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海外の話が多め。近頃は中国が多め(中国海警局・中国海監、深海潜水艇、感染症など)。

日中高級事務レベル海洋協議、第15回会議 中国軍による台湾周辺での軍事演習の最中に開催

日中高級事務レベル海洋協議、第15回会議が、4月10日に東京で対面形式で開催された。対面の協議は北海道小樽市で開催された第11回(2019年5月)以来4年ぶり。2020年は新型コロナのパンデミックの影響で開催されず、第12回(2021年2月)・第13回(2021年11月)・第14回(2022年11月)はオンライン形式(テレビ会議)だった。

日中防衛当局間ホットラインが3月31日に、日中双方で機材の設置および回線の敷設を完了し設置されてから、はじめての開催となった。(防衛省・自衛隊:日中防衛当局間ホットラインの設置について

 

協議の冒頭で、船越健裕外務省アジア大洋州局長は「率直かつ真剣に議論したい」と強調。洪亮中国外務省国境・海洋事務局長は「このプロセスを通じ、海洋分野における違いを適切に管理し、協力できる点を模索したい」と語ったと時事通信が伝えている。(時事ドットコム

日中高級事務レベル海洋協議は第12回(2021年2月)から局長級で実施されている(第11回までは局次長級)。日本側団長は船越健裕 外務省アジア大洋州局長、中国側団長は洪亮 外交部辺境海洋事務局長(外交部边界与海洋事务司司长)で第12回から変わっていない。
(*)このブログでは、引用しているものを除き、外交部边界与海洋事务司の訳は”辺境海洋事務局”を使用する(中国は、いわゆる九段線のように、一方的に国境・境界を設定するので違和感がある)。

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「高級事務レベル海洋協議」に臨む船越健裕外務省アジア大洋州局長(左端)と中国の洪亮・外務省国境海洋事務局長(右端)(10日午後、東京都港区)=代表撮影・共同(日本経済新聞より)

 

第15回日中高級事務レベル海洋協議(結果)|外務省

中日举行海洋事务高级别磋商机制第十五轮磋商-新华网

中国外交部の公式ホームページに、第15回協議の結果のプレスリリースが見当たらない(記事公開時点)。新華社の報道を参照した(同様のことは過去にもあった)。

日中高級事務レベル海洋協議、第14回会議 海空連絡メカニズムのホットライン早期運用へ - pelicanmemo (2022-11-23)

海事 カテゴリーの記事一覧 - pelicanmemo

 

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中国側の組織は、今回も公安部は参加しなかった。すっかり中国海警局に引き継がれたのだろう。基本的に前回と変わっていないが、なぜか最後に必ず付いていた「等」が消えた。

 

日本側の組織は、内閣府がふたたび参加した。内閣官房 国家安全保障局に変わったと思っていたが何か理由があるのだろうか?(4年ぶりの対面形式なので交流のための参加かもしれない) 国土交通省が前回に続いて参加している。

日本側からは文部科学省が参加しなかった。中国側も中国地質調査局や中国科学院は参加していない。

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日中高級事務レベル海洋協議、第15回会議は全体会議と「海上法執行及び海上安全(海上执法与安全)」「海上防衛(海上防务)」「海洋経済(海洋经济)」の3つのワーキンググループに分かれて会議が行われた。なぜか日本と中国では順番が違っている。

3 双方は、全体会議のほか、(1)海上法執行及び海上安全、(2)海上防衛、(3)海洋経済の3つのワーキンググループに分かれて会議を行い、東シナ海情勢等について個別の事案に関する懸念事項も含む様々な課題や、海洋分野における協力の在り方等について率直に議論しました。

双方举行了全体会议和海上防务、海上执法与安全、海洋经济三个工作组会议,就两国间涉海事务全面深入交换意见。

項目番号や記載順は、日本側と中国側の発表で食い違っているので同じ番号にはなっていません。

 

 

今回の第15回協議では、日本側の外務省発表では14項目、中国側の発表では8項目と大きく違っている。中国側は日中双方のコンセンサス(共识)が取れたところだけを発表しているだろう。

例えば、日本の大手メディアも報道している、沖縄県の尖閣諸島沖での中国海警局に所属する艦船による領海侵入や「台湾海峡の平和と安定の重要性」に関連するところは、中国側の発表ではコンセンサス(共识)の項目よりも前に記載されている。

 

時事通信は、「中国海警局船による沖縄県・尖閣諸島沖の領海侵入を直ちにやめるよう要求。「台湾海峡の平和と安定の重要性」も訴えた。」と報じた。

日本側は中国による東・南シナ海への海洋進出に深刻な懸念を伝え、中国海警局船による沖縄県・尖閣諸島沖の領海侵入を直ちにやめるよう要求。「台湾海峡の平和と安定の重要性」も訴えた。
尖閣周辺への侵入停止を 政府、中国当局と海洋協議:時事ドットコム

4 我が方から、我が国の立場に基づき、中国海警船による尖閣諸島周辺の我が国領海への侵入を直ちに止めるよう強く求めました。また、これを含む東シナ海情勢、南シナ海情勢に関する深刻な懸念を表明するとともに、台湾海峡の平和と安定の重要性についても改めて提起しました。さらに、昨年8月の中国による我が国排他的経済水域(EEZ)を含む我が国近海への弾道ミサイル発射を含む我が国周辺海域における中国の活発化する軍事活動に対し、深刻な懸念を改めて表明しました。

 

共同通信は北京発の短信として「中国側は沖縄県・尖閣諸島や台湾を巡り、中国の領土や主権を侵害する言動を停止するよう日本に要求した。」と報じている。

【北京共同】日中両政府が10日開催した「高級事務レベル海洋協議」で、中国側は沖縄県・尖閣諸島や台湾を巡り、中国の領土や主権を侵害する言動を停止するよう日本に要求した。中国外務省が明らかにした。

中国、日本に主権侵害の停止要求 | 共同通信

中国側は、東シナ海、尖閣諸島、南シナ海や台湾海峡をめぐる問題について最近の日本側の否定的な動向に対して確固とした立場を表明するとともに、日本側に対して、中国の領土主権の侵害や中国側の海洋権益を損ない情勢を複雑化する言動をすべて止め、台湾問題に干渉しないよう要求した。(適当訳)

中方就日方近期在东海、钓鱼岛、南海、台海等问题上的消极动向阐述严正立场,要求日方停止一切侵犯中方领土主权、损害中方海洋权益及导致局势复杂化的言行,不得插手台湾问题。中方再次对日本向海洋排放核污染水计划表达关切,敦促日方正视国际社会正当合理关切,本着对海洋环境和人类健康负责任的态度,以公开、透明、科学、安全的方式妥善处理。

こういう要求は今回はじめて出てきたのではなく、昨年の第14回や第13回でも似た発表がされている。・・・とはいえ、前回(第14回)や前々回(第13回)は「敦促(うながす)」表現も使われていたが今回は無くなって、「不得插手台湾问题(台湾問題に介入するな)」と強い表現も使われている。

今回の日程が、中国人民解放軍による台湾海峡や台湾島をぐるりと囲む大規模な軍事演習と重なっているのでそちらの影響もあるだろう。

 

その次に、東電福島第一原発のALPS処理水の海洋放出について意見が述べられている。日本経済新聞によると、日本側は「東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出に関連し、科学的根拠に基づかない対外発信を続けていると中国側に抗議した」そうだ。(日本経済新聞

8 東電福島第一原発のALPS処理水(多核種除去設備等処理水)について、日本側から我が国の立場を改めて明確に述べるとともに、科学的見地に基づいた議論を行うよう求めました。

中方再次对日本向海洋排放核污染水计划表达关切,敦促日方正视国际社会正当合理关切,本着对海洋环境和人类健康负责任的态度,以公开、透明、科学、安全的方式妥善处理。

前回(第14回)と比べると、中国側はより具体的な意見を述べている。

中方再次对日本向海洋排放核污染水计划表达关切,敦促日方审慎处理福岛核污染水问题。(第14回協議

IAEA(国際原子力機関)と国際専門家らによる東京電力福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の安全性に関するレビューが進められている。

 

 

日中防衛当局間の海空連絡メカニズムの下でのホットラインの設置について。日本側の発表では「ハイレベル交流を含む防衛当局間による意思疎通の強化」という部分がある。

9 双方は、日中防衛当局間の海空連絡メカニズムの下でのホットラインの設置が完了したことを歓迎し、早期の運用開始に向けて引き続き調整を進めていくこと、及びハイレベル交流を含む防衛当局間による意思疎通の強化についても具体的に調整を進めていくことで一致しました。

一、双方积极评价中日防务部门建成海空联络机制直通电话,确认尽早启用,并进一步完善海空联络机制,维护海空安全。双方同意继续加强防务领域交流。

 

 

海上保安庁と中国海警局。

第13回から出はじめた日中の海上保安機関・教育機関間の交流について、今回は日中双方から発表された。教育機関に関して具体的な記載は無いが、第13回の中国側発表によると海上保安大学校と中国海警学院かもしれない。

10 双方は、日中海上保安機関・教育機関間の相互理解、交流を進めることを確認し、二国間や多国間会合の枠組み等を利用して意思疎通を継続し、双方の信頼を引き続き醸成していくことで一致しました。
11 双方は、密輸、密航、麻薬取締り等の犯罪取締りの重要性を共有し、引き続き連携協力していくことで一致しました。

二、双方就加强中国海警局与日本海上保安厅对话合作达成一致,包括合作打击海上跨境犯罪、进一步发挥两国海警联络窗口作用、加强在多边海上执法合作机制下对话合作等。双方同意继续推进海上执法人员、海警院校学员交流。

 

日中海上捜索救助(SAR)協定が2019年2月に発効し、地方の管区海上保安本部の窓口間の共同通信訓練など行われている。

12 中国側から、1月下旬に発生した長崎県男女群島西方沖における香港籍貨物船沈没事案等に対する日本側の捜索・救助活動に対し、謝意が表明されました。さらに、双方は、2019年2月に発効した日中海上捜索救助(SAR)協定を踏まえた海上捜索救助協力強化に関する情報交換等を継続し、地方窓口間の通信訓練等の実施を含む円滑かつ効率的な海上捜索救助に引き続き協力して取り組むことで一致しました。

三、双方一致认为,中日海上搜救机构保持顺畅沟通和良好协作,同意继续在《中日海上搜救协定》框架下深化海上搜救领域务实合作,支持两国地方海上搜救部门举行通信演习。

 

 

海洋プラスチックごみ問題に関する協議も順調だろう。

13 双方は、プラスチックを含む海洋ごみ問題について、日中の様々なレベルでの協力を引き続き推進するとともに、国際的な枠組みに日中両国が積極的に貢献していくことで一致しました。

四、双方同意就办好2023年中日海洋垃圾合作专家对话平台第四次会议和第四届中日海洋垃圾研讨会加强合作,并在多边框架下积极推进应对海洋塑料垃圾务实合作。

 

漁業と違法操業(IUU)の問題に関しては、相変わらず食い違っている。

6 我が方から、日本海の大和堆周辺水域における中国漁船による違法操業について、中国側の対応を改めて強く要請するとともに、意思疎通を強化していくことを確認しました。

五、双方同意全面落实《中日渔业协定》,争取尽快重启中日渔委会,继续就打击非法捕鱼,北太平洋渔业资源养护、鳗鱼资源保护等开展合作。

 

 

東シナ海ガス田問題や対北朝鮮制裁に係る国連安保理決議の履行については、中国側はまったく触れていない。

5 我が方から、東シナ海資源開発問題に関して、昨年新たに2基の構造物が設置されたこと等に対して我が国の立場と強い懸念を改めて申し入れました。双方は、本年4月2日の日中外相会談において、東シナ海の資源開発に関する「2008年合意」を推進・実施していくことで一致したことを受け、引き続き緊密に意思疎通を続けていくことを確認しました。

7 我が方から、「瀬取り」への対応を含め、対北朝鮮制裁に係る国連安保理決議の完全な履行の重要性を提起しました。

 

その一方で、中国側の発表によると、海洋科学研究や海洋生態系の保護と再生、ブルー・エコノミーとイノベーション領域の合作について関係部門の交流の継続について合意したそうだ。日本側の発表には無い。

六、双方就开展海洋科研、海洋生态保护修复、发展蓝色经济创新技术等领域合作交换了意见,同意继续加强对口部门交流对接。

 

第16回日中高級事務レベル海洋協議は、年内(2023年)の開催が予定されている。今回は日本の東京で開催されたので、次回は中国の北京で開催されるのだろうか?

14 双方は、今後とも海洋分野について意思疎通を継続・強化していくことで一致するとともに、第16回日中高級事務レベル海洋協議の開催に向けて、具体的な調整を始めることで一致しました。

七、双方同意继续开展外交部门涉海人员互访,支持涉海智库、学术及教育机构间的交往合作。
八、双方原则同意,今年年内在中国举行中日海洋事务高级别磋商机制第十六轮磋商。

 

 

ところで(閑話休題)・・・、
辺境海洋事務局の副局長となった趙立堅(元報道官)は参加しなかったようだ。集合写真にそれっぽい人は見当たらない。例の南部にとばされた説が合ってた?😅

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中国、外交部の趙立堅報道官、国境海洋事務局の副局長に 日中高級事務レベル海洋協議でも戦狼外交? - pelicanmemo (2023-01-11)

 

 

「ホットライン」運用開始へ協議 日中、4年ぶり対面 - 日本経済新聞

中国軍活動に懸念表明 日中海洋協議、4年ぶり対面 - 産経ニュース

日中高級事務レベル海洋協議を開催 日本周辺での中国の軍事活動活発化に懸念伝える | TBS NEWS DIG

尖閣周辺への侵入停止を 政府、中国当局と海洋協議:時事ドットコム

中国、日本に主権侵害の停止要求 | 共同通信

 

2023年4月10日外交部发言人汪文斌主持例行记者会

路透社记者:中方在台海附近举行军事演习的同时,正与日本举行海洋事务高级别磋商。发言人能否分享磋商的具体内容与结果?

汪文斌:关于你提到的中日海洋事务高级别磋商,我们会适时发布消息,请你保持关注。

 

日中高級事務レベル海洋協議第1回会議(概要) | 外務省
日中高級事務レベル海洋協議第2回会議(概要) | 外務省
日中高級事務レベル海洋協議第3回全体会議及びワーキンググループ会議の開催 | 外務省
日中高級事務レベル海洋協議第4回会議(結果) | 外務省
日中高級事務レベル海洋協議第5回会議(結果) | 外務省
日中高級事務レベル海洋協議第6回会議(結果) | 外務省 
第7回日中高級事務レベル海洋協議(結果) | 外務省
第8回日中高級事務レベル海洋協議(結果) | 外務省
第9回日中高級事務レベル海洋協議(結果) | 外務省
第10回日中高級事務レベル海洋協議(結果) | 外務省 
第11回日中高級事務レベル海洋協議(結果) | 外務省 
第12回日中高級事務レベル海洋協議(結果)|外務省
第13回日中高級事務レベル海洋協議(結果)|外務省
第14回日中高級事務レベル海洋協議(結果)|外務省
第15回日中高級事務レベル海洋協議(結果)|外務省

 

中国の外交部のURL・ドメインが変わったためトップページに飛ばされてしまう。中国政府网の該当記事のリンクも追加した。

中日举行第一轮海洋事务高级别磋商 — 中华人民共和国外交部
中日重启海洋事务高级别磋商 — 中华人民共和国外交部
中日举行第三轮海洋事务高级别磋商 — 中华人民共和国外交部
中日举行第四轮海洋事务高级别磋商 — 中华人民共和国外交部中国政府网
中日举行第五轮海洋事务高级别磋商|中国政府网(来源:新华社)中国政府网
中日举行第六轮海洋事务高级别磋商|中国政府网(来源:新华社)中国政府网
中日举行第七轮海洋事务高级别磋商 — 中华人民共和国外交部中国政府网
中日举行第八轮海洋事务高级别磋商 — 中华人民共和国外交部
中日举行第九轮海洋事务高级别磋商 — 中华人民共和国外交部中国政府网
中日举行第十轮海洋事务高级别磋商 — 中华人民共和国外交部中国政府网
中日举行第十一轮海洋事务高级别磋商 - 中国政府网(来源:新华社)中国政府网
中日举行第十二轮海洋事务高级别磋商 — 中华人民共和国外交部中国政府网
中日举行第十三轮海洋事务高级别磋商 — 中华人民共和国外交部中国政府网
中日举行海洋事务高级别磋商机制第十四轮磋商_中华人民共和国外交部 (中国政府网
中日举行海洋事务高级别磋商机制第十五轮磋商-新华网(来源:新华社)中国政府网

(外交部プレスリリースに、第五回、第六回、第十一回、第十五回は見当たらない(報道官談話や報道発表はある)) 

 

 

日中高級事務レベル海洋協議、第9回会議、仙台市で開催| 中国共産党・国務院の機構改革の後、はじめて - pelicanmemo (2018-04-21)

日中高級事務レベル海洋協議、第10回会議、浙江省で開催 - pelicanmemo (2018-12-19)

日中高級事務レベル海洋協議、第11回会議、北海道小樽市で開催 - pelicanmemo (2019-05-14)

日中高級事務レベル海洋協議、第12回会議 オンライン形式で開催 - pelicanmemo (2021-02-07)

日中高級事務レベル海洋協議、第13回会議 海上保安大学校と中国海警学院との交流? - pelicanmemo (2021-12-21)

日中高級事務レベル海洋協議、第14回会議 海空連絡メカニズムのホットライン早期運用へ - pelicanmemo (2022-11-23)

(第1回〜第8回へのリンクは省略。第9回会議のブログ記事から遡ってどうぞ)