(大きな画像にリンクしています)
(韓国、産業通商資源部(산업통상자원부)より)(日本語訳付き(一部だけ))
日本製の産業用空気圧バルブに対して、韓国政府が高い関税をかけている事について、世界貿易機関(WTO)の上級委員会(第二審(最終審))の判断が示されました。
日本、経済産業省「勝った」
韓国、産業通商資源部「勝った」
日本と韓国の発表が正反対です。
どっちが正しいのか、調べてみました。
ここで、日本側(経済産業省の発表と日本語の報道)の情報を日本語だけで調べてみると、視点が偏るので、おもしろくない。そこで、韓国側(産業通商資源部が公開している資料)の情報の方で調べてみました。☺️
(追記:韓国の公式発表の資料なので、韓国側の主張に沿った単語や表現が使われているでしょう)
WTOの上級委員会の判定で大事なところは、
韓国側は、手続きの透明性に問題があり、WTO協定違反が2件ある。パネル(第一審)はそう判定し、上級委員会(最終審)も同じ判定を示した。改善しなさい。
日本製空気バルブのダンピング価格での輸入が、韓国国内の製品価格に影響したかどうか、韓国側の合理的な説明が不足している。
争点のうち、コアな部分に関係する所では、日本側の主張が通ったと感じられます。
とはいえ、"圧勝"と言うのは無理があります。🙄
韓国側は、複数の争点のうち、日本側の出した争点が却下されたり退けられた数が多い、だから韓国の主張が通ったのだと、不利な部分は伝えずに、都合が良い所だけを抜き出して「勝った」と言っています。
WTOの協定違反が2件判定されているのに"勝利"と言うのは、相当に無理があります。🙄
(追記:協定違反があったことや、是正勧告を受けたことにも触れていません)
WTO上級委員会は、パネル(第一審)の判定に対して今回は、日本と韓国それぞれに有利な点が増えるように、争点の評価を調整したよう。
報告書は専門用語・表現が多くて、専門家でないと、こういう表現をしたら「是正勧告」を表している、〜の主張を認めている、などの“ニュアンス”は分かりにくい。
WTOではこれが最終審なので、この判定結果も合わせて、二国間交渉にうつるのでしょう。WTOの問題点と限界と感じます。
日韓両国がどちらも「勝った」と言っているので、日本でも韓国でも、世論の感情と政府のポピュリズム的な対応へと向かいそうなのが心配ですね。
(大きな画像にリンクしています)
(韓国、産業通商資源部(산업통상자원부)より)(日本語訳なし。オリジナルpdfファイルより引用)
公式発表:
日本・経済産業省(METI):韓国による日本製空気圧伝送用バルブに対するアンチダンピング課税措置がWTO協定違反と判断され、是正が勧告されました
韓国・産業通商資源部(MOTIE) :(참고자료)WTO 한-일 공기압 밸브 반덤핑 분쟁 상소 판정 결과 보도/해명 | 산업통상자원부 홈페이지 ((参考資料)WTO韓 - 日 空気圧バルブ 反ダンピング紛争 上訴 判定結果)
世界貿易機関(WTO):WTO | dispute settlement - the disputes - DS504
報道:
日本メディア:日本製バルブ関税、韓国に勝訴 WTO最終判決 :日本経済新聞
、WTO、韓国のバルブ課税措置に是正勧告 日本の勝訴確定 - 産経ニュース
韓国メディア:日本製バルブ関税巡る通商紛争 韓国が大部分勝訴=WTO最終審 | 聯合ニュース(日本語版)、「日本製空気圧バルブ関税」WTO紛争で韓国が“判定勝ち” : ハンギョレ(日本語版)、"또 이겼다" 한국, 일본과 공기압밸브 WTO 분쟁서 '판정승'(종합2보) | 연합뉴스(聯合ニュース)、한국, 일본과 공기압 밸브 WTO 분쟁서 승소(京郷新聞)
欧米メディア:WTO top court backs Japan in case against South Korea duties - Reuters
Ads by Google
韓国側が「勝った」という主張を伝えている根拠は、多くの争点(パネル(第一審)で13、上級委員会で11)のうち、パネル(第一審)で棄却された数が多いから。
数では過半数です。では、内訳をみてみましょう。
パネル(第一審)での13の争点のうち、上訴されなかったのが2つ。
上級委員会(最終審)での11の争点の判定の内訳は、
- WTOの協定違反が2つ。
- パネルの判定が覆って、日本側の主張が通ったのが1つ。
争点の一番にある「争点1」の「ダンピング輸入の (韓国)国内の同種の商品の 値下げや値上げ抑制など 影響するかどうか」について、韓国側の合理的な説明が不足していると判定された。 - パネルの判定が覆って、韓国側の主張が通ったのが1つ。
- パネルの判定について、上級委員会でも、韓国側の対応が適切、協定違反ではない、等、判定されたものが3つ。
- パネルの判定に次いで、上級委員会でも審査出来なかったのが4つ。
中身をみると、WTOパネル(第一審)の判定で「パネルの付託事項の範囲外」というものが多い(13件中7件)。
韓国政府の主張について、NHKニュースの記事が、比較的に適切な表現で書いています。
日本製の空気圧バルブに韓国政府が高い関税をかけていることについて、WTO=世界貿易機関の2審にあたる上級委員会は、WTO協定違反だとして韓国に是正を求める最終判断を示し、日本の主張が認められた形で事実上、日本の勝訴が確定しました。これについて韓国政府は、是正を求められたことには一切触れず、「大部分の実質的な争点で協定違反と立証されなかった」と主張しています。
韓国の産業通商資源部の資料によると、「実質的な争点(실체적 쟁점)」9つと「手続き的な争点(절차적 쟁점)」4つに分けられています。(画像では「実体的争点」という日本語訳)
韓国側はこのように、「大部分の実質的な争点で協定違反と立証されなかった」と主張して、国内向けに「9つの争点のうち8つで勝訴(手続き的争点4つ(うち協定違反2つ)は無視)」して「勝った」「勝った」と報道している。よくやっているごまかしですね。
韓国側が「実質的(실질적)」と表現している項目は、その内容をみると、 国内産業の範囲設定が適切か?(2社だけの調査で“国内産業”としている)、その被害分析は妥当か?、ダンピング関税のパーセンテージは適切か?、ダンピング以外の原因での産業への影響の評価、因果関係の判定は客観的か?などなので、評価をする上でのテクニカルなもの、「技術的」なものでしょう。
WTO 상소기구는 대부분의 실질적 쟁점에서, 우리나라 반덤핑 조치의 WTO 협정 위배성이 입증되지 않았다고 판정함에 따라, 기존의 우리나라 승소 판정이 유지됨.
WTO上訴機関(上級委員会(第二審))は、ほとんどの実質的な争点では、我が国の反ダンピング措置のWTO協定違反性が証明されていないと判定することにより、従来の(パネル(第一審)の)韓国の勝訴判定が維持される。
(Google訳にすこし補足)韓国・産業通商資源部(MOTIE) :(참고자료)WTO 한-일 공기압 밸브 반덤핑 분쟁 상소 판정 결과 보도/해명 | 산업통상자원부 홈페이지 ((参考資料)WTO韓 - 日 空気圧バルブ 反ダンピング紛争 上訴 判定結果)
その一方で、協定違反と立証された「手続き的な争点」の方は、軽視しているのか、書くと都合が悪いのか、産業通商資源部の部長の記者会見では触れていません。
韓国メディアもほとんど記事にはせず、大本営発表ばかりを報じているようです。
この部分は、日本の経済産業省の発表の表現が分かりやすいでしょう。
同報告書は我が国の主張を認め、韓国のアンチダンピング課税措置は、損害・因果関係の認定や手続の透明性に問題があり、WTOアンチダンピング協定に整合しないと判断し、韓国に対し措置の是正を勧告しました。
2.上級委員会報告書の判断概要
(以下略)詳しくは、経産省の発表の本文を参照)
韓国による日本製空気圧伝送用バルブに対するアンチダンピング課税措置がWTO協定違反と判断され、是正が勧告されました (METI/経済産業省)
(大きな画像にリンクしています)
(韓国、産業通商資源部(산업통상자원부)より)(日本語訳付き(一部だけ))
協定違反は次の2つ。
- 秘密情報の処理(6.5)(비밀정보 처리 (6.5조))
(争点10)秘密情報の分類リクエスト「正当な理由」の明確な提示したかどうか(비밀정보 분류요청시 ‘정당한 사유’의 명확한 제시 여부 )
・・・パネル:「正当な理由」が明確に提示されていない状況で、秘密情報として処理したのは、協定違反 (‘정당한 사유’가 명확히 제시되지 않은 상황에서, 비밀정보로 처리한 것은 협정위반 )|上級委員会:パネル判定を維持 - 公開要約情報レベル(6.5.1)(공개요약본 정보수준 (6.5.1조))
(争点11)企業の資料提出時は、それ自体でも理解可能な公開要約の提出義務の履行状況(기업의 자료제출 시, 그 자체로도 이해가능한 공개 요약본 제출의무 이행 여부)
・・・パネル:公開要約を提供していない協定違反(공개 요약본을 제공하지 않아 협정위반)|上級委員会:パネル判定を維持
パネル評価の「(각하)(却下)」の文字はフォントが太字で強調してるのに、「협정위반(協定違反)」の方は、フォントの強調は何もしていません。(いかにもな対応で、分かりやすい🙄)
「協定違反」2件は、簡単に書くと、韓国側が充分な資料を出してなく、機密情報だとした部分では(機密であるという)正当な理由が無く、情報を開示してこなかった。
また、WTO上級委員会(第二審)では、さらに「争点1」で、パネル(第一審)の判定から逆転して、韓国側の合理的説明が不十分と判定されました。
この構図はなんとなく、日本政府が、いわゆる"ホワイト国"から韓国を外すことと、輸出管理を強化するという判断をするまできっかけと似ている気がします。
日本側から、韓国側に対して、フッ化水素(エッチングガス)の使用実績の提出などをもとめていました。
しかし、充分な資料が提出されなかった、その理由も開示されなかった。
(なぜ出さなかったのか、未だに不思議に感じる。出せない理由があるけど言えないのか?出すと韓国のプライドが傷付くのか?、そもそもまともな記録が無いのか?、不思議。)
今回の、産業用空気圧バルブの反ダンピング関税訴訟でも、WTOパネルで協定違反と立証された後も、上級委員会までに充分な情報開示はされていないよう。
その結果として、WTOのパネルや上級委員会で、評価しきれない争点もあったのかもしれません。
WTOパネルの判定が、韓国側の主張を認めて、上級委員会でも判定されたものは4つ(争点5、争点7、争点8、争点9)。それほど重要ではない争点のように感じます。
WTOが「協定違反ではない」と判定したのは、2つ(明確なのは1つ)だけですね。
- (争点5)資金調達能力、ダンピングマージンの サイズを 適切考慮したかどうか(자금조달 능력, 덤핑마진의 크기를 적절히 고려했는지 여부 (패널) 적절히 고려)
・・・パネル:適切に考慮|上級委員会:パネル判定を維持。 - (争点7)因果関係の分析時の価格効果など、別途審査が可能かどうか(인과관계 분석時 가격효과 등 별도심사 가능 여부 )
・・・パネル:別途審査が可能であり、これに基づく価格比較の方法上 欠陥による原因で協定に非合致|上級委員会:別途審査は不適切であり、したがって(協定に)非合致の判定も覆る(韓国側の逆転勝訴) - (争点8)ダンピングの影響により、国内産業に 被害が 発生したという 因果関係 判定が客観的、妥当かどうか(덤핑의 효과를 통해 국내산업에 피해가 발생하였다는 인과관계 판정이 객관, 타당한지 여부)
・・・パネル:上記 因果関係の 判定が 協定違反という 根拠無し|上級委員会:パネル判定を維持。 - (争点9)ダンピング以外の 要因に 起因する 被害を 適切に フィルタリングしたのかどうか(덤핑 이외 요인으로 인한 피해를 적절히 걸러냈는지 여부 )
・・・パネル:ダンピング以外の 要因に 起因した 被害を フィルタリングしなかったことを 日本が 証明できません。|上級委員会:パネル判定を維持。
争点9では、日本側が証明できなかったために、韓国側のポイントになってしまったよう。
WTOパネルで、「パネルの付託事項の範囲外」「パネル設置の要請が不十分」だから審理しない、と言われた争点の数が多いのも、韓国側に有利に働いているようです。
経済産業省の、提訴した時の争点選びは適切だったのか?、少し気になります。🙄
その一方で、韓国側は、産業通商資源部・文在寅政権は今回、WTOで「協定違反と判定された」部分を隠して、「協定違反は証明されていない」というごまかしと、「勝った」「勝った」という国内向けに煽ったような対応は、国内的にも失点と感じられます。🙄
産業通商資源部の公式サイトには、この記事の検証で引用しましたように、「参考資料(pdf, hwpファイル)」 として載せられてはいますが、韓国メディアが報道しなければ周知されにくい事実でしょう。
ーー
韓国の産業通商資源部の資料の画像で、韓国語のテキストのすべてに日本語訳を載せてしまうと、ごちゃごちゃしすぎて読みにくいので、特に重要なところと考えたテキストだけ日本語訳を載せました。
WTOからの英語の発表も、素人ながらに読んでみましたが、貿易や訴訟での専門用語や表現を読み間違えてしまいそう。この記事には、多くは反映させていません。
こういう表現をしたら「是正勧告」を表しているなど、“ニュアンス”や、行間や、WTOの文法は、専門家でないと分かりにくい。