中国、湖北省の武漢市で発生し、中国各地での感染拡大、国外での感染者の確認が起きている新型コロナウイルス(2019-nCoV)。
潜伏期間中の、発熱や咳など症状が無い状態の感染者から、他の人は感染するのか?
誤った情報が広まったこともあり、不安感が増しているよう。
ドイツのバイエルン州で発生した人から人への感染例(2次感染)では、潜伏期間中の感染があったと、NEJM誌(ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン)に掲載されましたが、その後の調査で解熱剤を飲んでおり、間違いだったことが分かりました。
長くなるので、まず結論。😊
発熱や咳など症状が無い感染者(潜伏期間中や不顕性感染者)からの感染は、科学的にゼロとは言えないが、もし武漢など流行地の医療機関に住んでいるのでなければ、日本で不安がる必要はない。WHOによると「非常にまれ(very rare)」。
「可能性がゼロじゃないなら、わたしは不安だ!」と、不安情報を好んで調べる時間があるのでしたら、スマホやキーボードをアルコールで拭きましょう。手を洗いましょう。😊
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新型コロナウイルスをめぐり、ドイツで潜伏期間中で症状のない女性から感染が広がったとされていた情報に誤りがあったことがわかりました。専門家は「情報の迅速な公開は感染の拡大を防ぐために重要だが、初期段階の情報は変化し、不正確なこともあり、注意して扱うべきだ」と指摘しています。
(赤字強調は管理人による)
新型ウイルス、潜伏期間中の感染例は「誤り」 独当局 -CNN日本語版
簡単に書くと、ドイツ人の感染者に聞き取り調査を行ったところ、上海在住の中国人女性(技術トレーナー)に発熱や咳など症状は無かったと言っていたので、それをNEJM誌で発表した。
しかし、バイエルン州の衛生当局とロベルト・コッホ研究所が、本人に中国語で聞き取り調査を行ったところ、実は、ドイツ滞在時に症状があり解熱剤を飲んでいたことが分かった。
問題のNEJM誌の記事はこれ。
Transmission of 2019-nCoV Infection from an Asymptomatic Contact in Germany
査読を経た学術論文ではなく、簡単な研究発表が掲載される「Correspondence」です。(学会誌の「Letter」「Letter to the Editor」のようなコーナー)
世界的に注目されている話題で、非常に重要な事なので、本人への聞き取り調査をしていない中途半端な内容でも、編集部判断で載せてしまったのでしょう。
では、発熱や咳など症状が無い状態の感染者から、感染し得るのか?🤔
WHO(世界保健機関)は「非常にまれ (very rare)」としています。
現段階では、中国の、特に武漢の感染者の全ての感染経路を調べられませんので、科学的に「ゼロだ、とは言えない」のが実情です。
Asymptomatic #2019nCoV infection may be rare, and transmission from an asymptomatic person is very rare with other coronaviruses, as we have seen with MERS. Thus, transmission from asymptomatic cases is likely not a major driver of transmission https://t.co/5gEHSOGO7H pic.twitter.com/Zh8ifwP4XA
— World Health Organization (WHO) (@WHO) 2020年2月1日
EUの欧州疾病予防管理センターによる、2月7日付けの新型コロナウイルス(2019-nCoV)のリスク評価では、不確実性があるとしています。
There are, however, uncertainties regarding transmissibility and under-detection particularly among mild or asymptomatic cases.
Current risk assessment on the novel coronavirus situation, 7 February 2020
米国CDC(米国疾病予防管理センター)による、2月5日付けの新型コロナウイルス(2019-nCoV)のリスク評価では、高〜低リスクの欄に無発症感染者の記載はありません。ただしCDCの専門家の、入国管理と合わせたコメントの中には、その可能性が存在することを心配する声もあるようです。
とりあえず、
(1) 「完全に否定はされていない!」、
(2) だから「感染するリスクはゼロではない!!」、
(3) 「症状の無い感染者から感染するんだ!!!」、
(4) 「可能性がゼロでないなら、すべて入国拒否だ!!!!!!」、
というような・・・、何だか、どこかのベクレルで見聞きしてきたような、おかしな対応は避けたいものです。😊
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WHO(世界保健機関)は、新型コロナウイルス(2019-nCoV)は、症状の無い感染(管理人注:不顕性感染者)はまれだろう(may be rare)、症状の無い感染者からの感染は、MERSのように他のコロナウイルスと同じく、非常にまれ(very rare)だと書いています。
Asymptomatic #2019nCoV infection may be rare, and transmission from an asymptomatic person is very rare with other coronaviruses, as we have seen with MERS. Thus, transmission from asymptomatic cases is likely not a major driver of transmission
では、MERS(中東呼吸器症候群)の方では、症状の無い感染者からの感染は、あるのだろうか?どのくらい報告されているのだろうか?🤔
MERSは、2012年6月にサウジアラビアで、ウイルス(MERS-CoV)の最初のヒト感染例が確認されてアウトブレイク。2015年には韓国でアウトブレイクがあり感染者186人・死亡36人。 これまでに感染者2494人・死亡858人(WHO)(2020年2月8日閲覧)。
まず、手軽なところで、ウィキペディア(Wikipedia)を見てみたところ、
Wikipedia日本語版に情報は無く、Wikipedia(英語版と韓国語版)では、「症状の無い感染者から感染するという証拠は無い (... and there is no evidence of transmission from asymptomatic cases.)」と書かれています。(ただし、2013年8月のWHOの報告がソースで、少し古い情報。)
WHOの2019年5月のファクトシートでは、無発症の感染者が、他の感染者の密接接触者調査と検査によって見つかったと書かれていますが、症状の無い感染者からの感染に関する記載はありません。
Some laboratory-confirmed cases of MERS-CoV infection are reported as asymptomatic, meaning that they do not have any clinical symptoms, yet they are positive for MERS-CoV infection following a laboratory test. Most of these asymptomatic cases have been detected following aggressive contact tracing of a laboratory-confirmed case.
Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV)
WHOの2018年8月のリスク評価によると、2017年7月からの感染者のうち約10%(189例中19例。執筆時点)が、症状が無いあるいは軽い症状と報告されています。
新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染症でも同じ割合だとは限りませんが、参考にはなりそうです。
(pdf) WHO MERS Global Summary and Assessment of Risk (August 2018)
WHOの2020年1月22日の、航空機での感染症のリスク評価ガイドラインによると、症状が無いあるいは軽症の感染者からの伝播の可能性について「議論の余地がある」と触れられています。
航空機の機内という閉鎖空間で、長時間の接触機会があるので、慎重な表現と感じます。
The virus can also be isolated from infected, but non-symptomatic or mildly symptomatic individuals, however their role in transmission remains debatable.
2017年9月に、WHO, FAO, OIEの主催による国際テクニカル・ワーキング・グループで紹介がある論文では、軽症の感染者の呼吸器の上気道からMERSウイルスを分離した例が複数ありますが、特に医療機関での例であり、さらに、軽症や無発症の感染者からのヒトヒト感染が起こるかどうかは不明なまま。
MERS: Progress on the global response, remaining challenges and the way forward - ScienceDirect
ざっと調べてみたところ、症状の無いMERSウイルス感染者から、 誰かが感染したという明確な例は無いようです。
2015年に韓国MERSが起こった、韓国のレポートでも、症状のない感染者からヒトヒト感染が確認された事例はありません。もし明確な証拠があれば、WHOや米国CDCほかの報告や関係論文で反映されているでしょう。
감염병포털|법정감염병|중동호흡기증후군(MERS) 韓国 疾病対策本部(韓国CDC)
의심환자사례정의 | 메르스 | 긴급상황 : 질병관리본부(密接接触者の定義 - 韓国CDC)
중동호흡기증후군 - 한국보건사회연구원(pdf) 韓国保健社会研究院(KIHASA)
MERS: Progress on the global response, remaining challenges and the way forward - ScienceDirect
WHO | Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) – United Arab Emirates
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MERS(中東呼吸器症候群)で、症状の無い感染者や軽症の感染者から、他の人に感染したという明確な報告は見当たらない。
新型コロナウイルス(2019-nCoV)は、それと同じくらいのレベルで、「非常にまれ (very rare)」(WHOによる)なのかもしれません。
では、中国からの公式発表はどうなっているのだろうか?🤔
中国の中央の衛生当局である国家衛生健康委員会(衛健委)から、新型コロナウイルス(2019-nCoV)の診療ガイドラインが発表されています。最新版は「試行第5版」(記事公開時点)。
新型冠状病毒感染的肺炎诊疗方案(试行第五版)
(新型コロナウイルス感染による肺炎の診療ガイドライン(試行第五版))
第5版になっても「試行」が付いているあたり、国家衛健委もはっきりとした公式発表を出しにくい状態のよう。その内容も、修正と追加を繰り返しています。
关于印发新型冠状病毒感染的肺炎诊疗方案(试行第五版)的通知 (2020-02-05)
关于印发新型冠状病毒感染的肺炎诊疗方案(试行第四版)的通知 (2020-01-27)
关于印发新型冠状病毒感染的肺炎诊疗方案(试行第三版)的通知 (2020-01-23)
試行第5版では、重要な個所がいくつか修正や追加されました。
感染源
試行第4番では「いまのところ、感染源は主に新型コロナウイルスに感染した肺炎患者(目前所见传染源主要是新型冠状病毒感染的肺炎患者)。」でした。
試行第5版では「いまのところ、感染源は主に新型コロナウイルスに感染した肺炎患者。無症状の感染者も感染源となりうる。(目前所见传染源主要是新型冠状病毒感染的患者。无症状感染者也可能成为传染源)」と修正されました。
どういう根拠で、この一文が付け加えられたのか、なぜ「無症状感染者(无症状感染者)」という表現を使ったのか、詳細は不明。
医療当局の発言力が政治的に強くなっている上に、国内的にも国際的にも大きな問題となっていて、公式に強い対応を続けないと「誤魔化そうとしている」と政権批判につながりかねない、と判断したのかもしれません。🙄
春節の連休が終わり、ふたたび非常に多くの人びとの移動が行われるようになると、「非常にまれ (very rare)」な可能性であっても、もしも無症状の感染者からの感染があるなら大変なことになるかもしれません。
ヒト感染症の防疫の点で考えると、真におそろしいのは、中国の暴力的とも言える国内の人口移動と感じます。🙄
更なる研究が待たれるところです。
新型冠状病毒感染的肺炎诊疗方案(试行第五版)解读 - 中国政府网
对比学习新型冠状病毒感染的肺炎诊疗方案(试行第五版)_湃客_澎湃新闻-The Paper