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【中国海警局】 「海警2901」は何しに、尖閣諸島の沖80kmへ? | NHKがAIS情報をもとに報道

20240602202625NHKより)

NHKが中国海警局の万トン級「海警2901」のAIS(自動船舶識別装置)のデータをもとにした記事を公開した。過去5年分のAIS情報をもとに、ここ2年間はAIS位置情報を発信しながら東シナ海の日本が主張する日中中間線付近を航行したり、ときには尖閣諸島の北西約80kmの海域に近づいた様子が分かる。

中国が海洋進出を強めるなか、中国海警局の最大級の船が、東シナ海の日中中間線付近で、みずからの位置情報を発信して航行する、示威行動ともいえる動きを活発化させていることがわかりました。海域での存在感を高めるねらいがあるとみられ、海上保安庁が注視しています。

中国海警局最大級の船 日中中間線付近で位置情報発信し航行 “示威行動”ともいえる動き活発化 | NHK | 中国 (2024年6月2日)

 

まず、NHKが報じた「沖縄県の尖閣諸島の沖合およそ80キロメートルまで」近づいた海域には、中国が昨年(2023年)9月に日中中間線の日本側に設置した海洋ブイがある。

「海警2901」はいつも尖閣沖80kmの海域を航行していたわけではない。細かく見てみると、その海洋ブイがある海域にいたのは4月13日だけで、短い間に150km以上南下してすぐに北上して戻っていった。

 

4月12日、「海警2901」は尖閣諸島の北、約200kmの海域にいる。

緑色の点線は日本が主張する日中中間線を示している。黄色い点々がその時の「海警2901」の位置を示している。
画像の「尖閣諸島」の文字の左斜め上にある少し大きな点の海域に「海警2901」はいた。

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(AIS情報の画像はNHK報道の映像のスクリーンショットをもとに、当ブログ管理人がトリミング加工し日付など必要情報を追加した。ブログ記事後半にトリミングしていない画像を掲載した。以下同じ。)

4月13日に「海警2901」は急に南下した。昨年(2023年)9月に設置され、日本メディアでも報じられている海洋ブイがある海域まで移動している。

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問題の海洋ブイがある詳しい位置(赤丸)はここ。NHKのAIS情報の海域と合致している。

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中国が設置した海洋ブイ、日中中間線と尖閣諸島の領海・接続水域との位置関係 - 東シナ海 - pelicanmemo (2023-11-23)

 

4月14日には「海警2901」は北上して、4月12日にいたあたりの海域へ戻っている。

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最初、「海警2901」は、海上保安庁の巡視船や海洋調査船が海洋ブイの海域に近づいていた?ため、その警戒と監視のため移動したか?と思ったんだけれど、4月13日の一日(移動時間を差し引くと数時間〜半日)だけだったのでこれは違うだろう。

4月13日頃というと、岸田首相が米国を公式訪問(4月8日〜14日)し、日米首脳会談(4月10日)、米国連邦議会で演説(4月11日)、日本・米国・フィリピンによる首脳会談(4月12日)などがあった時期だ。中国側は日本側の動きに対して、問題の海洋ブイの海域へあらためて”マーキング”をしに行ったのかもしれない。

 

【中国海警局】 海上保安庁「しきしま」や「れいめい型」「しゅんこう型」等と、中国海警局の大型船を写真で比較。 - pelicanmemo (2024-03-29)

【中国海警局】 1万トン級「海警2901」と「PLH-31 しきしま」 写真で比較 - pelicanmemo (2016-03-24)

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ここからは4月8日から17日までの10日分のスナップショット画像と簡単なコメントをのせています。お時間のある方むけです🙂

 

前にも書いたように、日本メディアの記事や番組のパネルで例示する日中中間線は、イラストちっくな絵でいい加減な線を引いているものが多い。今回のNHKが使った日本が主張する日中中間線の線(緑色の点線)がどのくらい正確な線かは分からないが、ここでは確からしいものだとして書いていきたい。

 

中国海警局は2年くらい前から、日本の尖閣諸島の接続海域や領海でもAIS情報を発信して航行している。その海域を中国がパトロールしているアピールだろう。海上保安庁の巡視船は基本的にAIS情報を発信していないので、船舶航行情報サイトを見てみると、ぱっと見で中国の船しかいないと思われかねない(見えないだけ)。そういう状況は良くないので、なんとかしてほしいものです。

また、あくまでもAIS信号を発信している時だけのデータであり、さらにはAIS情報欺瞞が無い場合に限られる(南シナ海で中国側が行ったAIS擬装の実例が報告されている)、ということを頭の片隅においていても損は無いと思う。

 

 

ーー

4月8日まで、「海警2901」は東シナ海の日本が主張する日中中間線(緑色の点線)付近を航行している。日本側に地味に入り込んだところを航行している(らしい)ところがいやらしい。

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浙江省の沖合いでジグザグに航行しているのは東シナ海ガス田の海域広くをパトロールだろう。そこでは日本EEZにも大きく入り込んで航行をしている。

一応書いておくと、日本のEEZを「海警2901」が航行していても国際法上なにも問題はない。その一方で中国は、中国EEZや”管轄海域”は中国が法執行権を有する海域だと一方的に主張している。
また、EEZでの海洋調査をする際には管轄国への連絡が求められるが、日中間のEEZ境界は未確定なので、そこのバグをついて中国側は、日本EEZ内で連絡をせずに海洋調査を行っている。

 

4月9日。日本が主張する日中中間線(緑色の点線)の大きく折れ曲がったあたりの海域にいる。(画像の「尖閣諸島」の文字の左側あたり)20240602202724

4月10日、その辺りをぐるぐるしている。

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4月11日、日中中間線(緑色の点線)にそってやや北上。

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4月12日もそのあたりの海域。

画像の「尖閣諸島」の文字の左斜め上にある少し大きな点の海域に「海警2901」がいた。

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4月13日、急に南下して、例の海洋ブイがある海域へ移動。ざっくりと約150kmは移動した。

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AIS情報の発信が常に行われていて、一定の間隔でデータ受信されていた場合、「海警2901」は目的とする海域へ一気に向かっただろう。最高速度20ノットだったとすると片道4~6時間。海洋ブイのある海域には長くても半日くらいしかいなかっただろう。

 

4月14日には、12日にいたあたりの海域へと戻っている。

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4月15日もそのあたりの海域でぐーるぐる。

「海警2901」の拠点である浙江省舟山市の保障基地から、日本の尖閣諸島との中間あたりの海域を海上パトロールの起点としているのかもしれない。20240602202754

 

4月16日、東シナ海ガス田の方へ移動しだした。

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4月17日、行ったり来たり。

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日本メディアが、中国海警局の万トン級「海警2901」ととくに取り上げて報じることはかなりめずらしい。

南シナ海のフィリピン沖で起きている中国海警局や海上民兵船によるハラスメントに対して、は、フィリピン側は「積極的な透明化」を国際的な世論戦の戦術として対抗をしている。

日本の記事では、近ごろはAIS情報のデータ分析が多い。さらに透明化を進めていくのを中国はとても嫌がるだろうから、フェイク情報を抑止する意味でも積極的に検討してほしいものだ。

 

 

最後に、重箱の隅だけど🙂、「浙江省の港 拠点」というテロップに、海南省三亜市の埠頭に停泊している「海警2901」の画像を使うのはちょっとどうかと思う。🙃

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中国が海洋進出を強めるなか、中国海警局の最大級の船が、東シナ海の日中中間線付近で、みずからの位置情報を発信して航行する、示威行動ともいえる動きを活発化させていることがわかりました。海域での存在感を高めるねらいがあるとみられ、海上保安庁が注視しています。
(中略)
NHKが過去5年分のAIS=船舶自動識別装置のデータを分析したところ、この2年で、みずからの位置情報を発信しながら東シナ海の日中中間線付近を航行する動きが目立ち始めています。
 (中略)
さらにことし2月には台湾が実効支配している東引島の東側の海域を、4月には沖縄県の尖閣諸島の沖合およそ80キロメートルまで近づくなど、位置情報を発信して航行する、示威行動ともいえる動きを活発化させていることがわかりました。

 (中略)

関係者によりますと、中国側としては、海警局の象徴ともいえる「海警2901」を東シナ海に継続的に航行させることで、沖縄県の尖閣諸島周辺を含めた東シナ海での存在感を高めるとともに、日本側の出方をみるねらいもあるとみられ、海上保安庁が注視しています。

(中略)

関係者によりますと、「海警2901」は複数の船で航行する際、指揮を執る役割を担うとともに、海洋進出を強める中国側が海域での存在感を示すために航行させているとみられるということです。

中国海警局最大級の船 日中中間線付近で位置情報発信し航行 “示威行動”ともいえる動き活発化 | NHK | 中国 

 

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