋警察庁が、韓国漁船が拿捕された事実を何日も把握していなかったことがニュースになっていた。

当時、その海域では、海洋警察庁の警備艦1隻がパトロールしていたが、韓国漁船と北朝鮮の警備艦艇からの距離が約59km離れていたため、レーダーで感知できなかったという。

 

この事件の後、海洋警察庁は、警備艦艇1隻を前方配置し、航空パトロールを週3回に強化した。

韓国政府は、北朝鮮当局に対して遺憾を表明し、再発防止対策を即すこととした。

もしかすると、南北双方が、再発防止対策として、北朝鮮は操業自粛海域での摘発は控え、韓国は北朝鮮の漁船の救助について話し合われたのかもしれない。 

 

 

読売新聞は12月28日夜の記事で、韓国軍は北朝鮮漁船の救助に普段から関わっている可能性があると報じている。
(近ごろ読売新聞は、意味深な報道を、おもしろいタイミングで出してきていると感じる)

現場は好漁場の「大和堆」の周辺で、大量の北朝鮮漁船によるイカの密漁が問題となっている。日本政府関係者は「韓国軍は北朝鮮漁船の救助に普段から関わっている可能性があり、日本に知られたくなかったのではないか」と分析している。

北漁船を普段から救助か…知られたくなかった? : 読売新聞

北朝鮮の側からすれば、自国の漂流していた木造漁船が救助される例が、ときどき報道されてきた。しかし漁民にムリな操業をさせていても、自国の警備艦艇だけでは捜索・救助の手が回っていない。

韓国と北朝鮮の間で、南北SAR協定(海上における捜索及び救助に関する協定)があるかどうかは知らないが、南北関係が良いのだから、韓国に対して、北朝鮮の漁船の救助を期待したとしても不思議はないだろう。

今回の火器管制レーダー照射問題の韓国側の報道で、北朝鮮の漁船の「人道的な救助活動」という表現をよく目にする。(そこから、日本のP-1哨戒機が救助活動を妨害したと繋げるような論調の記事はどうかと思う。批判に対する言い訳自己正当化と感じる)

韓国の海洋警察庁や海軍にとって「人道的見地から救助」という説明はとても使いやすい。北朝鮮との融和関係を非常に重視している文在寅(ムン・ジェイン)大統領・青瓦台に対しても、良い仕事をしているという印象を与える事ができるだろう。 

特に海洋警察庁は、文在寅大統領の選挙公約によって、国民安全処・海洋警備安全本部から、海洋警察庁への復帰が叶ったようなものだ。

 

捜索・救助活動それ自体は、国連決議による北朝鮮制裁に違反はしないだろう。しかし、日本の排他的経済水域(EEZ)での、北朝鮮の漁船の違法操業を、韓国当局が支援していることになる。

日本と韓国の間の漁業協定は、未だに妥結はしていない。偶発的な海難事故の捜索救助ならともかく、北の漁船の捜索救助の密約があると認めてしまうと、日韓の漁業交渉に影響し、韓国の水産業業界や釜山など地方の社会経済にとって悪い影響が続くだろう。

 

 

今回の「火器管制レーダー照射事案」では、海洋警察庁の最大級の5000㌧級警備救難艦「5001 参峰号(サンボンギョ(삼봉호))」が、(韓国による公式発表によると)北朝鮮漁船の救助活動にあたった。乗組員1人が死亡し、3人が餓死近い状態だったそうだ。

20日に救助され、22日午前11時には、板門店で北朝鮮側に引き渡された。わずか1日半で引き渡されており、対応が非常に早いと感じられる。

もしかすると、読売新聞の記事のように何度もあった事例で、海洋警察の対応もこなれていたのかもしれない。

 

ただ、気になるのは、竹島周辺に配備されている「5001 参峰号(サンボンギョ(삼봉호))」が居たことと、北朝鮮漁船の乗組員3人が餓死近い状態だったことだ。

北朝鮮の漁船の遭難は、自ら救難信号を出したわけではなく、他船から漂流している漁船があるという通報が韓国当局に入ったそうだ。おそらく通報は、韓国の海洋警察庁へだろう。

あくまでも推測だが、通報による当該船は「脱北者の船」の可能性があるとして、当局は対応を慎重にしたのではないだろうか?
(もしかしたら、本当に脱北者だったので、餓死近い状態でも韓国の病院に入院はさせずに、すぐに板門店で引き渡した?)

 

そこで、現場海域の近くにいただろう警備船を向かわせるのではなく、特に「5001 参峰号(サンボンギョ)」を派遣したのかもしれない。
北朝鮮漁船への立ち入りとなると、北朝鮮の海軍の艦艇が来たり無線で問い合わせがあるかもしれないので、韓国海軍も駆逐艦を派遣したか?

 

防衛省が発表したレーダー照射事案の動画のなかの音声記録から、自衛隊は、何らかの船の情報を持っていた。しかしそれは、海洋警察庁「サンボンギョ 5001」(WARS)ではなく、海軍「クァンゲト・デワン 971」でも無かったことが分かる。

クルー「さきほど撮影した、艦番号5001からサンボンギョであることを確認した。」
クルー「情報ありましたよね。
クルー「情報は...ありますね。
クルー「サンボンギョ...(確認作業中)」
クルー「WARS?」
クルー「違いますね」
クルー「WARSの目標情報はないですよね?
クルー「なし
クルー「クァンゲト・デワン(の情報)もなし?
クルー「なし
(赤字・強調は管理人による)
韓国海軍レーダー照射事件 - Wikipedia

(*)「WARS」は、米国の船体分類記号 (Hull classification symbol)を元にした、沿岸警備隊の船を示す「W」と捜索救難艦「ARS」で、韓国の海洋警察庁の船艇に対しても同じように対応しているのだろう。。

 

 

今回の「火器管制レーダー照射事案」では、韓国海軍の駆逐艦「971 広開土大王」は、平常時に作戦を展開している場所(鬱陵島や竹島の周辺の海域だろう)から東進し、大和堆の南方へ向かったそうだ。 

日本は同日、「日本の排他的経済水域(EEZ)内で起きたことだ」と発表したが、韓国側は「遭難救護のため、韓国海軍が平常時に作戦を展開している場所よりもさらに東進したのは事実だが、韓日EEZ中間水域内で発生したことだ」と言っている。日本はこの事案の発生場所を日本近海の能登半島近くとしているが、韓国軍は「哨戒機がそこにいたということであって、韓国艦艇がそこにいたわけではない」「広開土大王級駆逐艦は大和堆漁場の南方で火器管制用レーダーを運用した」と説明した。
(赤字・強調は管理人による)

韓国駆逐艦が日本の哨戒機にレーダー照射、日本の抗議に韓国軍困惑(2) - 朝鮮日報

韓国語の元記事
광개토함, 日초계기 겨냥 논란 - 조선닷컴

朝鮮日報の記事によると、日本側が「日本の排他的経済水域(EEZ)内で起きた」と発表したことに対して、韓国側が「韓日EEZ中間水域内で発生(한·일 EEZ 중간 수역 내에서)」との発言が、括弧付きで引用されている。

排他的経済水域(EEZ)での管轄権に関係する反論だろう。

 

ただ、韓国メディアの関連記事を見ていると、「日韓漁業協定で定められた暫定水域」を、この「中間水域」として図示しているものが多い。暫定水域のあの凸凹している境界線を"EEZ線"と書いているものもある。

韓国では、もしかしたら、排他的経済水域(EEZ)と漁業協定の暫定水域が、混同されて使われているのかもしれない。

しかし、操業している漁船の取り締まりなどの問題ならともかく、北朝鮮の漂流船の捜索・救助や、火器管制レーダー照射問題で、日本と韓国の間の「漁業の」暫定水域を持ち出してもあまり意味はない。

 

韓国が主張する排他的経済水域(EEZ)の線と、漁業協定の暫定水域の線の位置関係は、韓国メディアの記事では、次の地図が分かりやすい。
(オレンジ色の線が韓国が主張するEEZの線。灰色の凸凹の水域が日韓漁業協定による暫定水域。)

20181229224824(朝鮮日報より)

 

東亜日報の22日の記事によると、漁船漂流の通報を受けたのは、大和堆の北西の海域。

20181229224825(東亜日報より)

 

これらから、火器管制レーダーが照射された現場の海域(推測)の地図をアップデートしてみた。

火器管制レーダー照射問題では、韓国の国防部や海軍の言う事はがころころ変わっているので、その発言の信頼性はお察し。🙄

話半分として、「広開土大王級駆逐艦は大和堆漁場の南方で火器管制用レーダーを運用した」との説明と、もしかしたら「韓日EEZ中間水域内」の発言が実は「日韓漁業協定の暫定水域」のつもりだった場合とを考慮して、少し南側に拡げてみた。

 20181229224826

(*)排他的経済水域(EEZ)のイラスト地図は、産経ニュースの記事から引用させていただいた。画像・地図上の赤字や丸・矢印、青い点線は管理人による。(北の違法操業の監視開始 漁期前に先手 - 産経ニュース
韓国が主張するEEZの線(青い点線)は、北側の1本は時事用語事典イミダスの記事を参考にし、南側の1本は朝鮮日報の記事などを参考にして、管理人がおおざっぱに描いた。韓国側のEEZの線は、2006年の第5回EEZ交渉での、基点を竹島とする主張が反映されているのだろう。([서울신문] 韓·日 EEZ기점 모두 독도로(朝鮮日報))
今回の件での韓国の説明には変な部分が多いので、その信頼性をもとに、話半分として、半分だけ反映させた。

 

ーー(追記:2019/01/03)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

韓国国防部の発表によると、救助した北朝鮮の漁船は1隻で「1トン未満の小型木船」。

韓国国防部は20日、東海で船が漂流中という通報を受け、海軍の軍艦を出動させて北朝鮮漁船1隻を救助した。1トン未満の小型木船には北朝鮮住民4、5人が乗っていて、一部の住民は漂流中に死亡したことが分かった。
(赤字強調は管理人による)("住民"は、"乗員"の事だろう)

韓国政府、救助された北朝鮮漁民3人と1人の遺体を板門店で引き渡し - 中央日報 (2018/12/22)

中央日報の元記事はこちら。

정부, 구조된 北어민 3명·시신 1구 판문점 통해 인계

日本の防衛省が公表した映像で「5001 サンボンギョ」とその搭載艇(推定)の近くに居る「漁船」は、漁船は全長10数m〜20mくらい。北朝鮮のイカ釣り漁船とよく似ている。

全長10数mの漁船で「1トン未満」はありえないので、別の漁船なのではないか?という指摘があった、

防衛省公開映像に映っている漁船は遭難した漁船とは別物 - 誰かの妄想・はてなブログ版

 

北朝鮮の漁船が1トン未満の小型木船なら、乗員4人(死亡1、救助3(22日11時に板門店で北に引き渡された))だけだった説明はしやすい。全長10数mの漁船なら、操業には10人は必要なのだそうだ(動かすだけなら、数人で済むのではないだろうか?)

韓国国防部から初期の発表が、情報錯綜していたため、「1トン未満の小型木船」という発表が間違いだった可能性もありそうだ。

 

 20181228221339
2018122822133820181228221340国道交通省資料より(比較のため画像の左右を反転させた))

漂着する北朝鮮漁船の特徴は伝統和船!? - Togetter

ーー(追記ここまで)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

ーー(追記:2019/01/05)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

韓国国防部から、反論映像が公開された。(韓国語版 YouTube)(英語版 YouTube

BGMいらない、とか感想はいろいろとあるが😊 それはともかく、

動画には、海洋警察庁の警備救難艦「5001 サンボンギョ」の搭載艇から撮影したと思われる、救助中の漁船と別の5001搭載艇、韓国海軍の駆逐艦と日本の自衛隊のP-1哨戒機が遠くに写っている映像が含まれている。

20190105081222

"ROKS Gwanggaeto the Great was conducting a humanitarian rescue operation for a broken vessel found drifting."(英語版の字幕を書き出し)

海洋警察庁の警備救難艦「5001 サンボンギョ」と韓国海軍の「971 広開土大王」駆逐艦による、救助対象の船は1隻であり、P-1哨戒機が撮影し公開された映像に写っていた「漁船」であることが確認された。

他に、海洋警察庁と海軍が救助をした「1トン未満の小型木船」がいたわけではない。

ここから、救助された北朝鮮漁船が「1トン未満の小型木船」という、初期の発表が間違いだった可能性が強くなった。

漁船の向こうにいる5001搭載艇は、4.5トン級高速艇だろう。

20190105081217(明るさを少し調整した)

船舶登録番号は、船尾には書かれていないようだ。

 

5001搭載艇から撮影した映像に、海洋警察庁の隊員の声と思われる音声が流れている。

韓国SBSの記事によると「따뜻한 물, 따뜻한 물 원하고 있답니다.」、日本語では「暖かい水(お湯。白湯?)、暖かい水(お湯。白湯?)を求めているそうです」になりそう。
海洋警察庁の隊員が無線で、北朝鮮漁船の乗組員が衰弱状態であることを報告したもののようだ。

日 영상 활용해 '되치기'…軍 적극 반격, 승부수 던졌다 - SBS

[全訳] 韓国国防部「反論映像」全テクスト(徐台教) - 個人 - Yahoo!ニュース

ーー(追記ここまで)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  

 

防衛省・自衛隊:韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について

北漁船を普段から救助か…知られたくなかった? : 読売新聞

韓国駆逐艦が日本の哨戒機にレーダー照射、日本の抗議に韓国軍困惑(1/1) | 朝鮮日報

北, 우리 어선 한때 나포… 정부 6일간 몰랐다 - 조선닷컴

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レーダー照射、韓国が日本に期待した「KY過ぎる甘え」

SAR協定 - Wikipedia