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海外の話が多め。近頃は中国が多め(中国海警局・中国海監、深海潜水艇、感染症など)。

中国、フルデプス有人深海潜水艇「奮闘者」号、潜水作業回数が累計230回、「蛟竜」「深海勇士」と合わせて1100回超

20240310203051交汇点/新华报业网 より)

中国の全国人民代表大会(全人代)と合わせて開催された中国人民政治協商会議(全国政協)で3月4日、会議場の外で行われる集団記者会見「委員通道」が実施され、全国政協委員(江蘇省)で中船(中国船舶重工股份有限公司)第702研究所副所長の葉聡(叶聪)が中国の有人深海潜水艇の実績と最新の成果などを発表した。

葉聡(叶聪)は、1万メートル級・フルデプス有人深海潜水艇「奮闘者(奋斗者)」号の総設計師で、7000m級有人深海潜水艇「蛟竜(蛟龙)」号の主任設計士とテストパイロットを勤めていた。1979年11月生、43才と若い。

彼のチームメンバーの平均年齢は34才で、何人かは95后(1995年生まれ)と言い、若い科学人材の育成は自分の職務での重大な関心事の一つだと述べた。

中国の3隻の潜水船、潜水作業回数は累計1100回超--人民網日本語版(2024年03月05日) 

叶聪委员亮相2024全国两会首场“委员通道”:培养更多青年科学家担重担、挑大梁 - 人民网 (2024/3/5)

20240310203047交汇点/新华报业网 より)

フルデプス有人深海潜水艇「奮闘者」号「奋斗者」中国語読み Fendouzhe、英語名はStriver)は、2020年に海試が行われ同年11月にはマリアナ海溝チャレンジャー海淵で中国初の水深1万909メートルの有人潜水記録を成功させた。それから2023年までの4年間に累計230回の潜水が行われた。そのうち水深1万メートル超は25回、潜水士と科学者ら32人が潜ったそうだ。

 

水深1万メートル以上の、世界でもっとも深い海の底に到達した人類は宇宙に行った人数よりも少ない。

2018年まではわずか3人(*1)、2019年からCaladan Oceanic社のDSV「リミティング・ファクター(Limiting Factor)」では20人以上が潜水している。さらに「奮闘者」号によって世界最多の人数が超深海の水深1万メートルへ送り込まれている(国際共同研究で外国籍の科学者が搭乗したケースもある)

「蛟竜」号と4500m級「深海勇士」号と合わせて潜水作業の回数は累計1100回以上、この3年間は、世界の有人深海潜水の半分以上を中国が行っている。日本語ではほとんど話題にならないが、これらは意識しておいた方がよいところだ。
(*1)1960年1月の「トリエステ (Trieste)」で2人、2012年3月「ディープシー・チャレンジャー (Deepsea Challenger)」で1人。

List of people who descended to Challenger Deep - Wikipedia

 

 中国、フルデプス有人深海潜水艇「奮闘者」号、マリアナ海溝での水深1万m超の潜水と着底に成功。 ”双船双潜” - pelicanmemo (2020-11-22)

中国、1万m級・フルデプス有人深海潜水艇、「奮闘者」号と命名 - pelicanmemo (2020-06-21)

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20211018053715「奮闘者」号

 

1万m級・フルデプス有人深海潜水艇「奮闘者(奋斗者)」号と支援研究母船「探索一号」は2022年から2023年にかけて最初の大洋州環状科学試験航海を実施した。南太平洋のケルマデック海溝(ニュージーランドとの共同研究)、南東インド洋のディアマンティナ断裂帯とワラビー海溝(ワラビー・ゼニス断裂帯)(管理人注:"瓦莱比海沟"と一般向けに語ったが、オーストラリアの西側のワラビー・ゼニス断裂帯(Wallaby-Zenith Fracture Zone)のことだろう)で、計63回の潜航を実施した。これは1回の航海での最多の潜水回数の記録を更新した。

現在、ジャワ海溝での潜航をインドネシアと共同ですすめているそうだ。

中国のフルデプス有人深海潜水艇「奮闘者」号、ケルマディック海溝の最深部へ ニュージーランドと共同探査 - pelicanmemo (2022-12-25)

 

 

中国は、1万m級・フルデプス有人深海潜水艇「奮闘者(奋斗者)」号と4500m級有人深海潜水艇「深海勇士」号、7000m級有人深海潜水艇「蛟竜(蛟龙)」号の3隻の有人深海潜水艇を持っている。このうち「奮闘者」と「深海勇士」を中国科学院が運用し、「蛟竜」をCOMRA(China Ocean Mineral Resources R&D Association)(中国大洋鉱産資源研究開発協会(中国大洋矿产资源研究开发协会(中国大洋事务管理局)))が運用している。

 

葉聡氏は今回、3隻の有人深海潜水艇は累計1100回以上の潜水作業を行い、この3年間の全世界の半分以上の有人深海潜水任務を行ったと述べた。ここは(当ブログらしく😁)もう少し深く潜ってみたい。葉聡氏が昨年(2023年)10月に出演した青少年向け公開講座「子供たちのための専門家教室(给孩子们的大师讲堂)」の資料を参考にして、もう少し詳しく潜水回数を数えてみよう。

 

20240310203118

叶聪 奋斗者号总设计师、中国船舶科学研究中心研究|将深潜进行到底 - 腾讯网

 

次のグラフは中国はじめ世界の有人深海潜水艇の潜水作業回数を示している。
順番に、日本の「しんかい6500」(黄色)、米国の「アルビン」(青色(背景色に近いので分かりにくい))、中国の「深海勇士」(赤色)、「リミティング・ファクター」(白色)、中国の「奮闘者」(緑色)。なぜか「蛟竜」は載っていない。フランスの「ノティール」やロシアの「ミール」は使われていない。

20240310203114腾讯网より)

 

グラフに記されている毎年の深海潜航回数を、一覧に書き起こしてみた。

    2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
しんかい6500 日本 28 29 16 29 15 29 5 41 57
アルビン(*2) 米国 106 31 57 60 77 41 15 10 67
蛟竜 (*3) 中国
深海勇士 (4500m級) 中国       28 87 110 100 100 100
リミティング・ファクター           1 38 15 25 24
奮闘者 中国             30 51 75

(*2)「アルビン(Alvin (DSV-2))」はアップグレードが行われ、2022年から水深6500m の運用が可能となった。
(*3) なぜか、この資料に7000m級有人深海潜水艇「蛟竜」号の潜水回数は掲載されていない。

 

1万m級・フルデプス有人深海潜水艇「奮闘者(奋斗者)」号は、潜水回数を足すと2020年〜2022年は累計156回。4年間で累計230回なので2023年は74回(推計)となる。2023年に1万メートル超の潜水は行っていないようだ。

4500m級「深海勇士」号の潜水回数はきりの良い100回が続いているので実績値ではなく公式発表の目標値と考えられる。極秘任務もあるらしいので具体的な数字を公開したくないのかもしれない。尤も、天候や機材の問題で若干の変動はあったとしても、潜水回数が大きく変わるとはいえない。2022年10月には累計500回の潜水を行ったと報じられていた。(どこまで正しい数字なのか?それを信じられるか?は別問題として…)(人民日報 日本語版)。

全部を足すと525回(2017年〜2022年)だった。2023年は未定だが100回〜数十回だろう。

20171004060831「深海勇士」号

 

「奮闘者」(2000~2023年)と「深海勇士」(2017〜2022年)で深海への潜水を集計すると755回。3隻で累計1100回以上なので、これだけなら「蛟竜」の分は345回以上となる。仮に「深海勇士」の2023年分が100回だとすると「蛟竜」の分は累積245回、50回だとすると「蛟竜」の分は累積295回となる。

 

なぜか、この資料に7000m級有人深海潜水艇「蛟竜」号の潜水回数は掲載されていない。

「蛟竜」は2012年6月にマリアナ海溝で水深7062.68mの潜水を成功させ、それまで日本の「しんかい6500」が持っていた世界記録を塗り替えた。試験性応用航次を経て2018年11月に158回目の潜水作業に成功した後、大規模な技術的改修とアップグレードが行われていた。2021年に累積200回を記録し、2022年6月8日には216回目の潜水をしたというプレスリリースがある。

前述したように累積回数245回とした場合(「深海勇士」が2023年に潜水100回の場合)、残りは約30回となる。これだと2022年後半〜2023年には大洋航次1〜1.5回分しか残らなくなってしまう。機材の不具合が無ければ、2022年と2023年には1年に20~40回くらい潜水したと考えたほうが受け入れやすそうだ。

 

20240213201923「蛟竜」号新华网より)

 

ちなみに、日本の「しんかい6500」は1989年(平成元年)の海試(潜航深度6527mを記録)の後、1990年(平成2年)4月に竣工してから17年後、2007年(平成19年)3月に1000回目の潜航を記録した。
一方、中国の「蛟竜(蛟龙)」の初潜航は2009年だからもう15年が経つ。試験期間が長くて、途中で大規模改修とアップグレードにより運用しない数年があったとしても、約10年で300回というのはちょっと少なくて残念だ。最初の支援母船「向陽紅09(向阳红09)」が船齢30年以上の元海洋調査船を改修しただけの老船な上、ハンガーが無く研究支援設備が貧弱だったとこも影響しただろう。

「深海勇士」が竣工してから「蛟竜」のアップグレード工事と新しい支援母船の建造に入ったので、その後も水深3000m級の潜水作業では「深海勇士」に任されたようにも思う。

もしかしたら、葉聡氏の「大師講堂」公開授業のグラフに「蛟竜」号の潜航回数が載っていないのは、「我が国(中国)の有人深海潜水艇は右肩上がりで潜航実績を増やし、今や世界をリードしている」といった中共中央好みのストーリーに水をさしそうだ…と資料作成者が考えたのかもしれない。

 

「蛟竜」は近頃は北西インド洋の熱水域や、今年の南大西洋(注:南太平洋ではない)中央海嶺の熱水域など、中国から遠く離れた海域でも活動している。有人深海潜水艇が3隻になったことと、支援母船が新型となって長期間の航海と調査研究任務にも耐えられるところが大きい。

欧米や日本による調査が十分には行われていない海域の海溝や断裂帯、熱水域の潜航と調査を行って深海底資源探査と科学研究の実績を着々と積んでいる。

 

20240310203111有人潜水艇3隻(左側)と無人潜水艇腾讯网より)

 

 

国連海洋法条約に基づいて海底資源開発を管理する目的で設立された国際海底機構(ISA)(International Seabed Authority)では、現在、理事会で深海底鉱物資源の開発に係る規則の策定が進められている。

国際海底機構(ISA)の事務局長、マイケル・ロッジ(Michael W. Lodge)氏(UK)の任期は2024年末で切れる。続投の回数に制限はないと思うが、前の事務局長は8年、その前の事務局長(初代)は12年つとめている。2020年に再選しているロッジ氏が、2024年の今回も再選されるかどうか不確定なところもある。

深海底鉱物資源開発の推進に熱心な中国は、国際海底機構(ISA)への巨額の拠出金と合わせて、国連海洋法条約に関係する国際機関への影響力の拡大を目指すだろう。

 

 

中国は8年前の全国人民代表大会(全人代)(2016 年3月)で、国家の管轄範囲にあたらない深海の海底の資源探査や開発活動、環境保護等について定めた「深海海底区域資源探査開発法 (深海海底区域资源勘探开发法)」を可決した。

 

中国の3隻の潜水船、潜水作業回数は累計1100回超--人民網日本語版(2024年03月05日) 

中国の3隻の潜水船、潜水作業回数は累計1100回超 - レコードチャイナ (2024年03月05日)

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国際海底機構|外務省

 

将来の構想。深海底有人ステーション、有人潜水艇と無人潜水艇との群体(軍隊では無い)使用、ネットワーク化など

20240310203107腾讯网より)