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海外の話が多め。近頃は中国が多め(中国海警局・中国海監、深海潜水艇、感染症など)。

中国のフルデプス有人深海潜水艇「奮闘者」号、ジャワ海溝の最深部へ インドネシアと共同探査

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3月22日、中国科学院 深海科学・工学研究所(IDSSE-CAS)とインドネシア国立研究革新庁(BRIN)はジャワ海溝における両国共同科学調査遠征を成功裡に終了した。

中国の1万メートル級・フルデプス有人深海潜水艇「奮闘者」号を使い、ジャワ海溝(スンダ海溝)(*)の最深部、水深7,178メートルまでの潜水が行われた。今回の潜水でインドネシアによる深海潜水記録が更新された(*1)
(*)インドネシアと中国の両方の発表と報道で「ジャワ海溝(Palung Jawa, 爪哇海沟)」が使われているので、ここでもスンダ海溝でなくジャワ海溝の方を使用する。

 

調査航海は2月28日から3月22日まで行われ、インドネシアから研究者4人とセキュリティ担当者1人、中国の研究者15人、支援研究母船「探索一号」と「奮闘者」の乗組員40人が参加したそうだ。ジャワ海溝(約3200km(ジャワ島〜スンバ島))で22回の潜水が行われ、うち14回は水深6000m超だった。

インドネシア国立研究革新庁(BRIN)(*)の海洋微生物研究者 ユスティアン・ロヴィ・アルフィアンサー(Yustian Rovi Alfiansah)氏は、「今回の海洋科学調査はインドネシアの深海の生物多様性を研究し、スンダ・サブダクション・ゾーン(沈み込み帯)の独特の地質学、生物学、環境、およびジャワ海溝の超深海(Hadal)生態系への潜在的な影響に関する新たな情報を得ることを目的としている」と述べた。
(*)BRIN(Badan Riset dan Inovasi Nasional (National Research and Innovation Agency))

 

南シナ海では、インドネシアのナトゥナ諸島沖EEZでの中国漁船の違法操業と、中国が一方的に主張する”九段線”の管轄権の主張と実力行使など両国間に海洋権益に関する軋轢がある。それにも関わらず、今回の中国との国際協力をインドネシアの海事・投資調整省(CMMAI)大臣は前向きに評価する発言もしている。

実際問題、インドネシアは長大な海岸線を持つ島国であり管轄する海域も広大なのに、海洋調査は充分には行われていないため19%ほどしか海洋地図が作成されていないそうだ。自国での調査をすすめたくても機材や人材、技術力や時間など足りないものは多い。こういうとき、複数の有人深海潜水艇と支援母船をもつ中国の強みが発揮される。
中国との共同研究や有人/無人潜水艇の共同開発を模索する国はほかにもあるだろう。

 

20240328200405(新華社より)

 

中国、フルデプス有人深海潜水艇「奮闘者」号、潜水作業回数が累計230回、「蛟竜」「深海勇士」と合わせて1100回超 - pelicanmemo (2024-03-12)

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20240328060025(支援母船「探索一号」のハンガーから「奮闘者」号。ルフット海事・投資調整大臣(最前列・中央)とインドネシアと中国の関係者で記念撮影)(インドネシア共和国海事・投資調整省より)

 

インドネシア海事・投資調整省(CMMAI)の調整のもと、インドネシア国立研究革新庁(BRIN)は中国科学院 深海科学・工学研究所(IDSSE-CAS)との共同研究が実施された。インドネシア側の研究チームにはBRINの研究者に加えて、一般公募のケンダリにあるハル・オレオ大学やスラバヤのハン・トゥア大学の代表も参加した。

 

首都ジャカルタ近くのタンジュンプリオク港で行われた記念式典で、インドネシア国立研究革新庁(BRIN)のラクサナ・トリ・ハンドコ長官(Laksana Tri Handoko)は、これからも海洋研究・革新における国際協力を強化する可能性があると述べた。中科院深海所との深海研究分野での協力は今後も行われるようだ。それに加えて、インドネシアは日本やフランスなどと共同で海洋調査を行っているとし、BRINは研究協力のため学者や民間部門の研究者を招聘していると述べている。

 

ルフット・B・パンジャイタン(Luhut B. Pandjaitan)海事・投資調整大臣は、インドネシアには深海調査のための設備がないため、協力は非常に有益であると述べた。また、この協力は知識と技術を共有する取り組みであり、インドネシアの深海船舶の研究、技術、能力が強化されるだろうとも付け加えた。

「なぜ中国なのかと疑問に思う人もいるかもしれない。インドネシアに利益をもたらす限り、コラボレーションは誰とでも行うことができると私は言います。重要なことは、双方が協力することで利益を得られるということだ」と同氏は強調した。(Google訳)

“Orang mungkin bertanya, mengapa harus dengan China? Saya katakan, kolaborasi dapat dilakukan dengan siapa pun, selama itu membawa kebaikan bagi Indonesia. Yang penting, kedua belah pihak yang berkolaborasi bisa mendapatkan manfaatnya,” tegasnya.

Kolaborasi Eksplorasi Laut Dalam, Menko Luhut: Ini Momen Bersejarah! (インドネシア共和国海事・投資調整省)

 

今回のジャワ海溝潜水調査(中印尼爪哇海沟联合科考 / Ekspedisi Palung Jawa(Java Trench Expedition)は、中国が2020年から開始した世界の海溝での潜水探査計画(Global Trench Exploration and Dive Program(Global TREnD))(全球深淵深潜探査計画(全球深渊深潜探索计划))の一環として行われている。

中国のフルデプス有人深海潜水艇「奮闘者」号、ケルマディック海溝の最深部へ ニュージーランドと共同探査 - pelicanmemo (2022-12-25)

Delving into the deep: China launches global collaboration program for advancing hadal science

 

ルフット・B・パンジャイタン海事・投資調整大臣は、式典の後、支援母船「探索一号」を訪問し研究者との交流を行った。

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ちなみに今回、ジャワ海溝の最深部に潜水したインドネシア側の研究者のなかに女性(ムスリマ?)もいたようだし「奮闘者」号のパイロットにも女性が加わっていた(公式発表の写真や集合写真、等々から当ブログ管理人が推測)。しかしニュージーランドの時と違って、双方ともそれを特に話題にはしていない。お国柄かなあ(その善し悪しは別問題として)

 

(*)新華社通信日本語版の記事では「期間中、両国の研究者は中国の全水深有人潜水艇「奮闘者号」を用いた7178メートルの潜水に成功、インドネシア深海での潜水記録を更新した。」と書かれている。外国メディア日本語版でよく見かける説明不足な訳し方で、読み手によっては誤解しそうな表現だ。

ジャワ海溝(スンダ海溝)の最深部は、2019年に「DSV limiting factor」が計測した7,192メートルまたは7,189メートル(BGS)、7,290メートル(wikipedia(en), Earth-Science Reviews)で、こちらの方が少し深い。

中国語原文は「创下印尼深海下潜新纪录」、英語版は「...setting the deepest dive record for Indonesia,」。

今回の「潜水記録を更新」とは、インドネシア人による深海潜水記録の更新を意味している。3月22日の記念式典では、インドネシア国立研究革新庁(BRIN)の研究者 ユスティアン・ロヴィ・アルフィアンサー(Yustian Rovi Alfiansah)氏とアンディナ・ラマダニ・プトゥリ・パネ(Andina Ramadhani Putri Pane)氏の2人に対してインドネシア世界記録博物館 (MURI) の記録証明書の授与が行われた。

中国・インドネシアの合同科学調査、7178メートルの潜水新記録 - 新華社通信 日本語版

7178米,中印尼联合科考创印尼深海下潜新纪录-新华网

China-Indonesia joint scientific expedition sets Indonesia's highest diving record-Xinhua

中印尼联合科考“奋斗者”号创下印尼深海下潜新纪录_新闻频道_央视网(cctv.com)

 

Two BRIN researchers achieve MURI record in the Deep Sea Expedition - BRIN - Badan Riset dan Inovasi Nasional (インドネシア国立研究革新庁)

Kolaborasi Eksplorasi Laut Dalam, Menko Luhut: Ini Momen Bersejarah! - Kementerian Koordinator Bidang Kemaritiman dan Investasi RI (インドネシア共和国海事・投資調整省)

Peneliti Indonesia-China Jelajahi Titik Terdalam Palung Jawa, Ada Apa? - denpasarinstitute.com

Peneliti BRIN Jelajahi Titik Terdalam Palung Jawa untuk Teliti Kekayaan Biodiversitas Laut Dalam Indonesia - Suara Merdeka

Gandeng Cina, Indonesia Eksplorasi Potensi Laut Dalam di Palung Jawa

Eksplorasi Palung Jawa Indonesia Gandeng Cina - Indopos

Luhut: Eksplorasi laut dalam RI-China untuk ungkap potensi tersembunyi - ANTARA News

Menyelam hingga 7.161 Meter demi Riset Potensi Laut Dalam - Kompas.id

RI Bakal Gandeng China buat Gali Potensi Laut

Indonesia and China Strengthen Cooperation in Deep-Sea Research: We will Charge to the Deepest Point of the Indonesian Ocean!

ジャワ海溝 - Wikipedia

Sunda Trench - Wikipedia

 

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