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海外の話が多め。近頃は中国が多め(中国海警局・中国海監、深海潜水艇、感染症など)。

【中国海警局】中国海警局150隻体制(共同通信)、勘違いされている点と補足説明。舟山基地の拡張工事。

20230202064208(共同通信Twitterより)

中国海警局が海軍から移管された艦船約20隻の改修をほぼ完了させ、1000トン以上の艦船約150隻の実動体制を始動させたことが分かったと共同通信が報じた。もと中国海軍の056型コルベットが22隻が移管された。

中国海警局が海軍から移管された艦船約20隻の改修をほぼ完了させ、千トン以上の艦船約150隻の実動体制を始動させたことが分かった。日本の海上保安庁が保有する大型巡視船70隻の2倍を超える規模。中国の海警事情に詳しい消息筋が明らかにした。共同通信が入手した写真によると、浙江省では1月下旬、軍艦と同じ主砲を装備した艦船を含む海警船団の停泊も確認された。

中国海警局150隻体制を始動 海保の2倍超、軍艦と同じ主砲も | 共同通信 (2023/02/01)

【中国海警局】 中国海軍の056型コルベット、約20隻が海警局に移管か - pelicanmemo (2021-12-25)

 

 

この報道に対して、中国海警局には北海分局(渤海と黄海北部)・東海分局(東シナ海と黄海南部)・南海分局(南シナ海)の3つの分局があるから「東シナ海を管轄する東海分局に振り分けられるのは50隻程度だ」といったコメントも見かける。

いくつか大きな勘違いがあるようなのでその補足説明と、このニュースの”行間”で語られていないとこも含めて少し書いてみたい。🙂

まず勘違いの方を4行で説明。

  • 中国海警局の排水量1000トン以上の大型海警船は約150隻でも、中型の海警船は120隻以上(排水量999トン〜500トン)小型の沿岸海警船は450隻(排水量499トン〜100トン)が運用されている(米国国防総省による2022年11月の議会へのレポートより)
  • 尖閣諸島の周辺海域では、排水量500トン級や600トン級の公船も確認されている
  • 尖閣諸島の周辺海域では、中国海警局 東海分局に所属する船だけでなく、北海分局に所属する船も確認されているし、南シナ海を管轄とする船が確認されたこともある。
  • 海上保安庁と中国海警局だけ比較されているが、中国には海上の安全や船舶の監督管理を担う交通運輸部・海事局(海巡)や海難救助などが主な任務の同・救助サルベージ局(救捞)があり(日本ではどちらも海上保安庁の仕事)、排水量1000トン級から最大12000トンの大型船を運用している。地方の海洋・漁業当局の中にも1000トン級の船を運用しているところがある。

 

2016年8月、尖閣諸島の周辺海域に中国漁船200〜300隻と中国海警局や他の海上法執行組織に所属する船が23隻確認された。そのうち中国海警局の船15隻が領海に侵入して航行をした事案があった。(海上保安庁(pdf):尖閣諸島周辺海域における中国公船及び中国漁船の活動状況(H28.10.18)

その中には中国の地方の海洋漁業庁などに所属する1500トン級海監船や600トン級海監船、500トン級漁政船も含まれていた。中国南部遠くの広西・チワン族自治区の1000トン級漁政船も確認された。
逆に、南シナ海へ東海分局や北海分局に所属する船が応援で派遣されたこともあった。

また中国海警局に統合再編されたことで、海監や漁政の監視船がすべて中国海警局になった勘違いしてた人もいたが、実際には昔の名前と所属のままの船もある。中国海警局に移管され運用された後に地方海監に”出戻った1000トン以上の大型海警船も何隻もある。

 

そもそも以前から、中国の漁業シーズンとなったら東シナ海の広い海域で600トン級の漁業取締船が中国漁船の違法操業の監督と監視を行ってきていた。

今回のニュースを読んで、「尖閣諸島の周辺海域にやって来られる中国海警局の船は150隻だけ」とか「いや、東シナ海を管轄する東海分局だけで50隻くらい」とか言ってしまうのは、目の前の皿の料理だけを見て頭の中で皮算用をしているにすぎないだろう。

 

次に、このニュースの”行間”について。

警戒すべきは中国海警局の船だけでなく、基地も拡充されている。

【中国海警局】 尖閣諸島で確認された中国の公船18隻(8月4日〜16日)、まとめ 辺防海警、漁政、緝私、海監など - pelicanmemo (2016-08-07)

中国海警局 カテゴリーの記事一覧 - pelicanmemo

 

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以前、日本の神奈川県横浜市にある海上保安庁の第三管区海上保安本部と、浙江省舟山市にある中国海警局の舟山基地をGoogleMapの同スケールの航空写真で比べたブログ記事を書いてみた。

海保三管・横浜保安本部
20150901215914 

中国海警局(海監第四支隊(当時))の舟山基地
20150901215913
(点線部分は関連施設と思ったが、その後に集合住宅が建設された) 

【中国海警局】万トン級「海警2901」すでに正式配備? 浙江省の舟山基地に配備か? - pelicanmemo (2015-09-01)

中国海監の舟山基地の規模を横浜保安本部付近に当てはめると、ハンマーヘッドから赤レンガ倉庫、横浜ワールドポーターズ(ショッピングセンター)近くまで及ぶ、広い敷地と埠頭を持っていた。

さらに舟山基地では専用埠頭の拡張工事と新たな本部施設の建設が行われてきた。横浜港大さん橋とまでは言わないが、その半分くらいの埠頭が追加されている。

 

 

中国海警局の東シナ海を管轄する東海分局は上海市に本部があり、長江の支流で上海市の中心を流れる黄浦江の岸に専用埠頭がある。
中国海軍の軍事基地にすっかり間借りをしているのではなく、中国海警局になる前の中国海監総隊のころから同じところを使っていてあまり大きくない。

ご存知の通り黄浦江の通航量は多く、河岸は一杯で係留施設を拡張できる余地は少なかった。そこで国家海洋局 中国海監総隊の頃に、黄浦江の河口から出て南約150km、舟山群島(浙江省舟山市)の舟山島近くの長嶋島(长峙岛)に新しい基地と専用埠頭の建設が行われた。2012年に沿岸の埋め立てと埠頭建設が始まり、2014年には本部の建物と埠頭の運用が始まっていた。

中国海警局の万トン級「海警2901」や76ミリ砲を装備する「海警2501」など大型海警船の基地で、中国海警局が人民武装警察部隊(武警)に編入される前後からは718B型などの停泊も確認されていた。

 

今回、共同通信が報じたのはこの舟山基地のことだ。

共同通信が入手した写真によると、浙江省では1月下旬、軍艦と同じ主砲を装備した艦船を含む海警船団の停泊も確認された。
(中略)
入手した写真によると、海警艦船の新造や改修が実施されている浙江省舟山市のドック近くの埠頭に1月下旬、計9隻が係留されていた。デッキ上では乗員が行き交い、装備の点検を行っていた。迷彩服に身を包んだ数人が物資を搬入する姿も見られた。

中国海警局150隻体制を始動 海保の2倍超、軍艦と同じ主砲も | 共同通信 (2023/02/01)

20230202064208

1月下旬に撮影された海警船には満艦飾が施されているので、春節の祝典のために特に集められたのだろう。

この写真には7隻が写っている。船首の番号が見えているのは「海警2306」「海警2302」「海警2301」(*2)の3隻。番号は見えないけれど「海警2901」のブリッジと特徴的な大きな煙突が見える。一番後ろに見えるのは76ミリ速射砲を乗せた「海警2501」とその右側の「海警2502」だ。そして「海警2306」の向こう側に818型海警船がいる。
(*2)「海警2306」は、もと「海監1310」でその前は「海監110」の、もと海軍のオーシャンタグだった船。「海警2302」は、もと「海監2306」。「海監2301」はもと「海監2305」。この3隻は機関砲は装備していない。

 

ここに計9隻が係留されていたそうだが、専用埠頭が拡張される前は大型船は6〜7隻、船と船とを並べて係留して10隻がやっとだった。

 

次のGoogleEarthのスナップショット画像は埠頭の拡張工事が始まる前の2019年8月のもの。中央に海警2901が、後ろに海警2501と海警2502が並べて係留されている。3000トン級と1000トン級もいるけれど小さく見える。

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次のGoogleEarthのスナップショット画像は2022年2月。埠頭の延長工事が進められている。

中央に海警2901と818型、その後ろに海警2501と3000トン級がいる。ほかに1000トン級、2000トン級や3000トン級が係留され、ほぼ”満席”状態にある。

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共同通信の記事では「浙江省舟山市のドック近くの埠頭に」と紹介されているけど、べつに海警船のための専用ドックというわけでも無いだろうしそこはあまり関係はないと思う。

むしろ、舟山基地の専用埠頭と本部機能の拡張の方が重要なところだ。

 

専用埠頭の拡張によって軽く10隻の係留が可能となり、船と船を並べれば20隻の係留も出来るだろう。

本部ビルはその向かって左側、埠頭から延びている幅広の道路の左側にある小ぶりの建物だった。新しい本部ビルと別館らしい建物も完成し、本部機能が大きく拡充されたのではないだろうか。

20230202201754

 

次のGoogleEarthのスナップショット画像は2022年8月。専用埠頭の延長工事が終わった。

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OSINTのまねごとをして、共同通信の記事の写真がどこから撮影されたか調べてみた。共同通信の写真は、舟山基地のとなりにある緑地の岸辺の遊歩道から撮影されたものだろう。

もし許可なく撮影をしていたらスパイ行為として逮捕されかねないので、春節イベントの撮影で許可を得たのかもしれない。案外、中国海警局の側としても船団の威容と専用埠頭の延長部分のお披露目の意図もあるのではないだろうか。

20230202201802

 

産経新聞が共同通信の撮影として、76mm速射砲を装備する718B型「海警2204」の写真を掲載している。多分、共同通信の写真の「海警2306」のさらに前に「海警2204」が係留されていたのだろう。

20230202201758産経ニュース

 

実は、当ブログ管理人がまず注目したのは、今さら「海警2204」や76mm速射砲などではなく、この岸壁の白さと新しさだったりします。😆

 

 

【中国海警局】2022年版・中国海軍、中国海警局、等の船舶一覧 - アメリカ海軍情報局| 日本語つけてみた🙂 - pelicanmemo (2022-12-17)

 

【中国海警局】 海でも崩れた日中均衡 経済に続き警備力も「逆転」 - 日本経済新聞2016年5月29日 - pelicanmemo (2016-06-02)

 

【中国海警局】 718B型「海警2204」初確認、76ミリ砲(H/PJ-26型76mm単管速射砲)を装備 - pelicanmemo

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中国海警局150隻体制を始動 海保の2倍超、軍艦と同じ主砲も | 共同通信 (2023/02/01)

China puts into operation expanded coast guard fleet of 150 vessels - KYODO NEWS

中国海警法施行から2年 装備、組織の両面で進む「第2海軍」化 - 産経ニュース (2023/2/1)