韓国、現代自動車（ヒョンデ）の電気自動車(EV)「アイオニック5」の火災事故について書いたブログ記事のアクセス数が増えていたので「もしかして、また・・・」と思ってあちらのニュースを調べてみたら、釜山で「アイオニック5」タクシーの暴走と衝突、火災事故の動画が流れていた。運転手は事故を目撃した市民によって救助された。
電気自動車(EV)の火災事故率は高いわけではないんだけど、韓国ではEV車の「急発進」と「衝突・炎上」のコンボで問題が大きくなっているようだ。
부산서 전기차 택시 충돌 화재…시민이 운전사 구조(종합) | 연합뉴스
こんな感じで韓国のEV火災事故のニュースをたくさん見聞きしている。消火活動は鎮火までだいたい2時間はかかるケースが多かったように思う。ところが、今回はわずか50分で鎮火させたそうだ。
韓国の消防当局は電気自動車(EV)火災への対応のスキルが高くなっているだろう。
（注：消火ではなく鎮火です。電気自動車(EV)の火災では、いったん鎮火しても再びバッテリーから燃焼する危険性があるので、鎮火したあとに空き地などへ牽引していって安全な状態で冷やされる。完全消火までもっと時間がかかる）
そしてニュースでいつも目にする黄色と黒色の簡易プール。
すっかりおなじみとなったので、この機会に電気自動車(EV)の火災、特にバッテリー火災を消火する装備について調べてみた。キーワードは「沈める」「覆う」「突き刺す」。
韓国の消防署がEV火災事故で使っている黄色と黒色の簡易プール。実はこれ、水害対策の止水板です。
（YOOIL ENGINEERINGより）
特別な構造ではないABS樹脂製なので、てっきり韓国で作られたものだと思っていたら実は米国製だった。Barrier Solutions社の製品「Flood Fence」で、韓国ではヨーイル社（유일기연, YOOIL ENGINEERING）が販売しているようだ。
すぐに多くを入手できる既製品で、「黄色と黒色」の二色だから視認性が高くて消防装備ぽいので選ばれたのではないだろうか。
新たな用途が発見された製品のひとつに並べられるだろう。
こういった水圧を利用する止水板は、設置場所が平坦なら意外と水漏れはしません。
FloodFence is used to extinguish lithium batteries
現代自動車のEV「アイオニック５」、事故車を解体【動画】 | 正面衝突で、バッテリーが炎上した場合と炎上しなかった場合。 - pelicanmemo (2023-09-27)
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電気自動車(EV)は車重が２トンを越えるものもあるので、事故現場でクレーンで吊ったりジャッキアップさせて全体をプールに沈めるのは難しい。この止水板を使った簡易プールは手軽に設置できてポイントが高い。
初期消火をしてバッテリー・パックをとりあえず冷却出来たら、手早く事故車両を動かせるところも良い。鎮火したら交通の邪魔にならないように空き地や類焼するものが無いところへと搬送していって、改めて車体全体を沈められるタイプの簡易プールを設置して水に浸けて冷やせばいいわけだし。
日本メディアの電気自動車(EV)火災への対策の記事では、防火・遮熱性能が高いファイヤー・ブランケットがよく紹介されている。ノルウェーのBridgehill 社が製造しYONE株式会社が輸入販売している製品の記事をよく目にする。
（YONE株式会社より）
駐車場や倉庫での類焼対策や、大量の水へのアクセスが厳しい場所ではこちらがよさそう。縦横1.5mの小さいタイプもあるので電動スクーターや自転車のバッテリー火災で使えそうだ。
【EV火災の画期的な鎮火法】ファイヤーブランケット【YONE株式会社】 製品紹介動画_005-1 - YouTube
ファイヤーブランケットをかぶせた車両に、さらに止水板を使って簡易プールを作ってバッテリーを冷やす手もよさそう。
電気自動車(EV)の火災事故では、消火活動で話題になっているのはこのくらいかなあ…と思いつつ、さらに調べていたら、なんとバッテリー・セルをダイレクトに消火してやるというものがあった。
電気自動車(EV)のバッテリー・パックは、テスラはじめ車体下部に設置されているモデルが多い。そこで車体の下からバッテリー・パックを突き刺して穴をあけ、消火剤を一気に注入してバッテリー・セルを黙らせる。Rosenbauer 米国のBattery Extinguisher System Technology (BEST)だ。
そんな衝撃をバッテリーに与えたらさらに爆発的な燃焼につながりそうだけど、その隙を与えずに消火剤をぶち込むのだろう。うーむ、アメリカらしい力技だ。
Rosenbauer Battery Extinguishing System Technology (BEST) - YouTube
「水のプールに沈める」「不燃素材で覆う」のほかに「突き刺して直接に消火」があったので、もうちょっとこう・・・スマートな方法は無いものか？と調べてみたら、あった。
スウェーデンのCold Cut Systems社のCobra Ultra High Pressure Lance (UHPL) 。
火災車両の初期消火をした後、まず、サーマルカメラを使って発熱している箇所をピンポイントで確認する。次に、そこに300気圧の高圧で研磨材を加えた水を吹きつけてウォーター・カッターのように穴をあけて注水し、発火しているバッテリー・セルを直接に消火・冷却する。
もともとは外部からは消火しにくい建物や場所で、ドアや壁を抜いて霧状に放水して消火するシステムのようだ。外から細い隙間を使って消火剤を噴射できるので、バックドラフトのリスクは少なくなりより安全に消火活動を行える。
What Makes the Pressure? - Cold Cut Systems AB
Lithium-Ion Battery Fires - YouTube (この映像は電気自動車(EV)で行われた試験を映像化するために作られたもので、実際の試験のものではありません。）
スウェーデン民間緊急事態庁 (MSB) から2023年3月に発表されたリチウムイオン電池の消火方法の実証試験の報告書では、添加物を含まない水を使用して消火するまでに15分（初期消火に10分、超高圧Cobraでの消火に5分）と最も短かった。さらに使用する水は毎分60リットル弱なので、超高圧Cobra切断消火機で使った水は300リットル弱。消火栓につながなくても消火ができるかもしれない。
日本では三井造船特機エンジニアリングが販売している。三井造船というあたり、この紹介動画からも海上コンテナ火災が想定されているだろう。
New report presented - Cold Cut Systems AB
Cutting extinguisher - Wikipedia
電気自動車(EV)火災でここまで理想的に消火できるものか？といった疑問符も浮かんでこなくもない。いまのところ、実際の電気自動車(EV)火災事故で使われた例は見当たらない（探し方が悪いのかもしれない）。
超高圧Cobra切断消火機の記事と発表を読んでいて、日本の消防署で導入されたインパルス消火システムや圧縮空気泡消火システム(CAFS)がイメージされた。ただ、インパルスの10倍以上の高圧で専用設備が必要なので、日本での導入には少しハードルが高そうだ。
一方、デンマークでは、放水ノズルにドリルをくっつけた「EV Firegun」というものもあった。ドリル好きにはたまらないけど（苦笑）こちらは試験段階のよう。
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FloodFence Flash Flood Barrier
FloodFence is used to extinguish lithium batteries
Rosenbauer Introduces the Battery Extinguishing System Technology (BEST) - Rosenbauer
New report presented - Cold Cut Systems AB
What Makes the Pressure? - Cold Cut Systems AB
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