(via. KKP News)
南シナ海、インドネシアの排他的経済水域(EEZ)で中国漁船を、インドネシアの漁業水産庁の巡視船に拿捕したが、中国海警局の公船に船を奪取されたというニュースがあった。
現地報道や公開情報を調べていたら、状況がけっこう詳しく分かってきて中国海警局の船も絞り込めたので、これについて少し。
東シナ海、尖閣諸島の周辺の海域で、もし起きたらというシミュレーションに役立つかもしれない。
インドネシアのスシ海洋・水産相は20日、違法操業していたとして検挙、曳航(えいこう)中だった中国漁船が中国公船に奪われたとして、中国政府に漁船の引き渡しと違法操業の中止を求め、抗議すると発表した。
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インドネシア海洋資源水産総局(Direktorat Jenderal Pengawasan Sumberdaya Kelautan dan Perikanan)の公式ツイッターより。
3. Inilah penampakan kapal dan ABKnya (Sumber foto : KP Hiu 11) @BeritaKKP @sjariefwidjaja @kkpgoid pic.twitter.com/5lgCIat4sH
— Ditjen PSDKP-KKP RI (@humaspsdkp) 2016年3月20日
場所は、南シナ海、インドネシア領のナトゥナ諸島の北東、約200km約133km(北緯5度5.866分,東経109度 07.646分)のインドネシアの排他的経済水域(EEZ)(地図の赤丸の海域)。インドネシア当局の発表。
(発表や報道を元に現場と推測される海域を赤丸で示した。ナトゥナ諸島はインドネシア領。)
インドネシア海洋資源水産総局(Direktorat Jenderal Pengawasan Sumberdaya Kelautan dan Perikanan (PSDKP))の高速パトロール船「Hiu-11」が、インドネシアの排他的経済水域(EEZ)で違法操業していた中国の漁船「Kway Fey 10078(桂北渔10078)」を発見した。
中国漁船「桂北渔10078」は、広西チワン族自治区北海市の港に登録されている。
高速パトロール船「Hiu-11」(「Hiu-011」とも。「鮫-11」という意味)は全長30m、全幅6m。乗員15人。速度28ノットの高速船。昨年12月には同型船4隻(Hiu-12 ~ Hiu-15)が正式配備され、違法操業の取締りその他の任務についている。
(via. Wiyai News)
パトロール船「Hiu-11」は、中国漁船に対して警告、追跡、停船命令などの手順を行った後、威嚇射撃を行って拿捕。 船員8人を拘束し、漁船を曳航してナトゥナ諸島へ向かっていた。
(via. KKP RI on Twitter)
インドネシア当局の公式発表によると、現場は、ナトゥナ諸島の北東約200km。中国海警局の公船はナトゥナ諸島により近い北東30kmくらいに居た。
(via. KKP RI on Twitter)
報道によると、中国海警局の公船は2隻。「Hiu-11」が撮影した画像から1隻は、いわゆる漁政型3000トン級海警船だと分かる。
画像処理をしてみたところ、南海分局の「海警3304」または「海警3301」と思われる。
海警局の公船1隻が、パトロール船「Hiu-11」に停船と漁船と乗組員の引き渡しを要求。そのうちに、船体を漁船にぶつけて曳航出来ないようにしたため「Hiu-11」は漁船の押収を諦めたそうだ。(NHKニュース)
パトロール船と漁船の間に割り込み、停船させて、曳航索を切ったのだろうか?
似た事件はこれまでにも起こっている。
2013年3月には、パトロール船「Hiu Macan 001」(中国側の発表では「301」)が、EEZで違法操業している中国漁船「桂北渔58081」を発見し拿捕した。しかし、漁業監視船「漁政310」(当時。現在は「三沙市総合執法1号」)が漁船と乗組員を奪取している。
興味深いのは、この時はまず、海洋漁業科学調査船「南鋒(南锋)」号が陸上の指揮部からの指示によって現場海域に急行し、インドネシアのパトロール船の進路妨害を行ったところだ。2時間後に漁業局の2500トン級漁業監視船「漁政310」が到着、2隻が連携してインドネシアのパトロール船と中国漁船を停船させ、漁船と乗組員を奪取した。
“南锋”号海洋渔业科考团队(2015-02-04|中国海洋在线)
Historia : Gesekan di Laut China Selatan(2013年12月5日|JakartaGreater)
中国の公船は非常時には、調査船でも(いつでもというわけでもないだろうし、所属や指揮系統によると思うが)、連携して活動しうることを頭の隅にでも置いておく必要があるだろう。
今回も2013年も、排他的経済水域(EEZ)など国際的に認められている海域での、両国の管轄権が衝突した結果ではない。
中国が国際法を無視して一方的に設定した九段線の内側の海域であり、中国の伝統的漁場だからという理由である。
インドネシアは、南シナ海の島嶼の領有権問題には中立の立場をとり「調停者」として振る舞っている。しかし、今回の事件に対してインドネシア政府も、中国の勝手な対応は南シナ海の平和を促進しようとする努力を妨げるものだとして、強く対応をしている。
ジョコ・ウィドド政権は、スシ・プジアストゥティ海洋水産相のもとで違法操業を厳しく取り締まってきた。昨年1月〜10月だけで、100隻超の押収した漁船を爆破して、違法操業を許さない姿勢を強くアピールしている。
漁船爆破 1年で100隻超 スシ海洋水産相 強硬策に批判も(2015年11月03日|じゃかるた新聞)
それでも、海上で爆破した漁船100隻の内訳はフィリピン34隻、ベトナム33隻、タイ21隻、マレーシア6隻、インドネシア4隻、パプアニューギニア2隻、中国1隻で、中国への配慮もあったと感じられる(便宜置籍船のケースもあるようだ)。
今回の中国漁船の拿捕に対して、中国外交部の報道官は記者会見でインドネシアに配慮しつつも、自己正当化をし乗組員の返還を求めているようだ。またインドネシア外交部も、中国との良好な関係を維持したいと発表している。
強硬姿勢を強める中国海警局(特に南シナ海を管轄する南海分局)と軍と軍民組織、インドネシア海洋資源水産総局と軍。両国とも外交当局は苦労をしているのだろう。(苦笑)
今後、インドネシアと中国の関係にどう影響するのか注意が必要だ。
Indonesia says it feels peace efforts on South China Sea 'sabotaged' | Reuters
印尼就中国海警船纳土纳海域“越境”事件召见中国大使 中方回应 - 观察者网
Kapal Ikan Asing Ilegal Berbendera China Ditangkap di Wilayah Perairan Indonesia (PSDKP )
Menteri Susi Panggil Dubes Cina Terkait Pengamanan 8 ABK KIA Cina (KKP)
Indonesia hopes to maintain good relations with China | The Jakarta Post
2016年3月21日外交部发言人华春莹主持例行记者会 — 中华人民共和国外交部
余談だが、
中国海警局の南シナ海を管轄する南海分局の、いわゆる漁政型の3000トン級海警船は、「海警3301」「海警3303」「海警3304」「海警3305」の4隻のようだ(東シナ海には3隻)。「海警3302」は海南省の海警総隊に移管され「海警46305」と改名された。
2500トン級漁業監視船「漁政310」は、海警局に移管され「海警3210」と改名した後に、海南省三沙市の三沙市総合法執行局(三沙市综合执法局)に移管され「三沙市総合執法1号(三沙市综合执法一号)」と改名した。
【中国海警局】漁政型3000トン級海警船、試験航海 - pelicanmemo
【中国海警局】 東海分局に 新たな3000トン級「海警2303」 機関砲を装備 - pelicanmemo
中国海警局 カテゴリーの記事一覧 - pelicanmemo
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