(人民網日本語版より)
12月27日、西南太平洋のマリアナ海溝の最深部であるチャレンジャー海淵で、中国が独自開発した3台の1万メートル級着底装置(ランダー, Lander)による海中試験に成功した。最大深度は10890m。海底での撮影や、生物・微生物、海水と海底堆積物のサンプルの採取に成功した。
今回の西南太平洋での、科学調査母船「張謇」による海洋調査は、上海海洋大学の深淵科学技術研究センター(以下、深渊中心)と上海彩虹魚海洋科技株式会社(以下、彩虹魚公司)によって、今年2月まで行われている。
日本語のニュースでは人民日報日本語版が「3台の1万メートル級有人深海潜水艇「彩虹魚」が...」と訳して紹介している。これは間違いで、今回も有人深海潜水艇ではない。(まだ開発中だし、"3台"も作っていないよ・・・😔)
中国が開発中の、1万メートル級深淵科学技術移動実験室の科学調査の「重器」となる、3台の1万メートル級有人深海潜水艇「彩虹魚」がこのほど、世界で最も深いマリアナ海溝の中でも一番深い「チャレンジャー海淵」で1万メートル級海中試験に成功し、サンプルを回収した。
(赤字強調は管理人による)深海潜水艇「彩虹魚」、1万メートル級潜水試験に成功--人民網日本語版(2016年12月30日)
この間違い・勘違いと、「彩虹魚」探査計画について少し。
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人民日報日本語版は、これまでにも同じ間違いをしている。例えば昨年7月。
有人深海潜水艇「彩虹魚号」、南中国海で投入-人民網日本語版https://t.co/gnu7cjC0Vm
— ぺりかんめも (@pelicanmemo) 2016年7月21日
>...各種深海設備の調整と科学調査を展開している。これには1万メートル級有人深海潜水艇「彩虹魚」号の投入作業も含まれる。
さすがに、ソレに乗って潜るのは無理だよー 😜
(新华网より)(画像は今回のマリアナ海溝のランダー。南シナ海では別タイプが使われた)
今回の、人民日報海外版の元記事(写真は新華网から転載)はこれだろう。
近日,在全球最深的马里亚纳海沟最深处“挑战者深渊”,中国正在打造的万米级深渊科学技术流动实验室中的科考“利器”——三台“彩虹鱼”万米级着陆器,成功进行万米海试并采样。
(赤字強調は管理人による)“彩虹鱼”万米海试采样 - 人民日报海外版-人民网(2016年12月30日)
我国三台“彩虹鱼”万米级着陆器成功进行万米海试并采样--图片频道--人民网(2016年12月30日)
元の記事がおかしな書き方をしているのかと思ったが、「3台の“彩虹魚”1万メートル級着陸器( 三台“彩虹鱼”万米级着陆器)」と適切な表現だった。人民日報日本語版の誤訳のようだ。
中国、「彩虹鱼」1万m級超深海潜水探査計画 無人潜水艇と海底着陸器の試験成功 - pelicanmemo
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水深6000mよりも深い海を、中国語で「深渊(深淵)」、日本語で「超深海」と呼ぶ。
中国の水深1万メートル超の"超深海"探査計画を、国家レベルの事業と勘違いする人もいるようだが、民間と大学のレベルの事業だ。
7000m級有人深海潜水艇「蛟竜(蛟龙)」号の第一副総設計師をつとめた崔維成(崔维成)教授らが、自ら立ち上げた海洋ベンチャー企業(超深海ベンチャー?)である上海彩虹魚海洋科技株式会社(上海彩虹鱼海洋科技股份公司)(以下、彩虹魚公司)と、母校の上海海洋大学と立ち上げた深淵科学技術研究センター(深渊科学技术研究中心)(以下、深渊中心)、母船を建造した造船会社などが関わっている。国家計画への応募もしていたようだ(十三五計画では見送られた)。
「超深海科学技術移動実験室(深渊科学技术流动实验室)」として、彩虹魚公司が中心となって研究開発を行っているフルデプス有人深海潜水艇(Full Ocean Depth HOV (Human-Occupied Vehicle))、すでに運用されている4800㌧級科学調査母船「張謇」、上海海洋大学の深渊中心が研究開発している無人深海潜水艇(Full Ocean Depth ARV (Autonomous and Remotely operated Vehicle))と3台の深海底着陸器(Full Ocean Depth Landers)がある。
「彩虹魚」の名称は、それぞれの装備(母船「張謇」を除く)につけられ、「彩虹魚」無人潜水艇というように呼ばれる。また今回、深海底に到達した探査装置3台は「彩虹鱼1号」「彩虹鱼2号」「彩虹鱼3号」と略されている。(いずれ、それぞれに名前が付けられるのかもしれないが、今のところ、まとめて「彩虹魚」を着けて呼ばれている。)
いまはまだ、それぞれ単独で試験運用されているが、有人機や無人機、母船の観測装置との合同運用や、衛星回線を使った他海域や本土との連携も想定している。
昨年12月、映画監督のジェームズ・キャメロン氏が「ディープシー・チャレンジャー」号でマリアナ海溝最深部に潜った時に採取した約2センチの深海ヨコエビの表面から、新種の微生物が見つかった。和歌山工業高等専門学校や米スクリップス海洋研究所のグループが発見したそうだ。
最高の水圧で生きる細菌発見 きっかけはキャメロン監督:朝日新聞(2016/12/24)
今回、「彩虹魚」ランダーによって、多くの端脚類(ヨコエビなど)、生物や微生物、海水や堆積物のサンプルが採取された。ふたたび、新種の微生物や生物が見つかるのかもしれない。探査計画では、超深海の生物・微生物のDNAバンク構想も立案されている。
「彩虹魚」有人深海潜水艇の最初の海上試験は2年後、2019年の予定だ。
我国三台“彩虹鱼”万米级着陆器成功进行万米海试并采样 - 新华网
“彩虹鱼”深渊探测器成功探秘万米深渊——海洋探秘进入新时代 | 彩虹鱼 挑战深渊极限
彩虹魚公司(上海彩虹鱼海洋科技股份有限公司(Shanghai Rainbowfish Ocean Technology Co., Ltd.))の「彩虹魚」は、マーカス・フィスターが書いた絵本「にじいろのさかな」(原題:Der Regenbogenfisch)から名付けられた。
にじいろの さかな うみの そこの ぼうけん (にじいろのさかなブック)
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