インドネシアのバリ島の沖で、インドネシア海軍の潜水艦「KRI ナンガラ(402)」が沈没事故からもうすぐ1ヶ月となる。沈没から3日後の4月24日に、海軍は乗員53人全員が死亡したと発表をした。
「KRI ナンガラ(402)」(KRI Nanggala-402)が浮上せず行方不明となったことは、すぐに海軍から国際潜水艦脱出救難連絡事務局(ISMERLO)へと連絡され、近隣諸国が加わった捜索救助活動が行われていた。シンガポールやオーストラリア、インド、マレーシアが潜水艦救難艦などを送り、米国もP-8哨戒機を送った。
沈没と乗員全員の死亡が発表されたことで捜索救助活動は終了し、現在は、水深853m水深838m(追記修正5/19:中国側の調査で水深838mだった(以下同じく修正))の深海から潜水艦の残骸や乗員のご遺体を引き揚げる(サルベージ)ための調査が行われている。
(追記6/3:インドネシア海軍は、潜水艦「KRI Nanggala 402」の捜索とサルベージのための活動を正式に終了した。詳しくは後述。)
中国の駐インドネシア大使館の肖千大使からプラボウォ・スビアント(Prabowo Subianto)国防大臣に対して支援の申し出があり、政府がこれを受け入れたそうだ。中国海軍の潜水艦救難艦「863 永興島(永兴岛)」とオーシャンタグ(*1)「南拖195」と、中国科学院の深海科学調査母船「探索二号」の3隻が派遣された。
4月末にバリ島沖の現場海域に到着して、沈没した潜水艦の映像も撮影したようだ。その後の報道は見当たらないが、軍事的活動なので発表は少なく、中国側も一方的な公開は出来ないのだろう。続報を待ちたい。
(*1)中国海軍のオーシャンタグ(远洋拖船)は、海上自衛隊の艦種では補助艦の「多用途支援艦」にあたる。(ちなみに「南拖195」の出力は約2万馬力、「ひうち」型多用途支援艦の4倍。)
インドネシア側も海軍の艦船を派遣し、1200トン吊のクレーンをもつ石油・ガス総局の海底パイプライン敷設船「Timas 1201」の使用も検討されている。
水深約850mの海底からの船体のサルベージは非常に困難だ。船内の遺体の回収を行うとしても、圧壊して大きく3つに破壊された船体の残骸を動かすなど長い時間が必要となるだろう。
たとえば、2000年に沈没したロシア海軍の原子力潜水艦「クルクス(Курск)(К-141 )」のケースでは、水深108mの海底からの遺体と船体(原子炉・燃料)の回収に1年以上を要している。
2017年に沈没したアルゼンチン海軍の潜水艦「ARA San Juan (S-42)」は、船体が水深907mの海底で発見された。遺体や船体の回収は行われていない。
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深海科学調査船「探索二号」は中国科学院(*2)の、4500m級有人深海潜水艇「深海勇士」や、フルデプス1万m級「奮闘者」の潜水支援母船。(*2 正しくは、中国科学院と海南省深海技術実験室の共用) うちのブログではおなじみ。😁
国産4500m級「深海勇士」号がバリ島沖で潜水したという報道は見かけていない。けど、中国の海洋科学技術と人道支援活動のアピールに役立つ良い機会となるから運用をしているだろう。(むしろ、使っていると思いたい😅)
(追記 5/19:5月18日(現地時間)に調査第一フェーズが終了。「深海勇士」号は13回の潜水任務を行った。重量700kgの救命いかだが回収された)
「探索二号」を”サルベージ船”と紹介していた記事があった(多分、英文メディアの記事表現を直訳したもの)。それは間違いで潜水艇支援母船で海洋科学調査船。船尾のAフレーム・クレーン(100トン吊)は潜水艇の揚収用、他のクレーンは無人探査機やCTD採水装置に使われる。
Aフレーム・クレーンに重量物引き揚げ用の装置をつけられるかもしれないけど、わざわざ「探索二号」でそれをする意味があるとは思えない。長期間の派遣は、現在進行中の海洋調査計画に大きな影響をあたえる恐れが大きい。
マニピュレータで持ち上げられるサンプルバスケットに載せられる重さと大きさの残骸等ならともかくとして、大規模なサルベージをやるのは他の船やインドネシアのクレーン船にまかせればいいはなしだ。
--(追記:6/3)--------------------
インドネシア海軍は6月2日、潜水艦「KRI Nanggala 402」の捜索とサルベージの活動を正式に終了したと発表した。インドネシア海軍と中国大使館の駐在武官らが参加した終了式が行われた。ロイターによると、中国との協力終了後に回収作業を継続する計画はないそうだ。
残骸近くにみつかった”クレーター”が、船体の耐圧殻が海底に衝突したときに形成されたものと考えられている。乗員53人の墓標とされるのだろう。
TNI AL Resmi Setop Pengangkatan Kapal Selam KRI Nanggala
TNI AL Akhiri Operasi Pengangkatan KRI Nanggala-402 Halaman all - Kompas.com
TNI AL Beri Penghargaan Kepada Angkatan Laut China - Nasional JPNN
Salvage of Indonesian submarine ends as questions over military hardware loom | Reuters
印尼军方举行记者发布会宣布潜艇打捞结束 再次感谢中国海军协助 - 央视网
潜水艦引き揚げを断念、53人死亡と判断 インドネシア:朝日新聞デジタル
--(追記ここまで)------------------
「探索二号」のほかに、
中国海軍から2隻が派遣されている。
現段階では、海洋や海底地形の調査以外に出来ることはあまり無い。
派遣した船の乗員らに実際の事故現場での経験を積ませることは出来そうだ。あるいは「他国の潜水艦の捜索救助の支援のため、中国海軍も潜水艦救難艇を派遣した」と言って国際人道援助の実績として使うことが出来るかもしれない。
中央電視台(CCTV)のニュースとそれをもとにした中国内外の報道では、派遣された3隻はいずれも水深4500mの潜水作業深度をもつと伝えている。
その表現を額面通りに受け取ったとしても、ウィンチのケーブルが4500mあるとか、最大に見積もったとしても4500m級無人潜水艇(ROV)を運用する能力をもつくらいだろう。潜水能力とサルベージ作業能力は別のものだ。
むしろ、果たして中国海軍が水深4500m級の潜水調査とサルベージ能力を持つものか、その能力の一端を公表するのか?続報を期待している。
「863 永興島(永兴岛)」は大江級潜水艦救難艦(925型)。前の名前は「南救506」。今回の報道では、排水量1万トン超の大型艦と紹介されてはいるけれど実のところ1970年代に配備された古い船だ。同型艦は3隻。
中国海軍が運用している深海救難艇(DSRV)には7103型や英国から輸入したLR7がある。どちらも最大潜水深度600m級なので、今回の水深約850mでの作業には適さない。
オーシャンタグ「南拖195」は、交通運輸部・救助サルベージ局の大馬力遠洋救助サルベージ船「東海救101」(*3)等をモデルとして建造された新鋭艦。
海上での海難救助や、動力停止した大型船の曳航、船舶火災の消化活動などに最適化されていて、深海底の沈没船のサルベージは専門外。L型クレーン2基も大きなものではない。
ただし「東海救101」は、2014年に消息を絶ったマレーシア航空「MH370」便の捜索活動に参加していたので、同タイプの「南拖195」も同等かそれ以上の性能を持つだろう。
同型艦は現在6隻(北拖739、南拖195、东拖861、北拖743、南拖171、东拖863)。全長110m、型幅16m、排水量6000トン超。7200kwの主機2基で14400kw(約20000馬力)の出力を誇る。
ちなみに、海上自衛隊の同タイプの軍艦(補助艦)、「ひうち」型多用途支援艦は全長65m、幅12m、基準排水量980トン。主機2基で5000馬力(PS)。
単純に大きさだけ比較はできないけれども、中国海軍の補助艦船の大きさや数を見ていると、遠洋での活動の拡大や長期間の派遣も考えて艦船整備を行っているように感じられる。
交通運輸部や民間サルベージ会社(実質、国有会社)の船もあわせたら、いったいどれだけ持っているんだ?
うらやましいやら歯がゆいやら。
中国海軍、沈没のインドネシア潜水艦の引き揚げ支援へ - AFP (2021年5月4日)
“中国海军正在赶来救援的途中。”|印尼海军|印尼|中国海军 - 新浪网
Chinese Navy to help salvage sunken KRI Nanggala 402 submarine - National - The Jakarta Post
2 Chinese Navy Ships Arriving In Bali Waters To Evacuate The KRI Nanggala-402
Kapal Angkatan Laut China Tiba di Bali Ikut Evakuasi Nanggala - CNN Indonesia (03/05/2021)
Chinese Ships Arrive to Help Salvage Sunken Indonesian Submarine — Radio Free Asia
Anggota DPR: Waspadai kapal perang China masuk wilayah Indonesia - ANTARA News
TNI AL Minta Peristiwa Tenggelamnya KRI Nanggala-402 Tak Dipolitisasi - KOMPAS.com (05/05/2021)
TNI AL Akui Cukup Sulit Angkat Badan KRI Nanggala-402 ke Permukaan - KOMPAS.com (04/05/2021)
Salut, Peneliti Asing Kagum Atas Langkah Cepat Indonesia Laporkan Nanggala-402 Hilang (10/05/2021)
Ini Spesifikasi Kapal China Scientific Salvage Tan Suo 2 yang Akan Bantu Evakuasi KRI Nanggala-402 - Tribun Cirebon (04/05/2021)
TNI AL Akui Cukup Sulit Angkat Badan KRI Nanggala-402 ke Permukaan - KOMPAS.com (04/05/2021)(インドネシア海軍は、KRI Nanggala-402の船体海面に引き揚げることは非常に難しいことを認めている)
53명 태우고 사라진 인니 잠수함, 왜 무리한 훈련 나섰나
KRI Nanggala (402) - Wikipedia
ARA San Juan: las primeras imágenes del submarino a 907 metros de profundidad - BBC News Mundo