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海外の話が多め。近頃は中国が多め(中国海警局・中国海監、深海潜水艇、感染症など)。

日中高級事務レベル海洋協議、第12回会議 オンライン形式で開催

  (日本の外務省のツイッターの公式アカウント @MofaJapan_jp が、第10回協議以降の関連ツイートをしていないので、中国のCRI日本語版のツイートを使用した)

日中高級事務レベル海洋協議、第12回会議が、2月3日にオンライン形式(テレビ会議)で開催された。

中国の”海警法”が可決され2月1日施行されることをうけて、2月3日の開催となったのだろう。1月20日には団長間協議が開催されていた。

前回(第11回)は一昨年(2019年)5月に開催。同年12月の開催は(なぜか)無く、昨年(2020年)は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの影響で延期された。今回、オンライン形式での開催となったわけだが、むしろ会場その他もろもろの準備と調整にかける手間がなく、企画から実施まで迅速に対応できるようになっただろう。

 

発表と報道によると、懸念される中国の”海警法”とそれに関わるところは、日中双方がそれぞれの主張を伝えただけに留まっている。水面下でのやり取りはあるだろうが、いわゆる”テレビ会議”なので微妙な表情の変化やしぐさをとらえたり読唇術や、あるいは「廊下で立ち話…」や「別室で…」といった技を使うのは難しそうだ。

 

日中高級事務レベル海洋協議団長間協議|外務省 (令和3年1月20日)

第12回日中高級事務レベル海洋協議(結果)|外務省 (令和3年2月4日)

中日举行海洋事务高级别磋商团长会谈 — 中华人民共和国外交部 (2021-01-20)

中日举行第十二轮海洋事务高级别磋商 — 中华人民共和国外交部 (2021-02-04) 

日中高級事務レベル海洋協議、第11回会議、北海道小樽市で開催 - pelicanmemo (2019-05-14)

 

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日中高級事務レベル海洋協議はこれまで局次長級で実施されていたが、第12回から局長級で実施された。
(日本側団長:船越健裕(ふなこし・たけひろ)外務省アジア大洋州局長
中国側団長:洪亮(こう・りょう)外交部辺境海洋事務司長(参考:第11回は、日本側団長:石川浩司外務省アジア大洋州局審議官(当時)、中国側団長:範琨外交部辺境海洋事務司参事官(当時))

 

日本側の組織は、第12回では、内閣府(第7回〜第11回)からふたたび内閣官房に戻って、国家安全保障局が参加した。内閣府や内閣官房の総合海洋政策事務局では、日本の安全保障に関わりかねない中国の海警法についての協議に対応しきれないからだろう。

内閣官房 国家安全保障局は、内閣の国家安全保障会議を恒常的にサポートする組織。内閣官房の総合調整権限を用い、国家安全保障に関する外交・防衛政策の基本方針・重要事項に関する企画立案・総合調整に専従する。(国家安全保障局|内閣官房ホームページ より)

文部科学省が参加しなかった。20210207140007

 

 

中国側の組織は、今回も前回に続いて公安部が参加しなかった。公安部辺防管理局庁が海上保安庁と行っていた、密輸・密航及び麻薬取引等の越境犯罪対策が中国海警局に引き継がれたのだろう。

中国海警局(人民武装警察部隊 海警総隊)の上部組織である人民武装警察部隊(武警)の参加は無かったようだ。

中国地質調査局が参加しなかった。中国科学院や、日本の文科省も参加していないので海洋の科学的調査や海洋地質学の分野における協議は無かったようだ。

20210207140011 

 

前回(第11回)、「国連海洋法条約(联合国海洋法公约)」が、”日中高級事務レベル海洋協議の結果概要”で初めて使われた。それは海洋の科学的調査に関する合意だった。

中国の国内法である「海警法」の内容の一部は、中国も締結している国際法の「国連海洋法条約(海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS))」に違反をしていると分析されており、今回(第12回)の協議で取り上げられないはずはない。非常に強く深く関係しているのだが、だからこそ結果概要に記載できるような合意は無かっただろう。

次の引用は前回の第11回の結果概要から。

5  双方は,海洋の科学的調査について意見交換を実施し,日中の海洋の調査活動の相互事前通報の枠組みや国連海洋法条約の関連規定を確実に遵守することの重要性を確認するとともに,引き続き意思疎通を重ねていくことで一致しました。
三、双方就海洋科考交换意见,确认遵守中日双方关于海洋科考相互通报框架和《联合国海洋法公约》有关规定,愿就相关事宜继续保持沟通。

日中高級事務レベル海洋協議、第11回会議、北海道小樽市で開催 - pelicanmemo

 

 

今回(第12回・日中高級事務レベル海洋協議)の結果概要は、日本の外務省からの発表と中国の外交部からの発表とで形式が大きく違っている。前回までは、ほぼ同じ文章が日本語/中国語に訳されたものだった。
このことだけでも、わずかの分野を除いて、第12回の協議が充分な合意に到れなかったことが分かる。それはオンライン形式という技術的なことの影響かもしれないし、今回から局長級で実施されよりハイレベル協議となったからかもしれない。

 

第12回・日中高級事務レベル海洋協議は、次の3つのワーキンググループに分かれて会議が行われた。

2 双方は、1月20日に行われた団長間協議に続き、全体会議のほか、(1)海上法執行及び海上安全、(2)海上防衛、(3)海洋経済の3つのワーキンググループに分かれて会議を行い、東シナ海等に関する様々な問題について意見交換を行い、海洋分野における協力の在り方や懸念について議論しました。

此前,双方已于1月20日举行了团长会谈。本次磋商在团长会谈的基础上,举行了机制全体会议和海上防务、海上执法与安全、海洋经济三个工作组会议,就涉海问题及海洋交流合作广泛深入交换了意见。

 

注目されている中国の「海警法」等と、日本海の大和堆周辺水域における中国漁船の違法操業に関しては、双方がそれぞれの主張を伝えただけのようだ。発表の文章には、政治的な表現が多くみられる。

3 我が方から、日本漁船への接近を含む個別の事象にも言及しつつ、尖閣諸島周辺海域等の東シナ海を始めとする海洋・安全保障分野の課題にかかる我が国の立場、懸念を改めて申し入れ、中国側の行動を強く求めました。また、海警法等について、国際法と整合的に運用されるよう求め、我が国の強い懸念を伝えました。

7 双方は、東シナ海を「平和・協力・友好」の海とするとの目標を実現していく観点からも、海洋分野における具体的な協力・交流を推進していくことで一致しました。
(1)双方は、「日中防衛当局間における海空連絡メカニズム」の「日中防衛当局間のホットライン」について早期開設に向けた調整が着実に進展していることを改めて歓迎し、その実現に向け、双方が調整を更に加速させていくことで一致しました。双方は、ハイレベルの相互訪問など、防衛当局間における意思疎通を継続していくことで一致しました。

双方确认,全面落实中日领导人达成的共识和四点原则共识,通过对话妥善处理矛盾分歧,务实推进海洋领域合作,共同努力把东海建成和平、合作、友好之海。双方强调维护东海和平稳定的重要性,同意尽快召开防务部门海空联络机制年度会议和专门会议,加速启动该机制下直通电话建设进程,加强危机管控,防止不测事态。双方愿根据此前达成的东海问题原则共识,继续探讨在东海的资源开发合作。

中方重申了在钓鱼岛问题上的严正立场,要求日方避免采取使事态复杂化的举动。中方敦促日方认真落实《中日渔业协定》安排,同中方一道维护好有关海域渔业秩序。中方应询介绍了《中华人民共和国海警法》的有关内容,强调制定该法是中国正常立法活动,完全符合国际法和国际惯例。

 

漁業に関する部分は、お互いの発表にずれがある。

日本側の発表では、大和堆の周辺海域での中国漁船の違法操業について対応を要請した。中国側の発表では、日本海には触れておらず北太平洋の漁業資源の方を強調している。

4 我が方から、日本海の大和堆周辺水域における違法操業について、中国側の対応を改めて強く要請するとともに、意思疎通を強化していくことを確認しました。

五是就打击非法捕鱼、推进鳗鱼资源管理和北太平洋渔业资源养护加强合作。

 

中国外交部の汪文斌副報道局長は、2月4日の定例記者会見で、海警局に武器使用を認めた海警法は「国際法と国際慣例に完全に合致している」と第12回日中高級事務レベル海洋協議(2月3日開催)で主張したと明かしたそうだ。外交部の発表テキストでは、その部分は公開されていない。
一方で、外交部が発表する定例記者会見のテキストでは「国際慣例と各国の実践に合致している(符合国际惯例和各国实践)」にとどまっており国際法には触れていない体裁となっている。”法律戦”の難しい局面にある。

中国、海警法「国際法に合致」: 日本経済新聞 (2021/02/04)

汪文斌:首先我要说的是,制定《海警法》是中国正常的立法活动,符合国际惯例和各国实践。中方的立法过程是公开透明的。我们希望有关国家客观正确看待,不要无端猜疑指责。

2021年2月4日外交部发言人汪文斌主持例行记者会 — 中华人民共和国外交部

 

中国側の発表には、東シナ海資源開発に関する「2008年合意」の部分は無い。

中国による東シナ海での一方的資源開発の現状|外務省

5 双方は、東シナ海資源開発に関する「2008年合意」について、同合意の実施に向けて引き続き意思疎通を続けていくことを確認しました。

福島第一原発の処理水について、中国側の発表では項目外として末尾に記されている。海洋産業も一緒に書かれているので、もしかしたらここに東シナ海資源開発もまとめて書いているつもりなのかもしれない。

6 中国側から、東電福島第一原発の処理水について関心が示され、我が方から透明性をもって現状を説明するとともに、今後も意思疎通していくことを確認しました。

双方还就海洋资源能源、日本福岛第一核电站废水处理、海洋科技、海洋产业合作等问题进行了交流。

 

中国側の結果概要で、双方が海事分野で合意に達した(双方就涉海具体合作达成以下共识)と書かれているのは5つの項目だけだ。

それ以外は、項目外として記載しているのだろう。日本側の発表とかなり違っていて分かりにくい。もし、これがオンラインではなく日本か中国のどこかでの開催だったなら、主催国側の”顔を立てて”もう少し合わせることも出来たのかもしれない。

 

日中海上捜索・救助(SAR)協定が2019年2月に発効した。第11回協議(2019年5月開催)と同じく、日本側の概要と中国側の概要とで文字数がかなり違うのが気になるが、内容は同じなので、日本側のは表現が詳し過ぎるだけだろう。(期待感の違いだろうか?🤔)

前述した、海上保安庁と公安部辺防海警局との海上犯罪取締りに関する部分は、中国海警局に引き継がれたと思われる。

7 (2)双方は、2019年2月に発効した日中海上捜索・救助(SAR)協定を踏まえた海上捜索救助協力強化に関する情報交換等を行い、海上保安庁と中国海上捜索救助センターは、引き続き、地方窓口間の通信訓練等の共同演習の実施を含む円滑・効率的な海上捜索救助に協力して取り組むことで一致しました。また、双方は、海上犯罪取締りに関する連携強化についての意思疎通を推進していくことで一致しました。

一是在《中日海上搜救协定》框架下,推动中国海上搜救中心与日本海上保安厅加强地方窗口之间的合作,开展多种形式的联合演练。

二是支持中国海警局与日本海上保安厅在打击海上犯罪及执法人员交流等方面进一步开展合作。

海上保安庁と中国海警局との対話窓口や協力及び交流について、日中両方の発表から無くなった。次の引用は前回(第11回)の発表。

7  海上保安庁と中国海警局は,二国間及びマルチの分野における交流及び協力を一層強化することで一致しました。
五、双方同意,中国海警局与日本海上保安厅进一步加强双多边领域的交流合作。

日中高級事務レベル海洋協議、第11回会議、北海道小樽市で開催 - pelicanmemo (2019-05-14)

 

海洋ごみの対策について、さらに詳しく合意がなされたようだ。

正直なところ、日中高級事務レベル海洋協議を追いかけていて、日中SAR協定とこの海洋ごみ対策の合意の文章だけが”癒やしの場”となっている。☺️

(3)双方は、日中海洋ごみ協力専門家対話プラットフォーム第2回会合及び第2回日中海洋ごみワークショップでの合意事項について同意し、モニタリングデータの共有や、G20・国連環境総会等の枠組を活用して国際枠組に基づく行動の促進に協力していくことで一致しました。

三是加强海洋环保交流。双方确认“中日海洋垃圾合作专家对话平台第二次会议及第二届中日海洋垃圾研讨会”达成的共识,进一步开展防治海洋塑料垃圾合作。

 

 

日中海洋事務の従事者交流について合意がなされた。

(4)双方は、日中海洋事務従事者交流の枠組み等を活用し、両国の海洋分野における担当若手職員間の相互理解を引き続き増進していくことで一致しました。

四是继续开展外交部门涉海人员互访,促进涉海事务青年干部间的交流,支持涉海智库、学术及教育机构间的交往合作。

前回(第11回)にはじめて登場した「日中双方の外交当局海洋担当若手職員(中日外交部门涉海人员)」に関するものかもしれない。

前々回(第10回)と前回(第11回)に、両国の海洋関連シンクタンクについての項目があったが今回(第12回)は無くなった。これも関係するのかもしれない。

 

 

次回(第13回)の日中高級事務レベル海洋協議は、今年(2021年)後半に開催される。

中国側の発表ではさらに「同時に、双方の当事者の長は必要に応じて緊密な交流を維持し、不一致を調整し、協力を促進する」と続けている。今後も団長級会合が行われるのだろう。

8 双方は、第13回日中高級事務レベル海洋協議を本年後半に開催することで一致しました。

双方原则同意,年内举行第十三轮中日海洋事务高级别磋商。同时,双方团长根据工作需要保持密切沟通,管控分歧,推进合作。

もし、新型コロナ禍がおさまっていなかったら、次回もオンライン形式で行われるのかもしれない。

 

日中高級事務レベル海洋協議第1回会議(概要) | 外務省
日中高級事務レベル海洋協議第2回会議(概要) | 外務省
日中高級事務レベル海洋協議第3回全体会議及びワーキンググループ会議の開催 | 外務省
日中高級事務レベル海洋協議第4回会議(結果) | 外務省
日中高級事務レベル海洋協議第5回会議(結果) | 外務省
日中高級事務レベル海洋協議第6回会議(結果) | 外務省 
第7回日中高級事務レベル海洋協議(結果) | 外務省
第8回日中高級事務レベル海洋協議(結果) | 外務省
第9回日中高級事務レベル海洋協議(結果) | 外務省
第10回日中高級事務レベル海洋協議(結果) | 外務省 
第11回日中高級事務レベル海洋協議(結果) | 外務省 
第12回日中高級事務レベル海洋協議(結果)|外務省

 

中日举行第一轮海洋事务高级别磋商 — 中华人民共和国外交部
中日重启海洋事务高级别磋商 — 中华人民共和国外交部
中日举行第三轮海洋事务高级别磋商 — 中华人民共和国外交部
中日举行第四轮海洋事务高级别磋商 — 中华人民共和国外交部
中日举行第五轮海洋事务高级别磋商|中国政府网(来源:新华社)
中日举行第六轮海洋事务高级别磋商|中国政府网(来源:新华社)
中日举行第七轮海洋事务高级别磋商 — 中华人民共和国外交部
中日举行第八轮海洋事务高级别磋商 — 中华人民共和国外交部
中日举行第九轮海洋事务高级别磋商 — 中华人民共和国外交部
中日举行第十轮海洋事务高级别磋商 — 中华人民共和国外交部
中日举行第十一轮海洋事务高级别磋商 - 中国政府网(来源:新华社)
中日举行第十二轮海洋事务高级别磋商 — 中华人民共和国外交部

(外交部プレスリリースに、第五回、第六回、第十一回は見当たらない(報道官談話や報道発表はある)) 

 

 

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第12回中日高級事務レベル海洋協議が開催--人民網日本語版

第12回中日高級事務レベル海洋協議が開催_中国国際放送局

中国、海警法は「国際法に合致」 と主張 日中高級事務レベル協議で - 産経ニュース

中国、海警法「国際法に合致」: 日本経済新聞