(前の記事)
サクラの原産地についてまとめ 中国メディアが引用する『櫻大鑑』を読んでみた(4/5) 日本、ヒマラヤ、中国、それとも韓国? - pelicanmemo
何年か前から、春になると「サクラの原産地はどこだ」というネット記事が出てくるようになりました。
サクラの原産地について、中国メディアがよく引用している『櫻大鑑』(桜大鑑)を紹介しつつ、書いてきました。
(最初から読む → サクラの原産地についてまとめ 中国メディアが引用する『櫻大鑑』を読んでみた(1/5) 日本、ヒマラヤ、中国、それとも韓国? - pelicanmemo)
Ads by Google
『櫻大鑑』は、中国語では『樱大鉴』(『樱花大全』とも)と表記します。百度百科にも項目があります。中国語翻訳版は確認出来ませんでした。
中国語版は確認出来ませんでしたが、日本語の書籍が大連の日本書籍専門店で売られていました。写真たくさん載ってます。
・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
では、なぜ中国メディアやネットで、「『櫻大鑑』によると、日本のサクラの起源は中国だ」といった感じに、ソースを示しつつも断定的に言われるのだろう?
もとは、2013年3月、長江日報に載った記事の、中国科学院武漢植物園の専門家の張忠慧(张忠慧)氏の説明であり、その元となった研究ではないかと考えています。(2013年以前にも『櫻大鑑』に言及している記事やコラム、ブログ等ありますが、数は少なく質は劣っているので、決定的なのはこれかもしれません。)
张忠慧称,日本国内颇具权威的樱花专著《樱大鉴》明确记载,樱花原产中国,盛名于日本。
张忠慧说,最初的樱花,就是山樱与野樱为代表的中华樱花。日本樱花大约在中国宋代时开始栽培,当时也是野生的中华樱花。在当地一代代改良栽培下,进化为现在著名的日本樱花。
两种樱花最大的不同,是日本樱花花瓣为重瓣,野樱和山樱为单瓣。观赏起来,日本樱花开得更盛,野樱和山樱略显单薄、树身寿命也较短。但野樱和山樱花期20天以上,比日本樱花花期长一周左右。
(赤字強調は管理人による)
专家称樱花原产中国而非日本 误传源于文化差异 - 中新网(2013年03月26日) 长江日报
日本誤訳は、人民日報日本語版から。
張忠慧氏は「日本国内でも権威ある桜の専門書『櫻大鑑』には、桜の原産は中国で、日本で名が知られるようになった、と明確に記されている。桜の最初の痕跡は現在のヒマラヤ山脈で、その後日本に渡り、独特の種の変化を遂げた。最初の桜は、山桜と野桜に代表される中国原産の桜。日本の桜の花はおおよそ中国の宋代の頃に栽培が始まり、当時も野生の中国の花だった。現地で代々改良栽培され進化した結果、現在の有名な日本の桜となった」と述べた。
(赤字強調は管理人による)
桜の木、宋代に中国から日本へ--人民網日本語版(2013/4/10)
『櫻大鑑』より簡単な説明ですし、ひどく間違えている内容ではありませんが、
ただ、
日本樱花大约在中国宋代时开始栽培,当时也是野生的中华樱花。
の部分で、『櫻大鑑』の内容と違っていて、ヒトの文明社会以前から日本にあったサクラの自生種や変種、自然交雑種を無視しているのは間違いです。
サクラは「宋代に日本に伝わった」のではなく、中国の宋代にあたる平安時代後期から鎌倉時代に「栽培が広まった」ものです。日本での桜の花見が、貴族から下々へ、一般人の花としても取り入れられるようになったことで、栽培が盛んになっていったのでしょう。
中国でも古くから花見を行っていますが、桃源郷、桃園というように中国で親しまれてきたのは桜よりも、むしろ桃だったようです。
「花見という文化」「桜の花見という文化」「大衆文化としての桜の花見」などの"起源"と、「サクラという植物」の"原産地"をちゃんと分けずに、まとめて言っているのでしょう。
翌年の2014年の、人民日報日本語版の記事を見てみましょう。
日本の桜は中国のヒマラヤ山脈が原産だ。ヒマラヤの桜が人工栽培されるようになり、長江流域、西南地域、台湾島へと徐々に伝来した。これは日本の桜の専門書「桜大鑑」に書いてあることだ。
(赤字強調は管理人による)
桜の起源は中国に 2千年の歴史超え桜花爛漫--人民網日本語版(2014/4/20)
とても簡潔に、断定口調で書かれていますが、大陸で人工栽培された後に徐々に伝来したかのように、2013年の記事の内容とも変わってしまっています。
時と場所が変わり、発言する人、書く人や翻訳する人が変わり、日中関係や東アジア情勢が緊張すると表現も変わり、しかし「『櫻大鑑』に書いてある」と説得力をもたせようとしながらも、実はねじ曲げられた情報であって、一部だけを自分の主張に都合のよい表現にしてしまいます。(中国メディアに限りません。)
たとえば、中国桜花産業協会の何宗儒会長は、
中国桜花産業協会の何宗儒会長は、記者会見の席上で、「日韓両国とも、桜の起源は自国にあると語る資格はない」とした上で、次のとおり続けた。
我々は、日本や韓国と争うつもりは毛頭なく、ただ真実を明らかにしたいだけだ。数多くの史料で、桜の起源が中国にあることが実証されている。我々は中国人として、より多くの人々にこの史実を知ってもらう責任がある。「桜の国」といわれる日本には、もともと桜はなかった。日本の権威ある桜に関する専門書「桜大鑑」の記述によると、桜の原産地は中国で、日本の桜は唐の時代、中国のヒマラヤ山脈あたりから伝来したものだ。
(赤字強調は管理人による)「桜の起源」めぐり火花を散らす日韓--人民網日本語版(2015年03月30日)南方都市報
中国桜花産業協会の会長という立場の、いかにもな発言です。
中国植物学会植物園分会の張佐双・理事は、
中国植物学会植物園分会の張佐双・理事は、次の通り説明した。
桜の野生種は、世界中で約150種、中国だけで50種以上ある。世界にあるサクラ属の野生祖先種約40種のうち、33種は中国原産だ。簡単に言えば、桜の起源は中国にあり、日本で大きく発展した。韓国は特に何の関係もない。(赤字強調は管理人による)
「桜の起源」めぐり火花を散らす日韓--人民網日本語版(2015年03月30日)南方都市報“简单地讲,樱花起源于中国,发扬光大于日本,没韩国什么事。”
日韩争樱花起源地 中国樱花产业协会称源于中国(2015年03月30日)
と説明しています。
中国植物学会の理事が「韓国は特に何の関係もない(没韩国什么事)」と、はっきりと言っちゃってます(笑) (野生種や野生祖先種の話なのですが、これもまた、都合のよいように抜き出して使われるんだろうなあ。)
『櫻大鑑』ではサクラの故郷は、「むしろ"ヒマラヤ"」だったのが、二次情報では、「中国のヒマラヤ山脈」「中国のヒマラヤ」になり、あげくの果てにははっきりと「中国が起源」と言う声が出てくる。
もしかしたら、ヒマラヤ山脈がどこにあってどれだけの国に跨がっているのか、地図を見たことが無い人もいるのかもしれません。
イメージだけを元にして、感情やナショナリズム、立場や周囲の声に流された発言をしてしまうのは、とある傾向の人のコメントでよく見かけます。(中国だけでなく、韓国・北朝鮮、日本でも。)
中国メディアの日本語翻訳されたニュースの中にも、極めて常識的な意見もあります。
武漢大学の校史を研究する専門家・呉驍氏は、
呉氏は、野生のサクラは人類誕生以前に今の朝鮮半島や日本列島に拡散しており、「どの国が起源」と論じるのは野暮であること、現代的な「栽培用サクラ」は日本に源があるというのは明らかかつ基本的な事実であること、さらに武漢のサクラが「世界三大サクラの都」と称されていることを挙げている。(赤字強調は管理人による)
東京・渋谷で流れた「武漢は桜の故郷」CMに、中国の有識者憤慨「低レベルな世界的恥さらしだ!」-サーチナ(2016-03-23)
そう、野暮なんですよ。
(ブログ記事5本、がこの一言で表現出来てしまった。(笑)アチャー)
中国の皆さんには、野暮な事を言うよりも、現代の桜、人民大衆の花見文化、日本の春の花見体験などをテーマやモチーフにした漢詩やネット小説などを作って、新しい、現代の中国文化を創造し発信して欲しいものです。
「MV」 千本桜 WhiteFlame feat 初音ミク - YouTube
【小林幸子】 千本桜 【カウントダウンLIVE】 - YouTube
日本は、正倉院の頃からシルクロードの東の終着点であり、時代時代で紆余曲折はありますが、海外の新しいものには貪欲に、良いものには寛容に、いつのまにか風土社会に合うように改良したり魔改造したりして、ちゃっかりと日本文化に組み込んじゃいますから。
・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
『櫻大鑑』ではまったくと言っていいほど触れられていないし、中国植物学会の理事が「特に何の関係もない」と断言(笑)した韓国ですが、少し蛇足。
ソメイヨシノ済州島起源説については、次のブログ記事で、なぜ韓国人が勘違いをしてしまうのか、サクラの品種の学名と日本語名、韓国語名の比較や、歴史、DNA解析の結果なども合わせて、とても詳しく解説されています。ご参照ください。(十分な検証はしていませんが、とても興味深い内容です。)
ソメイヨシノとTaquetの王桜「왕벚나무」は同じサクラではない
日本の桜・そして韓国人の誤解
Taquetの王桜「왕벚나무」を守れ
ちなみにGoogle翻訳で "왕벚나무"(王桜(King cherry))を調べると、ソメイヨシノ(Yoshino cherry tree)と表示されます。(記事公開時点)
韓国メディア「ポトマック川の桜の起源」記事が、"失笑"ものだった件 - pelicanmemo(2015/4/7)
幸い、管理人の身近にはいませんが、もし花見の席で「サクラの起源がー、また韓国がー」と一席ぶちあげる"困ったちゃん"がいると、酒と肴が不味くなって、花は色褪せて、座がしらけてしまいそうです。
素面なのか、何かに酔っているのか、それを毎年やっている韓国の一部メディア・・・
他人事ながら、それでいいの?と心配になってきます。
桜のモチーフは、昭和初期から戦中にかけての軍国主義の日本社会でも盛んに使われています。有名どころでは、軍歌「同期の桜」、
「貴様と俺とは 同期の桜」ではじまる、この歌詞に出てくる、庭に咲き、一斉に咲き誇り一斉に散ってゆく、桜は江田島の旧海軍兵学校に現存するソメイヨシノだとされています。
そういうソメイヨシノの起源が韓国だと、誇らしげに言っていて、・・・本当にいいの?
その熱意と時間を、王桜(왕벚나무)の保護と普及に使ってほしいものです。
お口直しに、『櫻大鑑』巻末、英文解説(数ページほど)の表紙をお納めください。
桜の歴史 - (ワシントン D.C. ポトマック川)さくら祭り - アメリカ合衆国国立公園局(英語)
History of the Cherry Trees - Cherry Blossom Festival - U.S. National Park Service
サクラの原産地についてまとめ 中国メディアが引用する『櫻大鑑』を読んでみた(1/5) 日本、ヒマラヤ、中国、それとも韓国? - pelicanmemo
サクラの原産地についてまとめ 中国メディアが引用する『櫻大鑑』を読んでみた(2/5) 日本、ヒマラヤ、中国、それとも韓国? - pelicanmemo
サクラの原産地についてまとめ 中国メディアが引用する『櫻大鑑』を読んでみた(3/5) 日本、ヒマラヤ、中国、それとも韓国? - pelicanmemo
サクラの原産地についてまとめ 中国メディアが引用する『櫻大鑑』を読んでみた(4/5) 日本、ヒマラヤ、中国、それとも韓国? - pelicanmemo
サクラの原産地についてまとめ 中国メディアが引用する『櫻大鑑』を読んでみた(5/5) 日本、ヒマラヤ、中国?、それとも韓国?(笑) - pelicanmemo
めも
1975年、昭和の時代の本だと思って読むと、別の意味で面白く読めるのではないかと思います。写真を新しく撮るなどグレードアップして復刊すれば、けっこう話題になるかも。