商船三井がチャーターした貨物船は、位置情報の分析から、モーリシャスの南東沖およそ2キロの地点で針路をほぼ90度右に変え、大幅に減速していたことが分かりました。専門家は、この地点で船が何かと衝突し、座礁の原因となった可能性が高いと指摘しています。https://t.co/NYzyVj6d7u
— NHK国際部 (@nhk_kokusai) 2020年8月18日
モーリシャス島で座礁したばら積み貨物船「Wakashio(わかしお)」。
船舶自動識別装置(AIS (Automatic Identification System))によるデータ解析が行われている。8月18日にNHKと日本経済新聞が報道した。
モーリシャス 貨物船はこう座礁した 航路分析からわかったこと | NHKニュース (2020年8月18日)
WAKASHIO、航跡と環境汚染を追う モーリシャス沖重油流出:日本経済新聞 (2020年08月18日)
これらに先がけて8月9日に、Forbes紙が解析結果を報じている。
この3本の記事だけで、ばら積み貨物船「MV Wakashio」が座礁するまで、どのような航路を通っていったか大筋が分かるだろう。おすすめの記事です。
How Satellites Tracked The Fateful Journey Of The Ship That Led To Mauritius’ Worst Oil Spill Disaster (Aug 9, 2020)
航跡データは、NHKと日本経済新聞ビジュアルの記事はIHIジェットサービスの船舶位置情報サービスを、Forbesの記事は海洋データ・リスク解析企業のWindwardのデータを使用している。
7月21日に「Wakashio」の航路が少し変わった。自動操舵装置に切り替えた時に入力データを入れ間違えた可能性が指摘されている。
モーリシャス島、貨物船「WAKASHIO」が座礁、燃料油が大量に流出。何が起こっていたのか? まとめ (追記8/13) - pelicanmemo
モーリシャス島、貨物船「WAKASHIO」の燃料の重油流出 漂着した海岸(地図) - pelicanmemo (2020-08-16)
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ばら積み貨物船「Wakashio(わかしお)」がなぜモーリシャス島に近付いたのか?
日本メディアの関連記事では、よく「Wi-Fiに接続するため」が取り上げられている。航跡データからは、この”Wi-Fiネタ”が正しいという解釈は難しそうだ。
そもそも、この”ネタ”は8月10日に警察が乗組員4人を取り調べた日のニュースで出た話であり、現地メディアでその後の追加情報はまったくと言っていいほど無い。むしろ馬鹿げた言い訳として見られているよう。
WiFi求めて島に接近?モーリシャス座礁、地元紙報道:朝日新聞 (2020年8月14日)
この朝日新聞の記事がソースとした地元紙レクスプレス(l'express)は8月18日に、多方面からの「Wi-Fiに接続するため」は島に近付く理由にはならないという記事を出している。
モーリシャス・テレコムの元CEOのMegh Pillay氏は「(座礁した貨物船「Wakashio」が)フリーWi-Fiのために、港が無い海岸に近付いたって?いったい笑えばいいの泣けばいいの」と述べている。
Recherche de connexion Wi-Fi: une théorie pour mener en bateau? | lexpress.mu (18 AOÛT 2020)
ばら積み貨物船「Wakashio」は座礁するまで速度11ノット(約20.4km/h)で航行し、減速はなかった。モーリシャス島の東の海岸近くの航路部分はわずか40~50km。東海岸の唯一の市街地の近くだけだと1時間もかからず通過する。その為に針路変更?
ロイターは、匿名を条件に取材に答えたモーリシャス海事当局者の話として、電波を受信するために島に接近する必要はないと報道している。
またWiーFi(ワイファイ)に接続するために島の近くを航行したとの報道については、電波を受信するのに島に接近する必要はないととして否定的な見方を示した。
モーリシャス当局、座礁船の船長と副船長を逮捕 - ロイター (2020年8月19日)
Mauritius arrests captain of stricken Japanese oil tanker - Reuters (AUGUST 18, 2020)
海難事故による流出油の問題は、化石燃料を運ぶタンカーだけでなく、外航船の大型化によってさらにリスクが高まっている。
毎日の生活に欠かせない外航船・内航船による貨物や燃料の輸送であり、無くすことはできない。だからこそ、ヒューマンエラーを減らすための自動操船や航行オペレーション、もしエラーがあった場合のリカバリの技術などなど、重要な情報はたくさんある。
そういうことを報道してほしいものだ。
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閑話休題、
これらを紹介するだけの記事ではちょっと面白くないので、これら航路データ(図)と、長鋪汽船と商船三井から公開された「Wakashio」が座礁した付近の海図(水深付き)とをかけ合わせてみた。
当社船 座礁および油濁発生の件 第5報 - 長鋪汽船株式会社 (2020年08月16日)
WAKASHIO 座礁および油濁発生の件(その4) | 商船三井 (2020年08月16日)
まず座礁した付近の海図。
(商船三井より)
「Wakashio」が座礁した付近は、水深5m以下の浅瀬になっていることが分かる。(商船三井のプレスリリースの方が画像が大きく、細かい部分まで分かります)
次のキャプチャ画像は、座礁した翌日(7月26日)にドローンで撮影されたもの。
「Wakashio」の向こう側、海の色が白っぽくなっているあたりが浅瀬。
(YouTubeより)
「Wakashio」は全長299.5m、全幅50.0m。型喫水24.10m。
”型喫水”とは船底(キール)から満載したときの水面(満載喫水線)までの高さを示す。座礁時の「Wakashio」は、貨物の鉄鋼原料は積んでいなかった。座礁する少し前にも水深10数mの浅瀬を航行しているけれども、そこでは座礁はしなかった。
そして、5mの浅瀬で座礁した。
次に、海図と、NHKの記事の航跡(図)と、イメージしやすくするためにGoogleEarthの衛星写真を重ね合わせた。(画質が良かった2019年9月24日の衛星写真を使用した)
サンゴ礁にかなり近い。
拡大図。
(すこし斜めになっている小さい四角部分は、NHKが報道した座礁前後の航跡(図)。赤い線が航跡(船体の移動)(ちょっと分かりにくい))
「Wakashio」が座礁したのは7月25日午後7時15分頃(現地時間)。
日没時間は午後6時前(日の出日の入り時間)なので、外はすっかり暗かっただろう。目視では島との距離が分かりにくかったのかもしれない。
しかし、ブリッジに船長や航海士が居れば、レーダーで島の近くにいる事はすぐに分かったはずだ。(モーリシャスの司法が調査をしている。ブラックボックスの解析結果はまだ発表されていない(記事公開時点))
さらに座礁した水域の部分を拡大して、発表や報道されている写真を元に船体の向きを追加した。
まず座礁した「Wakashio」は進航方向に対して、サンゴ礁に船首を乗り上げる形で角度が時計回りに90度も変わっている。
船首に衝突の痕跡はみられない(船首のバウも含む)ので、船底が浅瀬に乗り上げたのだろう。しかしスクリューは回り続け、その推進力でぐるっと時計回りに向きが90度変わったと考えられる。
船体の被害がそれだけなら、スクリューを逆回転させてバックで離岸させることも出来そうなものだが…それは出来なかった。日本経済新聞の記事によると、座礁した7月25日以降に機関室に徐々に浸水が始まったそうだ。
これは当ブログの想像だが、船体の向きが90度変わった拍子に船尾(左舷から)が浅瀬にぶつかって、舵やスクリューも損傷したのかもしれない。
座礁した7月25日以降、機関室に徐々に浸水が始まった。海難救助を担うサルベージ会社に要請し、燃料の抜き取りを試みたが、現地は冬で波が高く、気象条件に阻まれて作業は難航した。波に押され、座礁地点から時計の1~2時の方向を指した状態で北東に押し流され、その間に船体が損傷したという。
WAKASHIO、航跡と環境汚染を追う モーリシャス沖重油流出:日本経済新聞 (2020年08月18日)
7月26日に船主の”Okiyo Maritime Corporation(長鋪汽船の完全子会社)”と、船主責任相互保険組合、オランダの大手サルベージ”SMIT Salvage PTE LTD”や日本サルヴェージ株式会社の間で、「Wakashio」船体のサルベージについて契約が締結された。サルベージ・チーム11人は7月30日にモーリシャス島に到着した。(Maurice Info (2020/08/17))
モーリシャス入りした後、サルベージ・マスターによって「Wakashio」の調査が行われ、8月2日までの報告に機関室の損傷が記されている。
ところで・・・、
モーリシャス島の海岸から撮影された「Wakashio」の写真は左舷側ばかりが写っていて、実は、破損した燃料タンクがある右舷側が無い
サンゴ礁と接触し続けて破損しやすいのは、むしろ左舷の燃料タンクではないだろうか?
なぜ、右舷の燃料タンク(重油1183トン)が破損したのだろう?
7月25日に座礁した「Wakashio」は、打ち付ける波によって、水面下の船底でサンゴ礁をズリズリと削るようにして、徐々に、徐々に、北東へと移動していったのだろう。特に、8月2日から6日にかけて悪天候でうねりが大きかったそうだ。
浮かんでいる船体の前半分が海の方へと傾いたことで、悪天候と波による力が大きく加わっただろう。
波を直接に受ける右舷側の方が、船体の前部と後部との歪みも大きそうだ。左舷側はむしろ圧縮する方の歪みとなる。
船橋構造物から第8貨物室にかけての部分で被害が進み、座礁から10日後の8月6日に、ついに右舷の燃料タンク(重油1183トン)にも穴があいたのかもしれない。
それとも・・・、
島から撮影した「Wakashio」右舷側の写真が無いだけで、実は誰も見ていない丑三つ時に、船体が反時計回りに”ぐるっ”と一回転したとか?(妖怪・枕返しっ!)
その時に、右舷のタンクあたりをぶつけた?(考え過ぎ😅)
当社船 座礁および油濁発生の件 第5報 - 長鋪汽船株式会社 (2020年08月16日)
WAKASHIO 座礁および油濁発生の件(その4) | 商船三井 (2020年08月16日)
How Satellites Tracked The Fateful Journey Of The Ship That Led To Mauritius’ Worst Oil Spill Disaster (Aug 9, 2020)
モーリシャス 貨物船はこう座礁した 航路分析からわかったこと | NHKニュース (2020年8月18日)
WAKASHIO、航跡と環境汚染を追う モーリシャス沖重油流出:日本経済新聞 (2020年08月18日)
2020-07-26 - MV Wakashio - Beached at Pointe D'Esny (2020/07/26公開)