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現代自動車のEV「アイオニック5」、事故車を解体【動画】 | 正面衝突で、バッテリーが炎上した場合と炎上しなかった場合。

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現代自動車(ヒョンデ)のEV「アイオニック5」の炎上事故について書いたブログ記事がまた少し注目されているみたいだし、ちょうど先日に、解体業者による「アイオニック5」の事故車の解説動画を見かけていたので紹介してみたい。

正面衝突でバッテリーと車体が「炎上した場合」と、「炎上しなかった場合」。

 

簡単に「アイオニック5」が正面衝突をしたときに炎上に至る要因について。

まず、現代自動車のEV「アイオニック5」のリチウム・イオン電池のバッテリー・ユニットは、車体の低い位置に広く薄く設置されている(EVプラットフォーム"E-GMP")。

 

20220621205558現代自動車より)

 

・衝突事故でリチウム・イオン電池のバッテリー・ユニットが変形するなどして、バッテリー・セルが強い衝撃を受けると発火する危険性が高い。バッテリー・ユニット内部の消火は難しく「熱暴走」が起きてしまうと、鎮火するまで長時間の冷却をしなければならない。車体の延焼も長くなる。

・車体の低いところに設置されたリチウム・イオン電池のバッテリー・ユニットが、縁石や車止めなど強固な構造物に早い速度でぶつかった場合、内部のバッテリー・セルが強い衝撃を受け、車体が炎上する危険性がある。これはガソリン車などでは起きえなかった炎上事故だ。

・正面衝突でも、車体前部の衝撃吸収構造が効果的に機能した場合には、バッテリー・ユニットへの衝撃も穏やかとなって発火に至らない場合もある。(今回、紹介する事故車のひとつ)

 

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1つめは、バッテリー・ユニットの内部で発火して熱暴走を起こし、車体が炎上した事故車の場合。
衝突箇所や、バッテリーを解体して被害状況の解説をしている。

 

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当ブログでは、これまでに事故を起こして炎上したEV「アイオニック5」について、検証と原因の考察、現地ニュースや公式の報告書を紹介してきた。数ヶ月の間隔で、3本のブログ記事を書いています。よろしければそちらもご参照ください。

現代自動車のEV「アイオニック5」、縁石にぶつかりバッテリーが損傷して全焼 - 韓国 済州島 - pelicanmemo (2023-03-31)

現代自動車のEV「アイオニック5」が衝突炎上、再び| 車幅より細い障害物への正面衝突で発火〜炎上リスク (追記あり) - pelicanmemo (2022-12-08)

現代自動車のEV「アイオニック5」、高速道路の料金所で衝突、炎上。搭乗者の死亡原因と、発火の原因と、車両火災の原因と。 - pelicanmemo (2022-06-21)

 

(追記:韓国、EVタクシー「アイオニック5」が暴走。時速188kmでブレーキ効かず、衝突防止機能も作動しなかった。 - pelicanmemo (2023-09-29))

 

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20220621205231現代自動車より)

現代自動車では、EV「アイオニック5」など電気自動車にE-GMP(Electric-Global Modular Platform)という電気自動車専用プラットフォームを採用している。E-GMPでは、車体前部のフレームをマルチ骨格構造として、正面衝突やオフセット衝突の際の衝撃を吸収し生存空間やバッテリー・ユニットを守る構造としている(と発表している)。リチウム・イオン電池のバッテリー・ユニットは車体下部に広く薄く設置されている。

上の図がE-GMPの模式図。左側が前方で、緑色で着色された部分がマルチ骨格構造。

20220621205558現代自動車より)

 

 

まず、バッテリー・ユニットの内部で発火して熱暴走を起こし、車体が炎上した事故車の場合。

この事故車は、車体の一番前のバンパーに大きな変形が無いところに注目してほしい。

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建物の壁や電柱などの構造物に衝突したのではなく、縁石や車止めのような道路の低い位置に設置されている構造物と衝突をしたのだろう。

マルチ骨格構造のフレームの一部が折れ曲がって、すっかり破断している箇所もある。かなり早い速度で衝突したのだろう。

・前輪(左側)。手前の白いのがバンパー。

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・車体の下から、前輪(右側)を撮影。
フレームが破断している(手をあてている箇所と、画面の中央下側に写っている車軸を支えるフレームの歪んだ箇所)

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バッテリー・ユニットは、前面が大きく変形をしている。

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表面が赤く焼け焦げている部分と、そうでない部分とがある。

 

バッテリー・ユニットを開けてみよう。

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外側表面が赤く焼け焦げた部分では、ユニット内部のバッテリー・モジュールはすっかり焼けて樹脂製ケースも原形をとどめていない。

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そうでない部分でも、モジュールの樹脂製ケースが変形をしたり、オレンジ色と黄色のケーブルやコネクタも真っ黒になっている。おそらく、消防隊員による消火と冷却が速やかに行われたので、すべてのバッテリーで熱暴走が起きる前に冷却と鎮火ができたのだろう。

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次は、キャビンに変形が及ぶほどの衝突を起こしたにも関わらず炎上しなかった場合。

車体は炎上せず、バッテリー・ユニットの変形もわずかで、内部のバッテリー・モジュールも正常な状態にある事故車。EV「アイオニック5」の2023年モデル。

 

まず、この事故車は、車体の一番前のバンパーがひどく潰れて壊れているところに注目してほしい。

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(追記修正:電柱に衝突したくらいではこうはならない(電柱の方がへし折れる)だろうから、比較的に幅広の壁などに衝突したのかもしれない。また、車体右側の損傷が少なく、可燃性のバッテリー冷却用のクーラント(冷却液)のタンクも損傷が少なかったためボンネットからの炎上に繋がらなかったと考えられる)

これはオフセット衝突なので、衝突部分にかかった衝撃はフルラップの正面衝突よりも大きかっただろう。

前輪(左側)は脱落している。ダッシュボードの変形と破壊も起きている。

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…にも関わらず、バッテリー・ユニットは正面とカバーの一部に少しの変形があるだけだ。焼けた跡も無い。

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バッテリーのコントロール・ユニット(車体の後部側にある)に診断モニターを接続すると、バッテリーのユニット全体とモジュールごとの状態が正常に表示された。バッテリーは「生きて」いる。

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バッテリー・ユニットを開けてみよう。

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バッテリー・ユニットの内部もとくに異常はみられない。(画像の奥側が車体の前部側)。

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車体の前側の、衝突があった中央左側で少しバッテリー・ユニットのアルミ押出形材の外殻に変形があるくらいだ。

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ヒョンデのE-GMPのマルチ骨格構造が、衝突の衝撃を適切に分散させてバッテリー・ユニットへの衝撃を防いだと思われる。
(2023年モデルでE-GMPの設計や材質を変更した可能性も考えられるが、大きな発表は無かったと思う)

 

オリジナルの動画はこちら。

炎上した事故車「アイオニック5」の方。

엔진룸 불탄 현대 전기차 아이오닉5의 배터리 상태??/Hyundai Ionic 5's Battery status with engine room burnt-down #전기차폐차 - YouTube

 

炎上しなかった事故車「アイオニック5」の方。

현대 아이오닉5 사고차의 32개 배터리모듈 상태는?/32 Battery module status of damaged EV Ionic5 #아이오닉5배터리상태 #전기차배터리 #egmp - YouTube

 

まとめると、

自動車の衝突安全性能の評価で行われる衝突試験だけでは、電気自動車(EV)のバッテリーにかかる衝撃の評価が充分に出来ていない。

特に、現代自動車(ヒョンデ)のE-GMPのような車体の低い位置にバッテリー・ユニットを置いている電気自動車(EV)では、車体前部の衝撃吸収構造をすり抜けてしまう危険性がある、実際に死亡事故も複数起きている。

そういうリスクがあることはもう少し知られても良いと思う。

 

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ただし、現代自動車(ヒョンデ)の電気自動車(EV)で、炎上事故がとくに多く起きているのか?というと必ずしもそうではない。

 

韓国の交通安全公団 自動車安全研究院は、2020年からの電気自動車の火災事故の統計データを公表した。

전기차 화재 3년새 3배로…절반은 '고전압 배터리'서 발화 | 연합뉴스 (2023-09-24)

電気自動車の火災事故は、2020年に12件、2021年に15件、2022年に33件と急増している。2023年は8月までに34件なので今年はさらに増加が見込まれる。

この3年間で、電気自動車の火災事故は約3倍となったわけだ。

しかし、電気自動車の韓国国内での新規登録車数は、2020年に4万6623台、2021年に10万0355台、2022年に16万4324台と増加している。
この3年間で新規登録車数は4倍となったので、単純に比較すると電気自動車の火災事故のリスクは下がっているとも言える。

 

2020年から2023年8月までに韓国で電気自動車の火災事故は94件が発生した。

16件(17%)は外部要因。密閉型補助バッテリーや携帯用充電器など車載アクセサリが原因だった。

残りの78件のうち51件(54.3%)が電気自動車の「高電圧バッテリー」が原因で火災が発生した。すべての電気自動車の火災事故のうち半分以上、外部要因を除いた火災事故の約3分の2となる。

残りの27件(28%)は、コネクタや座席ヒーターなど車両のその他部品が原因だった。

 

自動車メーカー別では、現代自動車(コナEV、ポーターII・EV、アイオニック5など)が40件(42.6%)、KIA(ボンゴ3EV・ソウルEVなど)が14件(14.9%)。輸入車では、アウディ(e-tron)で7件(7.4%)、テスラ(モデル3・X・Yなど)で6件(6.4%)と記事は書いている。全部を足しても67台なので、他のメーカーのいろいろな電気自動車の炎上事故もあるのだろう。

 

韓国の国土交通部の統計によると、2023年8月までに普及した電気自動車は累積48万8216台で、そのうち販売台数トップの現代自動車は21万4093台(43.9%)だった。火災事故のメーカー別内訳で42.6%なので、ほぼ同じ割合となる。とくに火災事故が起こりやすいメーカーで電気自動車だというわけではない。

一方、KIAは13万5866台(27.8%)、テスラは5万2116台(10.6%)なので、普及台数の割合と比べると相対的に炎上事故が少ないと記事は書いている。数台の違いですぐに変わる数字なので、たまたまそうなっただけかもしれない。

数字だけを見ると、アウディのe-tronは大丈夫か?と思ってしまった。

 

韓国の国会の国土交通委員会の委員である”ともに民主党”のチョ・オソプ(조오섭)議員は、電気自動車の火災事故の半分以上(外部要因を除くと65%)が高電圧バッテリーが原因で発生しているにもかかわらず、電気自動車バッテリーの安全性検査装置(KADIS)をそなえる検査所は全体の3割しか無いとして、「電気自動車を整備するインフラと関連の制度が、電気自動車が普及する速度に追いついておらず、急いで補完することが必要だ」と述べた。

 

日本でも同じような状況にあるだろう。