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海外の話が多め。近頃は中国が多め(中国海警局・中国海監、深海潜水艇、感染症など)。

沈没したタンカー「Sanchi」号の燃料の重油か? 鹿児島、奄美大島などの海岸に"油状のもの"が漂着

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朝日新聞デジタルより) 

鹿児島県の、トカラ列島の宝島や、奄美大島、喜界島の広い範囲の海岸で、黒い油のようなものが漂着しているのが確認された(2月2日現在)
第10管区海上保安本部は、1月6日に上海の沖約300kmで貨物船と衝突、炎上して漂流した後に、奄美大島の西方約300kmで爆発・沈没したタンカー「Sanchi(サンチ)」(パナマ船籍。イラン国営タンカー会社(NITC)所有)から流出した油の可能性もあるとみて詳しく調べている。

中国の国家海洋局や交通運輸部の発表によると、タンカー「Sanchi(サンチ)」号の沈没した海域で、黒色の塊状の油が何度か確認されている。奄美やトカラの島々の海岸で見つかった油状のものが、沈没したタンカーの燃料の重油由来の可能性は高いだろう。

ーー(追記:02/17)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

奄美大島と周辺地域での油状漂着物についての情報源・リンク(海上保安庁、環境省、水産庁、ほか) - pelicanmemo

ーー(追記ここまで)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

ーー(追記:03/14)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

タンカー「SANCHI」号、沈没から2ヶ月 あのシミュレーション結果は正しかったのか? - pelicanmemo (2018-03-14)

ーー(追記ここまで)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

だが、ちょっと待ってほしい。

沖を航行する船からの、事故による重油の流出や、油の排棄(違法)は聞く話だ。産業ゴミの不法投棄みたいに、こういう事故の後だとバレにくいと考えて海に捨てる不届き者が出ないとは言えない。
奄美大島ほかの海岸に漂着した油を、海上保安庁が詳しく調べている。
結論を急ぐよりも、結果の発表と報道の続報を待ったほうがよいだろう。

1日午前11時半ごろ、奄美海上保安部に「海岸に油状のものが漂着している」という通報があり、調べたところ、奄美市名瀬の朝仁海岸で黒い油のようなものが、かたまった状態で砂浜に漂着しているのが確認されたということです。

奄美で沈没タンカーの油漂着か|NHK 鹿児島県のニュース (2018-02-01)

喜界島でも“油”漂着を確認|NHK 鹿児島県のニュース (2018-02-02)

300キロ沖沈没タンカーの油か 海岸に大量漂着 奄美 | NHKニュース (2018-02-01)

油状固まり7キロ、鹿児島・宝島に タンカー事故関連か:朝日新聞デジタル (2018年2月1日)

【動画】十島村の宝島に油のようなものが漂着 - KTS 鹿児島テレビ (2018年01月29日)

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中国、国家海洋局は、タンカー「Sanchi(サンチ)」号が沈没した海域の、油膜の監視と拡散の様子、海洋汚染の調査結果の発表を毎日行っている。2月2日に第22報が発表された。
タンカーの積み荷のコンデンセート油(軽質原油)と考えられる虹色の薄い油膜が確認されている。

また時々の発表で、少量の黒色の顆粒状の油(少量黑色颗粒状油污)が確認されており、タンカーの燃料油と考えられている。

国家海洋局积极开展东海海域油轮碰撞事故应对工作(二十二) - 国家海洋局 (2018-02-02)

 

2月1日午後に、沈没したタンカー「Sanchi(サンチ)」の衝突炎上沈没事故についての、中国の交通運輸部ほかの関係組織による記者会見が挙行された。関連組織合同の2回目。
交通運輸部、海上捜救センター、農業部漁業漁政管理局、国家海洋局、環境監測センターからの報告と質疑応答が行われた。 

“桑吉”轮碰撞燃爆事故处置工作新闻发布会 - 交通运输部 (2018-02-01)

【地図】 東シナ海を炎上して漂流、沈没したタンカー「SANCHI」号、その後 燃料の流出と海洋汚染の恐れ - pelicanmemo (2018-01-21)

 

タンカー「Sanchi(サンチ)」号は2008年に韓国の現代(ヒュンダイ)重工業が建造した比較的に新しい、二重船殻構造のタンカーだ。全長約274m、全幅50m。

交通運輸部の上海サルベージ局が、1月20日と21日にROV(無人潜水機)を使って、沈没したタンカー「Sanchi(サンチ)」号の船体の破損状況を確認した結果、右舷の2番–3番タンクのあたりに、最長35mもの三角形の、衝突による穴を発見している。けっこう大きい。甲板のハッチや通風口なども大きく破損していた。

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炎上しているタンカーの写真を見ると、右舷だけでなく、船体全体が大きく焼けていることが分かる。積み荷の揮発性が高いコンデンセート油(軽質原油)が大量に流出し炎上した事で、船体全体が炎に包まれたのだろう。 14日には大爆発を起こして、沈没した。

では、積み荷の約11.13万トンのコンデンセート(当初、13.6万トンと報道されたが、後に11.13万トン(11.3万トン?)と修正された)は、沈没した船体の中に大量に残っているだろうか? 

コンデンセート油(軽質原油)は揮発性が高いので、1週間以上の炎上と、沈没直前の大爆発で大部分が燃焼や流出し、もし船体に残っていてもごく一部ではないだろうか? 交通運輸部等は、1月30日までに吸着剤42.5㌧や吸油マット440kgなどを使い、225.8平方kmの海域で流出した油を除去した。

 

初期報道の13.6万トンものコンデンセートの大部分が、今でも沈没した船体内部に残っていると思う人はいないだろう。
軽質原油(コンデンセート)の流出による海洋汚染とともに、燃焼や揮発による大気汚染の方を注意した方がよさそうだ。沖縄県や九州各県、西日本の気象観測施設や自治体の観測データに残っていないだろうか?
民間企業や個人でも、何か影響に気付いたものもあるのかもしれない。

 

タンカーには、約1900トン(約0.19万トン)の燃料油やディーゼル油等が積まれていた。これが、奄美大島やトカラ列島の島の海岸に漂着した油の塊の由来の可能性が高い。
その燃料は、事故時にはイランから韓国への航海で使って、半分くらい減っていただろう。

ーー(追記:02/03)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

韓国の海洋水産部の報告によると、沈没時の量のようだ。「バンカーC重油1,800トン、ディーゼル油100トン、潤滑油20トンなど」が載っていたと推測される。

침몰 해역은 서귀포 정남방향 295해리(546km) 지점이며, 당시 SANCHI호에는 화물유(콘덴세이트) 153,200㎘외에도 벙커C유 1,800톤, 디젤유 100톤, 윤활유 20톤 등 약 1,900톤 가량의 연료유가 실려 있었던 것으로 추정된다.

해양수산부>보도자료 - 동중국해 침몰 유조선, 유출기름 국내 연안 유입가능성 낮아

via. 【調査レポート】東シナ海での海難:パナマ籍タンカーSANCHIと香港籍ばら積み船CF CRYSTAL号の衝突海難の経過 ◆各国政府・国際機関からの公表内容◆ | 新着情報 海洋政策研究所 Ocean Policy Research Institute

ーー(追記ここまで)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

燃料タンクは船尾のエンジンの近くにあるので、炎上や爆発の影響は比較的に小さかったのではないだろうか。実際に、国家海洋局の流出油や水質調査の発表の中で、燃料の重油の流出と考えられる黒色や黒褐色の油の報告は、頻繁には出てきていない。

燃料油(バンカー油)のC重油の流動点(低温だと液体のようには簡単に流れない)は、少なくとも10℃以上(JIS規格に規定はない)。沈没しているのが水深115mの海底なので、液体としては流れ出さず、比較的に固体に近い状態で溜まっているのだろう。船体や燃料タンクの破壊など大きな変化が無ければ、燃料タンクから大量の重油が一気に流出するという心配はしなくてもよいと感じられる。

 

当ブログ管理人は、タンカー「Sanchi(サンチ)」号の1月6日の衝突事故の後から、比較的に頻繁に当局の発表や報道を調べて、一部をツイッターで呟いてきたつもりだ。

日本の当局の発表はとても少なく、報道も外電の紹介が中心だったと言わざるをえない。
それが、ここにきて、国内の鹿児島県の島の海岸で黒い油が見つかったから、「国内ニュースとして」大手をふって盛んに報道しはじめた、という印象をもっている。

日本語ネットやツイッター・SNSでのコメントの中には、奄美に「原油が漂着」とか、「13万トンの原油がー」「日本の海が死ぬ」といった、ちょっと変な表現が目立つ。
日本語での追加の発表と報道が少ないので、「マスコミは報じない」「日本のメディアが報じない」というような、甘いけれど実は苦い前置きをするコメントもよく目にしている。

 

タンカー「Sanchi(サンチ)」号が沈没する前、行方不明の船員の捜索救助活動や、汚染防除のため、日本の海上保安庁・第10管区海上保安本部の巡視船「PL-69 こしき」が現場海域で活動をした。
その後も巡視船1隻で、海上の油膜を『航走拡散』という作業を実施して、流出油への対応を行ってきた(巡視船「PL-69 こしき」から交代したかもしれない)。ぜひ画像や映像を公開してほしい。海保は情報発信がやたらと遅い。

「濃い油膜は認められず、日を追うごとに油膜は薄くなっています。コンデンセートは揮発性が高い油のため、浮流油の範囲も縮小している。末端のほうは拡散、消滅しています」
「現在も巡視船1隻で『航走拡散』という作業を実施し、油粒を細かくしています。また、航空機1機で現場の調査などを行なっています」

タンカーが日本の排他的経済水域に沈没 油流出の影響は? - BuzzFeedNews (2018/01/29)

海保の巡視船は、海水のサンプル採取や、中国の国家海洋局が発表した黒色の顆粒状の油を見つけたらサンプル採取しているだろう(と思う)。
もし沈没したタンカー「Sanchi」号の燃料の重油由来だとすると、軽質原油(コンデンセート)の成分が混じるなど、分析結果に反映されるかもしれない。調査結果の発表と続報を待ちたい。 

 

海産物の安全性について、タンカーが沈没した海域や周辺の海域で操業した漁船を特定して、水揚げした魚やカニ・エビ等の海産物の安全性のチェックを行うべきではないだろうか。
韓国の済州島では、関係機関が連携して、流出した油の漂着の監視と、海産物の安全性の確認が始められると報道されている。

제주도, 동중국해 침몰 유조선 유출 기름 유입 대비체제 가동 – 헤드라인제주

 

日本の当局の発表はとても少なく、報道も外電の紹介が中心だったと言わざるをえない。それが、ここにきて、国内の鹿児島県の島の海岸で黒い油が見つかったから、「国内ニュースとして」大手をふって、盛んに報道しはじめた、という印象をもっている。

国際ニュースを多く伝えているNewSphereは31日付けの記事で、そこんとこ、東京在住のジャーナリストや専門家の言葉を引用して、日中間の関係が影響している可能性を指摘した。

同氏は、特に日中間には互いの違いを脇に置き、共通の地域の利益のために行動するという動きがほとんど見られないと述べる。今回に関しても、尖閣諸島の領土問題が両国の協力の足かせになっているという憶測も広がっており、漂流した「サンチ」が尖閣周辺で沈没していれば、どちらが出るかで日中間の大問題になっていたと見ている。

日本沿岸の環境汚染は深刻 タンカー油流出、海外から対応のまずさを指摘する声 | NewSphere

 

東京海洋大学の勝川俊雄准教授は、次のように書いている。

生態系への影響以上に心配なのが、日本国内の動きの無さです。この事故は世界的な関心事となっています。日本のEEZで起こった事故で、日本への影響が懸念されています。なぜ、国の主導できちんとした現場調査をして、これまでにわかっている情報を整理してプレスリリースしないのでしょうか。Natureの記事でも、事故の影響を評価しているのは、英国と中国の研究グループで、日本のプレゼンスがゼロです。この海域のシミュレーションをできる人間は、日本国内にいくらでもいます。出来ないのではなく、やらないのです。コンデンセートの大規模流出事故は世界で初めてで、専門家も影響を予測し切れていません。日本主導で国際的な調査チームをつくり、そのデータを他国と共有すべきでしょう。

奄美大島沖で過去最悪の石油流出事故 海洋生態系への影響は?(勝川俊雄) - 個人 - Yahoo!ニュース (2018-02-02)

 

首相官邸の危機管理センターに、情報連絡室を設置された。

政府は2日、鹿児島県の奄美大島の沿岸で油の漂着を確認したことから、首相官邸の危機管理センターに情報連絡室を設置した。油は奄美大島の沖合で1月に沈没したパナマ船籍の石油タンカーから流れ出た可能性があるとみて、情報を収集し対応策を検討する。

奄美大島沿岸に油漂着、タンカー沈没と関連か 官邸に情報連絡室 :日本経済新聞 (2018-02-02)

 対応が強化され、関係機関の連携と情報公開が進められることを期待したいものだ。