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海外の話が多め。近頃は中国が多め(中国海警局・中国海監、深海潜水艇、感染症など)。

フィリピン沿岸警備隊への 日本の支援 | 中国も 中国海警局との協力関係の構築を模索

20161101191436ジャパン マリンユナイテッド株式会社より Parola級巡視船「MALABRIGO(マラブリゴ)(4402)」)

フィリピンのドゥテルテ大統領が、今年10月下旬に、中国と日本を立て続けに公式訪問した。

 

日本はこれまでも、海上保安庁やJICA(国際協力機構)などの協力のもと、フィリピンの海難救助、海洋監視・警戒能力、海上安全の向上を支援するため、40m級多目的船10隻の建造と供与などの有償資金協力(ODA)や、無償資金協力、技術協力プロジェクトなどを行ってきている。

今回新たに、フィリピン沿岸警備隊(Philippines Coast Guard, PCG)に対して、円借款による、大型巡視船2隻の建造と供与などが決まった。

安倍総理大臣から,海洋安全保障では,フィリピンの能力向上を力強く支援したい,大型巡視船2隻の交換公文の署名を歓迎する,海洋安全保障対話を立ち上げ,具体的な協力について議論したい旨述べるとともに,海上自衛隊航空機TC-90の移転に向けた取極の署名を歓迎し,安保・防衛協力を積極的に推進していきたい旨述べました。

日・フィリピン首脳会談 | 外務省

 

一方、ドゥテルテ大統領の中国への公式訪問の時にも、フィリピン沿岸警備隊(PCG)と中国海警局(CCG)との間の、関係構築のための了解覚書が作成されている。日本メディアはこれについて特に報道していないようだ(日本語のニュースでは、ロシアのSputnik 日本語版が伝えている)。日本語の情報が少ないようなので、これについて少し。

 

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20161101191435

Philippine Coast Guard Official トップページより)

 

10月12日、日本が供与した、40m級多目的船(Parola級巡視船)の1番船「BRP TUBBATAHA(トゥバタハ)(4401)」の就役式がフィリピン沿岸警備隊(PCG)本部で行われ、ドゥテルテ大統領ほかが出席した。
また10月27日(大統領一行の来日中)には、日本の横浜市のジャパン・マリンユナイテッド株式会社(JMU)で、2番船「MALABRIGO(マラブリゴ)(4402)」の命名式が行われた。同日、ドゥテルテ大統領と一行は、横浜市の海上保安庁・第三管区海上保安本部を訪れ、海難救助・海賊対策の訓練を視察している。(JMUでの命名式には、トゥガデ運輸大臣が臨席。)

比大統領 海保追跡訓練を視察 - NHK 首都圏 NEWS WEB
フィリピン共和国運輸省向け40m級多目的船 2番船の命名式について|ジャパン マリンユナイテッド株式会社 

 

Parola 級(海上保安庁のびざん型巡視船(2代目)に相当する。)の"Porola"はタガログ語の"灯台"を意味する。 トゥバタハ(TUBBATAHA)はパラワン(Palawan)州のトゥバタハ岩礁自然公園の岩礁灯台から、マラブリゴ(MALABRIGO)はバタンガス(Batangas)州の1800年代のスペイン統治時代に建設された歴史的建造物の灯台から名付けられている。他の8隻もフィリピンの由緒ある灯台から命名されるのだろう。

Parola-class patrol vessel - Wikipedia
Lighthouses of the Philippines: Palawan

 

日本は、これまでに、海上保安庁やJICA(国際協力機構)などの協力のもと、フィリピン沿岸警備隊(PCG)に対して、訓練プログラム「フィリピン海上法執行実務能力強化プロジェクト」(技術協力プロジェクト)(2013年〜)、PCGの通信システムの拡充などの「フィリピン沿岸警備隊通信システム強化計画」(無償資金協力)、40m級多目的船10隻の建造などの「フィリピン沿岸警備隊海上安全対応能力強化事業」(有償資金協力(ODA))を行ってきた。そして今回、「フィリピン沿岸警備隊海上安全対応能力強化事業(フェイズII)」(有償資金協力(ODA)として92m級の大型巡視船2隻の建造と供与が決まった。

フィリピン共和国向け円借款契約の調印:フィリピン沿岸警備隊の海上安全対応能力の一層の強化に貢献 | 2016年度 | ニュースリリース | ニュース - JICA

 

実は他にも他国からの支援や共同訓練は行われており、オーストラリアは海難救助船8隻を供与している。フランスも数隻の供与を検討しているようだ。米国とオーストラリアとの間で海難救助や潜水訓練などが行われ、ASEANや周辺国との国際共同海難救助訓練が行われている。

 

中国は、ドゥテルテ大統領の公式訪問の際に、フィリピン沿岸警備隊(PCG)と中国海警局(CCG)との間の、関係構築のための了解覚書も作成している。

日本メディアはこれについて特には報道していないようだ(日本語のニュースでは、ロシアのSputnik 日本語版が伝えている)。複数の了解覚書(Memorandum of Understanding)の1つなので重視しなかったのかもしれない。 

PHL, China ink coast guard deal, start maritime cooperation (10/20 | GMA News Online)

中国とフィリピン、南シナ海の協力合意を締結(10/20|Sputnik 日本語版)

 

フィリピンと中国との共同声明は、それぞれの国の外務省(外交部)が、英語と中国語で公表している(記事末尾に、一部を抜粋して引用した)。

まず18番目の項目で、
1982年の「国連海洋法条約」を含む公に認められている国際法の原則に則って、中国・フィリピン両国の沿岸警備隊は、南シナ海での、人道主義と環境問題(海上での生命・財産の安全や、海洋環境の保護・保全など)に加えて海洋での緊急事態に対する協力を強化することを約束している。

付属書類の10番目で、
フィリピン沿岸警備隊と中国海警局は、沿岸警備協力共同委員会(Joint Coast Guard Committee on Maritime Cooperation、海警海上合作联合委员会)の設立に関する了解覚書を交わした。

ーー(追記12/18)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

12月15日〜16日に、マニラで、沿岸警備協力共同委員会(Joint Coast Guard Committee on Maritime Cooperation、海警海上合作联合委员会)の設立のための第一回会議が開催された。

Philippines, China coast guards meet | INQUIRER

中菲召开海警海上合作联合委员会第一次筹备会 - 新华网

ーー(追記ここまで)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

海上の安全のための協力体制の構築(いろいろな意味で)に向けて舵を切る用意を整えてきたと思われる。

フィリピンのドゥテルテ政権は、米国との関係の見直しを進めるとともに、中国との関係の見直しを行っているようだ
米国に対する"暴言"が過剰に注目されているので、これまで、米国側に大きく振れ続けていたフィリピンの外交や安全保障政策の"振り子"が、一気に中国に傾いたようにイメージされがちだが、中国への公式訪問から帰国した後の発言や、日本への公式訪問での発言などから、そう単純な図式ではないことが分かる。

日本はこれまで通りに、フィリピンの人と社会のため、開発援助や、海上安全の向上に関する支援を続けていけばいいだろう。(フィリピンの海洋での安全は、日本の民間企業(特に海運や海洋開発)や、観光客(特に海洋リゾートやダイビング)にとっても他人事ではない。)

 

ただ、一点、フィリピンと台湾の関係を少し心配している。

両国の管轄が重複する海域で、日本のODAで建造し供与した巡視船(多目的船)が、台湾の漁民に対して脅威になってしまうと、日本・台湾関係にとって悪影響を与えてしまいかねないのではないだろうか?

特集 海上保安|JICA's World 2013年2月号 - JICA

円借款「フィリピン沿岸警備隊海上安全対応能力強化計画」 : 在フィリピン日本国大使館

 

・フィリピンと中国との共同声明

Joint Statement of the Republic of the Philippines and the People's Republic of China - Department of Foreign Affairs - Republic of the Philippines

18. Both sides commit to enhance cooperation between their respective Coast Guards, to address maritime emergency incidents, as well as humanitarian and environmental concerns in the South China Sea, such as safety of lives and property at sea and the protection and preservation of the marine environment, in accordance with universally recognized principles of international law including the 1982 UNCLOS. 

ANNEX
List of Signed Cooperation Documents

10. Memorandum of Understanding between the Philippine Coast Guard and the China Coast Guard on the Establishment of a Joint Coast Guard Committee on Maritime Cooperation 

 

・中国とフィリピンとの共同声明

中华人民共和国与菲律宾共和国联合声明 — 中华人民共和国外交部 

十八、双方承诺根据公认的国际法原则,包括1982年《联合国海洋法公约》,加强两国海警部门间合作,应对南海人道主义、环境问题和海上紧急事件,如海上人员、财产安全问题和维护保护海洋环境等。 

附件:
签署合作文件清单
十、《中国海警局和菲律宾海岸警卫队关于建立海警海上合作联合委员会的谅解备忘录》

Marine Diving (マリンダイビング) 2016年 08月号 [雑誌] Marine Diving(マリンダイビング)

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