英国で「酔っ払い」表す英単語、546例も パブ飲酒文化など影響?https://t.co/I7KoLNfHRG
— 毎日新聞 (@mainichi) 2024年3月16日
「drunk」の他に、膀胱を表す単語から派生した「bladdered」、ピクルスのように液体漬けという「pickled」、二日酔いの頭痛がハンマーで打たれたような状態との意味の「hammered」などが紹介されています。
先日少し話題になっていた、英国では「酔っ払い」「酔っていること」を表す単語が546例もあるという記事。記事コメントやX(twitter)の反応を読むと、「酔っ払いが多いから」という感想のほかに、他の国には「〜を表す単語がたくさんある」「日本では〜を表す単語がたくさんある」といった比較もされていた。
例えば、国際政治経済学の鈴木一人氏のX(twitter)によると「フィンランド語では「雪」を示す言葉が11種類」あり、英国ガーディアン紙の記事によるとノルウェー北部やスウェーデン、フィンランド、ロシアに住むサーミ人は雪を表す言葉を300 以上持っていると言われている。"Åppås" は冬の手つかずの雪を意味し、 "Säásj" は緩んで粗くなった古い雪、 "Tsievve"はトナカイですら掘ることが出来ないくらい硬くなった雪を差すそうだ。確かにまるで、日本の雪や雨、天気や色彩を表現する単語の多彩さのよう。
最初は同じように、英国で「酔っ払い」を表す単語が多いのは「酔っ払い」や「酔っていること」に対する解像度が高かったり、”般若湯”や”賢人”や”聖人”という隠語が多いのだろうと思っていた。
たとえば、酔っている程度によって違う単語が使われ、ほろ酔い、泥酔、酔い加減のグラデーション、エールやビールやウイスキー、飲んでるものの違いから、街角パブでの流行語、政治談義とボクシング、笑い上戸に泣き上戸、やぶらこうじのぶらこうじ、等々それぞれの酔っ払いによって違う単語があるのだろう、そう、いっぱい(1杯?一杯?)やりながら🍻読んでいて感じた。
ちょっと気になったので、英国メディアの記事と元の論文を読んでみると、英国で「酔っ払い」「酔っていること」を表す単語が546例もあるのは、そんな隠語の数が多いとか解像度が高いというわけではなかった。また「酔っ払いが多いから、それを表現する単語も多い」というのは勘違い(酔っ払いが多くないと言っているわけではない)のようだ。
これが言語学者によるもので認知言語学の学会誌で発表というところをスルーせず、素面のときに読んでいたら見落とさなかったのかもしれない。🥂
英国では「酔っ払い」「酔っていること」を表す英単語が546例もあるとの研究結果が明らかになった。ドイツ・ケムニッツ工科大学のクリスティナ・サンチェスシュトックハマー教授ら2人の言語学者が2月、認知言語学の学会誌で発表した。
英国ではパブが連日盛況で、飲酒は日常の風景となっている。同教授や英メディアはこうした飲酒文化に加え、英国人の「ユーモアのセンス」が関連語を多くしたと分析している。
Ads by Google
元の論文は、ドイツの、ケムニッツ工科大学の言語学者クリスティナ・サンチェス-シュトックハマー(Christina Sanchez-Stockhammer)教授とフリードリヒ・アレクサンダー大学のビッグデータとデジタル分析を専門とする言語学者ペーター・ウーリグ(Peter Uhrig)教授が発表したもので、今年(2024年)2月19日に発行されたドイツ認知言語学協会(German Cognitive Linguistics Association)の年鑑に掲載された。英語で、CCライセンスで公開(CC BY-NC-ND 4.0 DEED)されている。末尾の別表には546例がサンプルの出現頻度順で列記されている。
英国メディアが2月下旬に報じた。
“I’m gonna get totally and utterly X-ed.” Constructing drunkenness
Appendix 1: Words expressing the state of drunkenness
英国では「酔っ払い」「酔っていること」を表す単語が546例もあるという。
たとえば、「今夜はお酒を飲む予定ですか?」と聞かれて「ご冗談でしょう?私は完全に"駐車しますよ”(I’m going to get totally and utterly carparked!)」は分かりやすい。英国でも飲酒運転は厳罰だ(そういうことじゃない 😅 「昨夜はお酒を飲みましたか?」と聞かれて「いいえ、私はすっかり”見晴らし台でした”(I was utterly gazeboed.」(見晴らし台(gazebo)-ed)))と言うのが”出来上がった状態”を示しているらしいのも分からなくはない。
日本でも「今日はどこまで行くー?🤣🍻」からの「今日は神田までー」「上野までー」「スカイツリーのてっぺんまでー🍻」というのはよくある昭和の酔っ払いの掛け合いだ(よくあったのか?w)。
しかし、「モーツァルトとリスト」や「ブラームス」、「シンドラー」、「オリバー」が出てきて「酔っていること」を表すと言われても訳が分からない、”酔っ払い”は英語で"drunk"とだけ憶えていたらいわんやをや。
原酒を読んだり、詳しい人から"pissed"が「酔っていること」を表す単語で広く使われているから、ピスト(pissed)と韻を踏んだ「モーツァルトと”リスト”」が使われていることと、「ブラームスとリスト」や同じように韻を踏んだ「シンドラーのリスト」「オリバー・ツイスト」が扱われたと説明されなければ分からないだろう(分からなかった)。
大事なのは、飲酒が関係する会話のやり取りでの文脈であり「ユーモアのセンス」だ。もしこれが、飲み屋でいきなり、何の脈絡も無く「おれはモーツァルトだー」と言っても通じないだろう。
あ、いや、むしろ「ヤバイ奴が飲んでいる」と周りに通じすぎてしまうかもしれない。😆
たとえば「昨夜はお酒を飲みましたか?」と聞かれたときに「ご冗談でしょう?昨夜はずっとモーツァルトを聞いていました」なら通じることもあるのだろうか?
ただ、この韻を踏んだ言い換えはロンドンの労働者階級が話す方言のコックニーがもとなので、会話の相手と場所によっては「お高く止まったいけすかない奴」というニュアンスを含んでしまうかもしれない。それでも、「酔っていること」を表す単語として「モーツァルトとリスト」が登場したのは1961年、「ブラームスとリスト」が登場したのが1972年だそうなので、50~60年もたてば他の社会階層やコミュニティでも通じるようになっているのだろうか?
流行り廃りはどうしてもある。オックスフォード英語辞典(OED)によると、2003年に豪州メルボルンの大衆紙ヘラルド・サンで使われているので「モーツァルトとリスト」は廃れていないようだ(どういう記事で文脈なのかは未確認)。どういった言い換えを使うかで、うっかり踏み絵になりそうな気もする。
前のほうで引用した、「今夜はお酒を飲む予定ですか?」と聞かれて「ご冗談でしょう?私は完全に"駐車しますよ”(I’m going to get totally and utterly carparked!)」等の部分は、英国のスタンダップ・コメディアンのマイケル・マッキンタイア(Michael McIntyre)による2009年のショー「上流階級の人々(posh people)」の一場面からの引用で、上流階級の人々は「酔っ払い」「酔っていること」を(お上品に)言い換えている隠語の例として(おもしろ可笑しく)紹介した。
これに対して論文では、マッキンタイアが2009年や2011年に例示したもののうちオックスフォード英語辞典(OED)に掲載されているのは多くはないと指摘する。興味深いことに、彼のショーがDVDになって広く知られるよりも前に、ショーの聴衆は聞いたことがないだろう表現に対して大きな笑いと拍手で反応している。聴衆が意味を理解したのは、「酔っ払い」の同義語が使われるまでの文脈に拠るものと分析している。
ここから、毎日新聞の記事で書かれている「英語では事実上、どんな名詞でも『ed』を語尾に付ければ、簡単に酔ったことの同義語に変換できてしまう」につながっている。
論文では、それでも「見晴らし台(gazebo)」に接尾辞(-ed)が付いた "gazeboed" のような例は分かりにくいので、マッキンタイアの例では、フォーマルな”すっかり(utterly)”や口語的な”完全に(totally)”、”スラングの強意語fucking”という前置修飾副詞を付けることで「酔っていること」が強調されるとしている。
つまり、居酒屋で「おれはモーツァルトだー」といきなり言っても分かりにくいので、「おれは浪速のモーツァルトやー」と”前置修飾副詞”を付けることによって「あいつ、アホや」と理解される(関西人にかぎる)し、その後、おもむろにピアノで「探偵ナイトスクープ」のテーマ曲をひいてみれば、拍手と喝采とともに「アホでおもろい酔っ払い」と認識されることだろう。😆
真面目なはなし、もとの論文と英国メディアの記事を読んでいて、英国では「酔っ払い」「酔っていること」を表す単語が多彩になる構造は、漫才に近いところがあると感じた。韻をふむところなどラップバトルとも通じようにも思う。どちらも相手や観衆がいなければ成り立たないし、ボケとツッコミのようなおいしいリアクションが無ければおもしろくない。共感されないと真似られないし記憶にも残りにくい。
現代の英国では「酔っ払い」「酔っていること」を表す単語の多さは、パブなどでの飲酒の文化に加えてそこでのコミュニケーション、ウィットのある会話と共感と雰囲気があってのもので、英国人の「ユーモアのセンス」が育んだものだろう。
もちろん、サンプル採集と分類、評価がまだ十分に行われていない新語の流行も生まれているはずだ。
そういえば、論文の原題"“I’m gonna get totally and utterly X-ed.” Constructing drunkenness"で「完全に、すっかり"X-ed"」となっている。実は、X(twitter)に接尾辞(-ed)を付けた「X(ツイッター)した」を「酔っ払った」「酔っ払い」となると暗に示している・・・というわけでは無いとは思う、自信はないが。😆
めも:書いてるときに?飲んでませんよ🍻
英国で「酔っ払い」表す英単語、546例も パブ飲酒文化など影響? | 毎日新聞
English got completely gazeboed and came up with 546 words for drunk - The Times
“I’m gonna get totally and utterly X-ed.” Constructing drunkenness
Appendix 1: Words expressing the state of drunkenness
Yearbook of the German Cognitive Linguistics Association
Christina Sanchez-Stockhammer | English Department | Faculty of Humanities | TU Chemnitz
ジョージ・オーウェルの言葉じゃない? 「ジャーナリズムとは報じられたくない事を報じることだ。それ以外のものは広報に過ぎない」 - pelicanmemo