pelicanmemo

海外の話が多め。近頃は中国が多め(中国海警局・中国海監、深海潜水艇、感染症など)。

【中国海警局】 『中国海警 軍に移管か』(読売新聞 2018年1月14日)の記事について、メモ

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(読売新聞(www.yomiuri.co.jp/world/20180113-OYT1T50108.html)より(2018年1月14日に、スナップショット画像を取得))

『中国海警 軍に移管か』という記事が、読売新聞の2018年1月14日付け朝刊にあった。副題は「「母体」の武警 軍直属に」「尖閣周辺など 海軍と円滑連携」。読売新聞ネット版では有料の読売プレミアムとして公開(記事の一部は無料公開)されていた。

このブログ記事を公開した1月23日現在、「指定されたページが見つかりません。」と表示されている。

 

尖閣で監視活動、中国海警局が軍指揮下に移行か : 読売新聞 (http://www.yomiuri.co.jp/world/20180113-OYT1T50108.html

 

なぜ、読売新聞の有料ネット版の記事が無くなったのか分からないが、今後、オリジナル記事のチェックは出来ないまま、記事の内容や一部表現の転載があると思われる。
その記事の間違いと、気になったところを、ネット検索で引っ掛かるように書き残しておきたい。

 

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2018年01月01日00時から、中国人民武装警察部隊(武警部隊、武警)が、党中央、中央軍事委員会の集中統一指導のもとで、中央軍事委員会 – 武警部隊 - 部隊指揮官という指揮体勢に改編された。

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(読売新聞(www.yomiuri.co.jp/world/20180113-OYT1T50108.html)より(2018年1月14日に、スナップショット画像を取得)) 

 

このブログ記事が少し長くなったし、大した事は書いてないので、まず、まとめを少々。 😊

・国家海洋局と中国海警局とを混同してはいけない。

・中国海警局は、その成立過程と、人員や船舶・航空機の出自が複雑なので、「中国海警局がー」と言ってしまうような単純化は好ましくない。

・中国の沿岸警備隊である「中国海警局」の船舶は、その出自と乗組員の権限・資格、非武装船と武装船が混在している。全てを武装船と見てしまうと、状況を読み間違うだろう。(尖閣沖で確認される公船の、船名・番号は有益な情報だ。)

・状況は、"中国海軍" 〜 "中国海警局" 〜 "海上民兵"の3つだけではない。グレイゾーンは、かなり複雑になっている。中国海警局だけを取り上げても、所属組織や管轄、武装船/非武装船、国家海洋局等の海洋調査船、等々、複数の灰色のグラデーションが出来ている。

・ほんっと、情報の確認と対応が面倒くさい。😑

 

・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

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(読売新聞(2018年1月14日(第2面)より)

 

2018年01月01日00時から、中国人民武装警察部隊(武警部隊、武警)が、党中央、中央軍事委員会の集中統一指導のもとで、中央軍事委員会 – 武警部隊 - 部隊という指揮体勢に改変された。

読売新聞(2018/01/14)の記事は、この改変を紹介し、中国海警局の母体の1つである武装警察部隊(武警)が中央軍事委員会直属に改変された事で、中国海警局も「中国軍の指導機関・中央軍事委員会の指揮下に移されるとの観測が浮上している(本紙から引用)」と書いている。
日本メディアは、まったくと言っていいほど伝えていないので、この読売(北京)の記事が報道されたのは良かった。ただ、少し誤解を生じさせるような内容があった。

 

香港紙を参照する形で「同局公船による尖閣周辺での「パトロール」が「巡軍事行動」(香港紙)に位置づけられるとの見方もでている(本紙から引用)」と書いてある。 

この香港紙がどこかは記されていないが、記事の公開日時から、"信報"紙の12日付け記事と考えられる。(有料記事なので、無料公開部分を引用した)

近年中國已實現海警船常態化巡航釣魚島周邊海域,中日也有默契避免軍艦在該海域出現。不過,隨着中國海警局可能剝離國務院系統、轉屬中央軍委直接指揮的武警部隊,未來中國海警船進出釣島海域將抹上「準軍事行動」色彩 中央軍委主席習近平前日向武警部隊授旗,首次曝光的武警旗上半部是八一軍旗樣式,寓意隸屬軍委;下半 ...
(赤字ほか強調は管理人による)

海警或移交軍委直接指揮 - 信報網站 (2018年1月12日)

 

中国海警局と国家海洋局の関係が、少し複雑なので少し書いておこう。

中国海警局は2013年に、「五竜」と呼ばれていた中国の海上法執行組織5つのうち4つ、公安部の辺防海警部隊(辺防海警(英文でChina Coast Guardと記載されてきた))、国家海洋局の中国海監総隊(海監)、農業部の漁政船隊(漁政)、税関の密輸取締部隊(海関緝私)の人員と船舶・航空機、職責を、国家海洋局に統合再編して組織された。交通運輸部海事局(海巡)の統合は見送られた。

国務院の国家行政機関の一つである国土資源部の国家海洋局は、対外的に、中国海警局の名義を使って、公安部の指導の元で海上での権益維持と法執行を実施する。

だから、読売新聞の記事や、香港紙"信報"の記事では、この中国海警局が、国務院管轄から離れて、中央軍事委員会の指揮下になるかもしれないということを、特に伝えたわけだ。

ここを知らないと、勘違いの種になると思います。😊

【中国海警局】 海警局と海巡、海監、辺防海警、漁政、海関について、おさらい。 #週刊安全保障 #ホウドウキョク - pelicanmemo (2016-08-18)

 

その根拠は、新たな武警部隊に授与された旗にある。国防部報道官の発言を、新華社が伝えたところによると、旗の下半分にある深緑色の3本線の、2本目が海上権益維持と法執行(海上维权执法)を示している。

武警部队旗的寓意:武警部队旗上半部保持八一军旗样式,寓意武警部队诞生于人民军队的摇篮,传承着红色基因,表示武警部队是党领导的人民武装力量的组成部分。下半部镶嵌三个深橄榄绿条,代表武警部队担负维护国家政治安全和社会稳定、海上维权执法、防卫作战三类主要任务及力量构成。
(赤字強調は管理人による)

国防部新闻发言人吴谦就武警部队旗寓意答问-新华网

中国海警局が今後どう扱われるのか、いまのところ、公式発表や公式に近い報道では伝えられてはいない。多分、そうなるのだろう(管理人の予想)。

読売の記事によると、今年3月に開かれる全国人民代表大会(全人代=国会)で、武警に編入される改編案が提示される可能性がある(共産党関係者による)、のかもしれない。

 

中国海警局の組織は、前述したように、その成り立ちからして複雑で、構成人員や船舶・航空機も、未だに複雑なままだ。

読売新聞(2018/01/14)の記事では、次のような間違いと思われる部分があった。

海警局は北海、東海、南海の3分局の下で、計11の「海警総隊」を保有。隊員は13年時点で総勢約1万6000人と公表されており、公船の乗組員は主に海軍出身者で構成されているとみられている
(赤字強調は管理人による)
“読売新聞(2018/01/14)本紙(紙媒体)より転載・引用”

2013年7月の中国海警局の発足の発表時の、海警総隊・支隊の総編成は16,296人。
(単純な比較は誤解の元だが、海上保安庁の平成24年度(2012年度)末の定員は12,689人(うち管区海上保安本部等の地方部署が11,106人、巡視船艇・航空機等が5,988人)

中国海警局が発足。隊員は16296人。3分局11総隊、より実戦的な組織構造に。: メモノメモ (2013年7月11日)
「国家海洋局」本部ビル玄関に、「中国海警局」の門標を並べて設置: メモノメモ (2013年7月22日)
(注:当ブログ"pelicanmemo"の前身、"メモノメモ"の記事です。)

 

20180117213207(読売新聞(2018年1月14日(第2面)より) 

統合再編された"公安部辺防海警"、"海監"、"漁政"、"海関緝私"の、海上法執行に関わる人員は海警総隊・支隊に統合された。このうち、中国海監(中国海監総隊・支隊)の人員が約8000人とで半分を占めていた。
尖閣諸島の日本の領海や接続水域では、中国海警局の正式発足以前から、中国海監の海洋監視船が確認されてきた。2017年には、おおむね公船4隻船隊で確認されているが、そのうちの2〜3隻は海監であり、隊員や船員も中国海監としての任務も行っている。

 

例えば、今年1月に上海沖で衝突し、漂流、沈没したタンカー「サンチ(Sanchi)」号、その沈没した海域で、警戒・監視・海洋調査を行っているのは、万トン級「海警2901」や「海警2502」「海警2146」「海警2149」であり、海洋調査船「向陽紅19」や「向陽紅81」「向陽紅06」、東海航空支隊のY-12型プロペラ機「中国海監 B-3837」だった。

これらは、国家海洋局から発表されたもので、中国海監総隊が発足した時からの本来の職務である海洋汚染の監督監視の任務についている。

タンカーの沈没海域に、76mm機関砲を装備する万トン級「海警2901」が派遣されたからといって、まさか軍事活動を想定する人はいないだろう。

【中国海警局】 1万トン級「海警2901」と「PLH-31 しきしま」 写真で比較 - pelicanmemo (2016-03-24)

漁業行政を担う"漁政"は、中国全土(河川・湖沼含む)の漁政の人員が35,000人で、その中から、海洋での法執行活動に関わる人員数千人と船舶が抽出されたと思われる。

 

読売新聞の記事が書いているように、これら4つの組織の隊員・職員がすべて「主に海軍出身者」だったというなら間違いは無いが、そのような資料はないと思う。軍や公安がイヤだから、地元の海監や漁政の船の仕事についた隊員や船員もいるだろう。

もしかしたら、海軍と関係が深い公安部の辺防海警部隊(辺防海警)では「艦艇の乗組員は主に海軍出身者」であり、それを、中国海警局全体に当てはめてしまったのかもしれない。 😊

 

中国海警局が正式に発足する前に、国家海洋局・中国海監総隊では3000㌧級・4000㌧級の大型海洋監視船の建造計画を実行していた。その頃に建造された大型船のうち、東シナ海を管轄する東海分局に所属する船、たとえば「海警2308」「海警2401」などが、尖閣沖で頻繁に確認されている。
これら大型船を大量に導入するにあたって、中国海監総隊の既存の1000㌧級以上の大型船の船長・副船長等の経験者だけでは充足できないので、民間の大型貨物船の船長経験者の雇用もあった。

さらに(日本の海上保安庁では、多くが海上保安官)、中国では、もと中国海監総隊の大型の海洋監視船(現在は、中国海警局の公船とも呼ばれる)の場合、隊員(法執行隊員)と船員の2種類が乗り組んでいる。隊員は船長・航海士などブリッジ要員や実際の法執行活動を行う隊員などで、船員は法執行活動に携わらない料理人や機関士など。政治委員はいても、隊員や船員の全てが共産党員ではない。

 

今回の改編で中国海警局がどうなるか、正式発足した時の「三定法案」に、中国海警局は"公安部の業務指導を受ける"という部分があるので、そこがどう変わるかだろう。
中央海洋権益工作领導グループ(中央海洋权益工作领导小组)、海警司令部や中国海警指揮センターとの命令系統、中国海警局の次の局長がどの組織の人間になるか、いろいろ気になるところだ。続報を待ちたい。

 

読売の記事の、隊員が「主に海軍出身者」という間違いは、枝葉末節に感じられるかもしれない。しかし、中国海警局についての日本メディアの報道は、ちょっと過剰で過大に煽るような書き方のものが多いと感じている。

 

日本メディアの、何事も単純化するクセも困ったものです。公式情報が少なく、組織が複雑なので分からなくもないのですが、そういう曖昧さを残すのも中共の世論戦の戦術の一つと考えられます。

ジャーナリストは正しい情報をもとにして伝えるプロなはずなのですから、適切な報道をしてほしいものです。

誤った情報をもとに考えてしまうと、状況を読み間違いかねません。

ネットで、多分botや自動ツイートなのでしょう、定期的に「撃て」とか「沈めろ」というコメントを見かける。尖閣沖の中国海警局の公船の場合、今のところ非武装船の方が多いので、その対応は、まさに中共の思う壷です。

・・・もしかしたら、中共の世論戦の工作員のコメントなのかもしれませんが。😊ニッコリ

 

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