(自由時報より)
尖閣諸島の沖合いで、中国海警局の船が海上保安庁の巡視船に衝突したというデマ、フェイク・ニュースが中国と台湾のメディアの一部で流れている。
ひと目で分かる”フェイク・ニュース”で、中国SNSでも”デマ”と認定されている。
台湾の自由時報はそのままデマを流した。
いまのところ日本語メディアは伝えてはいないようだ。
フェイク・ニュースの出所は、中国の軍事専門紙「国防時報」らしい。本紙記事だったのか国防時報の微信や微博だけで公開されたSNS記事だったかは曖昧だ。台湾の自由時報や、中国のポータルニュースの搜狐、網易新聞(网易)によるとソースは「国防時報排头兵」(9月10日18時公開)なのでネットSNS記事のようだ。
そのデマを台湾の自由時報が11日付け記事でそのまま取り上げて伝えた。
中国や台湾のネットSNSで調べていて、この他にオリジナルとみなせる情報は見当たらなかった。
搜狐と網易の記事はすでに削除されていて(404 not found)で、Googleキャッシュで内容を確認できる(記事公開時点)。
[原创] 钓鱼岛局势升级!日本发起无端挑衅,中国海警战舰撞上日本巡逻舰尾部 - 搜狐(http://www.sohu.com/a/489076133_594189)(404 not found(削除済))(Googleキャッシュ (2021-09-10 18:00 来源: 国防时报排头兵))
钓鱼岛局势升级!日本发起无端挑衅,中国海警战舰撞上日本巡逻舰尾部 - 网易 (https://www.163.com/dy/article/GJI6PHG60515CCSC.html) (404 not found(削除済))(Googleキャッシュ)
日漁船想登釣魚台 中國海警船撞日本海上保安廳砲艦 - 自由時報電子報(2021/09/11 17:37)
--(追記:9/14)-------------------
台湾の中時新聞網が、自由時報の記事は”フェイク・ニュース”(意訳)だと伝えた。
找無影!日媒找不到大陸海警艦衝撞日本海保艦的消息 - 軍事 - 中時新聞網
張競最後說,「一言興邦,一言喪邦」媒體不要覺得為了點擊率就可以誇大其詞,歷史上就曾發生因媒體的誇大而爆發戰爭的事件,茲事體大不可不慎!
(*)中華戰略學會研究員張競博士
--(追記ここまで)------------------
--(追記:9/23)-------------------
香港の中文国際誌・亞洲週刊」に対して、第11管区海上保安本部の関係者は「そんな事はまったく起こっていない」と話した。また、日本の主流メディアの編集者は、もしそのような事が起きたら日本メディアがこんなに穏やかにしているだろうか?と言ったそうだ。
中日在釣魚島海域拉鋸式爭奪常態化實效化管控越演越烈。近日中國官媒《國防時報》刊文稱「釣魚島局勢升級!日本發起無端挑釁,中國海警戰艦撞上日本巡邏艦尾部」,引發海內外轉載與關注。但日本官方對此強烈否認,認為所謂「中國海警戰艦撞上日本巡邏艦尾部」並不屬實。九月十三日,日本第十一管區海上保安本部有關負責人向亞洲週刊表示:「完全沒有這回事。」日本主流媒體的值班編輯對亞洲週刊說,如果真有中國海警船衝撞日本海保巡邏船的事件,日本所有主流媒體會那麼「風平浪靜」嗎?
中日艦船釣島撞船羅生門 - 亞洲焦點 - 亞洲週刊 (2021/9/20-9/26 2021年38期)
--(追記ここまで)------------------
(追記修正(当日14時頃):網易より搜狐の記事の方がオリジナルに近いので、スナップショット画像を差し替えて追記しました。当ブログ記事は基本的な所は変わってはいません(最初は、台湾の自由時報の記事のリンクが網易の記事だったのでそちらを使っていた))
(Googleキャッシュ(2021/09/12 14時頃取得)より)
衝突した場面や、衝突の証拠となる画像は使われていない。
フェイク・ニュースでよく使われる、動画の一部だけを切り取って扇情的なコメントをつけて煽るやり方で、重なって見えていても遠近法で実際には2隻の距離はかなり離れている。
転載記事や紹介記事・ネットSNSで使われている画像は、尖閣諸島の沖で、仲間均石垣市議の漁船やネット放送局「チャンネル桜」が集めた漁船から撮影された動画が元で切り取ったものばかりだ。当然、衝突が起きたという目撃情報はまったく無い。発表も報道も無い。
このデマ記事では、日本の海上保安庁の巡視船が(中国海警局の船の)周りを航行している時に、1隻の中国海警局の船(海警戦艦と表記)が海上保安庁の巡視船の船尾と直接に衝突したと煽っている。
・・・さらに続けて、これに対して「日本側は、海保の巡視船ではなくこれは一艘の漁船の「追尾事故」だとウソの発表をしている」と書いてあって、正直なところ
「いったい、おまえはなにを言っているんだ? 😳???」
な気分だ。
在与日本舰艇周旋时,一艘海警战舰直接撞上了日本巡逻的候补舰。而日本方面则对此报道为“追尾事故”,更加过分的是,日本竟然谎称“追尾事故”中的日本舰艇是一艘渔船,但事实就是事实,在画面中可以清晰看到,中国海警战舰撞击的是一艘带有舰炮的日本海上保安厅炮舰。
海上保安庁からの発表で、尖閣諸島の沖で起きた日本漁船の衝突事故ってありましたっけ?(台湾漁船と接触した事故は昨年9月にあった(後述))
記事の内容は、まずデマで煽っておいて、政治的なプロパガンダにつなげていくよくあるパターンだ。
網易の記事の方は、日本の対応の分析と称してオリンピックや新型コロナ感染者数に言及しているのだけれど、すでに終わったオリンピックの中止の是非がどうとか書いている。支離滅裂な内容なので、もしかしたら近ごろ増えた読者参加型記事かもしれない(AIが作成した実験記事の可能性も疑っている)。
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(海上保安庁の180トン型「PS31 しもじ」と、中国海警局の3000トン級「海警2302」)
尖閣諸島の沖で起きていることについて、海上保安庁はあまり多くは発表せず、日本メディアはあまり報道せずジャーナリストの独自取材も少ない。ごく少数の人による現地情報の発信やコメントに偏っているのが現状だ。
自然と、その少数の人や団体の考えと政治的意見が目につきやすく、特にネットSNSでは貴重な現地情報として拡散されやすい。しかし、高圧放水銃を機関砲だとうっかり勘違いした例もあったし、巡視船の位置関係だけをもとにして政治的主張で煽っているものもある。
実は中国側も似たようなもので、中国当局から現地情報の発表はまったくと言っていいほど無い。
海上保安庁が撮影した、尖閣諸島の接続水域を航行する中国海警局の船の画像が出てくると、微博などSNSで「(中国海警局)専属カメラマン」(*1)と半分冗談でコメントされたりもする。(苦笑)
こういうときは、日本でも中国でもどちら側でも、一部の少数の過激な意見が出てきて、お互いに相手側の少数の過激な意見を取り上げることで、それを国家や政府(中国の場合は中国共産党)による対応だ!とかその社会全体の意見のように書くものがあらわれる。
そういう間違い・デマの情報は、直情的に反応しやすい単語だけ切り取られて記事のタイトルや概要でよく使われ、フェイク・ニュースはツイッターSNSで広まりやすく、似た意見が多いエコー・チェンバーの中では信じてしまわれやすい。
「新たな真実を発見」してしまうかもしれない。
気をつけましょう。
中国海警局 カテゴリーの記事一覧 - pelicanmemo
(*1)もとは、防衛省・統合幕僚幹部が発表する、航空自衛隊が撮影した中国軍機について使われていた。
钓鱼岛局势升级!日本发起无端挑衅,中国海警战舰撞上日本巡逻舰尾部 - 人民微看点 - 新浪网
日漁船想登釣魚島 中國海警船撞日本海上保安廳炮艦 - RFI
日漁船想登釣魚台 中國海警船撞日本海上保安廳砲艦 - 自由時報電子報
中國海警撞上日巡邏艦 稱日本右翼試圖登釣魚台 | 中央社 CNA
尖閣沖で起きて報道や発表された漁船の衝突事故というと、昨年(2020年)9月に尖閣諸島の領海ぎりぎりの水域で、台湾の漁船「新凌波236」の船首付近が、海上保安庁の巡視船「PS-32 くりま」の船尾と接触したという事故があった。
台湾漁船の船長は「衝突した!」「ぶつけられた!」と憤っていて台湾メディアもそう報道していたけれども、衝突というよりも、2隻ともほとんど停止している状態でわずかに接触したようだった。
尖閣沖、海保の巡視船「PS-32 くりま」と台湾漁船、50㌧級はえ縄漁船「新凌波236」が接触した部分。
— ぺりかんめも (@pelicanmemo) 2020年9月28日
これは、「くりま」のウォータージェットの上にある出っ張りの角に、台湾漁船の右舷船首が当たった感じだな。🙄
釣魚台衝撞各執一詞 日本海巡:台灣漁船「違法作業」https://t.co/7R1RA9i53H
釣魚台周辺で台湾漁船と日本の公船ぶつかる | 中央社フォーカス台湾(2020/09/27)
蘇澳漁船與日本公務船衝撞 外交部:船員均安、原因待調查 - 自由時報電子報(2020/09/27)