(via. blooberg)
中国で、2018年8月に、アジアではじめて発生が報告されたアフリカ豚コレラ(African Swine Fever, ASF)。
2019年4月下旬の公式発表によると、約112万頭が病死および殺処分、屠殺(と殺)が行われた(非公式では、5月中旬までに112.9万頭以上)。これが、中国の農業農村部による公式発表。
中国の統計データというと、その信頼性に疑問符がついてくる(GDP成長率と「李克強指数」の例とか)。この112万頭という数字を、完全に正しくて透明性が高い数字だと信じる人は多くはないだろう。
そんな中、オランダの金融機関ラボバンクが、中国で、2019年末までに2億頭が屠畜され、豚肉生産量が30%減少するかもしれないという予測の分析レポートを発表した。この「2億頭」という数字がひとり歩きをしている。
この「2億頭という数字だけ」が勘違いされ、ひとり歩きしてデマを誘発し、さらにフェイクを拡散する人も出てきている。
・(デマ, FAKE)中国で、2億頭が、アフリカ豚コレラに感染した。
・(デマ, FAKE)中国で、2億頭が、アフリカ豚コレラで殺処分された。
・(デマ, FAKE)中国で飼育されている豚(4億〜4.3億頭)の半分が、アフリカ豚コレラに感染した。
・中国で、2億頭が、2019年末までに、アフリカ豚コレラに感染して殺処分されるだろう。(デマ, FAKEとなる可能性が非常に高い)
・中国で、2億頭が、2019年末までに、アフリカ豚コレラの影響で屠殺されるだろう。(文脈次第で、セーフ😊)
米国の大手メディアの中にも(どことは書かないけど😊)、デマ、フェイクニュースや、ミスリーティングをもたらすような記事を書いているところもあるので、無批判に信じてしまったのかもしれない。
(もちろん、慎重に表現を選んでいて、適切な内容の記事も見かける。(日本語メディアの記事も含む)(その記者さんの力量だろう))
まず、基本的な数字。😊
ここを知らないか取り違えている人は、その後の勘違いが酷くなる傾向にあるようだ。
(1)中国では、4億頭〜4.3億頭の豚が飼育されている。
(2)中国では、1年間に約7億頭(2018年)の豚が、屠畜され出荷されている。
アフリカ豚コレラ カテゴリーの記事一覧 - pelicanmemo
【アフリカ豚コレラ】 中国の豚、1.5億〜2億頭、減少?|"豚肉危機"、世界へ影響 - pelicanmemo
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中国では、4億頭〜4.3億頭の豚が飼育されている(需要・供給と生産計画で、変動がある)。
(追記補足:1年の間に増減があるので、国家統計局が毎年発表する数字から、4.3億頭(4億2817万頭(2018年))を使うが適切でしょう。2018年经济运行保持在合理区间 发展的主要预期目标较好完成 - 国家统计局)
中国では、1年間に約7億頭(6億9382万頭(2018年))の豚が、屠畜され出荷されて、豚肉などとなって食されている。
飼育されている豚は、誕生から出荷されるまでに5〜6ヶ月。中国でも大きくは変わらない。(約半年だけど、1年間の生産量(屠畜数)は飼育頭数(約4億頭)の2倍よりちょっと少ない。繁殖の為の母豚がいるし、品種と養豚業者の生産計画で変わってくるようだ)。
--(追記:7/17)------------------ーー
その後の、減少率のデータと、飼育頭数の推移を再計算してみました。
ラボバンクが2月に発表した、豚の飼育頭数が「2019年末に2億頭減少」と、出荷量が「30%減少」も合っている可能性が高くなってきました。
出荷量が7億頭分で、その3割減で「2億頭分が減少」という表現は分かりやすいですが、結論とするには早すぎたかもしれません。m(_ _)m
以下、書き直しはしていませんが、一部で内消し線や削除等の修正を加えました。
2億頭が感染したり感染して殺処分されるという解釈は間違いである、という点は変わっていません。
--(追記ここまで)------------------
オランダの金融機関ラボバンクの、「2019年末までに2億頭」「30%減少」とは、この屠畜されて出荷される7億頭分の豚の、屠畜数の減少についてのことだ。
つまり、アフリカ豚コレラ(ASF)の発生と流行拡大の前までは、2019年に約7億頭の出荷と豚肉生産が予想されていたが、ASFの発生と流行によって、約30%の減産(7億頭の約30%、約2億頭分が減少)が想定されるというもの。
ラボバンクの分析の、最初は1.3億頭の減少と報道されたが、その後のレポートでは1.5〜2億頭の減少と少し強い表現になった。
米国の農務省(USDA)は、2019年後半にかけて盛り返すと予想しているようで、2019年末までに、中国の豚の飼育頭数は13%減少して3億7400万頭(5600万頭減)と推計している。
By the end of 2019, the total swine inventory will be down 13 percent to 374 million head. Pork production will decrease by 5 percent to 51.4 million metric tons (MT), with the reduced supply only slightly offset by weakened demand. To cover the domestic supply gap, China will increase pork imports by 33 percent to 2 million MT. While U.S. pork products still face retaliatory Chinese tariffs of up to 62 and process verification requirements, if these are removed, U.S. producers could significantly increase exports to China.
China: Livestock and Products Semi-annual - March 15, 2019 - USDA
この2つの数字(4億頭と7億頭)と文脈とを、勘違いしてしまうと・・・、
その勘違いの行く末は、「中国の豚の半分(2億頭)がアフリカ豚コレラに感染したー」「たった112万頭なわけないだろー!」「また、中国共産党の隠蔽がー」「中共がー」、と・・・、まあ、デマやフェイクを主張するようになってしまうのかもしれない。
くわばらくわばら。😊
米国メディアのBloombergが、さらに勘違いをさせそうな、インフォグラフィックを使った記事を公開している。
(via. blooberg)(赤字、赤枠は管理人による)
中国の農業農村部による、アフリカ豚コレラ(ASF)によって、病死・殺処分および屠畜された豚の数は約112万頭(2019年4月まで)。
このBloombergの記事では分かりやすく「110万頭」と書いてある)。
その図にかぶせて、ラボバンクが分析した、2019年末までに「2億頭」分の豚の減産の量の数字を重ねている。
中国の発表の110万頭に対して、2019年末には約181倍、2億頭もの豚が、アフリカ豚コレラの感染と病死・殺処分・屠殺が行われるとイメージされそうな描き方だ。あきらかな間違い。
さらに、1996年から1997年にかけて起こった、H5型およびH7型の鳥インフルエンザによる、世界全体でのニワトリの病死と殺処分の250億羽を重ねて示している。
この数は鳥インフルエンザの発生があった世界の63ヶ国での殺処分の総数であり、中国1国だけと比較するのも間違い。
豚一頭とニワトリ一羽の体重の違い(動物性タンパク質の生産量の違い)も無視している。
この記事では、二重にも三重にも、ミスリーディングをひきおこす描き方をしている。
(この記事の他の部分はまだマシなので、この図の酷さだけが際立つ。いったい、何を考えて作ったんだ?)
(あふりか㌧コレラの記事の米国メディアの中で、ぶるーむばーぐの記事は、NYTやWSJと比べて、とくに変なところが目につく。記者さんの視点?米中貿易戦争と絡めたくて、目が曇ってる?それとも...分かっていて煽りたいだけ?、正直、アレはどうかと思うけど...、今後の記事に期待をしたい)
閑話休題、
アフリカ豚コレラ(ASF)が、中国で発生し流行してから、中国での豚の飼育頭数は大きく減少している。4月の飼育頭数は、前年同月比で約2割減少(飼育豚数も繁殖母豚数も)と発表された。
その理由は、ASFの発生への恐れと規制強化による、養豚業者と地域当局による、早期出荷や、養豚場の飼育数の減少や、バイオ・セーフティの低い養豚場の廃業や転業であり、全体の飼育頭数が減ったためと分析されている。
ラボバンクによると、生産量が5割減少の地域も(多くはないが)あるそうなので、中国の公式発表の数字よりも、豚肉の減産が拡がると分析しているようだ。
オランダの金融機関のラボバンク(RaboBank)が発表したレポートは、中国やアジア地域でのアフリカ豚コレラの流行と、2019年の豚肉生産量の大幅な減産の予測、および、その豚肉減産を代替する動物由来タンパク質(牛・羊・鶏・海産物、等)の今後の生産・消費動向についてのもの。
中国での豚肉の減産の量は、米国と欧州の生産量に匹敵する膨大な量であり、牛・羊・鶏その他の供給や、エサの飼料、世界の経済、金融、食料安全保障も含めて影響を与える可能性があると、大きな波紋を引き起こしている。
Since its discovery in August 2018, ASF has spread to every province in mainland China. With ASF now affecting an estimated 150-200m pigs, the expected 30% loss in pork production is nearly 30% larger than annual US pork production and equivalent to Europe’s annual pork supply.
These losses cannot easily be replaced by other proteins (chicken, duck, seafood, beef, and sheepmeat), nor will larger imports be able to fully offset the loss (see Figure 1). We believe this will result in a net supply gap of almost 10m metric tons in the total 2019 animal protein supply.
Rising African Swine Fever Losses to Lift All Protein Boats - Rabobank
もうちょっと、ディープなあたりの数字も書いてみたい。
ここから先は、読むと混乱するかもしれないので、これらをどうとらまえるかは、自己判断でお願いします。😎
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中国の農業農村部の発表によると、アフリカ豚コレラ(ASF)によって、病死(Deaths)し、殺処分(Killed and disposed)、屠殺(Slaughtered) (以下、病死・殺処分等と書く)された豚の数は、約112万頭。
家畜伝染病の発生は、国際獣疫事務局(OIE)に対して速やかに通報を行うと規定されている。ところが、残年ながら、中国〜アジアでのASF発生例では、その速報性と透明性が失われている。
例えばベトナムでは、報道ベースでASF発生が伝えられても、OIEからの発表がない例がいくつもあった。2019年4月から顕著で、後にOIEからまとめて伝えられた。(当アカの中の人、その時々のツイートで疑問をつぶやいていた)。
中国も、公式発表はああなんだけれども、その実態はとても分かりにくい。
北朝鮮は、ブラックボックスだ。
【アフリカ豚コレラ】 北朝鮮、発生している可能性が高い地域 【地図】 - pelicanmemo
OIEが発表している、中国で2019年5月30日までに、アフリカ豚コレラ(ASF)で病死・殺処分等された豚の数を集計すると、実は、約37.4万頭(養豚場(farm):32万頭強、裏庭養豚(backyard):5万頭強)。(5月30日までの発表をもとに集計をした。6月8日に閲覧した)
OIE: Situational updates of ASF in Asia and the Pacific
つまり、中国当局は、アフリカ豚コレラ(ASF)が発生した養豚場や農家だけでなく、その周辺の疫区(3km以内)の、バイオ・セーフティの低い農家(裏庭養豚)に対しても、予防的な屠殺を行っており、すべてを加えて公式発表していることが分かる。
その一方で、中国の農業農村部が発表している、2019年5月31日までの、アフリカ豚コレラ(ASF)が発生した136件(市・盟)の、養豚場や農家(裏庭養豚)で、飼育されていた豚の数(発症数や病死数ではない)を集計してみると、約32.6万頭だった。
実は、中国当局が行ったOIEへの通報数よりも少ない。
オランダの金融機関ラボバンク(Rabobank)のレポートを書いたアナリストChristine McCracken氏も、他メディアのアナリストも、😊ノシ も、中国の農業農村部の発表の数字を疑問視している。
最初に書いたけど、完全に正しい数字だと信じる人はいないだろう。100%疑うか100%
信じるかではなく、その間に、現実的な答えがある。
中国のアフリカ豚コレラ(ASF)に関する数字というと、これらのほかにも、
2019年5月31日までの、中国でのASF発生の発表の数が、
中国の、農業農村部の発表では「136件」、
台湾の、アフリカ豚コレラ中央災害対策センターの発表では「140案例」、
日本の、農林水産省の発表では「165か所」、
なわけだけど、
これは、違いが分かっているひとたちには、いまさらな数字かな。😊