(海警2901(微博より))
中国海警局の万トン級「海警2901」と同型艦「海警5901(もと海警3901)」について、「体当たり」のための設計をしている、そういう船体構造をしているという記事をときどき見かける。
JBPressの1月28日の記事で”明らかに「体当たり」を前提とした形状が認められるという”と文章があり、これに対してツイッターSNSで「どこにそんな形状がある?」「具体的にどこ?」といった疑問を呈するコメントがいくつもあった。
それに対して、執筆者から回答は無いようだ。
どれのことなのだろう?🤔 これについて少し。
簡単に3行。🙂
- 「体当たり "ramming"」の文字からイメージされる衝角(ラム(ram))のように、船首・バウをぶつける戦法ではないだろう。
- 「体当たり」は "shouldering"であり、接舷規制や針路規制を行うために舷側をぶつけることだろう。
- 直前にForbes紙で、中国の海事局の1万トン級「海巡09」の船体についての記事があった。そこからまた中国海警局の「海警2901」と「体当たり」のネタに繋がったのかもしれない。(Forbes紙が今月記事を出している。そこでは舷側の形状が指摘されている)
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これで日本が何もしなければ「尖閣はもう終わりだ」 武器使用より厄介な宣言を含む中国「海警法」成立の衝撃 | 北村 淳 | JBpress (2021.1.28)
そのため、すぐさま機関砲や機銃などの武器を使用するわけではなく、中国海警局巡視船や中国海軍艦艇がこれまでも多用してきた「体当たり戦法」を外国の軍艦や巡視船に敢行する、と宣言していると読み取れるのである。
艦艇構造の専門家によると、中国の大型巡視船や駆逐艦などには、明らかに「体当たり」を前提とした形状が認められるという。
実際に、1万2000トン級(満載排水量は1万5000トン)の中国海警局超大型巡視船(東シナ海の「海警2901」、南シナ海の「海警3901」)が誕生した際に、中国当局は2万トン級の船舶への体当たりにも耐え、9000トン級の船舶との衝突では自艦は何のダメージも受けないように設計されている、と豪語していた。
(赤字強調は管理人による)
まず、「海警2901」「海警3901(現・海警5901)」は「満載排水量1万2000トン」と中国の大手メディアが報道している(諸元の公式発表は無い)。その数字が定説なんだけど・・・、な・ぜ・か、日本語メディアの記事ではときどき「満載排水量1万5000トン」とさらに大きな数字を、”断定して”書く記事が出ている。(いつまで続けるんだろう…?🙄)
「2万トン級の船舶への体当たりにも耐え(中略)と豪語…」の部分は、発言したのは中国当局ではなくて、建造した造船会社の上の人の言葉じゃなかったっけ?🤔
人民日報英語版の2015年7月の記事が出て、当時話題になってた(海警2901は、2014年12月にはじめて進水後の姿が公になった)。
当時の、海警2901についての中国の大手メディアの報道では、
「世界最大の巡視船(法執行船)」
というとこを強調していたのをよく憶えている。(当時の雰囲気を伝えたくてフォントサイズ200%としてみたよ)
なにかと「一番」が大好きな中国なので、2万トン級の船舶への体当たりのくだりも「これだけデカくてスゴイのを建造したぞ!」と我が社の製品を大きくアピールしていると感じた。
案外、海上保安庁の「しきしま型」「れいめい型」巡視船(満載排水量9000トン以上と)もそのくらいの船の衝突に耐えられるんじゃない? 知らんけど(参照)。
日本メディアが、海警2901の進水前後に”モンスター”という表現を使ったら、中国メディアが喜んで「外国が”怪兽(モンスター)”と呼ぶ万トン級海警船」を使っている。
不安感を煽るようなイメージを拡げたり真偽不明情報を拡散して、マスコミや民衆が「怖い」「怖い」と繰り返して言って萎縮したり、逆に過剰に攻撃的に反応をする、そういうナイーブな対応こそが中国の三戦の”心理戦”にノセられていると思いますよ。🙂
【中国海警局】 排水量12000トン「海警2901」 vs. 排水量6500トン「しきしま型」巡視船、という数字のトリック - pelicanmemo (2020-05-17)
中国海警局 カテゴリーの記事一覧 - pelicanmemo
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昨年(2020年)9月29日、中国の広東省広州市の造船所で、交通運輸部海事局の大型海事巡邏船「海巡09」が進水した。設計排水量10700トン、満載排水量は13000トン。
中国海警局ではない。
中国、海事局の万トン級巡視船「海巡09」進水 満載排水量13000トン - pelicanmemo (2020-10-02)
この海事局の1万トン級「海巡09」と、中国海警局の万トン級「海警2901」「海警5901(もと海警3901)」を混同して書いているものをときどき見かける。どちらも中国の海上法執行組織の”10000トン級”の公船なので、ごっちゃにしてしまうのだろう(全くの勘違いか、意図的なものかは分からない)。
日本の軍事情報の専門雑誌でも、いろいろと間違えている記事が出ている。
月刊「軍事研究」2020年9月号:「中国海警局の1万トン級」と呼ばれる”キメラ”情報 - pelicanmemo (2020-09-11)
これを指摘した当ブログ記事では、「こうやって、不確かなネットの情報が寄せ集められてツギハギされて「中国海警局の1万トン級」というキメラが生まれていく。」と書いてみた。
フォーブス紙の今年(2021年)1月15日の記事もその1つと言える。
Huge New Chinese Ships Are Made For Ramming - Forbes (Jan 15, 2021)
Where many of the world’s warships and coast guard vessels have hulls with roundly sloping sides, the Chinese navy’s new Type 055 cruisers and the Chinese coast guard’s patrol ship Haixun both feature slab-like flat portions along their hulls.
(赤字強調は管理人による)
この記事では、中国海軍の055型駆逐艦(満載排水量12000~14000トン)と海事局の1万トン級「海巡09」(満載排水量13000)の船体の舷側のデザインに注目して、「海巡09」の船体の船首からずっと平らでなめらかになっているデザインは、相手の船に舷側をぶつける「体当たり(shouldering)」をするための設計と分析している。接舷して法執行隊員を移乗させたり、(沈没はさせないまでも)損傷を与え、その海域から追い出すためだろう。
日本の海上保安庁だと”強行接舷”や”接舷規制”に相当する(厳密には違いがあるだろう)。海保の巡視船の中にも、”接舷規制”を行う時のために緩衝材を舷側に装備している船がある。尖閣諸島の警備活動で、中国(香港)や台湾の活動家らの船に対する”実戦”経験もあるのはご存知の通り。
海域を支配する上で、機関砲による打撃とその警告を扱いにくい海上法執行組織では、公船による接近や接触、警告は有効な戦術となるだろう。
これが大型巡視船にまで拡大するかどうかが気になるところだ。
(海巡09)
Forbesの記事(2021/01/15)では「海巡09 (Haixun 09)」を中国海警局の船(Chinese coast guard’s patrol ship Haixun)と書いているが、これは間違いだ。これは、交通運輸部海事局(China Maritime Safety Administration(CMSA))の船だ。
海事局は海上交通の監督や安全管理を担当しており、正直なところ「体当たり」を伴うような法執行活動を行うとはあまり想像できない。
また、この「海巡09」の舷側の平らなデザインは、「海警2901」「海警5901(もと海警3901)」には無い。
・・・とはいえすぐ後で、元米国海軍の将校で新アメリカ安全保障センター(CNAS)のJerry Hendrixが、中国は米国(の船)を押しのけるために2隻を建造と”信じている”と述べた、と続けている。これは海警2901と3901(現・5901)の2隻のことを言っているので、何かほかにも根拠があるのかもしれない。(知らんけど)
当アカウントの中の人は、船体設計の内部情報までははっきり断定して言う知識はない。ただ、海警局の万トン級や818型や718B型の船体には、海軍軍艦向けの高張力鋼が使われているのでは?と想像している。行政組織だった頃の海監や漁政の船舶の建造では、取引と使用が規制されていただろう。
Huge New Chinese Ships Are Made For Ramming - Forbes (Jan 15, 2021)
記事のタイトルに”Ramming”が使われているので船首の衝角(ラム(ram))を使った戦法と早合点しそうだが、本文の説明は"shouldering”で、肩からぶつかる(格闘技でのショルダー・ブロックやショルダー・チャージなどの)ための形状と分析している。(記事タイトル詐欺あるある)
これは”灰色の船”の軍艦にはない米国が対策を充分に用意できていない、”白い船”の巡視船(法執行船)などによる新しい戦術として警戒を示している。その戦術では船体の大きさは重要であり、中国の満載排水量1万トン以上の法執行船の「体当たり」は、他国の海軍の軍艦にとっても脅威となるうるだろう。
「だったら、米海軍の60000トン超(*)の「モントフォード・ポイント (USNS Montford Point (T-ESD-1))」級の機動揚陸プラットフォームを使えば、非武装だから沿岸警備隊の”白い船”と同じカテゴリーになるんじゃね?」「戦争のリスクを高めることなく、ライバルの船を押しだせるだろう。」と、記事の最後で書いているのは、…ご愛嬌かなぁ。😅
記事のオチと見るか、それとも根拠があって米国が本気(マジ)で考えていることなのか...😓 続報を待ちたい。
(*)60000トン超は載貨重量トン数。満載排水量は34500トン。(wikipedia)
案外、JBPressの1月28日付け記事の「中国の大型巡視船や駆逐艦などには、明らかに「体当たり」を前提とした形状が認められる」の部分は、このForbesの1月15日付け記事を参考にしたものなんじゃないだろうか?🤔
その”形状”とは「海巡09」の舷側にみられる平らな部分のつもりで書いたのかもしれない。
前述した類似点の他にも「中国の大型巡視船や駆逐艦など」と書いてあり、Forbesの記事でも「055型駆逐艦と海巡09」について書いている。
この中国海警局の大型船による「体当たり」は、この記事の著者が「海警2901」進水の後から(具体的には、人民日報英語版2015年7月27日の記事が出た後から)注目している点だと思うけど、中国海軍の駆逐艦の船体形状が出てきたことは無かったように思う。
米海軍があ然、中国「新鋭巡視船」の驚きの戦法とは 「我々はどう対処すべきなのか・・・」 | 北村 淳 | JBpress (2015.8.6)
中国海警局の艦船による、他国の公船や漁船に対して「体当たり」を行った前例はある。しかも中国は成功体験として見ていると考えられる。さらに大きな海警船で同じような戦法を検討していても不思議はない。
(時事通信 YouTubeより)
中国船による体当たり映像公開=ベトナム外務省「中国が攻撃」と主張 - 時事通信 YouTube
2014年5月から7月にかけて、南シナ海のパラセル諸島(中国名:西沙諸島、ベトナム名:Quần đảo Hoàng Sa(ホアンサ))で発生した、中国のオイルリグ「海洋石油 981」の資源探査計画に端を発した「パラセル諸島沖での中越衝突事件」で、実際に「体当たり」戦法が使われている。
(当時は、現在の中国海警局ではなく、国家海洋局(中国海警局)の中の辺防海警部隊(主に海南省配備の船))
その時の「体当たり」戦法は同じくらいの大きさの船同士で行われていた。高速で小回りのきく数百トン級には同じクラスの船があてられていた。むしろ船の機動性能的にそれしか出来なかったのかもしれない。
大型巡視船同士の体当たりがあったかどうかは曖昧だ(報道されなかった?)が、3000トン級には3000~4000トン級が対峙していた。また、中国とベトナムの双方で大型漁船群による海域の支配権争いが行われていた。
双方の軍艦は、遠くの海域に待機していてこの「海上衝突戦」には参加していない。
全般的に中国側が押していたと感じたけれども、ベトナム側も隙をみて中国のオイルリグに接近するなど善戦していたと記憶している。特に、ベトナム側はパトロール船に欧米メディアの記者とカメラを同乗させて現場海域で撮影した映像をすぐに報道するなど、中国に対抗する”メディア戦”で奮戦をし大きな成果をあげていた。
結果として、中国側は8月までの資源探査計画の予定を切り上げて7月に終了させた。
「海警2901」のはじめて進水した後の姿が公になったのは2014年12月13日。上海江南造船所での1枚の画像が、中国ネット掲示板で公開され、中国の大手メディアが報じていた。「海警2901」の情報は百度百科の項目などを含めて、未だにこの時期の報道が元となっている。諸元の公式発表は無い。
(海警2901)
そこでは「「体当たりに耐える」ための性能(耐冲撞性能)となっている。これが、前述した「2万トン級の船舶への体当たりにも耐えられる」という発言部分に繋がっている。
据悉,“海警2901”船的满载排水量达1.2万吨,航速达25节。该船装备有76毫米速射舰炮、2门副炮以及2挺高射机枪,航速达25节,不论是续航力、耐冲撞性能、适航性、速度各方面都对周边国家海上执法船具备较大优势。另外,从“2901”编号的头一个数字“2”可以看出,该船在未来将隶属海警东海分局,钓鱼岛方向将成为其巡航的重点。
中国万吨海警船“海警2901”已下水并完成涂装 排水量世界第一 - 观察者网 (2014-12-14)
(赤字強調は管理人による)
【中国海警局】1万トン級「海警2901」進水 満載排水量1万2000トン、76mm機関砲と副砲を装備か?: メモノメモ (2014年12月15日)
最後に、蛇足と思うけど、 中国海警局の万トン級の巨大巡視船の船首(バウ)の設計が体当たりをするためという発言は、米国海軍の高官からも出ている。
2016年1月にハリー・ハリス太平洋軍司令官(当時)が、中国が南シナ海で行っている行動と米国海軍のFONOP(公海自由航行の原則維持のための作戦)に関する一連の話の中で述べたと報道されている。
しかし、その後は繰り返していないようだし、ほかの人が引用したりしていないので、2015当時の不確かなうわさ話をもとにしたものなのだろう。
But, the admiral said, the Chinese Coast Guard continues to build a mammoth “cutter” displacing 12,500 tons — a quarter more than a US Arleigh Burke destroyer — with a bow reinforced for ramming. Since the Chinese Coast Guard has played aggressive bad cop to the PLA Navy’s good cop in disputed waters, the construction of such a ship suggests Philippine, Vietnamese, or Japanese coast guard vessels are going to take some hard hits in the near future.
US Will Push Chinese Harder On Territorial Claims: PACOM - Breaking Defense (January 27, 2016)
A coast guard-maintained peace in the East China Sea | The Japan Times (Apr 19, 2016)
「体当たり」について、つらつらと書いてみた。
中国万吨海警船“海警2901”已下水并完成涂装 排水量世界第一 - 观察者网 (2014-12-14)
美媒:中国新“怪兽”万吨海警船完成南海首巡|海警船|怪兽|南海_新浪新闻
China’s new generation of the 12,000 ton coast guard ship is designed to be used for law enforcement at sea and preventing foreign vessels from getting closer to our ship. The design of the main body of this vessel is up to military standard.
It has the power to smash into a vessel weighing more than 20,000 tons and will not cause any damage to itself when confronting a vessel weighing under 9000 tons. It can also destroy a 5000 ton ship and sink it to the sea floor.China's New Generation of Coast Guard Ship is Powerful - People's Daily Online (July 29, 2015)
【中国海警局】1万トン級「海警2901」進水 満載排水量1万2000トン、76mm機関砲と副砲を装備か?: メモノメモ (2014年12月15日)
【中国海警局】建造中の1万トン級の船か? 大型哨戒ヘリを搭載?: メモノメモ (2014年10月28日)
【中国海警局】 2隻目の万トン級「海警3901」完成か: メモノメモ (2016年1月9日)
中国海警局の1万トン級新型船は果たして「体当たり」戦法を実行できるのか - Togetter
軍艦が体当たり攻撃される可能性は? 弾道ミサイル防衛用米イージス艦の衝突事故発生に、軍事評論家岡部いさく氏が問題提起 - FNN 能勢伸之の週刊安全保障
21世紀の海で体当たり合戦が起こる理由と中国海警の巨大巡視船
Huge New Chinese Ships Are Made For Ramming
Dr. Jerry Hendrix | Center for a New American Security (en-US)
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